4 / 5
第3話 夕暮れ
しおりを挟む
「いらっしゃいませ!」
「ベーコンエッグマックサンドにセットにコーヒー」
「店内でお食事になりますか? かしこまりました!」
「068番のお客様!」
「いらっしゃいませ!」
朝からバイトは大変だ。
一人暮らしをしている高校生。これから出勤の社会人。ここだけでも色々な人が食べに来る。
「時雨さん! 私店長に呼ばれたからちょっとの間開けるね!」
「え? ちょっと......」
沙千は申し訳なさそうに笑顔を作ると店長のいるスタッフルームに向かった。
こうなったら仕方ない......
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ!」
「おーい! 時雨くんお疲れ様! もうシフト上がっていいよ!」
やっと......はぁ......はぁ......終わった......
「お疲れ様......さっきは途中で任せっきりにしちゃってゴメンね?」
俺が店の裏口から出ると外では私服姿の沙千が壁に寄りかかりながら立っていた。
「良いよ別に......俺だけでも充分回せる人数だったし......」
そういうと、沙千は少し視線を落として『そっか』と呟いた。
「そう言ってもらえると助かるよ......」
なんだ......いつもと何かが違う......
「——っど......」
やっぱり問いただすのは野暮だ。やめておこう。
「そ、そうだ......最近ここの近くに美味しいって評判のスイーツ店ができたんだ! 俺、なんでも奢るからさ......その......」
「ありがとう、時雨く・ん・」
え......? なんで......?
「えっと......ど、どうして泣いてるの?」
「え? あ、あぁ......なんでもないの......うん、なんでもないから......ありがとう時雨くん。君はいつだって優しいね......」
沙千は言葉を発するたびに大粒の涙がこぼれ落ちる。
彼女は必死にそれを止めようとするが、堪えようとする分だけまた、涙が溢れて来る。
「時雨くん......あなたの事がずっとずっと大好きでした! こんな気持ち初めてで、どう表現すれば良いのか分からないけど今まで良くしてくれたかんしゃの気持ち......」
その瞬間俺の頬に彼女の柔らかな口が触れ俺の脳は一時的に機能停止した。
......え?
「今までありがとう......また会えたら嬉しいな......じゃあね、バイバイ......」
俺は彼女が涙をこぼしながら去って行く姿をただただキスをされた頬に手を当て立ち尽くすことしか出来なかった。
俺は結局この日はUnlimited World Online にログインせず夕食までずっと沙千の事を考えていた。
そして翌日。学校が終わり、俺は今日はシフトを入れていないが客としてマックに足を運んだ。
「いらっしゃいませ!」
「ビックマックにマックシェイク、サブにポテトS」
「店内でお召し上がりますか?」
「はい」
いつもは自分が反対側の位置で接客しているので何か違和感を覚える。
注文を終え待っている間、俺は中で作っている光景を見ていた。
......?
店長と目が合ってしまった。
店長はジェスチャーで『食べ終わったら話があるからこっち来い』と俺に伝えてきたので俺は、『了解です』と敬礼をして返してやった。
「で、店長。話ってなんですか......」
今現在、俺と店長(美人のお姉さん)は面と向かって一対一での話し合い兼相談をしている。
「時雨くん......君は彼女、晴野沙千ちゃんの事は知ってるわよね......」
「ええまぁ、昨日バイトから上がる時になんとなくですけど察しました」
彼女、晴野沙千の母親は膵臓にガンを患っており気付いた時には末期だったらしい。
そんな話をまだ、このバイトを始めた頃一回だけ彼女本人から聞いた事がある。
彼女の家は母、姉、沙千の女三人家族で裕福とは言えない家庭環境だったらしい。
母親の手術費を稼ぐために沙千も一生懸命働いていたのである。
「昨日沙千ちゃんが途中でシフトを抜けた時間。その時間に彼女の電話がなっている事にたまたま気づいてね......電話に出るように伝えると、彼女は戻ってきた後私になんて言ったと思う?」
店長は少し間を置いて静かな声でこう言い放った。
「店長さん今まで私を雇って下さってありがとうございました。これからもこのお店の繁盛を願います!だって......普通ならすぐに呼び止めるんだけどね......彼女の場合理由が理由だからね......」
「店長......一つ質問いいですか?」
そういうと、店長は不思議そうに質問の内容に答えてくれた。
「はぁ......はぁ......間に合え‼︎.......はぁ」
俺は店長のママチャリを借りて彼女の家に全速力で向かった。
彼女の家の前には数台の引越しサービスの大型トラックが止まっており家の中から沢山の荷物をどんどん積んでいる。
そして、荷物を全て積み終えた後、家の玄関口に一人の女性がこの家を懐かしむように眺めているのが遠目で分かった。
「あの、こちらは晴野沙千さんのお宅で間違いありませんよね......?」
俺が彼女にそう尋ねると驚いたように目を見開くとすぐ首を傾げて、『どちら様でしょう』と尋ねてきた。
「自分はマックのバイトで沙千さんと同期の佐須名時雨と申します」
すると、彼女は理解したように表情を緩めると、
「はじめまして、沙千の姉の晴野千尋です。あなたの事は沙千から聞いてたわよ」
と、優しい口調で返してくれた。
どうして、沙千が俺のことを......
「そうね、この家は晴野家の家だったわ......」
「——だった......」
「そう......昨日ね、母親が膵臓がんで逝っちゃったんだ......だから私は大学生だから大学の寮へ、沙千は高校生だから学校に通える範囲にある母方の祖母の家に引っ越す事になったの」
しんみりとした時間が流れる。
「あ、あの......沙千さんは今いらっしゃるんでしょうか......?」
「あの子ならここにはもういないよ......あの子は本当にお母さんが大好きでね、その分ショックも相当なもので......少なくとも高校卒業するまではこの街には帰ってこないと思うよ......」
そっか......俺、何も彼女にしてあげられなかったな......いつもからかってばっかりで何にも沙千の事を見てなかった......
すると千尋さんは俺を優しく抱きしめてくれた。
「君には本当に感謝してるよ。今まで沙千の心を支えてくれてありがとう。沙千だってきっと君に感謝しているはずだ。だから、そんなにも泣かないでくれよ......私だって悲しいんだから......」
気づくと俺はいつのまにか涙を流していた。
「はい、これ」
別れ際に千尋さんはボールペンで何かをメモると俺に紙を千切って渡してきた。
「これ、上は私の、下は沙千の連絡先。何かあった時に連絡してね」
千尋さんはタクシーを家の前に止めてもらうと俺に一言残して去っていった。
「佐須名時雨くん。妹をありがとう!」
この日の夕暮れは絶対に忘れないものとなった。
「ベーコンエッグマックサンドにセットにコーヒー」
「店内でお食事になりますか? かしこまりました!」
「068番のお客様!」
「いらっしゃいませ!」
朝からバイトは大変だ。
一人暮らしをしている高校生。これから出勤の社会人。ここだけでも色々な人が食べに来る。
「時雨さん! 私店長に呼ばれたからちょっとの間開けるね!」
「え? ちょっと......」
沙千は申し訳なさそうに笑顔を作ると店長のいるスタッフルームに向かった。
こうなったら仕方ない......
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ!」
「おーい! 時雨くんお疲れ様! もうシフト上がっていいよ!」
やっと......はぁ......はぁ......終わった......
「お疲れ様......さっきは途中で任せっきりにしちゃってゴメンね?」
俺が店の裏口から出ると外では私服姿の沙千が壁に寄りかかりながら立っていた。
「良いよ別に......俺だけでも充分回せる人数だったし......」
そういうと、沙千は少し視線を落として『そっか』と呟いた。
「そう言ってもらえると助かるよ......」
なんだ......いつもと何かが違う......
「——っど......」
やっぱり問いただすのは野暮だ。やめておこう。
「そ、そうだ......最近ここの近くに美味しいって評判のスイーツ店ができたんだ! 俺、なんでも奢るからさ......その......」
「ありがとう、時雨く・ん・」
え......? なんで......?
「えっと......ど、どうして泣いてるの?」
「え? あ、あぁ......なんでもないの......うん、なんでもないから......ありがとう時雨くん。君はいつだって優しいね......」
沙千は言葉を発するたびに大粒の涙がこぼれ落ちる。
彼女は必死にそれを止めようとするが、堪えようとする分だけまた、涙が溢れて来る。
「時雨くん......あなたの事がずっとずっと大好きでした! こんな気持ち初めてで、どう表現すれば良いのか分からないけど今まで良くしてくれたかんしゃの気持ち......」
その瞬間俺の頬に彼女の柔らかな口が触れ俺の脳は一時的に機能停止した。
......え?
「今までありがとう......また会えたら嬉しいな......じゃあね、バイバイ......」
俺は彼女が涙をこぼしながら去って行く姿をただただキスをされた頬に手を当て立ち尽くすことしか出来なかった。
俺は結局この日はUnlimited World Online にログインせず夕食までずっと沙千の事を考えていた。
そして翌日。学校が終わり、俺は今日はシフトを入れていないが客としてマックに足を運んだ。
「いらっしゃいませ!」
「ビックマックにマックシェイク、サブにポテトS」
「店内でお召し上がりますか?」
「はい」
いつもは自分が反対側の位置で接客しているので何か違和感を覚える。
注文を終え待っている間、俺は中で作っている光景を見ていた。
......?
店長と目が合ってしまった。
店長はジェスチャーで『食べ終わったら話があるからこっち来い』と俺に伝えてきたので俺は、『了解です』と敬礼をして返してやった。
「で、店長。話ってなんですか......」
今現在、俺と店長(美人のお姉さん)は面と向かって一対一での話し合い兼相談をしている。
「時雨くん......君は彼女、晴野沙千ちゃんの事は知ってるわよね......」
「ええまぁ、昨日バイトから上がる時になんとなくですけど察しました」
彼女、晴野沙千の母親は膵臓にガンを患っており気付いた時には末期だったらしい。
そんな話をまだ、このバイトを始めた頃一回だけ彼女本人から聞いた事がある。
彼女の家は母、姉、沙千の女三人家族で裕福とは言えない家庭環境だったらしい。
母親の手術費を稼ぐために沙千も一生懸命働いていたのである。
「昨日沙千ちゃんが途中でシフトを抜けた時間。その時間に彼女の電話がなっている事にたまたま気づいてね......電話に出るように伝えると、彼女は戻ってきた後私になんて言ったと思う?」
店長は少し間を置いて静かな声でこう言い放った。
「店長さん今まで私を雇って下さってありがとうございました。これからもこのお店の繁盛を願います!だって......普通ならすぐに呼び止めるんだけどね......彼女の場合理由が理由だからね......」
「店長......一つ質問いいですか?」
そういうと、店長は不思議そうに質問の内容に答えてくれた。
「はぁ......はぁ......間に合え‼︎.......はぁ」
俺は店長のママチャリを借りて彼女の家に全速力で向かった。
彼女の家の前には数台の引越しサービスの大型トラックが止まっており家の中から沢山の荷物をどんどん積んでいる。
そして、荷物を全て積み終えた後、家の玄関口に一人の女性がこの家を懐かしむように眺めているのが遠目で分かった。
「あの、こちらは晴野沙千さんのお宅で間違いありませんよね......?」
俺が彼女にそう尋ねると驚いたように目を見開くとすぐ首を傾げて、『どちら様でしょう』と尋ねてきた。
「自分はマックのバイトで沙千さんと同期の佐須名時雨と申します」
すると、彼女は理解したように表情を緩めると、
「はじめまして、沙千の姉の晴野千尋です。あなたの事は沙千から聞いてたわよ」
と、優しい口調で返してくれた。
どうして、沙千が俺のことを......
「そうね、この家は晴野家の家だったわ......」
「——だった......」
「そう......昨日ね、母親が膵臓がんで逝っちゃったんだ......だから私は大学生だから大学の寮へ、沙千は高校生だから学校に通える範囲にある母方の祖母の家に引っ越す事になったの」
しんみりとした時間が流れる。
「あ、あの......沙千さんは今いらっしゃるんでしょうか......?」
「あの子ならここにはもういないよ......あの子は本当にお母さんが大好きでね、その分ショックも相当なもので......少なくとも高校卒業するまではこの街には帰ってこないと思うよ......」
そっか......俺、何も彼女にしてあげられなかったな......いつもからかってばっかりで何にも沙千の事を見てなかった......
すると千尋さんは俺を優しく抱きしめてくれた。
「君には本当に感謝してるよ。今まで沙千の心を支えてくれてありがとう。沙千だってきっと君に感謝しているはずだ。だから、そんなにも泣かないでくれよ......私だって悲しいんだから......」
気づくと俺はいつのまにか涙を流していた。
「はい、これ」
別れ際に千尋さんはボールペンで何かをメモると俺に紙を千切って渡してきた。
「これ、上は私の、下は沙千の連絡先。何かあった時に連絡してね」
千尋さんはタクシーを家の前に止めてもらうと俺に一言残して去っていった。
「佐須名時雨くん。妹をありがとう!」
この日の夕暮れは絶対に忘れないものとなった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる