遊戯超過

小判鮫

文字の大きさ
12 / 47

車に俺自身を轢かせる

しおりを挟む
 現場に付くと、今日は交通誘導を任された。ただ突っ立ってるだけでいいから、と言われたものの、その突っ立ってんのがかなりつらいけどなあ、と補足されて笑われた。誘導棒を持ちながら、トランシーバーでもう一人の人に最後の車の情報を伝える。この単純作業の繰り返し。実のところ、俺はこの単純作業が苦ではなかった。体力はさほど使わなくていい上に、脳内で暇を潰すのは得意中の得意だった。いつものごちゃごちゃと物を考える癖が、このように生かされるとは思いもしなかった。しかも楽しいことに、こんなクズ人間の俺でも、高級スポーツカーに乗る人間をこの誘導棒を使って、停めることができる。言い換えれば、一時的だが俺の言うことを俺よりも社会的地位が高い人間に従わせることができるのである。謎の優越感を感じた。ぼーっとしながら、太陽が繰り出す光に照らされる。今こうやって、仕事をして真面目に働いている俺は、この光に照らされるだけの資格を得た気がした。まあ、眩しくて鬱陶しいのには変わりないけど。頭の中がショートしたように真っ白になって、クラクラしてきたところで、昼飯休憩になった。危ねえ、車に俺自身を轢かせるところだった。
 「テン、飯食いに行くぞ」
 ヒロさんが手のひらを空へと突き上げるように伸びをして、俺のことを呼んでいる。とても失礼なのだが、俺は動くのが怠くて動けない。あわよくばこっちに来て、俺を引き連れてはくれないかと思った。もうそんなことを考える俺も嫌になって、このコンクリートの上で焼かれればいいと思った。非力にも、しゃがみ込んだ。この熱されたコンクリートに顔を当てて、火傷でもしまえばいいのに。
 「おい、大丈夫かよ」
 肩を掴まれた。目線を上へと移すと、ヒロさんが心配したように俺の顔を覗き込んでいる。
 「ああ、はい」
 夢からまだ覚めていないような、そんなふわふわとした気持ちで、その場限りの意味もない返事をした。今までの経験上、こうやって適当に返事をすれば大体のことは何とかなった。寧ろ、本心で「ダメ」とか「無理」とかを口を滑らせても何にしても、言ってしまったら相手を困らせてしまうだけんだ。面倒くさい奴だって、罵られるかもしれない。「大丈夫か?」と聞かれたら、「大丈夫だ」と答えるのは、この世界の公式だろう。じゃあ、聞く意味が無いじゃないか。なんて思わないでください。こうやって聞くことで、心配している意思を伝えることができる。それを伝えられれば、俺の場合は大体、大丈夫じゃなくても大丈夫だと答えたくなるんだ。心配してくれてありがとう、の言い換えが、大丈夫という言葉で表現されている気がする。
 「立てるか?」
 と手を差し伸べてくれて、俺のことを気にかけてくれる。その手を掴んで、ありがとうございます、という言葉を噛み締めるように言った。こんな俺を人間扱いしてくれる、そんな存在がいることが、死ぬほど嬉しかった。この世界もまだまだ捨てたもんじゃない、という誰から目線なのかも分からないことを思った。ヒロさんに近くの牛丼屋に連れて行ってもらって、特製のトッピングの盛合せを教えてもらった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

愛おしい、君との週末配信☆。.:*・゜

立坂雪花
BL
羽月優心(はづきゆうしん)が ビーズで妹のヘアゴムを作っていた時 いつの間にかクラスメイトたちの 配信する動画に映りこんでいて 「誰このエンジェル?」と周りで 話題になっていた。 そして優心は 一方的に嫌っている 永瀬翔(ながせかける)を 含むグループとなぜか一緒に 動画配信をすることに。 ✩.*˚ 「だって、ほんの一瞬映っただけなのに優心様のことが話題になったんだぜ」 「そうそう、それに今年中に『チャンネル登録一万いかないと解散します』ってこないだ勢いで言っちゃったし……だからお願いします!」  そんな事情は僕には関係ないし、知らない。なんて思っていたのに――。 見た目エンジェル 強気受け 羽月優心(はづきゆうしん) 高校二年生。見た目ふわふわエンジェルでとても可愛らしい。だけど口が悪い。溺愛している妹たちに対しては信じられないほどに優しい。手芸大好き。大好きな妹たちの推しが永瀬なので、嫉妬して永瀬のことを嫌いだと思っていた。だけどやがて――。 × イケメンスパダリ地方アイドル 溺愛攻め 永瀬翔(ながせかける) 優心のクラスメイト。地方在住しながらモデルや俳優、動画配信もしている完璧イケメン。優心に想いをひっそり寄せている。優心と一緒にいる時間が好き。前向きな言動多いけれど実は内気な一面も。 恋をして、ありがとうが溢れてくるお話です🌸 *** お読みくださりありがとうございます 可愛い両片思いのお話です✨ 表紙イラストは ミカスケさまのフリーイラストを お借りいたしました ✨更新追ってくださりありがとうございました クリスマス完結間に合いました🎅🎄

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

月曜9時の恋人 ――上司と部下のリモート勤務録

斎宮たまき/斎宮環
BL
「おはようございます」から始まる恋がある。 在宅勤務の上司と部下、画面越しに重なっていく生活音と沈黙。 誰もいない夜、切り忘れたマイクから漏れた吐息が、心の距離を壊していく。 社会的距離が恋の導火線になる―― 静かな温度で燃える、現代オフィスBLの新形。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

処理中です...