遊戯超過

小判鮫

文字の大きさ
17 / 47

女は隠せねえし、酒は吐き出せねえんだよ

しおりを挟む
 部屋に閉じこもると、誰にアピールするわけでもないのに「はあああ」という深呼吸のような大きなため息をついて、床に這いつくばった。俺は死体、死体だ、いや、ゾンビだ。とわけのわからないことを反芻して、ゾンビだからという謎の理由で、微妙に動いて、さっき買った酒に手をかける。プシューっ、さっき俺が吐いた息と同量程度の炭酸が抜けた。床に寝っ転がったまま酒を浴びるなんて、こぼれる酒がもったいないので、襟を正して正座に座り直した。
 「いただきます」
 何かの厳かな儀式みたいだが、酒に対して自室で一人でこんなことをしているのは、何とも滑稽だと思った。缶の縁に唇を当てるとひんやりしていて、柑橘系の香りに心が絆された。缶を傾けると、パチパチと弾ける炭酸が、口の中で愉快に飛んで、それを喉の奥まで流し込んだ。
 「っんまあ」
 ついこぼれ落ちた感嘆は、二口めを呑むための息継ぎみたいなものだ。二口め、缶を傾けすぎて、口から少量だがこぼれた。水滴は顎をつたい、首から胸の方へ流れていった。なぞられるように流れていった酒は、冷え性で少しくすぐったかった。ああああ、大好きだ。こいつがいるから俺は生きていられる。ストレスも疲れも記憶も、すべて飛んじゃって、ただ気持ちよさに身をゆだねた。
 コンコンコン。
 「テン、一緒に飲もーや」
 背筋が凍った。性行為中に部屋に誰かが入ってきた気分によく似てる。ノックをしてくれるだけありがたいが、女は隠せねえし、酒は吐き出せねえんだよ。もうしゃーねえわ。
 「俺、もう寝ちゃいますよ?」
 へらへらと、くねくねとしちゃうので、ドアノブに体重を支えてもらいながら、お行儀悪く出迎えた。そこには、風呂に入ってきたのか上下ジャージ姿のヒロさんが、コンビニの袋を片手に立っていた。
 「飲んでんのかよ」
 と若干の呆れ顔をされたが、んなのは、どうでもいい。上気して赤くなった頬も、土埃のついた作業着をまだ身に付けていることも、全部どうでもいい。酔ってるんだもん。
 「じゃ」
 「ちょっ、何閉めようとしてんだよ」
 「だーっ、俺と飲んでもつまらんっすってん」
 何語かわからない言葉を発して、頭をかいた。自分を見失っている。この人は、何でドアを閉めさせてくれないんだろう、とただただ疑問に思った。
 「そのよりも、お前、飯食ってないっしょ?」
 「酒が栄養っすよ、ひひっ」
 と気持ち悪く笑って、何が面白いのか分からないが意味なく笑えた。それを見たヒロさんは怒ったように
 「ろくでもねえな。これ、お前の分、つべこべ言わずに食え」
 とマカダミアナッツチョコレートを俺の胸に押し付けて、帰っていった。よく分からない人だと思ったけど、気にせずに酒を飲んだ。最後の一口になって、精神科医から飲むように言われている薬があることを思い出して、酒と一緒に飲み込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

愛おしい、君との週末配信☆。.:*・゜

立坂雪花
BL
羽月優心(はづきゆうしん)が ビーズで妹のヘアゴムを作っていた時 いつの間にかクラスメイトたちの 配信する動画に映りこんでいて 「誰このエンジェル?」と周りで 話題になっていた。 そして優心は 一方的に嫌っている 永瀬翔(ながせかける)を 含むグループとなぜか一緒に 動画配信をすることに。 ✩.*˚ 「だって、ほんの一瞬映っただけなのに優心様のことが話題になったんだぜ」 「そうそう、それに今年中に『チャンネル登録一万いかないと解散します』ってこないだ勢いで言っちゃったし……だからお願いします!」  そんな事情は僕には関係ないし、知らない。なんて思っていたのに――。 見た目エンジェル 強気受け 羽月優心(はづきゆうしん) 高校二年生。見た目ふわふわエンジェルでとても可愛らしい。だけど口が悪い。溺愛している妹たちに対しては信じられないほどに優しい。手芸大好き。大好きな妹たちの推しが永瀬なので、嫉妬して永瀬のことを嫌いだと思っていた。だけどやがて――。 × イケメンスパダリ地方アイドル 溺愛攻め 永瀬翔(ながせかける) 優心のクラスメイト。地方在住しながらモデルや俳優、動画配信もしている完璧イケメン。優心に想いをひっそり寄せている。優心と一緒にいる時間が好き。前向きな言動多いけれど実は内気な一面も。 恋をして、ありがとうが溢れてくるお話です🌸 *** お読みくださりありがとうございます 可愛い両片思いのお話です✨ 表紙イラストは ミカスケさまのフリーイラストを お借りいたしました ✨更新追ってくださりありがとうございました クリスマス完結間に合いました🎅🎄

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

月曜9時の恋人 ――上司と部下のリモート勤務録

斎宮たまき/斎宮環
BL
「おはようございます」から始まる恋がある。 在宅勤務の上司と部下、画面越しに重なっていく生活音と沈黙。 誰もいない夜、切り忘れたマイクから漏れた吐息が、心の距離を壊していく。 社会的距離が恋の導火線になる―― 静かな温度で燃える、現代オフィスBLの新形。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

処理中です...