遊戯超過

小判鮫

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死体に口なし痛みなし

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 「テーン、どしたん?その恰好、休日出勤なん?」
 マップの前で立ちすくんでいる俺に、アキさんがやけに明るく話しかけてきた。
 「あ、触らないでください。汚しちゃうんで」
 「かあーっ、まじかよお前さん。ヒロが心配してんのも分かる気ぃするわあ。ほれ、ついてこい」
 指をクイクイっと曲げて、あとからついてくるように指示された。何も考えずについて行って、誘拐されやすい子供みたいだと思った。食堂に着いた。たくさんのテーブルと椅子が並んでいて、食事時でもないのに、ちらほらと人がいた。「ここ座っとけ」と催促されて座らせてくれた。俺が椅子に座るとともに、怠さも上からのしかかってきたようで、テーブルに頭を置いて、重さを分散した。
 「ばっちゃん、もう飯残ってないん?」
 食堂のおばさんに、母親にご飯を急かす子供のように、アキさんが尋ねた。
 「まだ晩飯には早いでしょうに」
 「だから、昼飯が残ってるかって聞いてんの」
 「そんなに腹減ってんのかい?」
 「あっ、ラーメン食いてえ」
 「贅沢抜かすんじゃあないよ」
 アキさんと食堂のおばさんの会話に微笑ましく思いながら、俺は一体何故ここに座っているのだろうと、頭ん中ははてなマークでいっぱいだった。そのまま寝落ちしそうだったが、アキさんが「ばっちゃん特製メガ盛りまかない丼」をもらってきて、対面に座った。その丼ぶりには、魚も肉も麺もご飯も、とにかく色んなものが混ざっていて、食べる度に味が変わりそうだった。
 「テン、お前は無理矢理にでも食えよ?」
 とその子供のお楽しみ箱みたいな、やべえ丼ぶりを食わされるのかと思いきや、ばっちゃんに次いでにもらってきていた、メロンパンを俺にくれた。メロンの味がしないメロンパンはあんまり好きじゃない、という可愛らしい理由で。サクサクでほんのり甘いメロンパンは美味しいかどうかは評価できないが、想像通りのそれなりの味だった。飲食物の美味さってのは、身体の欲するものと相関関係があると思う。
 「ヒロさんは俺のこと何て言ってました?」
 「やべえ奴だって言ってたよ」
 とアキさんがにやにやと笑う。昨日、俺がヒロさんと飲むのを断ったとアキさんから聞いた。その後、ヒロさんとアキさんで飲んだみたいだ。パンに水分を持っていかれたのか、乾いた笑いが広がって、そのまま砂になって、散ってしまいたかった。
 「ああ、俺のことなんか、もっとぐっちゃぐちゃんに咎めて貶して殺してくれてもいいんすよ」
 顔もあげれずに机に置いたまま、情けなく吐いた。
 「へえ、そうなん。『やべえ』じゃ生ぬるいと?」
 「……いやあ、んー、どうなんでしょうね。俺は基本的に傷つきやすくて、傷つきたくない人間なんですけど」
 さっき失言したことに気が付いて、何とか軌道修正をかけようとして、顔をあげたけど、うまく顔を見れなくて、目は逸らしたままだ。
 「何なん」
 俺のことを弄るように笑う。言っていることが矛盾してるって。そうやってバカにしたように笑ってくれるとこっちも喋りやすかった。
 「何か、死体に口なし痛みなし、って思うんですよ。だから、俺を傷つけるのならば、痛みを感じない死ぬところまで、傷つけて欲しいっていうか、つまるところ、俺を殺して欲しいんすよ」
 足りないおツムでは言葉を選んで喋るなんて無理だと諦めて、嫌われても構わないスタンスで自分の言葉を話した。
 「人間のタガが外れんと、そんなんできひんわ。タカくくって、生きろ」
 「ハラくくって、じゃないっすか?」
 「この大卒めっ。人生ってのは七転八倒で生きんだよ」
 と謎の罵られ方をした。
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