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水道代の無駄遣い
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机と椅子と一体化しそうなほど、動けなくなってきていたが、やべえ丼ぶりを食べ終わったアキさんに袖を摘まれて、脱衣所まで拉致られた。
「風呂は嫌いなん?」
「いや、そうゆうんじゃなくて」
この左腕の白いテーピングから血が滲み出ている。見られるのは、何か弱みを見せるみたいで嫌いだ。苦渋の選択に追い込まれて、でもやっぱ何処かで、嫌われても構わないスタンスがまだ続いていた。俺の弱みを知ったとしても、この人がそれを逆手にとって、脅してくることもないだろう。それほどの人格者にアキさんは見えた。
「あっ、ああ、すっかり大事なもん忘れてたなあ。ちょっと取ってくるわ」
と彼は慌ただしく何処かに行ってしまった。何だか覚悟を決めて、脱ぎ始めようとしてた俺が馬鹿みたいだった。シャワーでも浴びといて、と言い残されたので、もう腕を見られる心配はないと安心した。シャワーのお湯に打たれて、自分の穢れを打ち落としてくれるみたいで気持ちよかった。水道代の無駄使いという謎の背徳感もあった。
「テン、風呂セット持ってきたぞ」
と個室のシャワー室のドアをコンコンと叩かれた。忘れ物ってそれか、と俺自身も忘れていたので合点がいった。ありがとうございます、とシャワー室のドアを少しだけ開けて、右手で受け取る。そして、すぐ閉めた。あ、待って、めっちゃ失礼だ。
「ごめんなさい、まだ恥ずかしくって」
「ははっ、どーりで。大浴場の貸切チャンスを逃したってわけだ」
シャワー室のぼやけたドアの向こう側、そのぼやけた輪郭が見えて、そこにいて笑っているんだと思った。風呂に入るのは、かなり体力がいる。シャンプーをして、シャワーで流して、リンスをして、シャワーで流して、身体を石鹸で洗って、シャワーで流して、何工程もある大変な作業だ。これを毎日やらなければならないというのも気が滅入る。シャワーの温度で逆上せてきて、ただ意味もなく、滝行のように当たっていた。俺の視界もぼやけてくる。椅子から立ち上がると、立ちくらみが起きて、壁に肘をぶつける。ドンっと鈍い音が鳴って、「もう疲れた」と椅子もあるのに床に座り込んだ。シャワーにあたりもせずに、水滴がリズムよく垂れる音を聞いていた。自分の髪の毛から滴り落ちる水滴を見ていた。血の滲んだテーピングの端が剥がれかかっていた。不清潔なので、剥がしたけれど、捨てる場所もなかったので、粘着力がなくなったそれをまた腕に巻き付けた。結局、湯船に浸からずに、シャワーだけなのに、二時間も入っていた。俺はこんなにも時間つぶしの天才なのか、と皮肉にも感動すらした。風呂から出ると、バスタオルとともに、見慣れないトレーナーとジャージのズボンと新品未使用のパンツが置いてあった。俺はバスタオルも着替えも何もかも忘れていたんだと、この期に及んで、初めて気がついた。アキさんの服を着てみたが、服側から「お前は誰だ」と持ち主じゃないことを非難されているようで、まったく俺には馴染まなかった。似合っているどうこう関係なく、違和感があった。食堂に行くと、先程よりも人がわんさかいて、また目眩がした。アキさんにこれら全てのお礼を言いたかったのに、部屋が分からなくて、迷子の子供のように困っていた。誰かに声をかければ知っているだろうか。いや、そもそも声なんかかけられるか?ちょうどパッと目の前にアキさんが現れてくれればいいのに、と食堂の壁に背をつけて、来るかどうかも分からない人を待ち続けた。知らない人ばかりに囲まれていると、自分が空気みたいに消えてしまいそうだった。誰も俺には声なんかかけないし、俺が見えていないように目の前を歩いていく。それはそれで当たり前の反応なんだけど、俺の寂しさは増していくばかりだ。
「風呂は嫌いなん?」
「いや、そうゆうんじゃなくて」
この左腕の白いテーピングから血が滲み出ている。見られるのは、何か弱みを見せるみたいで嫌いだ。苦渋の選択に追い込まれて、でもやっぱ何処かで、嫌われても構わないスタンスがまだ続いていた。俺の弱みを知ったとしても、この人がそれを逆手にとって、脅してくることもないだろう。それほどの人格者にアキさんは見えた。
「あっ、ああ、すっかり大事なもん忘れてたなあ。ちょっと取ってくるわ」
と彼は慌ただしく何処かに行ってしまった。何だか覚悟を決めて、脱ぎ始めようとしてた俺が馬鹿みたいだった。シャワーでも浴びといて、と言い残されたので、もう腕を見られる心配はないと安心した。シャワーのお湯に打たれて、自分の穢れを打ち落としてくれるみたいで気持ちよかった。水道代の無駄使いという謎の背徳感もあった。
「テン、風呂セット持ってきたぞ」
と個室のシャワー室のドアをコンコンと叩かれた。忘れ物ってそれか、と俺自身も忘れていたので合点がいった。ありがとうございます、とシャワー室のドアを少しだけ開けて、右手で受け取る。そして、すぐ閉めた。あ、待って、めっちゃ失礼だ。
「ごめんなさい、まだ恥ずかしくって」
「ははっ、どーりで。大浴場の貸切チャンスを逃したってわけだ」
シャワー室のぼやけたドアの向こう側、そのぼやけた輪郭が見えて、そこにいて笑っているんだと思った。風呂に入るのは、かなり体力がいる。シャンプーをして、シャワーで流して、リンスをして、シャワーで流して、身体を石鹸で洗って、シャワーで流して、何工程もある大変な作業だ。これを毎日やらなければならないというのも気が滅入る。シャワーの温度で逆上せてきて、ただ意味もなく、滝行のように当たっていた。俺の視界もぼやけてくる。椅子から立ち上がると、立ちくらみが起きて、壁に肘をぶつける。ドンっと鈍い音が鳴って、「もう疲れた」と椅子もあるのに床に座り込んだ。シャワーにあたりもせずに、水滴がリズムよく垂れる音を聞いていた。自分の髪の毛から滴り落ちる水滴を見ていた。血の滲んだテーピングの端が剥がれかかっていた。不清潔なので、剥がしたけれど、捨てる場所もなかったので、粘着力がなくなったそれをまた腕に巻き付けた。結局、湯船に浸からずに、シャワーだけなのに、二時間も入っていた。俺はこんなにも時間つぶしの天才なのか、と皮肉にも感動すらした。風呂から出ると、バスタオルとともに、見慣れないトレーナーとジャージのズボンと新品未使用のパンツが置いてあった。俺はバスタオルも着替えも何もかも忘れていたんだと、この期に及んで、初めて気がついた。アキさんの服を着てみたが、服側から「お前は誰だ」と持ち主じゃないことを非難されているようで、まったく俺には馴染まなかった。似合っているどうこう関係なく、違和感があった。食堂に行くと、先程よりも人がわんさかいて、また目眩がした。アキさんにこれら全てのお礼を言いたかったのに、部屋が分からなくて、迷子の子供のように困っていた。誰かに声をかければ知っているだろうか。いや、そもそも声なんかかけられるか?ちょうどパッと目の前にアキさんが現れてくれればいいのに、と食堂の壁に背をつけて、来るかどうかも分からない人を待ち続けた。知らない人ばかりに囲まれていると、自分が空気みたいに消えてしまいそうだった。誰も俺には声なんかかけないし、俺が見えていないように目の前を歩いていく。それはそれで当たり前の反応なんだけど、俺の寂しさは増していくばかりだ。
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