16 / 30
産まれたての子猫
しおりを挟む
次の日、彼は上機嫌で仕事から帰ってきた。
「イルぅ、君のおかげで残業なしで帰れたよ~!」
と帰ってきて早々、俺に抱きついてくるレベルには機嫌がいい。俺はそんな彼の言動を訝しげに思い、
「ご主人様、らしくないね。お酒でも飲んだ?」
と尋ねてみた。
「いいや、あったんだよ!凶器が!!」
彼は驚喜してそう言うが、何の事かわからない俺には狂気の沙汰にしか思えない。
「へぇ、そうなんだね……」
「イルの言っていた通りだ。凶器を隣人にプレゼントしてた」
そう言っては俺にまた抱きついて、俺の胸に目を細めながら頬擦りをしている。あぁ、昨日言ってた俺の仮説が当たったのか。やっと、合点がいった。
「じゃあ、何かご褒美くれる?」
俺はこの機を逃さず、しれっとおねだりしてみた。すると彼は、その言葉を待っていたかのようにニヤっと笑って、
「じゃーん!イルと一緒に飲もうかと思って、お酒を買ってきたんだ」
とワインボトルを見せられた。俺はそんなのよりもレイラが欲しいんだけどね。なんて想いは押し殺して、
「わあ、ご主人様!一緒に飲もう!」
って尻尾振る犬のように喜んだ。
夕飯のステーキとともに赤ワインを嗜む。ちょっとしたパーティをしている気分になった。
「イル、美味しい?」
「とっても美味しいよ。ご主人様」
彼はお酒にとても弱いのか、ワイングラス一杯で頬を赤らめていた。まあ、見た目からして飲めそうにない、赤ちゃんみたいな見た目をしているが。
「イルぅ、ふふっ、一緒にぃ……」
なんて言いながら食べ終わった皿を退けて、ダイニングテーブルを枕にして、眠りにつこうとしている。
「ご主人様、もう酔っちゃったの?」
こんな無防備な姿を見せられると、俺の頬も次第に赤く染まっていく。脳内で色んなシュミレーションをしてはそれを否定しまくって、煩悩に抗ってステーキにナイフを突き刺した。
「はぁ、あちゅい……」
細かく息をする彼の額が汗ばんでいる。とても苦しそうな顔をしている。息の詰まるような彼のシャツの第一ボタンを外してあげた。すると、上がった呼吸が整っていき、気持ちよさそうに寝始めた。
「ご主人様ぁ、そこで寝ると身体痛くするよ?」
と言っても彼は「ん~」と唸るだけで動こうとはしない。だから、俺がその身体を持ち上げて、近くのソファまで移動させてあげた。その汗ばんで顔に張り付いた髪の毛をそっと指で避けて、俺は唇を噛んだ。
あぁ、このままキスしちゃいたい。
それが俺のどす黒い心の中にある本音だった。けれど、昨日から頭の中で逡巡することと言えば、彼に行為を迫って泣かれたことだ。きっと欲望に負け、このままキスをしてしまえば、また彼を泣かせることになるに違いない。俺はそれでもしたいという欲望をどうやって発散したらいいのかわからなくて、一日三本という約束を破って、四本目の煙草に火をつけた。
「クラクラする、煙草の匂い……」
彼が寝ぼけ眼で俺を捉える。
「あ、これ三本目ね」
咄嗟に嘘を付いてその場をやり過ごそうとしたのも無意味。彼は俺から煙草を取り上げようとする。猫じゃらしで遊んでいる猫のように。
「煙草。健康に悪いって、いつも言ってんじゃん……」
「ふふっ、じゃあ、奪ってみなよ」
と俺が煽ると、彼はソファから転げ落ちて、産まれたての子猫のような四つん這いのよちよち歩きで俺の方に向かってくる。危なっかしくて可愛い。
「ちゅかまえた!」
一歩たりとも逃げていない俺の足首を掴むと満足げに笑ってる。そんな酔っ払いの彼が俺は可愛くてしょうがない。
「すぅーーーっ、はぁ」
深いため息をつくように煙草を味わった。もっと俺をその快楽物質で満足させてくれ。
「イルぅ、煙草……」
俺の足元で寝っ転がって、空を掴んでは俺の煙草に手が届かないことを嘆いている。馬鹿みたいに滑稽だ。
「もう吸い終わるよ」
と灰皿に煙草を潰して、足元で寝っ転がっている彼を、しゃがんで上から覗き見てみた。
「あれ、煙草はぁ?」
と今度は俺の顔をぺたぺたと触って、煙草がないことを不思議そうにしている。
「んんっ、もう捨てたよ」
その手を邪魔に思いながら、そう告げると
「ふふっ、そっかあ!イル、偉いねぇ!」
といつものオーバーリアクションで可愛がるように俺の頭をぽんぽんと撫でた。その笑顔が可愛すぎて、ダメだった。
「じゃあ、そんな俺はご褒美貰ってもいいよね?」
俺が彼に顔を近づけると、彼はあからさまに俺の口元を狙って、手で覆ってきた。それは完璧な拒絶反応だった。
「……嫌だ」
その一言が俺に重くのしかかる。またやってしまった。また欲望に負けてしまった。そんな自己嫌悪でいっぱいになって、罪滅ぼしのように彼の髪を優しく撫でた。
「レイラ、ごめんね。今日は一緒に寝られない」
そう言って、また彼をソファで寝かせると、俺は寝室のベッドへとダイブした。そして、あまり寝付けないまま、窓から朝日が差し込んだ。
「イルぅ、君のおかげで残業なしで帰れたよ~!」
と帰ってきて早々、俺に抱きついてくるレベルには機嫌がいい。俺はそんな彼の言動を訝しげに思い、
「ご主人様、らしくないね。お酒でも飲んだ?」
と尋ねてみた。
「いいや、あったんだよ!凶器が!!」
彼は驚喜してそう言うが、何の事かわからない俺には狂気の沙汰にしか思えない。
「へぇ、そうなんだね……」
「イルの言っていた通りだ。凶器を隣人にプレゼントしてた」
そう言っては俺にまた抱きついて、俺の胸に目を細めながら頬擦りをしている。あぁ、昨日言ってた俺の仮説が当たったのか。やっと、合点がいった。
「じゃあ、何かご褒美くれる?」
俺はこの機を逃さず、しれっとおねだりしてみた。すると彼は、その言葉を待っていたかのようにニヤっと笑って、
「じゃーん!イルと一緒に飲もうかと思って、お酒を買ってきたんだ」
とワインボトルを見せられた。俺はそんなのよりもレイラが欲しいんだけどね。なんて想いは押し殺して、
「わあ、ご主人様!一緒に飲もう!」
って尻尾振る犬のように喜んだ。
夕飯のステーキとともに赤ワインを嗜む。ちょっとしたパーティをしている気分になった。
「イル、美味しい?」
「とっても美味しいよ。ご主人様」
彼はお酒にとても弱いのか、ワイングラス一杯で頬を赤らめていた。まあ、見た目からして飲めそうにない、赤ちゃんみたいな見た目をしているが。
「イルぅ、ふふっ、一緒にぃ……」
なんて言いながら食べ終わった皿を退けて、ダイニングテーブルを枕にして、眠りにつこうとしている。
「ご主人様、もう酔っちゃったの?」
こんな無防備な姿を見せられると、俺の頬も次第に赤く染まっていく。脳内で色んなシュミレーションをしてはそれを否定しまくって、煩悩に抗ってステーキにナイフを突き刺した。
「はぁ、あちゅい……」
細かく息をする彼の額が汗ばんでいる。とても苦しそうな顔をしている。息の詰まるような彼のシャツの第一ボタンを外してあげた。すると、上がった呼吸が整っていき、気持ちよさそうに寝始めた。
「ご主人様ぁ、そこで寝ると身体痛くするよ?」
と言っても彼は「ん~」と唸るだけで動こうとはしない。だから、俺がその身体を持ち上げて、近くのソファまで移動させてあげた。その汗ばんで顔に張り付いた髪の毛をそっと指で避けて、俺は唇を噛んだ。
あぁ、このままキスしちゃいたい。
それが俺のどす黒い心の中にある本音だった。けれど、昨日から頭の中で逡巡することと言えば、彼に行為を迫って泣かれたことだ。きっと欲望に負け、このままキスをしてしまえば、また彼を泣かせることになるに違いない。俺はそれでもしたいという欲望をどうやって発散したらいいのかわからなくて、一日三本という約束を破って、四本目の煙草に火をつけた。
「クラクラする、煙草の匂い……」
彼が寝ぼけ眼で俺を捉える。
「あ、これ三本目ね」
咄嗟に嘘を付いてその場をやり過ごそうとしたのも無意味。彼は俺から煙草を取り上げようとする。猫じゃらしで遊んでいる猫のように。
「煙草。健康に悪いって、いつも言ってんじゃん……」
「ふふっ、じゃあ、奪ってみなよ」
と俺が煽ると、彼はソファから転げ落ちて、産まれたての子猫のような四つん這いのよちよち歩きで俺の方に向かってくる。危なっかしくて可愛い。
「ちゅかまえた!」
一歩たりとも逃げていない俺の足首を掴むと満足げに笑ってる。そんな酔っ払いの彼が俺は可愛くてしょうがない。
「すぅーーーっ、はぁ」
深いため息をつくように煙草を味わった。もっと俺をその快楽物質で満足させてくれ。
「イルぅ、煙草……」
俺の足元で寝っ転がって、空を掴んでは俺の煙草に手が届かないことを嘆いている。馬鹿みたいに滑稽だ。
「もう吸い終わるよ」
と灰皿に煙草を潰して、足元で寝っ転がっている彼を、しゃがんで上から覗き見てみた。
「あれ、煙草はぁ?」
と今度は俺の顔をぺたぺたと触って、煙草がないことを不思議そうにしている。
「んんっ、もう捨てたよ」
その手を邪魔に思いながら、そう告げると
「ふふっ、そっかあ!イル、偉いねぇ!」
といつものオーバーリアクションで可愛がるように俺の頭をぽんぽんと撫でた。その笑顔が可愛すぎて、ダメだった。
「じゃあ、そんな俺はご褒美貰ってもいいよね?」
俺が彼に顔を近づけると、彼はあからさまに俺の口元を狙って、手で覆ってきた。それは完璧な拒絶反応だった。
「……嫌だ」
その一言が俺に重くのしかかる。またやってしまった。また欲望に負けてしまった。そんな自己嫌悪でいっぱいになって、罪滅ぼしのように彼の髪を優しく撫でた。
「レイラ、ごめんね。今日は一緒に寝られない」
そう言って、また彼をソファで寝かせると、俺は寝室のベッドへとダイブした。そして、あまり寝付けないまま、窓から朝日が差し込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
コーヒーとチョコレート
ユーリ
BL
死神のジェットはとある理由からかわいい悪魔を買った。しかし、その悪魔は仲間たちに声を奪われて自分の名前以外喋れなくて…。
「お前が好きだ。俺に愛される自信を持て」突然変異で生まれた死神×買われた悪魔「好きってなんだろう…」悪魔としての能力も低く空も飛べない自信を失った悪魔は死神に愛される??
帝は傾国の元帥を寵愛する
tii
BL
セレスティア帝国、帝国歴二九九年――建国三百年を翌年に控えた帝都は、祝祭と喧騒に包まれていた。
舞踏会と武道会、華やかな催しの主役として並び立つのは、冷徹なる公子ユリウスと、“傾国の美貌”と謳われる名誉元帥ヴァルター。
誰もが息を呑むその姿は、帝国の象徴そのものであった。
だが祝祭の熱狂の陰で、ユリウスには避けられぬ宿命――帝位と婚姻の話が迫っていた。
それは、五年前に己の采配で抜擢したヴァルターとの関係に、確実に影を落とすものでもある。
互いを見つめ合う二人の間には、忠誠と愛執が絡み合う。
誰よりも近く、しかし決して交わってはならぬ距離。
やがて帝国を揺るがす大きな波が訪れるとき、二人は“帝と元帥”としての立場を選ぶのか、それとも――。
華やかな祝祭に幕を下ろし、始まるのは試練の物語。
冷徹な帝と傾国の元帥、互いにすべてを欲する二人の運命は、帝国三百年の節目に大きく揺れ動いてゆく。
【第13回BL大賞にエントリー中】
投票いただけると嬉しいです((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆ポチポチポチポチ
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる