異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話〜君の想いが届くまで〜

一優璃 /Ninomae Yuuri

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二章

幼い頃の記憶 アレン視点 II

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翌日も、僕は孤児院を抜け出した。
ズボンのポケットに孤児院でお貴族様からの寄付だとかで月に一度だけ配られる甘いクッキーを入れた。
あの人に会いに行くためなら、不気味な森だってドキドキはするものの簡単に通ることができた。
それに、このドキドキは怖いんじゃなくてあの人に会える期待から胸が高鳴ってしまうためだ。

予想はしていたけど、昨日あった場所に行っても会えなかった。
もうちょっと進んで、諦めずに周辺を探すことにした。
森の奥まで進むと、陽の光もあまり届かない場所に、ぽつんと一軒の小屋があるのを見つけた。
古びた木材で組まれた壁はところどころ色が抜け、苔がわずかに端を覆っている。
屋根は低く、背の高い木々に守られるように沈んでいて、近づかなければそこに家があることすら気づかない。
秘密に守られた隠れ家のようだった。

本当にこの家が彼の家かを確かめるにはノックして
もし、この家から彼が出てきた時は、昨日のお礼を行って、それからこのお菓子を渡しておしゃべりしながら一緒に食べるんだ。

そう妄想を膨らませながら僕は扉を優しくノックした。
中から足音が近づき、木製の扉がゆっくりと開く。
緊張から手先が震える。
現れたあの人を見て、胸の奥がふっと明るくなる。
目が合っただけで、呼吸が少し苦しくなる。

ーーーまた会えた!!!!

それだけでこんなにも嬉しくなるなんて、自分でも知らなかった。

嬉しすぎて言葉が出てこない僕に、一瞬固まってから少しだけ呆れたような表情をして言った。

「また来たのか」

頭上から長いため息が聞こえて、ビクッとなる。

ーーー困らせた。そりゃそうだよね。来るなって言われたのに、約束破ってきちゃったから。

「だって会いたかったんだもん」

言い訳をするように絞り出した声は驚くほど頼りなく震えていた。

ーーー怒ってる?嫌われたくない。

おずおずと彼の方を見上げると、彼は困ったように笑った。

「私に何か用が?」

目線を合わせるように屈んだ彼。
一気に顔が近くなって恥ずかしくなってしまう。

「えっと、お兄さんに昨日のお礼をしたくて、お菓子持ってきました‥‥一緒に食べてもいいですか?」

「お菓子を食べるだけなら、まあ、いいか」

「いいんですか!やったー!」

僕はお家に入って最初に目についた椅子に座って足をぶらぶらさせた。

「このクッキーね、孤児院で唯一出る甘い物で大好きなの!だからお兄さんと食べたらもっと美味しいだろうなって」

彼がお茶を目の前にことりと置く。
無意識にその手を目で追うと、僕が怖がらないようにか人間の手になっていた。
僕はそれを見て彼の気遣いに嬉しくなるのと同時に、もう怖がったりしないのに、とも思った。

「唯一‥‥そんなに貴重な物ならキミが全部食べるべきだ」

「ううん、一緒がいい!」

僕は無理矢理にでも食べさせようと身を乗り出して彼の口元までクッキーを持っていく。
手ずから食べさせる形になってしまったけど、パクッと食べる彼の様子に釘付けになってそれどころじゃなかった。

「甘い、おいしい」

「でしょでしょ!」

キラキラした表情が年上のはずなのに可愛いくてドキドキした。
一緒にお菓子を食べるだけならお話しする幸せな時間を過ごした後、お菓子のお礼を言われてしまった。
お礼のお礼なんていらないのに。
それに、また帰すために抱き抱えられる。
僕はまだ帰りたくないと駄々を捏ねたがもうすぐで日が暮れて危ないからと渋々頷いた。




僕は最初、どこまで踏み込んでも彼が嫌がらないのか分からなくて、ひとつひとつ距離を測るみたいに慎重に近づいていた。
でも一緒に過ごす時間が積み重なるほど、ノクトはそんなくだらないことで怒る人じゃないと分かってきて、気づけば遠慮なんてすっかり消えていた。

「僕はね、アレンって言います。お兄さんの名前も教えて?」

「さあ、なんだろう」

何度も聞いているのに毎度変わらない調子でかわされる。
穏やかな笑顔を浮かべているくせに、ぜったいに教える気がない。

ーーーいい加減、教えてくれたっていいのに

ムキになった僕は、部屋中をきょろきょろ見回した。
どこかに彼の名前が書かれているものはないか。

「あ!このハンカチに名前の刺繍してあるよ!」

「え!」

彼が珍しく焦った声を上げて振り向いた。

「ノクト?可愛い名前、ノクトにぴったりだね!」

「さっそく呼び始めてる‥‥」

この困ってるのに止めろとは言わない感じ。
僕だけが特別に許されているようなふわふわした気持ちになる。
 
「ノクトって、誰につけてもらったの?」

「小さい頃に人間のおじいちゃんにつけてもらったよ」

「へー」

小さい頃のノクト。
絶対に可愛かっただろうな。

その姿を僕じゃない誰かが見ていたという事実にもやもやが湧いてくる。
それに、

「僕がつけたかった。僕がノクトの名前つけたかったのに!」

言いながら、僕はぐいっとノクトの袖をつまんだ。

「そんなこと言っても、キミはまだ生まれてなかったでしょ」

僕の視線と合わせるようにしゃがんだノクトの首に手を回してしがみついた。

「キミじゃないよ!アレン!アレンって呼んで?」

僕が言ってくれるまで離さないと、腕に力を籠めれば、ノクトは視線を泳がせて小さく息を吸い、

「あ、あれん‥‥」

顔を真っ赤にして恥ずかしそうに僕の名前を呼んだ。
その姿に、胸の奥が一気に温かくなり、自然と幸せで満たされていく。

「ふふん、なあに、ノクト?」

ついにノクトに名前を呼ばせることができた喜びが、あふれるみたいに誇らしさへと変わっていく。
胸の奥がぽかぽかして、今にも飛び跳ねてしまいそうだった。

こんなに嬉しいことが、この先また起きるだろうか。
僕が生きてきた中で一番幸せな瞬間だ。

自分でも分かるくらい、にやけが止まらなかった。


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