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神龍殺しは少女のために
神龍殺しは少女のために②
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◇◆◇◆◇◆◇
村の外れの家、着物の上等さの割には質素も過ぎており、隙間風が吹いている。
「あ、お水出しますね。すみません、おもてなしも出来なくて……あ、石像さんって水飲むんですか?」
「石像じゃない。人だ。水は飲むけど……」
「ご飯も作るのでちょっと待っててくださいね」
机の上に水が置かれるが、水の上に小さなゴミが浮いていて気になる。普段なら口にしないだろうが、少女が用意してくれた物を残すのも悪いかと思って一気に飲む。
妙な臭みがあって不快な味だが、飲めなくはない。
少女の言っていたご飯というものが出来たのか、器に入れられて運ばれてきたが、完全に草とキノコを煮ただけのやつだ。
おままごとか何かをしているのかと思っていると、少女は小さく頭を下げてからスプーンを使ってそれをパクパクと食べていく。
……龍がいた。おそらくではあるが、ここは日本ではないだろう。夢かもしれないと疑いはするが、どうにも嫌に現実感がある。
ボリボリと頰をかいてニエの方に目を向ける。明らかに子供だ。
家はボロっちくはあるものの広く、幼子がひとりで住むようなものには見えなかった。
「……えーっと、ニエだったか。両親や親族は」
「ん、んぅ……その、少し前に……」
「悪い。……面倒を見てくれる人はいないのか?」
スープに口を付ける。青臭さと苦い味がするだけで、それ以外には何も感じられない。ただひたすらに不味いが、吐き出しても無礼かと思って飲み込む。
「……あの、その……」
ニエは困ったような表情をして俯いてからパッと顔を上げる。
「あ、服、ボロボロですよね。お父さんの服がまだあるので、持ってきますね」
「えっ……あ、ああ」
ニエはトテトテと歩いて木製の棚に手をかけて、手際よく服を取り出す。少女の着ているものよりかは質素でほつれが目立つが、十分に着れそうなものだ。
ほぼボロ切れになっていた服を脱ぐと、ニエは顔を真っ赤にして目を背けて別の部屋に行く。
「ひゃっ!? す、すみません」
「あ、いや、悪い」
子供だから気にしないと思っていたが、あれぐらいの子はもう気にするのか。
適当に服を着てからニエの名を呼ぶと、ニエはトテトテと戻ってくる。
「に、似合ってますよ。あっ、ご迷惑でなければ、そのまま着ていてくだされば……」
「……助かる」
親切な子だな。と、思っていると、少女はトントンと棚を触る。
「ここに入ってるのは、お父さんとお母さんの服で私が着るには大きいので、好きに持っていってもらって大丈夫です。……えっと、石像さんはさっきのところに戻るんですか?」
「……いや、石像じゃないが」
どうするべきなのだろうか。開拓村というから普通に大人もいるだろうから、そちらの方に話をして現状の確認をすべきか。
森に戻るのはあり得ないが、このまま少女の家に留まるわけにもいかないだろう。
俺が色々と考えていると不意に、野草を煮た汁を飲んで胃が動いたせいか、腹がぐぅと鳴る。
その音に少女がぴくりと反応して、部屋の隅に置いてあった袋を持ってくる。
「こ、これ、どうぞ。少なくて申し訳ないんですけど……」
「いや、そんなに腹が空いているわけじゃ……」
そう言っている間に、やっと気がつく。自分が寝ぼけて何をしたのか。
見回してもここに他に食料のようなものは見当たらない。おそらくこの袋に入っている豆が最後の食料なのだろう。
日本で飢えなんて経験していなかったせいで、あって当たり前の『食料が足りていない』ということに気がついていなかった。
袋を突っ返し、先程食べた不味い野草のスープの味を思い出す。
「……岩主だ。岩主カバネ」
「えっ、あの……」
「俺の名前だ」
これだけしか、こんな普段の俺の一食分の十分の一しかないような……食料しか持っておらず、痩せこけているのに迷わずに渡そうとした。
そんなことをして得など一つもないだろう。そんなことをしなければならない義理などないだろう。
飢えながらも人に与えようとする少女の優しさに、思わずその場から立ち上がった。
「……そこの、借りるぞ」
棚に置いてあった短刀と空の袋を手に取る。
「あの……石像……じゃなくて、カバネさん?」
狼狽る少女に目を向けることなく外に出た。
「……少し待ってろ。借りた恩は、同じだけ返す」
異世界でも、龍がいても、今はどうでもいいし、何でもいい。今はそんなことを考えている場合じゃない。
混乱していた頭がスッと冴えてくる。目的があれば、それ以外が目に入らなくなるという俺の悪癖だ。
だがその悪癖も、龍やら異世界やらの混乱を収めるのには丁度よかった。
とりあえず、食料を取ってくる。食えそうな物なら何でもいい。
獣を狩るのは無理。植物は食えるかどうかが分からない。
地球と同じ環境とは限らないが……会話も出来ているのである程度法則は似通っていると見てもいいだろう。
川魚なら食えるだろうと考えて村の端に見えた川を下っていく。魚影が見えたが……この道具だと捕まえるのは難しいか。
近くに蔓草と木の枝があることに気がつき、罠を作ることに決める。記憶の底にある魚が入ることは出来ても出ることは出来ない仕掛けを思い出して、落ちていた木の枝を拾い集めて蔓草で結んでいく。
強度に問題がなさそうなことを確認し、仕掛けを川に投げ入れて、何処かに流されていかないように罠と近くの岩を蔓草で結んでおく。
しばらく時間をおくとして……同じ仕掛けを作るべきか、それとも別の獲物を狙うべきか。
別の獲物を狙うにせよ、小動物や鳥を捕まえるような俊敏さはないし、投石とかで狙うにしても狙える位置にいくまでに物音で逃げられる気がする。
と、すると……やはり罠か。流石に鳥や獣を捕らえられるような罠の仕掛けは知らない。
……いや、知らなくても作れるか。ようは小動物の重さでも反応する仕掛けで、かかったら捕まえるか殺せるだけの威力があればいいだけだ。
岩を斜めにして木の枝で支え、岩の下に何かが通れば岩が倒れて下のものを潰す仕掛けを考えていくつか設置し、それをしているうちに見つけた木の枝と蔓草を使って魚を取るための仕掛けをもう一つ作って川に入れておく。
暗くなる前に戻ろうと考えて一つ目の仕掛けを持ち上げると、片手で掴める程度のあまり大きくない魚が一匹だけ入っていた。
「よしっ!」
そう思って仕掛けから魚を取り出そうとしたが…….取り出すための穴を作っていなかった。仕方がないので一度壊して魚を取り出してから、直して再び川に放り投げる。
袋に魚を突っ込むが……半日かけてこれだけか。偉そうに出ていった手前というのもあるが、単純にこれだけだと量が足りない。
夕暮れの中森を歩いていると、鼻に異臭がひっかかる。
近寄ると地面に鳥のフンが多く落ちている。その上を見上げれば少し太そうな木の枝に何かが乗っているのが見えた。
「……まぁ、食えるか」
袋を置いて木をよじ登って見れば枝の上に巣があって鳥がいることに気がつく。
ヒナとは呼びにくいほどの大きさになっていてもう飛べそうな姿だが、まだ独り立ちはしていないらしい。
太い枝ではあるが、そこまで行けば流石に俺の体重で折れてしまいそうだ。一応揺さぶってみるがそう簡単に落ちるはずもない。
近くにあった木の枝を折り、それを使って巣ごと落とそうとする。ヒナが外敵である俺に驚いて声を上げるが、無視だ。狩猟なんてしたことがなかったが、思いのほか目的以外のことが頭から抜け落ちるという性格が向いていたのか、命を奪う罪悪感を気にすることもなく巣を落とし終えて木から降りる。
落ちてはいるがまだ息の根が止まっていない鳥のヒナに手を伸ばし……俺の手から逃げようとする姿に、一瞬だけ戸惑いが出る。
「……まぁ、肉なんて普段から食ってるしな」
誰にするわけでもない言い訳を口にして、首根っこを掴んで袋に入れていく。
泣き声がするし、今のうちに殺しておいた方がいいのは分かるが、少し覚悟が足りなかった。
暗くなってきた森の中を方向感覚を頼りに歩く。
少しして真っ暗になりかけになってから村に辿り着き、ニエの家をノックする。
……もう暗いし、電気のないところならもう寝ているかと思ったら、バッとドアが開き、小さな人影がへなへな~とその場に倒れる。
「よかったです。……戻ってくるのが遅かったので、何かあったのかと」
「ああ、悪い……っ」
少女の服装に驚く。それは明らかに寝巻きではなく、昼に見た時の格好で……手には松明らしき棒が握られていた。
明らかに今から外に出ようとしていた格好であり、その理由は明白だった。
俺を探そうと……していた。
村の外れの家、着物の上等さの割には質素も過ぎており、隙間風が吹いている。
「あ、お水出しますね。すみません、おもてなしも出来なくて……あ、石像さんって水飲むんですか?」
「石像じゃない。人だ。水は飲むけど……」
「ご飯も作るのでちょっと待っててくださいね」
机の上に水が置かれるが、水の上に小さなゴミが浮いていて気になる。普段なら口にしないだろうが、少女が用意してくれた物を残すのも悪いかと思って一気に飲む。
妙な臭みがあって不快な味だが、飲めなくはない。
少女の言っていたご飯というものが出来たのか、器に入れられて運ばれてきたが、完全に草とキノコを煮ただけのやつだ。
おままごとか何かをしているのかと思っていると、少女は小さく頭を下げてからスプーンを使ってそれをパクパクと食べていく。
……龍がいた。おそらくではあるが、ここは日本ではないだろう。夢かもしれないと疑いはするが、どうにも嫌に現実感がある。
ボリボリと頰をかいてニエの方に目を向ける。明らかに子供だ。
家はボロっちくはあるものの広く、幼子がひとりで住むようなものには見えなかった。
「……えーっと、ニエだったか。両親や親族は」
「ん、んぅ……その、少し前に……」
「悪い。……面倒を見てくれる人はいないのか?」
スープに口を付ける。青臭さと苦い味がするだけで、それ以外には何も感じられない。ただひたすらに不味いが、吐き出しても無礼かと思って飲み込む。
「……あの、その……」
ニエは困ったような表情をして俯いてからパッと顔を上げる。
「あ、服、ボロボロですよね。お父さんの服がまだあるので、持ってきますね」
「えっ……あ、ああ」
ニエはトテトテと歩いて木製の棚に手をかけて、手際よく服を取り出す。少女の着ているものよりかは質素でほつれが目立つが、十分に着れそうなものだ。
ほぼボロ切れになっていた服を脱ぐと、ニエは顔を真っ赤にして目を背けて別の部屋に行く。
「ひゃっ!? す、すみません」
「あ、いや、悪い」
子供だから気にしないと思っていたが、あれぐらいの子はもう気にするのか。
適当に服を着てからニエの名を呼ぶと、ニエはトテトテと戻ってくる。
「に、似合ってますよ。あっ、ご迷惑でなければ、そのまま着ていてくだされば……」
「……助かる」
親切な子だな。と、思っていると、少女はトントンと棚を触る。
「ここに入ってるのは、お父さんとお母さんの服で私が着るには大きいので、好きに持っていってもらって大丈夫です。……えっと、石像さんはさっきのところに戻るんですか?」
「……いや、石像じゃないが」
どうするべきなのだろうか。開拓村というから普通に大人もいるだろうから、そちらの方に話をして現状の確認をすべきか。
森に戻るのはあり得ないが、このまま少女の家に留まるわけにもいかないだろう。
俺が色々と考えていると不意に、野草を煮た汁を飲んで胃が動いたせいか、腹がぐぅと鳴る。
その音に少女がぴくりと反応して、部屋の隅に置いてあった袋を持ってくる。
「こ、これ、どうぞ。少なくて申し訳ないんですけど……」
「いや、そんなに腹が空いているわけじゃ……」
そう言っている間に、やっと気がつく。自分が寝ぼけて何をしたのか。
見回してもここに他に食料のようなものは見当たらない。おそらくこの袋に入っている豆が最後の食料なのだろう。
日本で飢えなんて経験していなかったせいで、あって当たり前の『食料が足りていない』ということに気がついていなかった。
袋を突っ返し、先程食べた不味い野草のスープの味を思い出す。
「……岩主だ。岩主カバネ」
「えっ、あの……」
「俺の名前だ」
これだけしか、こんな普段の俺の一食分の十分の一しかないような……食料しか持っておらず、痩せこけているのに迷わずに渡そうとした。
そんなことをして得など一つもないだろう。そんなことをしなければならない義理などないだろう。
飢えながらも人に与えようとする少女の優しさに、思わずその場から立ち上がった。
「……そこの、借りるぞ」
棚に置いてあった短刀と空の袋を手に取る。
「あの……石像……じゃなくて、カバネさん?」
狼狽る少女に目を向けることなく外に出た。
「……少し待ってろ。借りた恩は、同じだけ返す」
異世界でも、龍がいても、今はどうでもいいし、何でもいい。今はそんなことを考えている場合じゃない。
混乱していた頭がスッと冴えてくる。目的があれば、それ以外が目に入らなくなるという俺の悪癖だ。
だがその悪癖も、龍やら異世界やらの混乱を収めるのには丁度よかった。
とりあえず、食料を取ってくる。食えそうな物なら何でもいい。
獣を狩るのは無理。植物は食えるかどうかが分からない。
地球と同じ環境とは限らないが……会話も出来ているのである程度法則は似通っていると見てもいいだろう。
川魚なら食えるだろうと考えて村の端に見えた川を下っていく。魚影が見えたが……この道具だと捕まえるのは難しいか。
近くに蔓草と木の枝があることに気がつき、罠を作ることに決める。記憶の底にある魚が入ることは出来ても出ることは出来ない仕掛けを思い出して、落ちていた木の枝を拾い集めて蔓草で結んでいく。
強度に問題がなさそうなことを確認し、仕掛けを川に投げ入れて、何処かに流されていかないように罠と近くの岩を蔓草で結んでおく。
しばらく時間をおくとして……同じ仕掛けを作るべきか、それとも別の獲物を狙うべきか。
別の獲物を狙うにせよ、小動物や鳥を捕まえるような俊敏さはないし、投石とかで狙うにしても狙える位置にいくまでに物音で逃げられる気がする。
と、すると……やはり罠か。流石に鳥や獣を捕らえられるような罠の仕掛けは知らない。
……いや、知らなくても作れるか。ようは小動物の重さでも反応する仕掛けで、かかったら捕まえるか殺せるだけの威力があればいいだけだ。
岩を斜めにして木の枝で支え、岩の下に何かが通れば岩が倒れて下のものを潰す仕掛けを考えていくつか設置し、それをしているうちに見つけた木の枝と蔓草を使って魚を取るための仕掛けをもう一つ作って川に入れておく。
暗くなる前に戻ろうと考えて一つ目の仕掛けを持ち上げると、片手で掴める程度のあまり大きくない魚が一匹だけ入っていた。
「よしっ!」
そう思って仕掛けから魚を取り出そうとしたが…….取り出すための穴を作っていなかった。仕方がないので一度壊して魚を取り出してから、直して再び川に放り投げる。
袋に魚を突っ込むが……半日かけてこれだけか。偉そうに出ていった手前というのもあるが、単純にこれだけだと量が足りない。
夕暮れの中森を歩いていると、鼻に異臭がひっかかる。
近寄ると地面に鳥のフンが多く落ちている。その上を見上げれば少し太そうな木の枝に何かが乗っているのが見えた。
「……まぁ、食えるか」
袋を置いて木をよじ登って見れば枝の上に巣があって鳥がいることに気がつく。
ヒナとは呼びにくいほどの大きさになっていてもう飛べそうな姿だが、まだ独り立ちはしていないらしい。
太い枝ではあるが、そこまで行けば流石に俺の体重で折れてしまいそうだ。一応揺さぶってみるがそう簡単に落ちるはずもない。
近くにあった木の枝を折り、それを使って巣ごと落とそうとする。ヒナが外敵である俺に驚いて声を上げるが、無視だ。狩猟なんてしたことがなかったが、思いのほか目的以外のことが頭から抜け落ちるという性格が向いていたのか、命を奪う罪悪感を気にすることもなく巣を落とし終えて木から降りる。
落ちてはいるがまだ息の根が止まっていない鳥のヒナに手を伸ばし……俺の手から逃げようとする姿に、一瞬だけ戸惑いが出る。
「……まぁ、肉なんて普段から食ってるしな」
誰にするわけでもない言い訳を口にして、首根っこを掴んで袋に入れていく。
泣き声がするし、今のうちに殺しておいた方がいいのは分かるが、少し覚悟が足りなかった。
暗くなってきた森の中を方向感覚を頼りに歩く。
少しして真っ暗になりかけになってから村に辿り着き、ニエの家をノックする。
……もう暗いし、電気のないところならもう寝ているかと思ったら、バッとドアが開き、小さな人影がへなへな~とその場に倒れる。
「よかったです。……戻ってくるのが遅かったので、何かあったのかと」
「ああ、悪い……っ」
少女の服装に驚く。それは明らかに寝巻きではなく、昼に見た時の格好で……手には松明らしき棒が握られていた。
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