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神龍殺しは少女のために
神龍殺しは少女のために③
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俺はあまりの驚きに息を詰まらせながら、手に持っていた袋を落とす。雑に袋に詰めてしばらく経っていたからか、鳥の声は聞こえなかった。
「えっと、それは……」
「……一飯の恩だ。食え」
袋を突き出すと、ニエは驚いたような表情を浮かべる。
「え、あ……こ、こんなにたくさんは、いただけません。鳥肉なんて貴重ですし……お魚も……えっと……あ、カバネさんのお料理に使いますね。お腹空いていますよね」
「……まぁ」
ニエはパタパタと動いて、鳥の羽を毟っていく。手慣れた様子を見て俺も真似をするが……どうにも不慣れだし、生々しくてやりにくい。
子供に手際で負けていることを少し気にしてしまうが、ニエの方は気にしてはいないらしい。
「こんなにたくさん捕まえるのって凄いです」
「……大きくはなっているが、巣立ち前だったからな」
見た目はもう飛べそうだが、まだ巣立ってはいなかった。
俺が一羽をむしり終える前にニエが他の鳥をむしり終えて、部位ごとに切り分けていく。
血が出るグロテスクさに目を背けているうちに、今日食べる分だけ切り分けられたのか、野草と豆一緒に煮ていく。
……その残った豆も入れてしまうのか。
料理を終えたらしいニエはトンと俺の前に皿を置く。
「お待たせしました」
「……お前の分は?」
「い、いえ、私は大丈夫ですよ。夕飯はもう食べたので……」
「食べるものなかっただろ。お前のために取ってきたんだ、食え」
ニエは困惑した様子で俺に目を向ける。
「……あ、あの……その、なんで、ですか?」
「腹が減ってるだろ」
「いや、まぁその……そうですけど、過分と、思いまして、理由が知りたいと言いますか……」
……おさない子供が痩せているのが嫌だった? ……一飯の恩?
どうにも、しっかりとこない。少女の顔を見て、火のついていない松明を見て、俺の前に置かれた豆の入った煮込み料理を見る。
「……ああ。好きになったからだ」
その高潔な精神が。腹も空いているだろうに、それでも人のために動こうとするのが、幼い身体では夜は怖いだろうに、それでも人を助けに行こうとするのが。
やせぎすな幼子ではあるが、俺には物語の高潔な騎士のように……あるいはそれよりも美しいものであると感じたのだ。
俺のその想いを吐露しようとしたら、ニエは明らかに目をキョロキョロと動かして、手足をアタフタとバタつかせる。
「す、すすす、好きっ!?」
「……どうした?」
「そ、その……な、なんと言いますか」
ニエの顔はみるみる内に真っ赤に染まっていき、パッと両腕で顔を隠す。
「お、男の人に……好きと言われたのは初めてでして……」
……いや、そんなつもりで言ったわけじゃない。
ニエの顔はなおも赤くなり、チラリと覗いた耳まで真っ赤になっていた。
◇◆◇◆◇◆◇
「……本当に赤いな」
随分と赤い鱗だ。
生物の色には意味がある。多くの生物は環境に紛れる保護色を採用しており、人間の目には目立って見える虎やシマウマの縞模様も、多くの動物の目には赤色が見えないために保護色として機能している。
あるいは毒を持つ蜂や蛇がカラフルな色をしているのは、己の危険さを知らしめることで外敵が自分から逃げるようにするためだ。
……だとすると、この龍の赤はなんだ。
俺は全力で後ろに走って逃げながら考える。
多くの動物は赤色が見えない。それはこの世界に置いても同じことだろう。植物が似通っているので、それに対応する動物も似通っているはずだ。
赤色が見えない生物にとって龍の赤色が目立たないわけではないだろうから保護色ではない。
……だとするとこの龍の赤色は、赤色が見える生物に対してのものだ。その生物は何か……決まっている。
「人間に逃げてほしいのか。お前は」
あまりに大きすぎる巨体は森の中では不利に働く。森に逃げ込んだ俺を見て、龍は木々をなぎ倒しながら進むが、木々が障害になっているのは間違いない。
飛ぶための翼がある生き物だというのに、木々をなぎ倒して走るこの異常な頑強さと膂力……間違いなく、元の世界ではありえない異常。
この世界特有の……【魔力】というルール。
スリングショットを構えながら、龍を注視すると、龍が吠える。爆発に似た音に全身が押される。先に濡れた布を詰めていた耳にも痛みが走るが、事前の準備のおかげで鼓膜が割れるほどではなかった。
如何に巨大な生き物でもありえないほどの轟音。この世界の人間は理解していないらしいが……この声は通常の生物ではありえない【魔法】だ。
気が狂いそうな恐怖の中、口元を無理矢理ニンマリと笑わせる。笑え、震える足を動かすために。
「ここまで、完全に計画通りだ」
スリングショットでそこらの石を飛ばしてこちらに意識を向けさせる。
「来い、来い、来いよ! 龍! 世界最強の生き物!」
もしも龍が完全に動きを止めて殺されることに協力したとしても、かなりの時間がかかるだろう。抵抗する今だったらどんな攻撃をしようと傷一つ付けられない事は分かっている。
傷一つつけられてなかろうが……それでも、殺す手段はある。
この世界はどうか定かではないが……俺の育った地球という世界においては【弱肉強食】などというルールは存在しなかった。
強ければ勝てるなどと、そんな甘ったれた楽な世界ではなかった。
地球はあくまでも【適者生存】であり、強さなど大した意味を持っていない。
大きく、硬く、尚且つ強く、その上に空まで飛ぶ。
正しく最強。……だから、勝ち目はある。
「えっと、それは……」
「……一飯の恩だ。食え」
袋を突き出すと、ニエは驚いたような表情を浮かべる。
「え、あ……こ、こんなにたくさんは、いただけません。鳥肉なんて貴重ですし……お魚も……えっと……あ、カバネさんのお料理に使いますね。お腹空いていますよね」
「……まぁ」
ニエはパタパタと動いて、鳥の羽を毟っていく。手慣れた様子を見て俺も真似をするが……どうにも不慣れだし、生々しくてやりにくい。
子供に手際で負けていることを少し気にしてしまうが、ニエの方は気にしてはいないらしい。
「こんなにたくさん捕まえるのって凄いです」
「……大きくはなっているが、巣立ち前だったからな」
見た目はもう飛べそうだが、まだ巣立ってはいなかった。
俺が一羽をむしり終える前にニエが他の鳥をむしり終えて、部位ごとに切り分けていく。
血が出るグロテスクさに目を背けているうちに、今日食べる分だけ切り分けられたのか、野草と豆一緒に煮ていく。
……その残った豆も入れてしまうのか。
料理を終えたらしいニエはトンと俺の前に皿を置く。
「お待たせしました」
「……お前の分は?」
「い、いえ、私は大丈夫ですよ。夕飯はもう食べたので……」
「食べるものなかっただろ。お前のために取ってきたんだ、食え」
ニエは困惑した様子で俺に目を向ける。
「……あ、あの……その、なんで、ですか?」
「腹が減ってるだろ」
「いや、まぁその……そうですけど、過分と、思いまして、理由が知りたいと言いますか……」
……おさない子供が痩せているのが嫌だった? ……一飯の恩?
どうにも、しっかりとこない。少女の顔を見て、火のついていない松明を見て、俺の前に置かれた豆の入った煮込み料理を見る。
「……ああ。好きになったからだ」
その高潔な精神が。腹も空いているだろうに、それでも人のために動こうとするのが、幼い身体では夜は怖いだろうに、それでも人を助けに行こうとするのが。
やせぎすな幼子ではあるが、俺には物語の高潔な騎士のように……あるいはそれよりも美しいものであると感じたのだ。
俺のその想いを吐露しようとしたら、ニエは明らかに目をキョロキョロと動かして、手足をアタフタとバタつかせる。
「す、すすす、好きっ!?」
「……どうした?」
「そ、その……な、なんと言いますか」
ニエの顔はみるみる内に真っ赤に染まっていき、パッと両腕で顔を隠す。
「お、男の人に……好きと言われたのは初めてでして……」
……いや、そんなつもりで言ったわけじゃない。
ニエの顔はなおも赤くなり、チラリと覗いた耳まで真っ赤になっていた。
◇◆◇◆◇◆◇
「……本当に赤いな」
随分と赤い鱗だ。
生物の色には意味がある。多くの生物は環境に紛れる保護色を採用しており、人間の目には目立って見える虎やシマウマの縞模様も、多くの動物の目には赤色が見えないために保護色として機能している。
あるいは毒を持つ蜂や蛇がカラフルな色をしているのは、己の危険さを知らしめることで外敵が自分から逃げるようにするためだ。
……だとすると、この龍の赤はなんだ。
俺は全力で後ろに走って逃げながら考える。
多くの動物は赤色が見えない。それはこの世界に置いても同じことだろう。植物が似通っているので、それに対応する動物も似通っているはずだ。
赤色が見えない生物にとって龍の赤色が目立たないわけではないだろうから保護色ではない。
……だとするとこの龍の赤色は、赤色が見える生物に対してのものだ。その生物は何か……決まっている。
「人間に逃げてほしいのか。お前は」
あまりに大きすぎる巨体は森の中では不利に働く。森に逃げ込んだ俺を見て、龍は木々をなぎ倒しながら進むが、木々が障害になっているのは間違いない。
飛ぶための翼がある生き物だというのに、木々をなぎ倒して走るこの異常な頑強さと膂力……間違いなく、元の世界ではありえない異常。
この世界特有の……【魔力】というルール。
スリングショットを構えながら、龍を注視すると、龍が吠える。爆発に似た音に全身が押される。先に濡れた布を詰めていた耳にも痛みが走るが、事前の準備のおかげで鼓膜が割れるほどではなかった。
如何に巨大な生き物でもありえないほどの轟音。この世界の人間は理解していないらしいが……この声は通常の生物ではありえない【魔法】だ。
気が狂いそうな恐怖の中、口元を無理矢理ニンマリと笑わせる。笑え、震える足を動かすために。
「ここまで、完全に計画通りだ」
スリングショットでそこらの石を飛ばしてこちらに意識を向けさせる。
「来い、来い、来いよ! 龍! 世界最強の生き物!」
もしも龍が完全に動きを止めて殺されることに協力したとしても、かなりの時間がかかるだろう。抵抗する今だったらどんな攻撃をしようと傷一つ付けられない事は分かっている。
傷一つつけられてなかろうが……それでも、殺す手段はある。
この世界はどうか定かではないが……俺の育った地球という世界においては【弱肉強食】などというルールは存在しなかった。
強ければ勝てるなどと、そんな甘ったれた楽な世界ではなかった。
地球はあくまでも【適者生存】であり、強さなど大した意味を持っていない。
大きく、硬く、尚且つ強く、その上に空まで飛ぶ。
正しく最強。……だから、勝ち目はある。
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