神龍殺しの転生者。、生贄の少女のために龍を殺したら勝手に救世主にされた件〜地位も名誉もハーレムもいらないんだが〜

ウサギ様

文字の大きさ
41 / 42
どんなにつまらないことであろうと

どんなにつまらないことであろうと②

しおりを挟む
 水筒から水をコップに移し、ミルナに手渡す。
 渡す際に触れた指先が冷たかったので、やはり夏とは言えど肌寒かったのだろう。上着をミルナにかける。

 昼間に集めていた乾いた枝に、ちょんと短刀を当てて火を付けて、少し離れたところで暖を取る。

「ありがと」
「眠くなったら言えよ。まぁ、自分の親をあまり悪く言うのもどうかと思うが……貞操観念という物がなかったんだろうな。俺が寝ている横で普通に知らない男と関係を持っていたぐらいだ」
「……それは、その……。でも、カバネのことは愛してくれていたんじゃ」
「赤子の頃は祖父母が面倒を見てくれていたらしい。だが、すぐに祖父母が他界してな。そのあとは、母と関係を持っていた男の一人が面倒見がいい奴がいて、まぁ食事だけは取ることが出来た。これが5歳ぐらいまでだな」

 パチリ、と火が枝を爆ぜさせる音が聞こえる。

「つまらない話だし、別の話を……」
「ううん。嫌じゃなかったら、聞かせて」
「……俺がいた世界はここよりも安全で豊かだった。だから、国民全員が教育を受けれてな、国が教育を受けさせてくれるんだ」
「……すごいね」
「まぁ、そうかもな。その中で小さい子供は小学校というところに集められるんだが、昼食はその学校で食わせてもらえてな。……まぁ本当はその昼食の金も払わないとダメなんだが……」

 俺の親が払っているはずもない。深くため息を吐きつつ、眠らないように体を伸ばして話を続ける。

「まぁ、到底足りた量じゃないが、それでも生きるぐらいには何とか足りていた」
「……その、お母さんは」
「俺のことは基本的にいないものとして扱っていたよ。今思うと俺の子供の頃はかなり身なりが汚かったな。何週間も連続して同じ服を着ていたし、お陰でその小学校の中でもイジメ……と言っても分からないか。かなり嫌われ者でな」

 イジメられていたが、まぁ仕方ないだろう。道徳が身につく前の子供の中で、明らかに異質で汚らしい奴がいたのだ。
 親も嫌われていたし、放置されていたから誰かが止めるなんてこともない。だが……まぁ、幼い子供に善悪なんてあるはずもない。

「なんで……自分の子供なのにそんな」
「……俺の名前は欠けた羽……と書くんだ」
「えっと……」
「自由を謳歌していたのにお前のせいで私の羽は欠けた。という意味だ。ついでに読みのカバネというのは、屍からだな。お前など死んでしまえという意味も含まれている」
「で、でも捨てなかったんじゃ……」
「子供をそこら辺で捨てるのは違法だったからだ。子供を他の人に渡す制度もあったが、母親はあまり頭が良くないから知らなかったらしい」

 昔話をしていると眠くなってきた。他の人の話ならまだしも、自分の話だと知っている内容だけなので酷く退屈だ。

「まぁ頭が良くなかったおかげで俺が産まれたんだろうけどな」

 ミルナは頷くこともなく、黙々と俺の話を聞いていた。

「俺の家族はそんなところだ。何が好きで何が嫌いとか、どんな性格とかは良く知らない」
「……あ。うん。……あの、その……愛されたことがあったから愛せるって」
「ああ、それは母親からじゃないぞ。その小学校の同級生でな。……この話はニエにはするなよ?」
「えっ、うん」

 ニエは案外独占欲が強いから……俺の初恋の話などしたら、きっと悲しんでしまうだろう。

「同級生って、同じ年齢ってこと?」
「ああ、同じ年齢ごとに分けられてな。その中で嫌われ者だったんだが……まぁ食事がもらえるから毎日欠かさず通っていたんだが、その行事の一つに遠足があってな。みんなで出かけるんだ」
「へー、いいね。楽しそう」
「ああ……あれは、楽しかった。……本当に、幸せだった」

 思い出すと思わず笑みが溢れる。あの世界で、一番大切な思い出だ。

「その給食が、遠足の日には出てこなくてな。家から弁当を持っていくんだが、まぁ当然俺の家で用意出来るはずもなくな。俺だけないような状況だったんだ」
「……あの、それ本当に良い思い出なの?」
「ああ、いい思い出だ。それで昼食の時間、みんなで集まって食べているのをあまり見たくなくてな、見ていると腹が減って、すごくイライラするから出来る限り離れたところにいたんだが、一人の女の子が俺のところにやってきて、おにぎりをくれたんだ」
「おにぎり?」
「小麦と同じ稲科の食物で、まぁパンのような主食だと思ってくれ」

 誰も友人なんていなかったし、何も楽しくない遠足だった。遠くでビニールシートを敷いて楽しそうにしている声が聞こえて、それがどうしても許せないほどに憎かった。
 殴られることよりも、何よりも幸せそうな声を聞くのが辛かった。

 そんなときだった。楽しそうな輪から離れて、小さなおにぎりを持ってきてくれた。

「だからな、俺も人を愛して優しくしようと思っているんだ」
「えっ、話が飛躍してない?」
「……そうか? ……まぁ、優しくされて嬉しかったから、俺も人に優しく出来るようになったというだけの話だ」
「……えっと、愛されたってのは、その女の子とそれから何かあったの?」
「いや、それからは特に。さっきも言ったが身なりが汚く嫌われ者だったからな。それ以来話しかけられることはなかったし、話しかけても嫌がられていたが」
「……そ、そっか」

 ミルナは不思議な反応をする。いい話のつもりだったが、どうにも反応が芳しくない。

「まぁ……それからかなり長いことその女の子が好きでな。中学校を卒業するまで……と言っても分からないか。九年間ほど片想いをしていた」
「おにぎりひとつで……?」
「まぁ、会うことがなかっただけで、ニエと会うまではその子のことが好きだったから、もう少し長いか」
「……え、えぇ……」
「……別にいいだろ。それだけ嬉しかったんだよ」

 ミルナは微妙な表情を浮かべる。せっかく俺のいい思い出を話したというのに、なんでそんな表情なのか。
 俺が少し拗ねていると、ミルナは困ったように「そ、そう……」と言う。

 ……今思い返すと、もしかして俺って飯をもらうと人を好きになるのか?
 いや、ニエのように自分の分すら足りないのに、分けるようなことをされたら誰でも好きになるよな。

「……カバネのこと、ちょっと分かったかもしれない」
「そうか。まぁ大した話はしてないが」

 よくよく自分のことを考えてみると……おにぎりをくれた女の子とニエはその時の背丈が似ているし、自覚していなかっただけでそれぐらいの身長の女の子が好みになっていたのかもしれない。
 ニエはもちろんのこと、シロマの裸にも興奮してしまうし……もしかして俺は、その思い出のせいで、幼い女の子が好みなのか? いや、まさか……ミルナが屈んだときの胸元とか普通に気になるし、普通だろう。

「……カバネ、クッキーの余りあるんだけど、食べる?」
「いや、ニエとかシロマが甘い物が好きだから、二人にあげた方が」
「カバネに食べてほしいの。頑張って作ったから」
「……そういうことなら、もらうか」

 ミルナが取り出したクッキーを受け取り、無言で食べる。朝食べたのと同じく、悪くない味だ。料理は不味いが、こういう菓子は悪くない文化のようだ。
 俺が食べるところをジッと見つめていたミルナが俺に尋ねる。

「ど、どう?」
「美味いよ。小麦の風味がいい」
「そうじゃなくて、いや、それは嬉しいんだけど、その……」

 ミルナは上手く息継ぎが出来ず、空気を振り絞るように言う。

「す、好きになってくれる?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...