恋なんて必要ないけれど

学校祭、準備

5

　数日後、母さんに呼ばれて一階に降りると、

「やっほ！」

　制服姿の三木がうちのリビングに居て呆れる。

「ねぇ！小嶋も制服着てきて！」
「は？」

　しかも、当たり前のように言われて理解ができない。

「部屋に飲み物とか持って行くから、彼女案内してあげたら？」
「いや、彼女じゃないし」
「ねぇ！エプロンできたの！男バスのも少しアレンジしたいから早く！」

　微笑む母さんに訂正しているのに、三木は聞いていないのか大きなかばんを肩にかけて俺の背中を押してきた。
　仕方なくリビングを出ると、ちょうど兄貴が帰って来たらしく玄関のドアが開く。

「こんにちはー！お邪魔してます！」

　にこっと笑う三木を見て、兄貴はパクパクと口をただ動かしていた。
　変に絡まれるのは避けたくて、俺はそのまま階段を上る。
　着いてきた三木が部屋に入ると、そのままドアを閉めて大きく息を吐き出した。
　後で絶対うるさい。面倒くさい。
　頭を抱えていると、

「小嶋らしいシンプルな部屋だねぇ」

　三木はキョロキョロとあちこち見てから振り返った。

「あ！後ろ向いてるから着替えちゃって！私もエプロン着けるから！」

　マイペース過ぎて困る。
　三木はわかっているのか？
　男の部屋に来ておいて、しかも、着替えろと？
　それならその間は出ていって欲しいが、兄貴のさっきの様子からしても鉢合わせたら面倒でしかない。

「振り向くなよ」

　笑い声が聞こえて睨みつつ俺はため息を吐き出してクローゼットを開けると、着ていたＴシャツの上に白シャツを羽織った。