最高に熱くて楽しい夏の話

Coco

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両立・・・語り、尾野明紘(おのあきひろ)

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「みんなすごい久しぶり」
 本当に久しぶりのマリ・ベーカリー。結実ちゃんはいつも試合のときに応援に来てくれるけど、オレ達は試合前は緊張してて、試合後はくたくたに疲れてて、ほとんど挨拶程度しか言葉を交わすことがない。
「本当は部活が終わった後、毎日きたいんだけどね」
 いかんせん、部活にすべてをかけているオレ達はバイトもろくにいってないからお金がない。そして、部活では匡弥が鬼のように厳しいから、部活が終わる頃にはコーヒー一杯飲みにくる体力さえも残ってない。というか、飲んだら吐く。
「この席久しぶり~~~」
 さすがの朝斗もカフェオレを一口飲んで、くたんと机に頬を付く。
「やっぱり落ち着くね」
 今日は日々部活に明け暮れ、まったくやっていなかった二週間分の宿題を片付けるためにここへきた。今日、ついに全教科の先生から明日までに提出するようにと怒られたから。実は一週間前くらいから怒られ始めてはいたんだけどね。全教科言われたのは今日が初めて。
「すごいな、俺」
 継亮は本当に一問も解いてない数学のプリントの束を捲った。
「いや、オレのほうがすごいよ」
 朝斗は一行も書いてない歴史のレポートに、やっと名前を書き込んだ。
「オレ、もっとすごいから!」
 ナリは家庭科のエプロン以外何も手をつけていなかった。そういえば、オレ、あのエプロンの生地どこにやったんだろう?
「さて、今日こそやらないと、部活にもいけなくなる」
 そう、明日中に全教科の宿題が提出できないと、オレ達は部活禁止になる。
「匡弥、数学やって、代わりにレポート書くから」
 継亮は一生かかっても解けそうにない数学をどうにかしないと。
「レポートはもうできてるよ」
「じゃあ、漢字の書き取り」
「それも終わったよ」
「じゃあ・・・エプロン縫うわ」
「もう完成して提出しちゃったよ」
 継亮が次々に出す交換条件を事前にクリアしている匡弥。
「じゃあ何が出来てないんだよ?」
「物理」
 無理だね。理数がどん底の継亮にはどっちもどうしようもない。
「終わらない・・・」
「終わらせなきゃ!」
 こうして励ましあいながら勉強してると、高校受験のときのことを思い出すね。あのときも、みんなかなり必死に勉強した・・・よく考えてみれば、この夏が終わったら、今度は大学受験じゃん!うわっ!また勉強しなきゃいけないの?
「早く終わらせて校庭でキャッチボールしたい」
 ナリがばたばたしてる。みんなすっかり高校球児になってるね。
 そして、ふと静かになり、時間が進むこと二時間・・・時刻、午後九時半。
「マジで終わんないよ!」
「無理だわー」
 最初に飽きたのはオレと継亮。
「ふたりとも、明日から野球できなくなってもいいのか?」
「ダメ!無理!絶対ダメ!」
 和騎の言葉にぶんぶん首を振って再び勉強・・・だめだ、集中力が2分しか持たない。ウルトラマンよりも持久力がない。
「はい、今日は私のおごりね」
 結実ちゃんがコーヒーのお代わりと、シュークリームを持ってきてくれた。
「ありがとう」
「やった!ちょっと休憩ね」
 シュークリームで糖分を補給してから、オレ達は閉店ぎりぎりまで宿題とにらみ合った。
「おっしゃ、終わり!」
 最初に終わったのは朝斗。それからみんなお互いのわからないところを教えあって、ぼろぼろの宿題は何とか完成した。宿題はテストじゃないから正解しなくても大丈夫。答えが埋まってれば問題ないよね?
「さ、帰ろうか」
「はい」
 みんな部活のときよりくたくたになって店を出た。
「家まで送るよ」
 匡弥が自転車のかごに結実ちゃんの鞄を入れようとする。
「今日はいい。疲れてるでしょ」
「平気だよ」
「いいってば」
 ああ・・・カップルっぽいね。って言うか、カップルか。
「俺が送ろうか?」
 継亮が笑う。匡弥が譲らないことを知ってて言ってる。匡弥と結実ちゃんの家は反対方向だけど、継亮と結実ちゃんの家は同じ方向で、しかも近い。
「おれが送る」
「あっそ」
 こうしてみんなそれぞれ家に帰った・・・あ!オレ、エプロン出来てないじゃん!


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