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廿漆
「如ならばここに命絶ち候はむや。和睦は疾く破られたるめれば、此奴が息永らへども巣守が害になりぬべしに」
ちょ、ちょっと待って!
和睦まだあるから!殺しちゃ戦争になるから!
殺すのはやめて!
私は必死でお萬を止めた。
「姫御前の然に宣はば」
お萬が懐刀を収めたのでほっとする。
目の前で殺人は見たくない。
お萬は動かなくなった寿藤惟成から足を離した。
「此奴は如何にあそばさむや。今、此の頃郎党共の来たらめば」
「もう帰ろう、お萬。城に帰る。この人はこれで」
もうこのままで放置して行こう、という意味を込めて首を振る。
お萬は大きく息を吐いて、「畏まり候ふ」と言った。
「げに。暮れ果つる後、熊や山犬に食はれたれば証無かるべき事に候ふなりや」
……何か恐ろしい事を聞いた気がする。
気のせいだ、そういうことにしよう。
遠くから、お萬君、姫御前と呼ぶ声がしてきた。
顔を見合わせ、さあ帰ろうと二人で歩きだした時。
お萬がいきなり巣籠を発動させた。
バリバリ、と音がして振り向くと。
蔦が巣籠の膜に巻き付き、青白い火花をところどころ発していた。
その向こうに、蔦で吊り下がった蓑虫野郎の姿がゆらゆらしている。
ただなり!
生きとったんか、ワレ。
「おのれおのれ! この恥、如何にせむか!」
だらんと脱力した体で吊り下がり、怒りと恨みの意志を燃え上がらせた目。
その姿はさながら恨みつらみの籠った首吊り死体のようである。
「そはこなたの言葉よ。姫御前が慈悲に命永らへしに逆恨むや!」
ひー、成仏してください!
なまんだぶなまんだぶと念仏を唱えていると、複数の足音がこちらへ向かってきている。
それは寿藤惟成も分かっていたようで、
「今日は退きて取らすが、この寿藤惟成、綾子姫を神かけて得むぞ!」
と捨て台詞を吐く。
そして蓑虫ターザンで逃げようとし――。
「ぎゃふっ!」
「あ、落ちた」
藤の紋術の集中力が切れたのか、蔦の耐久力が無かったのか。
蔦がぶちっと切れて、寿藤惟也は十数メートル先に落下。
そして今度こそ動かなくなった。
***
あれから。
探しに来てくれた巣守の家臣達がお萬の指示で寿藤惟也に縄を掛け、弥栄城に運ぶ。
途中合流した鳥山半兵衛は、寿藤の家臣を数珠繋ぎにして引っ立てていた。
彼らは全員、弥栄城の捕虜として牢屋に入れられる事になったのである。
和睦、やっぱり破棄になるんだろうか。
お萬は「姫御前の憂へ給ふべき事に候はず」としか言わない。
捕虜達、ところどころ出血して怪我していた。
戦争してる世界だし、部外者の私が口出しする権利はないのは分かってるけど……。
塞ぎこんでいると、巣守隆康がやって来た。
「我の侍りしかばかの男より守り奉りしに。共に行くべしに候ひき。姫に恐ろしき目を見せ給ひし事、許し給へ」
私は首を振る。
「藤紋の者、生かし給へ」
「かの男は罪なふに然るべしに。彼奴が首を藤が元へ送るが筋に候ふ。何ぞ庇ひ給ふや」
私の言葉に、彼はどこかこちらを探るような目になった。
藤の者を庇い、その力も持ってる自分。
疑われるのは仕方ないと思う。
でも。
「……日本国は、戦のない国。戦は嫌。人が死ぬも嫌」
私は巣守隆康の瞳を真直ぐ貫く様に見返した。
虚を突かれたようにそれが見開かれ。
「姫御前は、まこと事無き国に長じ給ひけりな」
お萬の声が、少し寂し気に聞こえた。
【後書き】
「如ならばここに命絶ち候はむや。和睦は疾く破られたるめれば、此奴が息永らへども巣守が害になりぬべしに」
→「いっそここで止めを刺しましょうか。和睦はもう駄目でしょうし、こやつは生きていても巣守の害になるでしょうから」
「姫御前の然に宣はば」
→「姫様がそうおっしゃるのでしたら」
「此奴は如何にあそばさむや。今、此の頃郎党共の来たらめば」
→「こやつはどうしましょうか。近い内に家臣達が来ると思いますが」
「畏まり候ふ」
→「分かりました」
「げに。暮れ果つる後、熊や山犬に食はれたれば証無かるべき事に候ふなりや」
→「成程(なるほど)。日が暮れて熊や山犬に食われれば証拠は残らないという事ですね」
「おのれおのれ! この恥、如何にせむか!」
→「おのれおのれ! この屈辱、どうしてやろうか!」
「そはこなたの言葉よ。姫御前が慈悲に命永らへしに逆恨むや!」
→「それはこちらの台詞よ。姫様の慈悲で命永らえた癖に逆恨みするのか!」
「今日は退きて取らすが、この寿藤惟成、綾子姫を神かけて得むぞ!」
→「今日は引いてやるが、この寿藤惟成、綾子姫を必ず手に入れてやるからな!」
「姫御前の憂へ給ふべき事に候はず」
→「姫様がお気になさる事ではございません」
「我の侍りしかばかの男より守り奉りしに。共に行くべしに候ひき。姫に恐ろしき目を見せ給ひし事、許し給へ」
→「私がついていればあの男からお守り申し上げたものを。共に行くべきでした。辛い思いをさせて申し訳なく思います」
「かの男は罪なふに然るべしに。彼奴が首を藤が元へ送るが筋に候ふ。何ぞ庇ひ給ふや」
→「あの男は処刑するのが相応しい。首を藤に送り返してやるのが筋なのです。何故庇うのですか」
「姫御前は、まこと事無き国に長じ給ひけりな」
→「姫様は、本当に平和な国でお育ちになったのですね」
ちょ、ちょっと待って!
和睦まだあるから!殺しちゃ戦争になるから!
殺すのはやめて!
私は必死でお萬を止めた。
「姫御前の然に宣はば」
お萬が懐刀を収めたのでほっとする。
目の前で殺人は見たくない。
お萬は動かなくなった寿藤惟成から足を離した。
「此奴は如何にあそばさむや。今、此の頃郎党共の来たらめば」
「もう帰ろう、お萬。城に帰る。この人はこれで」
もうこのままで放置して行こう、という意味を込めて首を振る。
お萬は大きく息を吐いて、「畏まり候ふ」と言った。
「げに。暮れ果つる後、熊や山犬に食はれたれば証無かるべき事に候ふなりや」
……何か恐ろしい事を聞いた気がする。
気のせいだ、そういうことにしよう。
遠くから、お萬君、姫御前と呼ぶ声がしてきた。
顔を見合わせ、さあ帰ろうと二人で歩きだした時。
お萬がいきなり巣籠を発動させた。
バリバリ、と音がして振り向くと。
蔦が巣籠の膜に巻き付き、青白い火花をところどころ発していた。
その向こうに、蔦で吊り下がった蓑虫野郎の姿がゆらゆらしている。
ただなり!
生きとったんか、ワレ。
「おのれおのれ! この恥、如何にせむか!」
だらんと脱力した体で吊り下がり、怒りと恨みの意志を燃え上がらせた目。
その姿はさながら恨みつらみの籠った首吊り死体のようである。
「そはこなたの言葉よ。姫御前が慈悲に命永らへしに逆恨むや!」
ひー、成仏してください!
なまんだぶなまんだぶと念仏を唱えていると、複数の足音がこちらへ向かってきている。
それは寿藤惟成も分かっていたようで、
「今日は退きて取らすが、この寿藤惟成、綾子姫を神かけて得むぞ!」
と捨て台詞を吐く。
そして蓑虫ターザンで逃げようとし――。
「ぎゃふっ!」
「あ、落ちた」
藤の紋術の集中力が切れたのか、蔦の耐久力が無かったのか。
蔦がぶちっと切れて、寿藤惟也は十数メートル先に落下。
そして今度こそ動かなくなった。
***
あれから。
探しに来てくれた巣守の家臣達がお萬の指示で寿藤惟也に縄を掛け、弥栄城に運ぶ。
途中合流した鳥山半兵衛は、寿藤の家臣を数珠繋ぎにして引っ立てていた。
彼らは全員、弥栄城の捕虜として牢屋に入れられる事になったのである。
和睦、やっぱり破棄になるんだろうか。
お萬は「姫御前の憂へ給ふべき事に候はず」としか言わない。
捕虜達、ところどころ出血して怪我していた。
戦争してる世界だし、部外者の私が口出しする権利はないのは分かってるけど……。
塞ぎこんでいると、巣守隆康がやって来た。
「我の侍りしかばかの男より守り奉りしに。共に行くべしに候ひき。姫に恐ろしき目を見せ給ひし事、許し給へ」
私は首を振る。
「藤紋の者、生かし給へ」
「かの男は罪なふに然るべしに。彼奴が首を藤が元へ送るが筋に候ふ。何ぞ庇ひ給ふや」
私の言葉に、彼はどこかこちらを探るような目になった。
藤の者を庇い、その力も持ってる自分。
疑われるのは仕方ないと思う。
でも。
「……日本国は、戦のない国。戦は嫌。人が死ぬも嫌」
私は巣守隆康の瞳を真直ぐ貫く様に見返した。
虚を突かれたようにそれが見開かれ。
「姫御前は、まこと事無き国に長じ給ひけりな」
お萬の声が、少し寂し気に聞こえた。
【後書き】
「如ならばここに命絶ち候はむや。和睦は疾く破られたるめれば、此奴が息永らへども巣守が害になりぬべしに」
→「いっそここで止めを刺しましょうか。和睦はもう駄目でしょうし、こやつは生きていても巣守の害になるでしょうから」
「姫御前の然に宣はば」
→「姫様がそうおっしゃるのでしたら」
「此奴は如何にあそばさむや。今、此の頃郎党共の来たらめば」
→「こやつはどうしましょうか。近い内に家臣達が来ると思いますが」
「畏まり候ふ」
→「分かりました」
「げに。暮れ果つる後、熊や山犬に食はれたれば証無かるべき事に候ふなりや」
→「成程(なるほど)。日が暮れて熊や山犬に食われれば証拠は残らないという事ですね」
「おのれおのれ! この恥、如何にせむか!」
→「おのれおのれ! この屈辱、どうしてやろうか!」
「そはこなたの言葉よ。姫御前が慈悲に命永らへしに逆恨むや!」
→「それはこちらの台詞よ。姫様の慈悲で命永らえた癖に逆恨みするのか!」
「今日は退きて取らすが、この寿藤惟成、綾子姫を神かけて得むぞ!」
→「今日は引いてやるが、この寿藤惟成、綾子姫を必ず手に入れてやるからな!」
「姫御前の憂へ給ふべき事に候はず」
→「姫様がお気になさる事ではございません」
「我の侍りしかばかの男より守り奉りしに。共に行くべしに候ひき。姫に恐ろしき目を見せ給ひし事、許し給へ」
→「私がついていればあの男からお守り申し上げたものを。共に行くべきでした。辛い思いをさせて申し訳なく思います」
「かの男は罪なふに然るべしに。彼奴が首を藤が元へ送るが筋に候ふ。何ぞ庇ひ給ふや」
→「あの男は処刑するのが相応しい。首を藤に送り返してやるのが筋なのです。何故庇うのですか」
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2020/9/19 第一章終了
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