貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

食らえ、秘儀『疑惑擦なすり付け返し』!

 青天の霹靂へきれきではあっても、何らかの対応はせねばなるまい。
 当人グレイは、と隣を見ると。

 どうしよう、外見も意識も魂を飛ばして真っ白になっているー!

 本人的にも精神的キャパを超えているようだ。
 ……ここは妻として私がしっかりせねば。

 私はそう覚悟を決めてアルビオン王の方を見る。こちらは驚きはしたものの、直ぐに立ち直った模様。

 「……これはこれは、そのような突拍子もない冗談を言うとは。リュサイは少し緊張しているのかな。
 その男が、オブライエン王家の血を引いているなどと……」

 冗談だと切り捨てる形で笑顔を浮かべているが、眼光は剣呑としている。そこへ火を注ぐのはやはり。

 「嘘ではないぞ、アルビオン王――見よ、これなるは数百年前に失われたオブライエン王家の印璽! これはグレイ猊――いや、陛下・・の家に代々伝わってきた本物であるということは、このドナルド・マクドナルドが確認している!」

 陛下呼びなのは外堀を埋めるつもりなのか、ランランルー。何だかグレイの意志を無視して状況だけお膳立てされてることにだんだん腹が立ってきた。この頭ハッピーセットめが!
 後でお前の名前を無断でーガー屋に使って広めてやるぞこの野郎。

 「ほう……冗談ではないと? ならばこれは一大事となるぞ、高地の騎士よ。何せトラス王国が国ぐるみでカレドニアの王家の血筋を一貴族として遇しておったのだからな。
 つまりトラス王国が、カレドニア王国を乗っ取ろうと画策していた、ということになる。ここに居る諸国人からこの事は広まり、この国の信頼性は地に落ちるやも知れぬな――オディロン陛下も見かけによらず大した野心をお持ちだ」

 「……」

 沈黙を守るオディロン王。口を開いたのは傍に控えていた宰相だった。

 「アルビオン国王陛下、お待ちを……先程カレドニア女王陛下の言われたこと、そしてグレイ・ダージリン伯爵の指輪の存在とその真偽は我が国は把握しておりません」

 「ふん、その言葉に如何ほどの信頼性があろうか?」

 ……この流れは少々不味い。
 私は意を決して立ち上がった。

 「ちょっと宜しいかしら? そもそもの話、何故アルビオン王がカレドニアの王位継承に異を唱えていらっしゃるの?
 第一、先の戦争の時もカレドニアを併合せずに独立国として残したのでしょう? カレドニア女王としてリュシー様が決定された事に他国があれこれ仰るなんて、アルビオンこそが国ごとカレドニアを乗っ取っているも同然のように思えますけれど」

 食らえ、秘儀『疑惑なすり付け返し』!

 私の言葉に、アルビオン王は小馬鹿にするようにフゴッと鼻を鳴らした。
 不意打ちに思わず口元を抑える私。駄目よ、ここで噴き出してはいけないわ、マリー!

 「乗っ取りなど人聞きの悪いことを。聖女様にはお分かりにならぬでしょうな。統治には時がかかるもの。カレドニア人――特にそこな高地の騎士のような者は野生の獣と同じ、徐々に牙を折り矜持と戦意を削いでいかねばならぬのですよ。リュサイとの婚姻で完全な併合が実現する筈であったのに……」

 「貴様ァ……誇り高き高地の騎士へ何たる侮辱、その首、ここで――」

 「待て、ドナルド卿!」「駄目ですよ!」

 柄に手を掛け引き抜こうとするランランルー騎士ドナルドを、カレル兄とグレイが必死で引き留めている。

 「……でも、そうはならずに残念でしたわね。それで? アルビオン王陛下は今のこの状況でどうなさるおつもりなのかしら?」

 私は小首を傾げて相手を煽る。
 どの道、こちらの手の者に囲まれている状況で下手なことは出来ないだろうからな。

 「別に何も。ここで余が出来ることは何もない……」

 言いかけたところで、見る見る内にアルビオン王の目が胡乱になり、巨体がぐらついた。ヨハン達が一斉に飛びのいたところにバターン! と地響きを立てて倒れ込み、広間中に悲鳴が上がる。
 一時的な覚醒状態も何時までも続く訳ではない。恐らく今になってその効果がプツリと切れたのだろう。
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