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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
宮仕えの悲哀。
「「「陛下!」」」
自国の王の一大事に、真っ先に動いたのはアルビオン王の臣下達だった。
転び出るようにヨハン達をすり抜けて、王の身体の周囲を固めて介抱を始めている。
しかしアルビオン王は完全に意識を失っているようだ。ちっ、あのまま王本人に罪を突き付けさっくり断罪する筈が――こうなっては仕方がない。
テール・リザード男爵――毒竜に精神感応を使うと、こっちも思わぬ事態に混乱し、目まぐるしく策を巡らせていた。
やがて一つの結論を出す。
『ふむ……全員聞け、毒竜はまだ諦めていない。計画はやはり元の案で行こう。
そしてカール。アルビオン王の失態はもう十分だろう。後で毒竜に接触し、酔い冷ましを渡して王に飲ませるように伝えろ。ただ、奴は自作の酔い冷ましを所持しているから断るかも知れないが、そうなったらそうなったで無理強いは不要だ』
全員からの応の返答と共に、私は仕掛けた。
「あらまぁ、酔いが回り過ぎてしまわれたのね! これでは難しいお話も無理でしょう。どこか別室で酔いが醒めるまで休まれた方が宜しいようだけれど、貴方達だけで王の身体を運べるかしら?」
「恐れながら……どなたか手を貸して頂ければ、と」
先程まで平身低頭していた男はどこか安堵の表情を浮かべて言った。精神感応で探ると、国務書記官であるこの男はアルビオン王が倒れたことで、直前の失態失言諸々を酔いの所為に出来ると考えていた。リュシー様の宣言の件は後で幾らでも策を講じれば良いのだと。
ただ、目前の課題は、手を貸したところで好色王の巨体を動かせるかどうかということである。
カレドニア人数人がかりで動かすのがやっとだが、平面ならまだしも段差があったり、床を傷つける可能性がある。安全に運ぶには難があった。
しかしトラス王国側の人間は誰一人動こうとはしていない。先刻の、第一王子押し倒し事件のようなことになるのを恐れているのだろう。
うーん……肥満用ストレッチャーも小型クレーンも海外スーパーにあるようなデブカートも無いし……。
前世で見ていた海外の肥満外来特集を思い出す。これはもう――
「あなた達だけで持ち上げることは難しそうですわね。担架を拵えるにしても強度に不安がありますわ。丈夫な布を王の下に敷き、力の強い方が何人かで引きずって行くのが一番安全そうですけれど……」
ついでにそのまま床掃除も出来そうだな、という言葉は敢えて飲み込んだのだが。
「さぞかし床が綺麗になるだろうな。もっとも好色王の仕出かした罪は到底拭えないが」
「ドナルド卿、不謹慎ですよ」
「アイ、申し訳ありません。つい口が滑りました王妃様」
私にも外堀を埋めて来る騎士ドナルドだが、私はドライブスルー。
そんなやり取りに脳内で思い描いたのだろう。王を運ぶには相応しくない光景を想像して、流石にそれはと躊躇うアルビオン人達。後で王の酔いが醒めた時に恥をかかせたなと無礼打ちされる可能性もある。
「……致し方ありません」
結局ヒソヒソと話し合った彼らが願い出て来たのは――寝具を広間の隅に運び入れ、そこに王を引きずって行って休ませること。日本式に床に直敷きである。南京虫にでも噛まれればいいのに。
運ぶなら人間より物の方が断然気楽である。王宮の使用人達によって瞬く間に場が整えられた。
好色王がアルビオン人達によって引きずって運ばれた後は、人目を憚る衝立が立てられる。
その後、アルビオン国務書記官の男が戻って来て改めて深々と頭を下げ、アルビオン王の無礼を詫び始めた。
その内容は予想通りというか。
『酒に酔って理性が緩んでいたとはいえ、アルバート殿下には大変なご無礼を。また、カレドニアに関しても言葉が過ぎたところがありました。誤解して頂きたくないのですが、アルビオン王国は平和をこそ望んでいるということ。ただ、カレドニアの王位の件に関しては約定のこともございますので、一旦国に持ち帰り、日と場を改め酒を交えぬ席でお話させて頂ければと存じます云々……私如きの謝罪では済まないことは承知しておりますが、それでもこの場は何卒ご寛恕を……』
等とつらつらと訴えられた。
正に宮仕えの悲哀である。
その悲壮な様子はトラス貴族達の同情を大いに買ったようだ。聖女降誕節ということもあり、オディロン王・第一王子アルバート・宰相は謝罪を受け入れ場を治める決定を下す。大広間に元の平穏が訪れた――表面上は。
――これでトラブルメーカーであるアルビオン王が目覚ず臣下も失態を犯さぬまま、聖女降誕節が無事に終わりさえすれば何とか乗り切れそう……と考えている気の毒な国務書記官には悪いけれど。
諦めの悪い毒竜がそれを裏切ろうとしているんだよなぁ。
自国の王の一大事に、真っ先に動いたのはアルビオン王の臣下達だった。
転び出るようにヨハン達をすり抜けて、王の身体の周囲を固めて介抱を始めている。
しかしアルビオン王は完全に意識を失っているようだ。ちっ、あのまま王本人に罪を突き付けさっくり断罪する筈が――こうなっては仕方がない。
テール・リザード男爵――毒竜に精神感応を使うと、こっちも思わぬ事態に混乱し、目まぐるしく策を巡らせていた。
やがて一つの結論を出す。
『ふむ……全員聞け、毒竜はまだ諦めていない。計画はやはり元の案で行こう。
そしてカール。アルビオン王の失態はもう十分だろう。後で毒竜に接触し、酔い冷ましを渡して王に飲ませるように伝えろ。ただ、奴は自作の酔い冷ましを所持しているから断るかも知れないが、そうなったらそうなったで無理強いは不要だ』
全員からの応の返答と共に、私は仕掛けた。
「あらまぁ、酔いが回り過ぎてしまわれたのね! これでは難しいお話も無理でしょう。どこか別室で酔いが醒めるまで休まれた方が宜しいようだけれど、貴方達だけで王の身体を運べるかしら?」
「恐れながら……どなたか手を貸して頂ければ、と」
先程まで平身低頭していた男はどこか安堵の表情を浮かべて言った。精神感応で探ると、国務書記官であるこの男はアルビオン王が倒れたことで、直前の失態失言諸々を酔いの所為に出来ると考えていた。リュシー様の宣言の件は後で幾らでも策を講じれば良いのだと。
ただ、目前の課題は、手を貸したところで好色王の巨体を動かせるかどうかということである。
カレドニア人数人がかりで動かすのがやっとだが、平面ならまだしも段差があったり、床を傷つける可能性がある。安全に運ぶには難があった。
しかしトラス王国側の人間は誰一人動こうとはしていない。先刻の、第一王子押し倒し事件のようなことになるのを恐れているのだろう。
うーん……肥満用ストレッチャーも小型クレーンも海外スーパーにあるようなデブカートも無いし……。
前世で見ていた海外の肥満外来特集を思い出す。これはもう――
「あなた達だけで持ち上げることは難しそうですわね。担架を拵えるにしても強度に不安がありますわ。丈夫な布を王の下に敷き、力の強い方が何人かで引きずって行くのが一番安全そうですけれど……」
ついでにそのまま床掃除も出来そうだな、という言葉は敢えて飲み込んだのだが。
「さぞかし床が綺麗になるだろうな。もっとも好色王の仕出かした罪は到底拭えないが」
「ドナルド卿、不謹慎ですよ」
「アイ、申し訳ありません。つい口が滑りました王妃様」
私にも外堀を埋めて来る騎士ドナルドだが、私はドライブスルー。
そんなやり取りに脳内で思い描いたのだろう。王を運ぶには相応しくない光景を想像して、流石にそれはと躊躇うアルビオン人達。後で王の酔いが醒めた時に恥をかかせたなと無礼打ちされる可能性もある。
「……致し方ありません」
結局ヒソヒソと話し合った彼らが願い出て来たのは――寝具を広間の隅に運び入れ、そこに王を引きずって行って休ませること。日本式に床に直敷きである。南京虫にでも噛まれればいいのに。
運ぶなら人間より物の方が断然気楽である。王宮の使用人達によって瞬く間に場が整えられた。
好色王がアルビオン人達によって引きずって運ばれた後は、人目を憚る衝立が立てられる。
その後、アルビオン国務書記官の男が戻って来て改めて深々と頭を下げ、アルビオン王の無礼を詫び始めた。
その内容は予想通りというか。
『酒に酔って理性が緩んでいたとはいえ、アルバート殿下には大変なご無礼を。また、カレドニアに関しても言葉が過ぎたところがありました。誤解して頂きたくないのですが、アルビオン王国は平和をこそ望んでいるということ。ただ、カレドニアの王位の件に関しては約定のこともございますので、一旦国に持ち帰り、日と場を改め酒を交えぬ席でお話させて頂ければと存じます云々……私如きの謝罪では済まないことは承知しておりますが、それでもこの場は何卒ご寛恕を……』
等とつらつらと訴えられた。
正に宮仕えの悲哀である。
その悲壮な様子はトラス貴族達の同情を大いに買ったようだ。聖女降誕節ということもあり、オディロン王・第一王子アルバート・宰相は謝罪を受け入れ場を治める決定を下す。大広間に元の平穏が訪れた――表面上は。
――これでトラブルメーカーであるアルビオン王が目覚ず臣下も失態を犯さぬまま、聖女降誕節が無事に終わりさえすれば何とか乗り切れそう……と考えている気の毒な国務書記官には悪いけれど。
諦めの悪い毒竜がそれを裏切ろうとしているんだよなぁ。
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