貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(215)

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 泣き寝入りするしかない状態だが、ただむざむざとやられっぱなしになるばかりではなかったとアルドゥインは続けた。

 「兄モルダシンは当主である義姉ケイリラを支え、傭兵の経験を活かした防衛を行いました。罠を張ったのです。襲って来たアルビオンの賊共の首魁を逆に捕え、その場で処断しました」

 アルビオンが賊だと言い張っているならば、それを逆手に取ってやればいい。頭を潰して痛い目を見せれば襲撃頻度も減るだろう、という目論見。
 アルドゥイン自身もこれで上手く行くと思っていたそうだ――その首魁がアルビオンの辺境伯子息だと発覚するまでは。

 「アルビオン側は『たまたま遠乗りで道に迷ってカレドニア側に入ってしまったのを、一方的に賊だと見做して殺害したのはどういう訳か』と言いがかりをつけてきました。
 また、兄が雪山の傭兵の出であることも嗅ぎ付け、義姉がアルビオンに叛意があり戦を起こす為に兄を唆したのだ、と。傭兵と結婚しているのも、傭兵を集めやすくする為だろうというのです」

 さもなければ再び戦になる。今のカレドニア王国には到底そんな余力は無く、問題を起こしたとしてブレイクラフ家を処断せざるを得なくなったという。

 「ブレイクラフ騎士爵家は、他でもないカレドニア王国から和平を乱す家として取り潰しの沙汰を受けました。
兄夫婦が到底承服出来ないと抗議をしたのですが、その返事を待っている最中にアルビオンの辺境伯軍が報復として攻めて来たのです。
 剣を手に抵抗したものの、領地の集落は焼き払われ……多勢に無勢、あえなく命を落としました」

 アルドゥインは、もう駄目だと思ってヘルヴェティアに逃げようと兄夫婦に言ったものの断られたそうだ。

 「義姉ケイリラは、領民を見捨てる訳にはいかない、カレドニアの騎士家の者として最期まで誇り高く戦って散りたいのだと。兄のモルダシンもまた、妻と運命を共にするつもりだと言いました」

 死を覚悟した彼らの顔は一生忘れられないでしょう、とアルドゥインはしばし瞑目し、視線をララに向けた。

 「その代わり、私は二人から当時幼かったララを託されました。混乱の中、ララを胸に抱いた私は傭兵仲間の助けを借りつつ必死に敵を倒して戦場を離脱し――雪山へと落ち延びたのです」

 アルドゥインが語り終えると部屋はしんと静かになった。リュサイ様や騎士ドナルドをちらりと見ると、二人共悄然として床に視線を落としている。
 やがて、ぱたり…と床板に落ちる小さな音。顔を上げたララの顔を見て、僕は息を吞んだ。暖炉の火の照り返しを受けて光っている頬の上の水滴が、後から後からとめどなく零れ落ちて行く。

 「私の両親は、カレドニアの行方を――リュサイ女王の事を最期まで案じていたわ。だから私もまた、雪山で力をつけていつかは故郷に戻り、両親を偲びながらその遺志を継いでいこうと考えていた。
 そして、アルトガル様からリュサイ女王のメイドという大任を頂いた時、それが叶うのだと……馬鹿みたいに喜んでいたわ。本当に、馬鹿だった」

 「あ……」

 リュサイ様のやり場のない声。その喜びが失望に取って代わるのは直ぐだった、とララは吐き捨てる。

 「腹が立ったのよ。トラス王国に逃げて来て、聖女様達に保護されて。でも、そこからは? 後ろ盾を確固とする為にトラス王族との婚姻を狙うなり、敵国アルビオンを弱める為の外交なり、色々やれることはあった筈。
 それなのに、カレル様カレル様とふわふわと恋に現を抜かして、自分だけ不幸だと酔いしれて部屋に籠って――挙句、アルビオン王怖さにグレイ猊下に王位を譲りたいなどと!」

 ――『だって、リュサイ様は一国の女王陛下なんですよね? 国と民の為を一番に考えて行動しなければならない。女王不在の中、カレドニア王国民はアルビオンの脅威に晒されながら必死で毎日頑張っていると思うんです。
 なのにあの方は安全な場所で恋に現を抜かして。叶わぬ恋に、まるで自分だけが不幸みたいにうじうじなさっているんだもの』

 かつてララに言われた言葉が僕の脳裏に蘇る。
 ああ、きっとあの時には、もう……。

 「そんな責任感も覚悟も無い甘ったれた女王なんかを、命を懸けて守る必要があったのかしら? こんな人を――簡単に放り出した玉座を守る為に、私の両親が非業の死を遂げたなんて――許せるはずもない!」

 だからそうなるように私も敢えて報告しなかったのよ、とララは吼えた。

 「だって邪魔されたら困るもの。私の両親の死を足で踏みにじったあんたじゃなく、アルビオンの穢れた血が一滴も入っていない、聖女様を妻にしたグレイ猊下こそが、次期カレドニア王におなりになる方がずうっといいもの!
 ドナルド卿だって、同じようなことを考えたからこそ、公の場で王位を譲るよう唆したのよ! 一番の側近に裏切られて、ざまぁみろだわ!」

 続けて異国語――恐らくカレドニア語だろう――で何事かをまくし立てるララ。
 リュサイ様は泣き出しそうな表情になり、全身を震わせながら項垂れた。
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