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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
298円おにぎり弁当も異世界では立派な貴族メシ。
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「お、美味しい! ぼ、ぼ、僕はこれっ……大好きなんだな!」
さながら運命の相手に出会ったが如く、手に盛ったそれをほうばるなり、感動したように打ち震えているのはガリア王国第三王子マーリオ。
まるで、野に咲く花が一面に広がる春うららな陽気の中を、風に吹かれながら歩いているような――そんな、恍惚とした表情である。
「まあ、マーリオ殿下のお口にあって良かった! 沢山作ってありますから、遠慮なく召し上がって下さいましね」
さる放浪の有名画家に乞われておにぎりをご馳走するおばちゃんの気持ちを味わいながら、私はにっこりと微笑んだ。
「そうねぇ、美味しいわぁ~」
「何だか落ち着くざます。緑色のお茶も、何だか頭がスッキリして……」
「ええ、本当。足元も温かいし――寒さが苦手な私達にはぴったりの昼食だわ」
ピュシス夫人、ホルメー夫人、エピテュミア夫人もそれぞれ舌鼓を打っている。私は「気に入って頂けて良かったですわ」と微笑んだ。
そう、今日は待ちに待った気軽なおにぎりパーティ。聖女降誕節から2日後のランチタイムでの開催となった。
目の前には白米だけのものや、様々な具、ふりかけ、炊き込みご飯等で作られた多様なおにぎりが所狭しと並んでいる。おにぎりがメインなので、おかずは唐揚げ・卵焼き・ウインナー、漬物といった簡単なもの。他はミカンに緑茶、大人へのホットワインも。
現代日本では何てことない、『こういうので良いんだよ』的な……ぶっちゃけスーパーで298円で売ってそうなラインナップだが、この世界では王侯貴族に饗する価値のある立派な珍しい異国料理の数々だと言えよう。
ちなみに、寒いので皆で炬燵を囲んでおり、和風炬燵パーティー第二弾でもある。こたつ大人気。家族や我が家に滞在中・招かれた客人達も身分問わず別のこたつを囲んでおり、まったりと食事を楽しんでいる。
ただ、リュシー様だけは一昨日の事がまだ尾を引いているのだろう。部屋に引き籠ったまま欠席である。
一昨日。リュシー様は、聖女降誕節でグレイにカレドニア王位を譲る宣言というやらかしをした訳だが。
アルトガル達によれば――リュシー様付きとして潜り込ませていた侍女ララが、怪しい動きがあったのに報告を怠っていたのだと。それだけではなく、やらかすよう唆した節もあったという。
私とグレイはその断罪の場に呼ばれたのだが、ララは悪くないとするリュシー様達も来てしまったのである。蓋を開けて見れば、ララは半分カレドニア人とヘルヴェティア人とのハーフで、国境を守る騎士爵の娘だった。
彼女の家は、不幸な経緯でアルビオンに嵌められ、国に見捨てられた挙句没落。残された一人娘のララは、ヘルヴェティアの叔父に助け出されて雪山へ。
そんな彼女の職務怠慢は、この国に逃げて来たリュシー様がカレル兄に血道を上げてばかりで女王として国を守るための外交活動も碌にしていない様子に大いに失望したが故のものだった、という顛末だった。
それが分かっても、すでにグレイ王位ルートは定まってしまっている。覆水盆に還らず、今更処しても致し方ない。それにララにも同情の余地があるとなったところに、何と龍ノ庄ワイバーンのアーベルトがララを娶って監視すると提案。諸般の事情やメリットデメリット諸々考えて、それが一番丸く治まるということで落ち着いたのである――ただ一つ、リュシー様の傷心以外は。
カレル兄が慰めれば立ち直るんだろうけど、リュシー様がカレル兄に依存し過ぎるのも良くない気がする。フォローするにも、リュシー様の余裕が出て来るまで少し時間を置くべきだろう。
「……リー、マリー?」
「あっ、ごめんなさいメティ。ちょっと考え事してて」
いけない、呼ばれていたのに気付かなかった。
「新年に聖女降誕節と忙しかったものね。それよりも、カトラリーを使わず手で食べるなんて。サンドイッチみたいね、これ」と気にした様子を見せないメティ。彼女の気遣いなのだろう。
「ガリアの米料理とはまた違った味わいだわ。粒も短くて風変りだけれど、美味しい」
と頬に手を添えて上品に感想を述べている。メティは父親のピロス公爵共々親子で招きに応じてくれた。ピロス公爵は明日明後日にも帰国の途につく予定だという。それにも関わらず、来てくれたのは有難い。実に良い友を持ったものだ。
「おにぎりというものは手軽で美味なだけではなく、温かく腹に溜まるものなのですね。というか、私のような者が同じ席について大丈夫なのでしょうか……」
「今日は親しい人を招く気軽な昼食会だから大丈夫よ。それに重要な用事の為にも沢山食べて英気を養わなければ」
「そうよぉ、マリーちゃんはそんな細かいことを気にする子じゃないわぁ」
「若者なのだから、どんどん食べるべきざます」
「はいこれ、ミカンをどうぞ」
アルビオン王国第二王子という身分は隠してただの留学生である建前からか、恐縮した様子なラド。更に三夫人の世話焼き食べ食べ攻撃に圧倒されている。
彼の事は、昼食会が終わった後で好色王に面会に行く予定なので、それならばついでに腹ごなしして貰おうと思って呼んでいたのである。
ちなみにマーリオにも別の誰かを連れてきても構わないと招待状で伝えてあったのだが――
「あ、兄上も来れば、よ、よ、よ、良かったのに。兄上も、一緒に……お、おにぎりを、食べたかったんだな」
そう、てっきりしゃしゃって来ると思っていたガリア第二王子ルイージは、予想に反して来なかったのである。
少し残念そうなマーリオに、ピロス公爵がホットワインの入ったカップを揺らしながら、「仕方ありませんよ」と苦笑する。
「ルイージ殿下が稀有な料理を食べ損ねられたことは私も残念に思いますけれど、殿下には懇意になったご令嬢との先約がおありだったのですから」
「そう言えば、どのご令嬢がルイージ殿下のお心を射止めてガリア王太子妃になるのかと噂になっていると侍女が言っていたわ」
メティがそう言うと、黙っていないのは歩くスピーカー兼情報通の三夫人。
「今のところ有力視されているのは、ムーランス伯爵令嬢とネマランシ伯爵令嬢のお二方でしたかしらぁ?」
「殿下ご本人も満更では無いみたいよ」
「未来のガリア王妃ともなれば、親も娘も目の色を変えて必死ざますわね」
「どのような方々なのかしら……」
メティが首を傾げると、グレイが「ああ、それは」と口を開いた。
「新年の宴の折にルイージ殿下の傍に居た二人の令嬢です。メテオーラ様がご覧になったかどうかは分かりませんが……」
「あっ、見たわ! あの方々がそうなのね!」
「有利なのはエリザベル嬢でしょうか。ラヴィンヌ嬢の家は少し……色々ありましたので」
グレイが言っているのは『エミリュノ横領事件』のことである。
ただ、その分ラヴィンヌも必死になるだろうし、別の家の養女になって嫁ぐという家名ロンダリング手段もあるので未来は不確定だ。
それにしても、来なかったということは……金鉱山は諦めたのかな? マーリオは純粋に残念がっているようだが、こちらとしては来ないなら来ないに越したことはないというのが本音である。
「ルイージ殿下のご都合がつかず残念でしたが、幸い今は寒い季節ですし。宜しければお帰りの際にこれらの料理をお土産としてお包みしましょうか? 焼くか蒸すかしてもきっと美味しく食べられるでしょうから」
「あ、ああありがとうございます聖女様! 兄上も、ききききっと、喜ぶんだな」
元々おにぎりは携帯食。惜しむらくはおにぎりに巻く海苔が無いことである。作れるとすれば佃煮ぐらいか。今なら砂糖も惜しみなく使えるだろうし。
聖女の能力でアカシックレコード精査。ほほう、海苔の養殖は牡蠣殻を使うとな? 真珠・牡蠣の養殖とも連携出来そうだ。
ふむ……日本ではかなり昔から海苔は作られていると。海苔自体は何とか作れそうだ。後でヨシヒコ一家に訊いてみるとしよう。
さながら運命の相手に出会ったが如く、手に盛ったそれをほうばるなり、感動したように打ち震えているのはガリア王国第三王子マーリオ。
まるで、野に咲く花が一面に広がる春うららな陽気の中を、風に吹かれながら歩いているような――そんな、恍惚とした表情である。
「まあ、マーリオ殿下のお口にあって良かった! 沢山作ってありますから、遠慮なく召し上がって下さいましね」
さる放浪の有名画家に乞われておにぎりをご馳走するおばちゃんの気持ちを味わいながら、私はにっこりと微笑んだ。
「そうねぇ、美味しいわぁ~」
「何だか落ち着くざます。緑色のお茶も、何だか頭がスッキリして……」
「ええ、本当。足元も温かいし――寒さが苦手な私達にはぴったりの昼食だわ」
ピュシス夫人、ホルメー夫人、エピテュミア夫人もそれぞれ舌鼓を打っている。私は「気に入って頂けて良かったですわ」と微笑んだ。
そう、今日は待ちに待った気軽なおにぎりパーティ。聖女降誕節から2日後のランチタイムでの開催となった。
目の前には白米だけのものや、様々な具、ふりかけ、炊き込みご飯等で作られた多様なおにぎりが所狭しと並んでいる。おにぎりがメインなので、おかずは唐揚げ・卵焼き・ウインナー、漬物といった簡単なもの。他はミカンに緑茶、大人へのホットワインも。
現代日本では何てことない、『こういうので良いんだよ』的な……ぶっちゃけスーパーで298円で売ってそうなラインナップだが、この世界では王侯貴族に饗する価値のある立派な珍しい異国料理の数々だと言えよう。
ちなみに、寒いので皆で炬燵を囲んでおり、和風炬燵パーティー第二弾でもある。こたつ大人気。家族や我が家に滞在中・招かれた客人達も身分問わず別のこたつを囲んでおり、まったりと食事を楽しんでいる。
ただ、リュシー様だけは一昨日の事がまだ尾を引いているのだろう。部屋に引き籠ったまま欠席である。
一昨日。リュシー様は、聖女降誕節でグレイにカレドニア王位を譲る宣言というやらかしをした訳だが。
アルトガル達によれば――リュシー様付きとして潜り込ませていた侍女ララが、怪しい動きがあったのに報告を怠っていたのだと。それだけではなく、やらかすよう唆した節もあったという。
私とグレイはその断罪の場に呼ばれたのだが、ララは悪くないとするリュシー様達も来てしまったのである。蓋を開けて見れば、ララは半分カレドニア人とヘルヴェティア人とのハーフで、国境を守る騎士爵の娘だった。
彼女の家は、不幸な経緯でアルビオンに嵌められ、国に見捨てられた挙句没落。残された一人娘のララは、ヘルヴェティアの叔父に助け出されて雪山へ。
そんな彼女の職務怠慢は、この国に逃げて来たリュシー様がカレル兄に血道を上げてばかりで女王として国を守るための外交活動も碌にしていない様子に大いに失望したが故のものだった、という顛末だった。
それが分かっても、すでにグレイ王位ルートは定まってしまっている。覆水盆に還らず、今更処しても致し方ない。それにララにも同情の余地があるとなったところに、何と龍ノ庄ワイバーンのアーベルトがララを娶って監視すると提案。諸般の事情やメリットデメリット諸々考えて、それが一番丸く治まるということで落ち着いたのである――ただ一つ、リュシー様の傷心以外は。
カレル兄が慰めれば立ち直るんだろうけど、リュシー様がカレル兄に依存し過ぎるのも良くない気がする。フォローするにも、リュシー様の余裕が出て来るまで少し時間を置くべきだろう。
「……リー、マリー?」
「あっ、ごめんなさいメティ。ちょっと考え事してて」
いけない、呼ばれていたのに気付かなかった。
「新年に聖女降誕節と忙しかったものね。それよりも、カトラリーを使わず手で食べるなんて。サンドイッチみたいね、これ」と気にした様子を見せないメティ。彼女の気遣いなのだろう。
「ガリアの米料理とはまた違った味わいだわ。粒も短くて風変りだけれど、美味しい」
と頬に手を添えて上品に感想を述べている。メティは父親のピロス公爵共々親子で招きに応じてくれた。ピロス公爵は明日明後日にも帰国の途につく予定だという。それにも関わらず、来てくれたのは有難い。実に良い友を持ったものだ。
「おにぎりというものは手軽で美味なだけではなく、温かく腹に溜まるものなのですね。というか、私のような者が同じ席について大丈夫なのでしょうか……」
「今日は親しい人を招く気軽な昼食会だから大丈夫よ。それに重要な用事の為にも沢山食べて英気を養わなければ」
「そうよぉ、マリーちゃんはそんな細かいことを気にする子じゃないわぁ」
「若者なのだから、どんどん食べるべきざます」
「はいこれ、ミカンをどうぞ」
アルビオン王国第二王子という身分は隠してただの留学生である建前からか、恐縮した様子なラド。更に三夫人の世話焼き食べ食べ攻撃に圧倒されている。
彼の事は、昼食会が終わった後で好色王に面会に行く予定なので、それならばついでに腹ごなしして貰おうと思って呼んでいたのである。
ちなみにマーリオにも別の誰かを連れてきても構わないと招待状で伝えてあったのだが――
「あ、兄上も来れば、よ、よ、よ、良かったのに。兄上も、一緒に……お、おにぎりを、食べたかったんだな」
そう、てっきりしゃしゃって来ると思っていたガリア第二王子ルイージは、予想に反して来なかったのである。
少し残念そうなマーリオに、ピロス公爵がホットワインの入ったカップを揺らしながら、「仕方ありませんよ」と苦笑する。
「ルイージ殿下が稀有な料理を食べ損ねられたことは私も残念に思いますけれど、殿下には懇意になったご令嬢との先約がおありだったのですから」
「そう言えば、どのご令嬢がルイージ殿下のお心を射止めてガリア王太子妃になるのかと噂になっていると侍女が言っていたわ」
メティがそう言うと、黙っていないのは歩くスピーカー兼情報通の三夫人。
「今のところ有力視されているのは、ムーランス伯爵令嬢とネマランシ伯爵令嬢のお二方でしたかしらぁ?」
「殿下ご本人も満更では無いみたいよ」
「未来のガリア王妃ともなれば、親も娘も目の色を変えて必死ざますわね」
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メティが首を傾げると、グレイが「ああ、それは」と口を開いた。
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グレイが言っているのは『エミリュノ横領事件』のことである。
ただ、その分ラヴィンヌも必死になるだろうし、別の家の養女になって嫁ぐという家名ロンダリング手段もあるので未来は不確定だ。
それにしても、来なかったということは……金鉱山は諦めたのかな? マーリオは純粋に残念がっているようだが、こちらとしては来ないなら来ないに越したことはないというのが本音である。
「ルイージ殿下のご都合がつかず残念でしたが、幸い今は寒い季節ですし。宜しければお帰りの際にこれらの料理をお土産としてお包みしましょうか? 焼くか蒸すかしてもきっと美味しく食べられるでしょうから」
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