貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

神の目を欺く方法。

 聖女降誕節が終わったその日――ガリア王国王太子ルイージ・セコンド・ガリアは、宿泊している高級宿の一室に配下達を集めていた。

 「聖女様の力は恐らく本物でしょうな」

 各自で仕入れた情報を突き合わせた結果を総括したベッファ・コロンボ子爵の台詞に全員が同意する。
 あの場に居たトラス貴族達にそれとなく聞き取りしたところ、ほぼ全員が聖女の前に出るのを恐れていたのだ。

 「『聖女様の神の目の前では心の全てが暴かれる』――心も考えも全てが見透かされてしまうのならば、後ろ暗い者達は恐れて何も出来ませんよね」

 ルイージの従兄弟のボスコ伯爵令息ファウストがそう言うと、しん……と全員が黙った。

 「打つ手無しか……」

 「かの金鉱山も、諦めるしか……」

 ボスコ侯爵家寄り子男爵の息子他、表情を曇らせる家臣達。その情けない様に、ルイージは怒りに任せ机に掌を打ち付けた。

 「そなたら、何か方法は思いつかぬか!? おめおめと成果無くしてガリアに帰れと言うのか!」

 「ど、どうせ小細工など通用しないのです! 素直に聖女様に伏してお願いするというのは如何でしょう?」

 「聖女様はシルヴィオ殿下との友誼以上に、コスタポリの復興の為にシルヴィオ殿下に力添えをなさったのでしょうから……復興に対するこれまでの王家の態度を詫び、改めると申し上げれば、あるいは譲歩して貰えるやも」

 しどろもどろに告げられる案はどれもこれも苦し紛れ。流石のルイージも、ろくに打つ手が無いと認めるしかなかった。

 「そうしたところで金鉱山が手に入るのならば幾らでもするが……無理であろうな」

 「そもそも既に復興は大分進んでおりましたしな。分岐点は商品券の買取――あの時応じていればまだマシだったかとは存じます。今から考えれば下手を打ちましたな。反省して復興に協力的になると言ったところで今更というもの」

 飄々と事実を述べるベッファ・コロンボ子爵。
 商品券のガリア王国通貨による買取を拒絶した結果、コスタポリではキャンディ伯爵家の銀山を頼みにした銀行券というものが流通するように。
 今やコスタポリは、聖女の夫が営むキーマン商会が幅を利かせるようになっているのだ。それはすなわち、コスタポリが独立したような状況であった。
 恨みがましい目を向けるルイージに、コロンボ子爵は肩を竦める。

 「さりとて、こちらも金鉱山を諦める訳にはいきませぬ。そこで、私は考え――一つの策を思い付いたのです」

 「何と、この状況を何とかする方法があるというのか!?」

 「神の目を、如何にして欺くというのだ?」

 目を丸くするルイージ達。コロンボ子爵は苦笑いを浮かべ、首を横に振る。

 「いえいえ、大前提として欺くのではありません。見通されたところで困らない――他者を使えば良いと思い付いたのですよ。聖女様に邪心を抱いていない、弟君マーリオ殿下のような、賢くない純粋無垢な人間を」

 「マーリオ殿下を?」

 「マーリオ殿下が聖女様に気に入られていましたよね。これは好機です。マーリオ殿下に我らの目的を伝えず、こちらの思う通りに動かす――そのようであれば、聖女様が如何に見通そうとされても徒労に終わるでしょうな」

 「確かに……」

 「コロンボ卿、続けよ」

 「はい殿下。マーリオ殿下は聖女様に『おにぎり』なる米料理を楽しもうとお誘いを受けたそうですな。
 そこで確認して頂きたいのですよ。聖女様が金鉱の眠る場所を見通してシルヴィオ殿下に便宜を図ったのか否か――すなわち、聖女様に金を見つけ出すお力があるかどうかということを」

 「ほう……それで? 金鉱山を見つける力を持っていると分かった場合、どうするのだ」

 「そもそも、人々を導く教会は、あくまでも中立・公平な立場になければなりません。
 聖女様がそのようなお力を持つという確証があれば、『シルヴィオ殿下個人を優遇した』という事実が出来上がります。我らがつけ入ることが出来るとすれば、そこでしょう。
 それを公に指摘し、聖女様に教会の中立性と公平性を求めるのですよ」

 「成程、その手があったか!」

 コロンボ子爵の提示した妙案に、ルイージは思わず手を打った。

 「ここで忘れてはいけないのが、神のお力を持つ聖女様に対し、我々が真っ向から敵対するのは得策ではないということです。ガリア王国は特に聖地との関係も歴史がございますし、ルイージ殿下の治世に陰りがあってはなりませぬ。
 そこで、聖女様を訴えるのもまた人を使うのです――ルイージ殿下が現在誑か……いえ、懇意にしていらっしゃるガリア王国名家のご令嬢がいらっしゃるでしょう? 聖女様に恐れと恨みを抱いている彼女達に、聖女様を正すという使命を課すのですよ」

 そのご令嬢に便乗する形で、コスタポリ復興の資金管理においてもガリア王国が主導していくべきだと主張し、然るべき手筈は打たねばなりませんが……とコロンボは続ける。

 「明日、マーリオ殿下は聖女様に、ルイージ殿下はご令嬢に招かれていらっしゃいますな。先ずはマーリオ殿下に色々と吹き込みましょう。そしてルイージ殿下には――」

 「私は令嬢に疑惑を植え付ければ良いのだな。『未来のガリア王妃となるには、功績が必要』『今ガリア王国は金鉱山の件で聖女様との間に誤解が生じて困っている』『聖女様は公平性・中立性に欠けたご判断をされている可能性がある』とでも話せばよいか」

 「結構かと。貴族達には私共が広めておきましょう」

 絶望的だと思っていたが、道が拓けた――ルイージ達はお互いに顔を見合わせて希望の笑みを浮かべた。
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