貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

グレイ・ルフナー(31)

 「ああ、せめて拳銃ピストルの構造を知っていれば……」

 「拳銃ピストル?」

 訊き返すとマリーは片手でも撃てる銃だと手振りを交えて言う。彼女は机に向かい、サラサラと書き付けてそれを僕に見せてくれた。

 「拳銃ピストルはこんな形。で、こういう形の弾丸を込めて引き金を引くだけで手軽に撃てるの」

 紙には彼女の言う、拳銃ピストルと弾丸というものが描かれてあった。

 片手に収まる程の銃。
 こんな小さなもので威力が得られるのだろうかと考え、次いで僕は弾丸に着目した。普通銃の玉というものは丸い。何故これはこんな風に先が尖っているのだろう。
 訊けば、突き刺さりやすいようにとの事で、細長い部分の中には火薬が入っており、先端部分だけが飛んでいくらしい。
 そして、なんとこの弾丸は後込めをするそうだ。

 商売の上で銃を扱った事もある僕は、成程と思った。
 火薬と玉が一体型になっているものは存在する。だけど玉込めはやはり前込めになる。
 後込めは、玉を込めた時に密閉するのが難しいので暴発などの事故が起こりやすいと聞いている。だけどこんな構造で予め半密閉状態の弾丸というものを使えば、点火されるであろう後部だけに気を付けていれば良いんじゃないか。

 「やり方次第ではいける……? マリー、これ貰ってもいいかな」

 僕は馴染みの口の堅い鍛冶職人を思い浮かべた。安定して撃てる銃が出来れば、マリーを守る事に繋がる。
 彼女は不思議そうな顔をしながらもどうぞと紙を渡してくれた。武器に詳しくないって言っていたから、きっとこの価値も分かっていないだけなんだろう。マリーは役立たずなんかじゃない。それを僕が証明してみせよう。

 僕はお礼を言い、方法は一つじゃない、自分に出来る事を探せばいいとアドバイスをした。すると今度は自分に出来る事があるのかと悩みだす。
 もしかすると、彼女はその豊かな知識の所為で、分からない事があった場合どうすればいいのかあまり悩まなかったのかも知れない。だったら人に訊けば良いじゃないか。
 早速とばかりに「私に何が出来ると思う?」と訊かれたので、さっき紙をしまったポケットを叩いて話してあげた。
 僕もまた荒事は最低限のみでからっきしだ。情けない事に。だけど、マリーを守るために出来る事はある。
 そう言うとマリーは頬を赤く染め、小さな声でありがとうと言った。

 「話を聞いてくれたのも。少し気が楽になったわ」

 恥じらうマリー。今気が付いたけど、彼女は変わった服を着ていた。体のラインに沿ったもので、すらりと伸びた白い二の腕や胸元が眩しい。

 ……お目付け役もいない今、これはチャンスだろうな。

 僕は商人らしい抜け目なさで「じゃあお礼をして貰わないとね!」と笑顔で手を広げる。
 マリーはぎょっとしたように目を剥いた。

 「お礼!?」

 「ほら、お姫様の一大事に駆け付けた王子様にはご褒美のキスが必要だよね?」

 先日みたいなのは無しだよ、と釘を刺しながら僕は彼女に口付けを強請ねだった。マリーは顔を赤くしたまま憤然とした様子で僕の膝に座る。温もりのある柔らかさと薔薇の香りにくらくらしそうだ。

 彼女は手をしばし彷徨さまよわせ、僕の両肩を掴むと目を瞑ってぶつけてくるようなキスをする。案の定、唇というか、歯に衝撃と痛みが走った。

 それは相手も同じだったようで、体を捩って口元を手で覆っている。本当に犬みたいだ。僕は笑いを堪え切れなかった。マリーがそれに気付いて怒ったように叩いてくる。

 「ごめんごめん、マリーがあんまり可愛いからだよ」

 謝ると、ぷりぷりとしたまま「知らない!」と顔を背ける。本当に可愛い。僕は笑ってマリーを抱きしめた。
 こんな風にじゃれ合えるのも、彼女が生きていてこそだ。伝わってくる温もりと規則的な心臓の音。

 今更ながらに現実感が襲ってくる。もしかしたら、彼女の亡骸と対面していたかも知れないと思うと。
 もう二度と危険な目に遭わせたくない。抱く腕に力を込めた。

 マリーの事は絶対に、僕の持てる力全てで守る。

 「グレイ……?」

 僕の背中を撫で、不思議そうに名を呼ぶマリー。まずい、心配を掛けてしまった。いつまでもこうしちゃいられない。

 僕は気持ちを切り替えて腕を緩め、マリーが作ったという空に浮かぶ『気球』について話題を振った。そういうものが外国にある事は僕も聞いた覚えがある。

 マリーは大きくすれば人を乗せて飛ぶことも出来ると言う。人類の夢じゃないか。
 彼女は燃料や材料、安全性等の問題があると懸念するが、裏を返せばそれを解決すれば可能だって事だ。僕の直観は、いずれ実現可能だと言っている。

 「良かったら、今度『気球』を作って見せてくれないかな」

 請えば、「ええ、いいわよ」と快諾してくれた。楽しみだ。技術的な問題はあるにせよ、僕は空への憧れに心を躍らせる。彼女の知識は夢のようだ。

 ふとマリーを見ると、優しく目を細めてこちらを見つめている。僕は興奮覚めやらぬまま、ほとんど衝動的に彼女を引き寄せ、深く口付けを落とした。
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