46 / 758
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
グレイ・ルフナー(31)
「ああ、せめて拳銃の構造を知っていれば……」
「拳銃?」
訊き返すとマリーは片手でも撃てる銃だと手振りを交えて言う。彼女は机に向かい、サラサラと書き付けてそれを僕に見せてくれた。
「拳銃はこんな形。で、こういう形の弾丸を込めて引き金を引くだけで手軽に撃てるの」
紙には彼女の言う、拳銃と弾丸というものが描かれてあった。
片手に収まる程の銃。
こんな小さなもので威力が得られるのだろうかと考え、次いで僕は弾丸に着目した。普通銃の玉というものは丸い。何故これはこんな風に先が尖っているのだろう。
訊けば、突き刺さりやすいようにとの事で、細長い部分の中には火薬が入っており、先端部分だけが飛んでいくらしい。
そして、なんとこの弾丸は後込めをするそうだ。
商売の上で銃を扱った事もある僕は、成程と思った。
火薬と玉が一体型になっているものは存在する。だけど玉込めはやはり前込めになる。
後込めは、玉を込めた時に密閉するのが難しいので暴発などの事故が起こりやすいと聞いている。だけどこんな構造で予め半密閉状態の弾丸というものを使えば、点火されるであろう後部だけに気を付けていれば良いんじゃないか。
「やり方次第ではいける……? マリー、これ貰ってもいいかな」
僕は馴染みの口の堅い鍛冶職人を思い浮かべた。安定して撃てる銃が出来れば、マリーを守る事に繋がる。
彼女は不思議そうな顔をしながらもどうぞと紙を渡してくれた。武器に詳しくないって言っていたから、きっとこの価値も分かっていないだけなんだろう。マリーは役立たずなんかじゃない。それを僕が証明してみせよう。
僕はお礼を言い、方法は一つじゃない、自分に出来る事を探せばいいとアドバイスをした。すると今度は自分に出来る事があるのかと悩みだす。
もしかすると、彼女はその豊かな知識の所為で、分からない事があった場合どうすればいいのかあまり悩まなかったのかも知れない。だったら人に訊けば良いじゃないか。
早速とばかりに「私に何が出来ると思う?」と訊かれたので、さっき紙をしまったポケットを叩いて話してあげた。
僕もまた荒事は最低限のみでからっきしだ。情けない事に。だけど、マリーを守るために出来る事はある。
そう言うとマリーは頬を赤く染め、小さな声でありがとうと言った。
「話を聞いてくれたのも。少し気が楽になったわ」
恥じらうマリー。今気が付いたけど、彼女は変わった服を着ていた。体のラインに沿ったもので、すらりと伸びた白い二の腕や胸元が眩しい。
……お目付け役もいない今、これはチャンスだろうな。
僕は商人らしい抜け目なさで「じゃあお礼をして貰わないとね!」と笑顔で手を広げる。
マリーはぎょっとしたように目を剥いた。
「お礼!?」
「ほら、お姫様の一大事に駆け付けた王子様にはご褒美のキスが必要だよね?」
先日みたいなのは無しだよ、と釘を刺しながら僕は彼女に口付けを強請った。マリーは顔を赤くしたまま憤然とした様子で僕の膝に座る。温もりのある柔らかさと薔薇の香りにくらくらしそうだ。
彼女は手をしばし彷徨わせ、僕の両肩を掴むと目を瞑ってぶつけてくるようなキスをする。案の定、唇というか、歯に衝撃と痛みが走った。
それは相手も同じだったようで、体を捩って口元を手で覆っている。本当に犬みたいだ。僕は笑いを堪え切れなかった。マリーがそれに気付いて怒ったように叩いてくる。
「ごめんごめん、マリーがあんまり可愛いからだよ」
謝ると、ぷりぷりとしたまま「知らない!」と顔を背ける。本当に可愛い。僕は笑ってマリーを抱きしめた。
こんな風にじゃれ合えるのも、彼女が生きていてこそだ。伝わってくる温もりと規則的な心臓の音。
今更ながらに現実感が襲ってくる。もしかしたら、彼女の亡骸と対面していたかも知れないと思うと。
もう二度と危険な目に遭わせたくない。抱く腕に力を込めた。
マリーの事は絶対に、僕の持てる力全てで守る。
「グレイ……?」
僕の背中を撫で、不思議そうに名を呼ぶマリー。まずい、心配を掛けてしまった。いつまでもこうしちゃいられない。
僕は気持ちを切り替えて腕を緩め、マリーが作ったという空に浮かぶ『気球』について話題を振った。そういうものが外国にある事は僕も聞いた覚えがある。
マリーは大きくすれば人を乗せて飛ぶことも出来ると言う。人類の夢じゃないか。
彼女は燃料や材料、安全性等の問題があると懸念するが、裏を返せばそれを解決すれば可能だって事だ。僕の直観は、いずれ実現可能だと言っている。
「良かったら、今度『気球』を作って見せてくれないかな」
請えば、「ええ、いいわよ」と快諾してくれた。楽しみだ。技術的な問題はあるにせよ、僕は空への憧れに心を躍らせる。彼女の知識は夢のようだ。
ふとマリーを見ると、優しく目を細めてこちらを見つめている。僕は興奮覚めやらぬまま、ほとんど衝動的に彼女を引き寄せ、深く口付けを落とした。
「拳銃?」
訊き返すとマリーは片手でも撃てる銃だと手振りを交えて言う。彼女は机に向かい、サラサラと書き付けてそれを僕に見せてくれた。
「拳銃はこんな形。で、こういう形の弾丸を込めて引き金を引くだけで手軽に撃てるの」
紙には彼女の言う、拳銃と弾丸というものが描かれてあった。
片手に収まる程の銃。
こんな小さなもので威力が得られるのだろうかと考え、次いで僕は弾丸に着目した。普通銃の玉というものは丸い。何故これはこんな風に先が尖っているのだろう。
訊けば、突き刺さりやすいようにとの事で、細長い部分の中には火薬が入っており、先端部分だけが飛んでいくらしい。
そして、なんとこの弾丸は後込めをするそうだ。
商売の上で銃を扱った事もある僕は、成程と思った。
火薬と玉が一体型になっているものは存在する。だけど玉込めはやはり前込めになる。
後込めは、玉を込めた時に密閉するのが難しいので暴発などの事故が起こりやすいと聞いている。だけどこんな構造で予め半密閉状態の弾丸というものを使えば、点火されるであろう後部だけに気を付けていれば良いんじゃないか。
「やり方次第ではいける……? マリー、これ貰ってもいいかな」
僕は馴染みの口の堅い鍛冶職人を思い浮かべた。安定して撃てる銃が出来れば、マリーを守る事に繋がる。
彼女は不思議そうな顔をしながらもどうぞと紙を渡してくれた。武器に詳しくないって言っていたから、きっとこの価値も分かっていないだけなんだろう。マリーは役立たずなんかじゃない。それを僕が証明してみせよう。
僕はお礼を言い、方法は一つじゃない、自分に出来る事を探せばいいとアドバイスをした。すると今度は自分に出来る事があるのかと悩みだす。
もしかすると、彼女はその豊かな知識の所為で、分からない事があった場合どうすればいいのかあまり悩まなかったのかも知れない。だったら人に訊けば良いじゃないか。
早速とばかりに「私に何が出来ると思う?」と訊かれたので、さっき紙をしまったポケットを叩いて話してあげた。
僕もまた荒事は最低限のみでからっきしだ。情けない事に。だけど、マリーを守るために出来る事はある。
そう言うとマリーは頬を赤く染め、小さな声でありがとうと言った。
「話を聞いてくれたのも。少し気が楽になったわ」
恥じらうマリー。今気が付いたけど、彼女は変わった服を着ていた。体のラインに沿ったもので、すらりと伸びた白い二の腕や胸元が眩しい。
……お目付け役もいない今、これはチャンスだろうな。
僕は商人らしい抜け目なさで「じゃあお礼をして貰わないとね!」と笑顔で手を広げる。
マリーはぎょっとしたように目を剥いた。
「お礼!?」
「ほら、お姫様の一大事に駆け付けた王子様にはご褒美のキスが必要だよね?」
先日みたいなのは無しだよ、と釘を刺しながら僕は彼女に口付けを強請った。マリーは顔を赤くしたまま憤然とした様子で僕の膝に座る。温もりのある柔らかさと薔薇の香りにくらくらしそうだ。
彼女は手をしばし彷徨わせ、僕の両肩を掴むと目を瞑ってぶつけてくるようなキスをする。案の定、唇というか、歯に衝撃と痛みが走った。
それは相手も同じだったようで、体を捩って口元を手で覆っている。本当に犬みたいだ。僕は笑いを堪え切れなかった。マリーがそれに気付いて怒ったように叩いてくる。
「ごめんごめん、マリーがあんまり可愛いからだよ」
謝ると、ぷりぷりとしたまま「知らない!」と顔を背ける。本当に可愛い。僕は笑ってマリーを抱きしめた。
こんな風にじゃれ合えるのも、彼女が生きていてこそだ。伝わってくる温もりと規則的な心臓の音。
今更ながらに現実感が襲ってくる。もしかしたら、彼女の亡骸と対面していたかも知れないと思うと。
もう二度と危険な目に遭わせたくない。抱く腕に力を込めた。
マリーの事は絶対に、僕の持てる力全てで守る。
「グレイ……?」
僕の背中を撫で、不思議そうに名を呼ぶマリー。まずい、心配を掛けてしまった。いつまでもこうしちゃいられない。
僕は気持ちを切り替えて腕を緩め、マリーが作ったという空に浮かぶ『気球』について話題を振った。そういうものが外国にある事は僕も聞いた覚えがある。
マリーは大きくすれば人を乗せて飛ぶことも出来ると言う。人類の夢じゃないか。
彼女は燃料や材料、安全性等の問題があると懸念するが、裏を返せばそれを解決すれば可能だって事だ。僕の直観は、いずれ実現可能だと言っている。
「良かったら、今度『気球』を作って見せてくれないかな」
請えば、「ええ、いいわよ」と快諾してくれた。楽しみだ。技術的な問題はあるにせよ、僕は空への憧れに心を躍らせる。彼女の知識は夢のようだ。
ふとマリーを見ると、優しく目を細めてこちらを見つめている。僕は興奮覚めやらぬまま、ほとんど衝動的に彼女を引き寄せ、深く口付けを落とした。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。