貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

グレイ・ルフナー(35)

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 「カーフィ・モカの居所は分かったの?」

 「国境付近で目撃されたのが最後だ。隣国に逃げたか……危険察知能力だけはズバ抜けているらしい」

 カーフィ・モカの動向を探るべく手の者を遣わせたところ、屋敷は既にもぬけの殻。
 あまりに静かなのでキャンディ伯爵家の者が思い切って忍び込むと、地下に秘密の通路を発見。そこから抜け出したようだった。
 それからはルフナー子爵家とキャンディ伯爵家総力を挙げて手を尽くして捜索したけれど収穫無し。
 結局先程アールが言ったように既にこの国からは出てしまっているものと思われた。

 「戻って来なければいいけど、いつかは戻って来そうだよね。それも忘れた頃に」

 「ああ。俺がカーフィならそうする。警戒はしておくべきだ」

 そんな会話をしながら馬車に揺られ、僕達はキャンディ伯爵家と向かった。今日は兄を連れてマリーの小説の下読みだ。到着すると、アナベラ様とマリーが出迎えてくれている。
 早速喫茶室に通され、お茶会がてら読んで貰う事になった。

 「評判をよく出来ればと思ってマリーが小説を書いてくれたんだよ。赤毛の貴族は兄さんがモデルなんだってさ」

 首を痛めた時言われた事は忘れていない。
 ニヤニヤしながらティーカップを片手に見守る。
 アールは小説を読みながら、時折何か変な物が喉に詰まったような表情をしたり、顔を赤くしたり。見ていて非常に面白かった。
 最後まで読み終わると、顔を夕日のように真っ赤にして机に突っ伏す。

 うん、溜飲が下がった。

 僕は大変満足していた。羞恥に悶えるが良いよ、アール。更に製本と流通という試練まで待っているのだから。

 賢いマリーは話の中の小道具にラベンダーを採用した。小説が流行すればラベンダーが売れるだろう。うちは万々歳だ。
 暫くアールで儲けさせて貰おう。

 ラベンダーの他にもアールをオール・ウェゲナー伯爵に扮したポートレートを作成するのも良いかも知れないな。アールの肖像画は家にある事だし、木版画工房に挿絵と共に発注しておかなくては。
 父ブルックは僕達に売れるものなら何でも売れと教えた。それは恨めしそうな視線を僕に向けているアールも同じ教育を受けてきている。

 自分を売るチャンスだし、小説に人気が出れば評判も改善するだろうことが理解出来ているからこそ、甘んじて受け入れるしかない。尚の事やりきれないのだろう。
 にっこりと商売の笑みを浮かべると、この野郎と言わんばかりに目付きが鋭くなった。

 ……あんまりやりすぎると仕返しが来るかも知れない。儲け次第では分け前をあげても良いかも。

 お茶会が終わった後、マリー達と別れた僕はサイモン様の執務室へ寄っていた。
 工房に原稿を持ち寄る前に、念の為サイモン様にも中身を改めて貰った方が良いと思ったからだ。
 アールはアナベラ様と親睦を深めているので、後で迎えに行くつもりである。

 「ふうん、マリーはこんなものを書いていたのか」

 感心したように原稿を捲って目を通すサイモン様。

 「ほう、なかなか面白い。我が娘にこのような文才があったとは」

 「はい。今月末に婚約式も控えている事ですし、兄の評判の改善にと思いまして」

 僕は頷いて、明日にでも工房に持ち込むつもりだと報告する。サイモン様は「良かろう」と許可を出してくれた。

 「この小説は使えそうだな。何なら婚約式はラベンダーで飾るか。印象がより効果的になるだろう」

 「良いお考えです。早速それも手配しましょう」

 「ああ、よろしく頼む。詳しい事は執事にでも訊くが良い」

 言って、原稿を僕に返そうとしたサイモン様は不意にぴたりと動きが止まった。

 「どうかなさったんですか?」

 「この、『著者 反逆の雌豚』というのは何だ」

 視線の先を辿ると、確かにそう書いてある。
 きっと、彼女がその独特の感性で決めたんだろうけど。僕も今まで気が付かなかった……。

 「……私も今気付きました。マリーに確認しておきます」

 流石にこの著者名は頂けない。
 そそくさと原稿を仕舞い、僕は執務室を後にした。


***


 著者名をまともなものに差し替えて、本も挿絵も発注し、後は出来上がりを待つばかりになった頃。

 早起きしてマリーへの手紙を書き終えた僕は、九本の赤薔薇と共にそれを送った。
 今日は修道院へラベンダーの手配含む婚約式の打ち合わせに行かなければならない。なので食事も両親達より先に食べる。勿論アールも一緒だ。

 婚約式は当人達にとってさぞや楽しみだろう。だというのに、朝食の席で顔を合わせたアールはあまり機嫌が良く無さそうだった。

 「どうしたの? 昨夜のアナベラ様との夜会で何かあった?」

 訊けば、盛大に溜息を吐かれる。「終わったと思ってたのに、またあのメイソンの野郎が絡んで来たんだ」

 「はあ?」

 「今度はキャンディ伯爵家の弱みを握ってアナを好きにしてるんだろうってさ。婚約の事を根堀り葉堀り探られるより余程疲れたよ」

 アナというのはアナベラ様の愛称だ。何時の間にか愛称を呼ぶまでの関係になっていたらしい。
 それは何よりだけど、メイソンが横やりを入れて来たのは何故だろう。次期リプトン伯爵位を手に入れて満足したんじゃないのか。

 「あの男結婚したんじゃないの?」

 「その筈なんだよな。弱みなんか握ってる事実は無いと言っても聞かないし、いい加減頭に来たのかアナが公衆の面前で俺にキスをしたんだ。そうしたら俺に騙されて意に染まぬ結婚をさせられたと喚き出したんだ。騙されてなけりゃ今頃アナと結婚してたのは自分だとな。社交界では『野の花』で結ばれた二人と祝福されてたのに支離滅裂過ぎて」

 「もう無茶苦茶だね……で、どうなったの?」

 「フレールを連れてきていない事に気付いて、祝福されて結婚した筈の嫁はどうしたって言おうとした時に第一王子殿下がいらっしゃったんだ。俺が言いたいことを全部言って下さって、それでメイソンは言い返せず引き下がった」

 「ふうん。運が良かったね、アール」

 「ただ、その後アン様が……王子殿下はアン様の婚約者と共に居たのだが、別の女性をエスコートしていたんだ。俺達もすっかり疲れてたし、帰りは皆無言で通夜みたいだった」

 「アン様の婚約者って、確かウィッタード公爵家のザイン様だったよね。そんな浮ついた噂は聞かなかったけど……」

 「上位貴族は色々あるんだろうな」

 言って、兄はパンを口に運ぶ。僕達が特殊なんだろうか。貴族といっても下位だし。アン様の事を気の毒に思う。
 僕ならマリーを放っておいて別の女性をエスコートなんて絶対にしないのに。
 そう言うと、「ああ、全くだ」とアールも頷いた。
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