貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

グレイ・ルフナー(36)

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 婚約式まで後数日に迫ったある日。僕はイエイツ修道士を訪ねていた。
 とうとう望遠鏡が出来上がったので、それを届ける為だ。

 「おお、グレイ! 拙僧は待ちかねたぞ!」

 そわそわして修道院の入り口付近をウロウロしていた彼は、僕の姿を認めるとすぐに近寄って来た。
 使用人に持たせた包みに、まるで誕生日のプレゼントを待つ子供のように忙しなく視線を向けている。
 普段は近寄り難い雰囲気なのに、こういう時は随分と愛嬌がある人だ。
 僕はくすりと笑った。

 「じゃあ早速イエイツの部屋に運ぶから」

 「はよはよう。こっちだ」

 望遠鏡を運び、取り扱いを説明する。マリーの考案した太陽を見る道具も一緒に。
 既にテスト済みなので『太陽神の黒い烏』も観察出来る事は分かっている。

 先月末に望遠鏡と引き換えに内密の依頼がある、秘密厳守だけど引き受けるかと聞いたら、彼は直ぐに食いついた。
 マリーの名を伏せてやって欲しい事とその理由を語ったところ、非常に驚き、それならばと承諾。
 望遠鏡が届くまでの間は歴史を調べておくと言っていた事を思い出しながら、僕は口を開いた。

 「ところで、調べものはどんな感じ?」

 「ああ、今も調べている最中なのだ。教会にある記録だけだが、ざっと書き出してみた限りでは、確かに災いが起こりやすい時期とそうでない時期があるようだ」

 紙束を机の引き出しの中から取り出して渡して来る。そこには年代順に起こった災害が箇条書きで書かれていた。

 「恐らく、少なくとも帝国の時代は太陽神の御加護が強かったのであろう。そして二百年程前は弱かったと思われる。ただ気になる事が一つあるのだ」

 イエイツ修道士は顔を曇らせた。

 「気になる事?」

 「修道院は日々の記録をしておってな。一昨年の冬が非常に厳しかったのだ。思い出して読み返したのだが、『夏が非常に寒かったと北の修道院より便りが来た』という記述もあった。それが一時的なものなのか、そうでないのか。歴史を調べ終えたら修道院の記録も遡る必要がある」

 確かに近年の記録を辿るにはうってつけの資料かも知れない。ただ、修道院の歴史もそれなりに長いのでかなり大変だと思う。

 「……そういう時期が来そうって事かな」

 「その可能性は高い。グレイよ、今一度訊くが、この知識が誰からのものかやはり言えぬのか?」

 真剣な顔で問いかけてくるイエイツ修道士。僕は首を振った。

 「ごめん、それは言えない。絶対に秘密にするって約束したんだ」

 「……そうか。出来ればもっと詳しく話を聞きたかったのであるが」

 やはりと肩を落とされる。

 「ごめんね。太陽観察以外で、世界の秘密を解き明かすのでも何でも望遠鏡は好きに使っていいから。調べもの、引き続きよろしく」

 「引き受けた。また新たな事が分かれば知らせよう」

 「ありがとう」

 礼を言って僕は修道院を後にする。
 そのまま馬車をキャンディ伯爵家に向かわせた。今の話をサイモン様にも報告しておかなければ。


***


 いよいよアールとアナベラ様の婚約式当日。

 結局小説は十数冊のみ出来上がっているものの、残りは多少遅れそうだ。
 マリーの分の豪華装丁版は何とか間に合って良かったと思う。

 今日の彼女は青い薔薇とラベンダーをあしらったドレスを纏っていた。婚約式もラベンダー一色なので、それによく合わせられている。
 それ以上に、装飾に使われている宝石が僕の瞳の色。嬉しさを抑えながら僕は紳士の礼を取った。

 「とても良く似合っているよ。今日も素敵だね、マリー。特にその宝石がね」

 「うふふ、グレイも良く似合ってるわ。特にそのボタンが」

 僕の上着にも同じようにマリーの色である琥珀のボタン。お互いに笑いあった。

 それから彼女と並んで婚約式を見守る。
 一番の懸念はやはり邪魔が入る事だ。特にメイソンの。
 それはアールも思っていたようで、その横顔は警戒と緊張で強張っているように見えた。
 メンデル・ディンブラ大司教が淀みない声で儀式を執り行う。しかし予想に反して、最後まで邪魔が入る事はついぞ無かった。拍子抜けな程に呆気無く儀式は終わった。

 どうもメイソンは諦めたようだ。僕は内心ホッとする。
 これからこの広間は社交の場へと変貌する。招待客達はダンスや食事を楽しみ、また貴族同士の会話が飛び交うのだ。
 商売上挨拶が欠かせない人や繋ぎを取っておきたい人もいる。本当はマリーと二人きりで楽しみたいけどそうもいかないだろう。
 僕は後ろ髪を引かれる思いでマリーに声を掛けた。

 「マリー。悪いんだけど、僕は少し社交をしてくるよ。それまで待っててくれないかな」

 「分かったわ。ちょっと待ってて」

 マリーは素直に頷くと、サイモン様に声を掛けに行った。一言二言会話した後、ややむくれた顔で戻ってくる。
 どうしたのか訊けば、

 「社交は嫌いだから部屋で待ってようと思ったけど、会場近くに居なさいって。人気の少ないあちらのテラスでサリーナとピクニックでもして待ってるわ」

 「なるべく急いで行くよ。ごめんね」

 「ええ」

 彼女を見送った僕は、なるべく早く済ましてしまおうと目当ての人物を探して歩き出した。
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