67 / 758
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
見ぃ~たぁ~なぁ~?
「愚民共よ、輝かしい朝である! 女帝マリーからの恵みの糧をありがたく受け取るが良い!」
次の日の朝。私は早速いつもの運動着に付け襟をした状態で日課を楽しんでいた。いやー、エリザベス女王襟は良いわ。随分偉くなった気がする。
エリザベス女王と言えばアレだ。大航海時代。
航海と略奪と植民地主義、奴隷貿易等々。今私が生きる世界も既に冒険家が世界が丸い事を証明しているし、新大陸も発見されている。他の新たな大陸を求めて向こう見ずな旅に出る探検家や冒険家も後を絶たない――以前、キーマン商会の支店がある国ついて訊ねた時、そういう話も詳しくグレイから聞いた。彼も箸や醤油を手に入れているから、差異はあれど前世の歴史と同じような感じで競争は激化していくだろう。人の欲望には際限がないものだ。
幸い今のトラス王国の国力は強い。植民地も南の海を越えたナトゥラ大陸に持っている。しかし他国が植民地を拡大して、先んじて肥え太ればそれも危うくなるかも知れない。
銀行と株式制度によって国境を越えた独自の経済圏を獲得していく事で太刀打ちできれば良いけれど。
きっと、人種差別等の問題も多く出て来るだろう。トチ狂ってアングロサクソン・ミッションのような事を考え出す連中も出て来るかもしれない。その場合の思想誘導の道具としては……前世では優生学等があったが、現時点では九割がた宗教だと思う。そんな風に使われる前に味方にしておいた方が良いかもな。
なーんて難しい事は後でじっくり考える事にして。
鳥共もいつもの私と違うと理解しているのか、動揺しているのが何となく分かる。それが証拠に一定以上の距離には寄って来ない。威嚇効果もあるようで大満足である。
「朕は国家なり!」
何となく天に両手を上げてその場のノリで言う。あれ、エリザベス女王なら『私は国家と結婚した』、だっけか。まあいいか。こっちのほうがカッコ良いもんな!
馬の脚共も私の遊びに付き合ってか、「マリー様万歳!」「マリー様永遠なれ!」等と騎士の礼を取っている。それを見て満足げに頷いた私。
サリーナは平常運転で死んだような目をしていた。
と、ぷっと噴き出すような音が聞こえてくる。
そちらを見ると、
「何やってるんだ、マリー」
とカレル兄が姿を現した。珍しいな。
「おはよう、カレル兄。見ての通り女帝ごっこしてるの。ほら、この襟。昔流行ったんだって。お婆様のお下がり貰ったんだー! これ付けると何だか偉くなったような気分になれるの」
ニコニコしながら自慢する。カレル兄は腹を抱えて笑い出した。
「偉くなった気がするってお前、本当面白いな!」
「だって本当だもん。鳥達だって恐れていつも以上に寄って来ないし、きっと威嚇効果があるんだよこの襟。カレル兄も着けてみる?」
この襟が流行ってた頃の王様は威嚇されて大変だったろうと話すと、カレル兄の笑いがいよいよ止まらなくなった。
「あは、はは……あー、朝から笑った笑った。いやいや、俺は遠慮しておくよ」
「もー、そんなに笑わなくても良いじゃん!」
「良かったな、良い玩具を貰って」
「玩具じゃない! これは権威と力の象徴なの、象徴! ……ところでカレル兄が今の時間この辺りを通りがかるのは珍しいね」
「ああ、ちょっと散歩してたんだ……」
私の問いかけに少し挙動不審気味になるカレル兄。サリーナと馬の脚共がハッとしたようにある方向へ向けて使用人の礼を取った。
「うふふふ~、残念。見つかっちゃったわ」
えっと思ってそちらを見ると、お爺様とお婆様、ばあやが勢揃い。私は伝説のメデューサに睨まれて石化するが如くカチーンと固まった。
***
「えっ、えっ、見られてたの? い、い、いつから!?」
予想外の事態に狼狽え、カレル兄に食ってかかった。兄は薄ら笑いを浮かべる。
「マリーに残念なお知らせがある。餌やりの最初からだ」
「昔からおかしなことをなさる方でしたが、ちっとも変っていませんねぇ、マリー様は。おまけに作り物の馬も新しく立派なものになっていますし」
ばあやが呆れたように言う。
「うわああああ~!!」
私は顔を両手で覆って蹲った。恥ずか死ねる。しかも今日は付け襟効果でいつも以上に演技に熱が入っていたのだ。
「まあまあ。マリーちゃんが女帝になるぐらいに喜んで貰えてるならその襟を贈った甲斐があったわねぇ。見ていて大変面白かったわ」
ねぇ、ジャル? と追い打ちをかけて来る祖母ラトゥ。
「ああ、そうだなラトゥ。マリーには演劇の才能があるようだ」
クスクス笑いながら止めを刺してくる祖父ジャルダン。ぐはぁ。やめて、私のライフはもう0よ。
しかしここは何とか取り繕わねばなるまい。私はのろのろと顔を上げると、すっと淑女の礼を取った。
「お爺様、お婆様、ばあやも。おはようございます……」
しかしそれは悪あがきに過ぎず、ばあやは呆れたように「はぁ……今更ですよ、マリー様」と言い、祖父母もうんうんと頷いた。
「そうだな」
「まあそうねぇ。でもおはよう、マリーちゃんのお蔭で朝から笑顔になったわ」
カレル兄がポン、と同情するように肩に手を置いてくる。
「マリー、潔く諦めろ。手遅れだ」
「はい……」
私は力なく頷いた。鶴の恩返しでは正体を知られた鶴は何もかも置いて飛び去っていけるのに。
ああ、空が青いなぁ。
次の日の朝。私は早速いつもの運動着に付け襟をした状態で日課を楽しんでいた。いやー、エリザベス女王襟は良いわ。随分偉くなった気がする。
エリザベス女王と言えばアレだ。大航海時代。
航海と略奪と植民地主義、奴隷貿易等々。今私が生きる世界も既に冒険家が世界が丸い事を証明しているし、新大陸も発見されている。他の新たな大陸を求めて向こう見ずな旅に出る探検家や冒険家も後を絶たない――以前、キーマン商会の支店がある国ついて訊ねた時、そういう話も詳しくグレイから聞いた。彼も箸や醤油を手に入れているから、差異はあれど前世の歴史と同じような感じで競争は激化していくだろう。人の欲望には際限がないものだ。
幸い今のトラス王国の国力は強い。植民地も南の海を越えたナトゥラ大陸に持っている。しかし他国が植民地を拡大して、先んじて肥え太ればそれも危うくなるかも知れない。
銀行と株式制度によって国境を越えた独自の経済圏を獲得していく事で太刀打ちできれば良いけれど。
きっと、人種差別等の問題も多く出て来るだろう。トチ狂ってアングロサクソン・ミッションのような事を考え出す連中も出て来るかもしれない。その場合の思想誘導の道具としては……前世では優生学等があったが、現時点では九割がた宗教だと思う。そんな風に使われる前に味方にしておいた方が良いかもな。
なーんて難しい事は後でじっくり考える事にして。
鳥共もいつもの私と違うと理解しているのか、動揺しているのが何となく分かる。それが証拠に一定以上の距離には寄って来ない。威嚇効果もあるようで大満足である。
「朕は国家なり!」
何となく天に両手を上げてその場のノリで言う。あれ、エリザベス女王なら『私は国家と結婚した』、だっけか。まあいいか。こっちのほうがカッコ良いもんな!
馬の脚共も私の遊びに付き合ってか、「マリー様万歳!」「マリー様永遠なれ!」等と騎士の礼を取っている。それを見て満足げに頷いた私。
サリーナは平常運転で死んだような目をしていた。
と、ぷっと噴き出すような音が聞こえてくる。
そちらを見ると、
「何やってるんだ、マリー」
とカレル兄が姿を現した。珍しいな。
「おはよう、カレル兄。見ての通り女帝ごっこしてるの。ほら、この襟。昔流行ったんだって。お婆様のお下がり貰ったんだー! これ付けると何だか偉くなったような気分になれるの」
ニコニコしながら自慢する。カレル兄は腹を抱えて笑い出した。
「偉くなった気がするってお前、本当面白いな!」
「だって本当だもん。鳥達だって恐れていつも以上に寄って来ないし、きっと威嚇効果があるんだよこの襟。カレル兄も着けてみる?」
この襟が流行ってた頃の王様は威嚇されて大変だったろうと話すと、カレル兄の笑いがいよいよ止まらなくなった。
「あは、はは……あー、朝から笑った笑った。いやいや、俺は遠慮しておくよ」
「もー、そんなに笑わなくても良いじゃん!」
「良かったな、良い玩具を貰って」
「玩具じゃない! これは権威と力の象徴なの、象徴! ……ところでカレル兄が今の時間この辺りを通りがかるのは珍しいね」
「ああ、ちょっと散歩してたんだ……」
私の問いかけに少し挙動不審気味になるカレル兄。サリーナと馬の脚共がハッとしたようにある方向へ向けて使用人の礼を取った。
「うふふふ~、残念。見つかっちゃったわ」
えっと思ってそちらを見ると、お爺様とお婆様、ばあやが勢揃い。私は伝説のメデューサに睨まれて石化するが如くカチーンと固まった。
***
「えっ、えっ、見られてたの? い、い、いつから!?」
予想外の事態に狼狽え、カレル兄に食ってかかった。兄は薄ら笑いを浮かべる。
「マリーに残念なお知らせがある。餌やりの最初からだ」
「昔からおかしなことをなさる方でしたが、ちっとも変っていませんねぇ、マリー様は。おまけに作り物の馬も新しく立派なものになっていますし」
ばあやが呆れたように言う。
「うわああああ~!!」
私は顔を両手で覆って蹲った。恥ずか死ねる。しかも今日は付け襟効果でいつも以上に演技に熱が入っていたのだ。
「まあまあ。マリーちゃんが女帝になるぐらいに喜んで貰えてるならその襟を贈った甲斐があったわねぇ。見ていて大変面白かったわ」
ねぇ、ジャル? と追い打ちをかけて来る祖母ラトゥ。
「ああ、そうだなラトゥ。マリーには演劇の才能があるようだ」
クスクス笑いながら止めを刺してくる祖父ジャルダン。ぐはぁ。やめて、私のライフはもう0よ。
しかしここは何とか取り繕わねばなるまい。私はのろのろと顔を上げると、すっと淑女の礼を取った。
「お爺様、お婆様、ばあやも。おはようございます……」
しかしそれは悪あがきに過ぎず、ばあやは呆れたように「はぁ……今更ですよ、マリー様」と言い、祖父母もうんうんと頷いた。
「そうだな」
「まあそうねぇ。でもおはよう、マリーちゃんのお蔭で朝から笑顔になったわ」
カレル兄がポン、と同情するように肩に手を置いてくる。
「マリー、潔く諦めろ。手遅れだ」
「はい……」
私は力なく頷いた。鶴の恩返しでは正体を知られた鶴は何もかも置いて飛び去っていけるのに。
ああ、空が青いなぁ。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。