貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

世紀末風味の人魚姫。

 しかし鳥達愚民共に人間の言葉が通じる筈も無く。

 奴等はその場をうろつき、一向に離れようとはしなかった。私は溜息を吐き、どうしたもんかと考える。
 その時サリーナがスッと出てきて、私に見覚えのある袋を渡して来た。も、もしかして。

 「こんなこともあろうかと。お食事中はこれを撒いてやった方が良いかと存じます」

 おおおお! 流石はサリーナ!
 私が礼を言うと、どういたしましてと言って下がる。本当に出来た侍女だ。ボーナスを弾まなければな。
 と、餌を撒く前に。私はグレイを振り返って詫びた。

 「騒がしくしてごめんなさい、グレイ。私、いつもここで鳥達に餌をあげているものだから……」

 「そうだったんだ。成程、僕達が食事をしたから貰えると思って集まって来ちゃったんだね」

 私の説明に彼は合点がいったようだった。

 「ええ、そうみたい」

 「だったら僕も餌やりをしてみてもいいかな」

 どの道今は釣れないだろうから、と笑うグレイ。私は快く承諾した。

 「ええ、どうぞ。餌は釣り竿から離れた場所に移動して、そこでやりましょう」

 「そうだね」

 私が提案したのは餌で別の場所に誘導しよう作戦である。
 二人で池の畔を十数メートル程歩いた。これぐらい離れていたら大丈夫だろう。

 「それっ!」

 グレイが鳥の餌をばら撒く。私達が歩いている間もついて来ていた奴等が騒ぎ出し、付いてこなかった奴等も飛んで移動してきた。

 「うわあ、僕こんな近くで鳥を見るの初めてかも。かなり人に慣れてるね」

 「うふふ、毎日やってるもの」

 言いながら私も餌を投げた。グレイも負けじと続く。

 「あっ、凄い! 飛びながら餌を食べたっ!」

 「たまにやるの。凄いでしょ、うふふ」

 「うん、これは面白いや。懐くと鳥も可愛いもんだなぁ。マリーが趣味だっていうの分かる気がする」

 「でしょう? 毎朝の楽しみなの」

 ……等と笑顔で言いながらも内心だらだらと冷や汗をかく私。『愚民共ぉ!』等とシャウトしている事は知らぬが花である。

 「これだけあげれば満足してしばらくは餌を狙ってこないと思うわ」

 餌に群がる鳥達を尻目に、そっとその場を離れて戻った私達。今度はサンドイッチを無事に完食出来、釣り場は元の静けさを取り戻していた。

 「昔、船にのってカモメに餌を上げた事を思い出すよ」

 お茶を飲みながら、しみじみと言うグレイ。

 「えっ、船? 海?」

 思わず私は食いつく。彼は笑って頷いた。

 「うん、海。大きな商会の船なんだ」

 「まあ! 素敵ね。私、海に行ったことが無いから憧れているの。大きなお船、一度乗ってみたいわ。カモメって海の鳥なのでしょう? 可愛いのでしょうね」

 一生懸命私は言い募った。勿論船に乗ってみたいのもある。ただ、一番の本音はカモメでも海への憧れでもなく、海鮮を食いたいという食欲だ。私の脳内は既に香ばしい魚料理でいっぱいである。匂いの幻覚までしそうだ。
 そんな煩悩が声にも出ていたのだろうか。グレイは「海に憧れてるなんて知らなかった。マリーは人魚姫みたいだね。だけどカモメは大きいよ? 目付きも鋭いし」と微笑む。

 「そうだね、いつか港町に旅行するのも良いかも知れない」

 「本当!? いつかじゃなくて、グレイ、絶対よ! 絶対連れてってね! 約束して!」

 ああ、サンマの塩焼き、ブリの照り焼き。私が人魚姫なら周囲の魚介類を狩りまくってさぞかし殺戮者として恐れられる事だろう。アニメに出てた、蛸足な海の魔女にさえも。ぷりぷりっと太った蛸足……じゅるり。寿司…は衛生上無理だろうけどタコ焼きタコ焼きタコ焼きタコ焼き……心の中でお題目を唱える。がしっと肩を掴んで言うと、グレイは声を上げて笑い出した。

 「そこまで行ってみたいのなら、僕は約束しないわけにはいかないじゃないか。良いよ。色々落ち着いたら時期を見て連れて行くよ、必ず」

 「ありがとう、グレイ! 嬉しいわ!」

 確約を得た私は彼に飛びつくと、頬っぺたにキスをした。
 楽しみが増えた。海に行ける、そしたら海鮮食い放題だ、やったね!


***


 さて、鳥達愚民共も居なくなり、釣り再開である。一応釣り餌を点検したら、グレイの竿に小さな魚が掛かっていたので、逃がしてあげる。一応二人とも釣り餌を付け替えて再度垂らした。

 海の幸について色々グレイに訊きながら釣り竿を揺らして待っていると、いきなりぐっと引っ張られた。小さな悲鳴を上げるも私は急いで踏ん張る。かなり強い。ビンビンと魚の暴れる振動が伝わって来た。

 「大丈夫!? 手伝おうか?」

 「ちょ、ちょっと助けて!」

 正直持ってかれそうだ。グレイは即座に後ろに回ると私の釣り竿を一緒に持ち、そのまま一緒に魚を引き上げてくれる。
 一緒に呼吸を合わせてせーのとやると、その姿が見えて来た。

 「でかい! 大物だ!」

 「竿が……折れそう」

 魚影はすぐそこにいるというのに竿がミチミチと嫌な音を立てている。後ろ脚シュテファンが持っているタモじゃきっと荷が重いだろう。前脚ヨハンが上着を脱ぎ、「失礼!」と言って池にざぶんと入った。暴れるその魚を上着に包むように抱き抱え、凄い勢いでぶん殴った。すると大人しくなったので持って上がって来る。ワイルドだな。
 勿論バケツに入りきらないのでそのまま草の上にどさりと転がした。

 「う、うわあ……」

 それはかなり大きなナマズだった。鯉よりも一回り二回りは大きい。

 「大きさ的にもこれはきっと美味でございます」

 というのは前脚ヨハンである。後ろ脚シュテファンはナイフを取り出すとナマズの鰓に突き刺している。
 私は少し考えた。先程の鯉でおかずは十分だし。ひとまず池に入ってくれた礼を言う。

 「ありがとう、ヨハン。お前が厨房に持って行って頂戴。このナマズは大きいから、皆で頂きましょう。それと濡れてるから風邪を引かない内にお風呂に入ってくると良いわ。私が許可を出したと伝えて……」

 これでよし、と。しかし前脚ヨハンはどこか不服そうな表情をしている。

 「ありがたきお言葉。ですが、いつものように『前脚』と呼んでは下さらないのですか?」

 「ちょっ、何を言うの?」

 私は仰天した。それはグレイの前だからに決まってるじゃないか!
 慌ててグレイをちらりと見る。「あの、グレイ。これは」

 な、何て言い訳しよう。

 ぐるぐると頭を悩ませていると。

 「マリー、僕は知ってるから大丈夫だよ」

 「えっ!?」

 まさかの返事に私はポカーンとした。
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