貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

愛情の裏返し。

 「あらあら、まあ……大丈夫? もう夫婦みたいに仲が良いのねぇ」

 にこやかな表情を崩さない祖母ラトゥ。更に咳き込むグレイ。これは完全に玩具にされている。お婆様は確信犯だな、と私は思った。
 彼は水を飲んでやっと落ち着くと、少し頬を赤くして一礼をする。

 「はい……とんだ失態を。あの、先程のご質問ですが、僕はマリーとは、その……婚約者としての節度を持ったお付き合いをさせて頂いています」

 「うふふ、そうなの。で、どこまで? それとも、マリーちゃんなら教えてくれるかしら?」

 「母上、昼間から」

 「良いじゃないの。若者の初々しい恋の話は老い先短い母親の唯一の楽しみなのよ」

 ダディサイモンが流石にこれはと思ったのか呆れた顔でたしなめる。グレイも慌てた表情をした。しかし飄々ひょうひょうとそれをかわした祖母ラトゥの追撃の手は緩まない。今度はこっちにお鉢が回って来た。全くもって祖母は少し意地悪である。兄や姉達の心配そうな眼差しが突き刺さる。義兄アールも既に同じような目に遭ったのか、同情的な表情をしていた。
 家族の面前ではあるが、正直にデープチッスまで! と開き直って爆弾投下してもいいのだが……私は兎も角、16歳の男の子の羞恥心的には辛いだろう。私はにっこりと微笑み返した。

 「ええ、お婆様! グレイとは最初のデートの時、ラベンダー修道院まで行きましたのよ! 私、あんなに遠出をしたのは生まれて初めてでしたの!」

 質問を逆手にとって返すと、祖母は面白かったのかコロコロと笑う。「ああ、そういう……」とグレイが力なく呟くのが聞こえた。

 「まあ、ラベンダー修道院?」

 俗称は領地で長年過ごしていた祖母は知らなかった模様。私は説明した。

 「ええ、正式にはソルツァグマ修道院というのですわ。何でも、グレイのお爺様の代からラベンダーを大々的に栽培を始めたからラベンダー修道院って言うようになったんですって」

 「ああ、あそこなの。という事は、きっと私達が領地で過ごすようになってから盛んになったのねぇ」

 ラベンダー畑が素敵で美しかった事、精油が質の良い事で評判であり母ティヴィーナも使っている事を話す。そして詳しくは彼から、とグレイにパスをした。ラベンダー事業の話題なら十八番だろう。ホッとした顔で説明をしていく。

 「残念ながら来月になると全て刈り取ってしまいますが、まだ今は綺麗に咲いています」

 「良い事を聞いたわ。ありがとう。パレディーテと会うのはそこにしようかしら?」

 うきうきした様子の祖母ラトゥ。グレイは「我が家と縁深い場所ですし、是非」と笑顔で返していた。

 ちょっとしたハプニングがあったものの、それからは和やかに食事は進んだ。

 母がラベンダーの精油の使い心地について話したり、思いついた私が先程刺繍した睡蓮のハンカチを祖母にプレゼントしたり。
 義兄アールにアナベラ姉が「私もラベンダー畑を見てみたいわ」とデートを強請り、それを見たアン姉も行ってみたいと言い、ダブルデートを提案したり。
 それを聞いたイサークとメリーが自分達も行きたいと駄々をこね、ダディママンが連れて行く約束をさせられていたり。
 カレル兄は祖母に「お相手はまだなの」と質問責めにされ、たじたじとしている。トーマス兄はダディと何やら難しい事を話していた。祖父は時折弟妹達の相手をしながら、幸せそうにそんな様子を眺めている。
 そんなこんなであっという間に食後のお茶になった。

 「それはそうと、マリーは空に浮かぶ面白い物を作ったとか」

 祖父ジャルダンが興味深そうに訊いて来る。実は午後からミニ気球をグレイに見せる約束なのである。他の家族も興味津々で見たいと言ったのでこれから移動する事になっていた。

 「凄かったんだよ、お爺様! 本当にふわって浮かぶんだ!」

 「気球っていうのよ!」

 イサークとメリーが興奮した様子で説明する。

 「ええ。これから皆に披露する予定なんですの」

 「儂等も見ていいかな」

 「勿論ですわ、お爺様」

 私は頷いた。皆で移動する。

 前回は外で飛ばして事件が起きたので、今度は室内である。厨房に隣接した、石畳の床のある使用人用の食堂。ここなら火が落ちてきても燃え広がる事はない。椅子とテーブルは端に寄せられ、水の入ったバケツも準備完了している。彼らには時間をずらした食事のシフトを組ませていたので今の時間は無人である。
 家族だけではなく、使用人達も集まって来て興味深そうに窺っていた。何故か馬の脚共の姿も見える。お前ら仕事はどうした。
 そう思っていると、「お手伝いを」と奴らは私の助手を買って出た。換気の為の窓を開けさせ、作っておいた気球に不備がないかチェックした後、火を灯させる。私の手を離れ、音も無く宙に浮かぶ気球。それは天井にぶつかると、ピタリと静止した。

 途端に背後がざわめきだす。おお、ああ等と感嘆の声が聞こえて来た。
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