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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
グレイ・ルフナー(41)
「本当は秘密なんだろうけど……」
動揺を見せる彼女に、声を潜めて説明する。前脚が補足説明をしてくれて、彼女は納得したようだった。
ナマズを持って去っていくのを見送る。獲物は十分だろう。昼までまだ時間があるけど、どうしようかと訊くと、マリーは睡蓮を刺繍するという。僕は釣れても返す事にして、のんびり釣りを続ける事にした。
不意に、何かを思い出したのかマリーに睡蓮に似た植物が無いかと訊ねられた。話を詳しく聞いてみると、どうもうちにある『蓮』の事を指しているように思う。何と、根っこが食べられるらしい。とても美味しいそうなので、うちに来て確認して貰い、彼女の思う通りのものだったらご馳走して貰う事を約束する。
「穴が開いてて、輪切りにしたものでハンコ遊びをするとお花みたいに見えて楽しいのよ」
楽しそうに語る彼女。今度手紙を書く時は、母に頼んで小さい根っこを貰って確認がてらやってみようか。
そんな事を考えながら手洗いに中座した僕は、戻った時に奇妙な光景を目にしてしまった。
マリーがリディクトに跨り、釣り竿の先に人参を括りつけてリディクトの目の前に垂らしている。しかしリディクトは首を返してマリーと見つめ合っていた。後ろ脚が手綱を握り、それを見守っているという構図。
子供向けの物語の中では、
『馬の前に人参をぶらさげる』
という描写があったように思うけど。本当にやる人がいるなんて。
……どこから突っ込んで良いか分からない。
取りあえず。
「……何やってんの、マリー」
僕の声に彼女はびくりとして釣り竿を取り落とした。危うく人参に食いつくべく動いたリディクトから落ちそうになって、僕は危ないと声を上げる。後ろ脚にすんでのところで受け止められて事無きを得ていた。それにホッとしながらも気まずそうに体を縮込めるマリーに事情を聞いてみると、ちょっとした好奇心だったらしい。
しかし馬に悪戯するというのは危険だ。マリーの頬っぺたを軽く抓って注意をする。僕ももう少し考えて声を掛ければ良かった。
***
昼食時になって、僕達は屋敷に戻った。
初めてお会いするマリーの祖父母にご挨拶をする。「こちらはクァイツです。ご挨拶としてお納め下さい」とお土産を渡すのも忘れない。
僕が釣った鯉は香草焼きにされていて、喜んで頂けたようだ。しかし僕の祖母パレディーテとお知り合いだったとは予想外だった。マリーの祖母、ラトゥ様はご縁だとしみじみ仰っているが、僕もそう思う。偶然とは思えない。
しかしラトゥ様は人を困らせて楽しむのがお好きなようで、僕は少々困ってしまった。マリーが質問を文字通りに受け取った振りをして最初のデートの話題を出してくれたお蔭で助かったけど。
何とか会食を終え、マリーが気球を見せてくれるというので移動する。その途中、マリーの祖父のジャルダン様が話しかけて来た。
「グレイ、先程はラトゥがすまないな」
「うふふ、可愛い男の子を見るとつい揶揄いたくなってしまうのよ」
やはり揶揄われてたんだ。しかし僕の父もマリーを試したんだし、これでお相子かも知れない。僕は「いえ……」と首を振り、気にしていない事を伝える。
それまでニコニコとしていたラトゥ様がふっと真面目な顔になった。
「グレイ、あなたはマリーちゃんがどんなおかしな子であっても嫌わずにいてくれるかしら?」
それは孫を想う祖母の、直球で飾らない問いだった。
先程のリディクト人参事件を思い出す。マリーは色々変わってるけど、嫌いになる事なんて無いだろう。
僕は安心させるように微笑み返す。
「ええ。僕がマリーを嫌う事はありませんよ。どんなおかしな子であっても。今更ですしね」
そう言うと、ラトゥ様はまた笑顔に戻った。
「うふふ、それを聞いて安心したわ。マリーちゃんには相当振り回されているんじゃないかしら?」
「ええ、出会った日からずっと。でも退屈はしません」
僕の世界が一気に鮮やかに色付き、愉快なものなったようで。それはマリーが見せてくれた気球のように、夢のような事が現実の物として現れてくる。これでワクワクしなかったら男じゃない。
***
気球で一気に盛り上がった僕達男性陣は、サイモン様の執務室に集まっていた。
先程の興奮冷めやらぬまま、人を乗せる気球についてあれこれと語る。それはより具体的になっていく。
「では、気球の開発資金はルフナー家が四割、父上含む我が家が六割という事で良いか」
「はい。資金管理の部署を作り、一元管理しましょう」
「開発は極秘で行うこととなる。それについては――キャンディ伯爵領の方が向いているだろう。ただ、気球に使う資材についてはルフナー家にお願いしたいのだが」
「商会には様々な品が入って参ります。連絡を頂ければ用立て致しましょう」
最終的にはこういう事で決まった。実質キャンディ伯爵家は六割だ。この場合、誰がより多く出すか、は功績者順でもある。サイモン様達が人手と資金、そして様々な資材を用立てるのは僕達の役目になる。
動揺を見せる彼女に、声を潜めて説明する。前脚が補足説明をしてくれて、彼女は納得したようだった。
ナマズを持って去っていくのを見送る。獲物は十分だろう。昼までまだ時間があるけど、どうしようかと訊くと、マリーは睡蓮を刺繍するという。僕は釣れても返す事にして、のんびり釣りを続ける事にした。
不意に、何かを思い出したのかマリーに睡蓮に似た植物が無いかと訊ねられた。話を詳しく聞いてみると、どうもうちにある『蓮』の事を指しているように思う。何と、根っこが食べられるらしい。とても美味しいそうなので、うちに来て確認して貰い、彼女の思う通りのものだったらご馳走して貰う事を約束する。
「穴が開いてて、輪切りにしたものでハンコ遊びをするとお花みたいに見えて楽しいのよ」
楽しそうに語る彼女。今度手紙を書く時は、母に頼んで小さい根っこを貰って確認がてらやってみようか。
そんな事を考えながら手洗いに中座した僕は、戻った時に奇妙な光景を目にしてしまった。
マリーがリディクトに跨り、釣り竿の先に人参を括りつけてリディクトの目の前に垂らしている。しかしリディクトは首を返してマリーと見つめ合っていた。後ろ脚が手綱を握り、それを見守っているという構図。
子供向けの物語の中では、
『馬の前に人参をぶらさげる』
という描写があったように思うけど。本当にやる人がいるなんて。
……どこから突っ込んで良いか分からない。
取りあえず。
「……何やってんの、マリー」
僕の声に彼女はびくりとして釣り竿を取り落とした。危うく人参に食いつくべく動いたリディクトから落ちそうになって、僕は危ないと声を上げる。後ろ脚にすんでのところで受け止められて事無きを得ていた。それにホッとしながらも気まずそうに体を縮込めるマリーに事情を聞いてみると、ちょっとした好奇心だったらしい。
しかし馬に悪戯するというのは危険だ。マリーの頬っぺたを軽く抓って注意をする。僕ももう少し考えて声を掛ければ良かった。
***
昼食時になって、僕達は屋敷に戻った。
初めてお会いするマリーの祖父母にご挨拶をする。「こちらはクァイツです。ご挨拶としてお納め下さい」とお土産を渡すのも忘れない。
僕が釣った鯉は香草焼きにされていて、喜んで頂けたようだ。しかし僕の祖母パレディーテとお知り合いだったとは予想外だった。マリーの祖母、ラトゥ様はご縁だとしみじみ仰っているが、僕もそう思う。偶然とは思えない。
しかしラトゥ様は人を困らせて楽しむのがお好きなようで、僕は少々困ってしまった。マリーが質問を文字通りに受け取った振りをして最初のデートの話題を出してくれたお蔭で助かったけど。
何とか会食を終え、マリーが気球を見せてくれるというので移動する。その途中、マリーの祖父のジャルダン様が話しかけて来た。
「グレイ、先程はラトゥがすまないな」
「うふふ、可愛い男の子を見るとつい揶揄いたくなってしまうのよ」
やはり揶揄われてたんだ。しかし僕の父もマリーを試したんだし、これでお相子かも知れない。僕は「いえ……」と首を振り、気にしていない事を伝える。
それまでニコニコとしていたラトゥ様がふっと真面目な顔になった。
「グレイ、あなたはマリーちゃんがどんなおかしな子であっても嫌わずにいてくれるかしら?」
それは孫を想う祖母の、直球で飾らない問いだった。
先程のリディクト人参事件を思い出す。マリーは色々変わってるけど、嫌いになる事なんて無いだろう。
僕は安心させるように微笑み返す。
「ええ。僕がマリーを嫌う事はありませんよ。どんなおかしな子であっても。今更ですしね」
そう言うと、ラトゥ様はまた笑顔に戻った。
「うふふ、それを聞いて安心したわ。マリーちゃんには相当振り回されているんじゃないかしら?」
「ええ、出会った日からずっと。でも退屈はしません」
僕の世界が一気に鮮やかに色付き、愉快なものなったようで。それはマリーが見せてくれた気球のように、夢のような事が現実の物として現れてくる。これでワクワクしなかったら男じゃない。
***
気球で一気に盛り上がった僕達男性陣は、サイモン様の執務室に集まっていた。
先程の興奮冷めやらぬまま、人を乗せる気球についてあれこれと語る。それはより具体的になっていく。
「では、気球の開発資金はルフナー家が四割、父上含む我が家が六割という事で良いか」
「はい。資金管理の部署を作り、一元管理しましょう」
「開発は極秘で行うこととなる。それについては――キャンディ伯爵領の方が向いているだろう。ただ、気球に使う資材についてはルフナー家にお願いしたいのだが」
「商会には様々な品が入って参ります。連絡を頂ければ用立て致しましょう」
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