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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
非常識も徐々に慣らせば常識になるのです。
どうしよう。そうなれば大事な大事なニート生活に支障が入りまくりだ。
私はしばし考える。
「……というか。いきなり国王様とか教皇様とか。話が急ぎすぎだと思うわ。もっと人員を増やして歴史と記録を調べて確実性を高めなければ、奏上したところでホラだと思われて反対に罰せられるのではないの?」
ひとまず時間稼ぎをする事にした。『かも知れない』の段階では不確実だ。もし何も起こらなかったら責任を問われるのも嫌なんだけど。
私の言葉に父も「確かにそうだ」と言う。
「いずれにせよ、人を増やさねばなるまい」
「うんうん! で、その間に話の出所を何とかでっち上げられれば。そう……例えば行きずりの外国の旅人なんかに。マリーはずっとお家に引っ込んでいるの! 社交界でさえ嫌なのに、偉い人の前になんか尚更怖くて出たくないんだもんねー!」
腰に手をあて、ふふんと威張って言う。名も無き外国の旅人であれば調べようがない。それに、ヤバい時代が来るっていう証拠さえ揃えばその対策で忙しくなり、話の出所なんてどうでも良くなる……と良いな。
「……お前、グレイが居る事を忘れているな」
呆れたようなトーマス兄のツッコミ。私ははっと我に返ってばっとグレイの方を振り返る。
彼は目を丸くして私を見ていた。
あっ……。
***
つんつん。つんつん。
私の頬っぺたが突かれている。先だっての報復なのか。
クスクスと忍び笑いをされるも私は頬を熱くして視線を逸らすしかない。グレイ以外は家族で気が緩み過ぎていたと思う。素の物言いをよりによってグレイに知られてしまったのだ。恥ずかしすぎる。
「あれがいつものマリーなんだね」
初めて見たよ、と若干黒さの入った笑顔で言うグレイ。私はとうとう耐え切れずに顔を覆った。
「ううう、言わないで。グレイの意地悪」
「僕にもいつものマリーで居てくれていいよ。ゆくゆくは夫婦になるんだし。どんなマリーでも、僕は受け入れるから」
「……本当に?」
「うん」
だが、彼が見たのはほんの一部だ。ハリボテライドや鳥の餌やりの実態を見てもそう言えるのだろうか。狂ったようにヘッドバンギングをしながら「豚共ォ!」とシャウトしても受け入れてくれる?
……いや、何事にも限度はあるか。いずれバレる事でも逃げられないよう、徐々に、徐々に慣らして行かなければな。
やや変態チックな思考で茹でガエル作戦を考えながら、私は「……ありがとう」と微笑みを返してグレイに抱き着いた。
結局、あれから私の時間稼ぎ案が採用され、我が家では歴史を、そして修道院では記録を精査する事に落ち着いた。祖父と兄達が動いてくれる事になったのだ。
歴史は王城の図書館で詳しい資料を探し、修道院は歴史調査だのなんだの適当な理由を付けて日誌を閲覧させて貰う。その間に父がこの件の出所である私の名前が出ない方法を何とか探すとの事。
きっと、父達に任せておけば心配ないだろう。
グレイをそっと離すと、「ところでさ、蓮の花は何時見に来るの?」と訊かれた。
「グレイの都合は?」
「ええっと、僕の予定は――」
訊き返すと、彼が時間が取れる日時を告げられた。比較的ゆっくり時間が取れそうなのは六日後だそう。それぐらいが良さそうだ。
蓮と言えば、早朝にポンと音を立てて開くと聞く。興味があったものの私は前世では見る機会がついぞ無かった事を思い出す。
「花の蕾ってまだ結構ありそう?」
「うん」
「じゃあ、早朝が良いわ。うんと早起きしてグレイの家に行って、花が開くところを見てみたいの」
「なら、僕も早起きしなきゃ」
こうして、蓮デートが決まった。実に楽しみである。
***
何事も無く、六日後の蓮デートの日がやってきた。
今日ばかりは鳥達に餌はやれないので、使用人に餌やりを頼んでいる。朝早く、暗い内から起き出した私は、蓮の花を連想させるような薄衣の桃色グラデーションを重ねた薄手のドレスで身支度を整える。馬車に乗り込むとルフナー子爵家へと向かった。
早朝だし、身内なので出迎え等も不要ですと言って貰っていたのだが、子爵邸の玄関ではグレイと義母レピーシェが出迎えてくれていた。
「おはようございます。お義母様、お久しぶりでございます。お元気でしたでしょうか」
挨拶に加え、早速わざわざ早朝に出迎えて貰った事とレンコンの件のお礼を述べる。義母レピーシェは挨拶を返し、「マリーちゃんもお元気そうで良かったわ」と微笑んだ。
「まさかあの花の根っこが食べられるなんて。グレイから聞いた時は吃驚したわ」
「今日はその確認も兼ねて参りましたの。でも恐らく私の思う植物で間違いないと思いますわ」
義母は朝食を用意するので、後で一緒にねと言って去って行った。私とグレイは蓮が植えられているエリアへ移動する。
うちに比べたら小ぶりだが、それなりの大きさの池があった。そのほぼ全面に大きな葉っぱが埋め尽くされ、所々桃色の花や蕾が顔を覗かせている。それは正しく――
「蓮だわ、間違いない」
花が散ってしまったのか、まだ青い蓮の実もちらほらとある。蓮の実も食べられるそうなんだけど、私にはそのやり方が分からなかった。
「じゃあ根っこが食べられるんだね」
「ええ、楽しみ。あっ、あの蕾は今にも咲きそうね。花が開く時は音がするらしいの。静かにしてましょう」
唇に人差し指を当ててしーっとやる。静かになったところでじっと耳を澄ませる。
風の音、そしてピィピィと小鳥の鳴き声が聞こえる以外は静かになった。
――と。
かそけき音がして、花が開いた。
「あっ、本当だ。音がしたね!」
「ええ、聞こえた!」
ポンという音かと思ったけど、実際に聞くとパサッという感じ。
私達は顔を見合わせると、笑顔になって小さな感動を分かち合った。
私はしばし考える。
「……というか。いきなり国王様とか教皇様とか。話が急ぎすぎだと思うわ。もっと人員を増やして歴史と記録を調べて確実性を高めなければ、奏上したところでホラだと思われて反対に罰せられるのではないの?」
ひとまず時間稼ぎをする事にした。『かも知れない』の段階では不確実だ。もし何も起こらなかったら責任を問われるのも嫌なんだけど。
私の言葉に父も「確かにそうだ」と言う。
「いずれにせよ、人を増やさねばなるまい」
「うんうん! で、その間に話の出所を何とかでっち上げられれば。そう……例えば行きずりの外国の旅人なんかに。マリーはずっとお家に引っ込んでいるの! 社交界でさえ嫌なのに、偉い人の前になんか尚更怖くて出たくないんだもんねー!」
腰に手をあて、ふふんと威張って言う。名も無き外国の旅人であれば調べようがない。それに、ヤバい時代が来るっていう証拠さえ揃えばその対策で忙しくなり、話の出所なんてどうでも良くなる……と良いな。
「……お前、グレイが居る事を忘れているな」
呆れたようなトーマス兄のツッコミ。私ははっと我に返ってばっとグレイの方を振り返る。
彼は目を丸くして私を見ていた。
あっ……。
***
つんつん。つんつん。
私の頬っぺたが突かれている。先だっての報復なのか。
クスクスと忍び笑いをされるも私は頬を熱くして視線を逸らすしかない。グレイ以外は家族で気が緩み過ぎていたと思う。素の物言いをよりによってグレイに知られてしまったのだ。恥ずかしすぎる。
「あれがいつものマリーなんだね」
初めて見たよ、と若干黒さの入った笑顔で言うグレイ。私はとうとう耐え切れずに顔を覆った。
「ううう、言わないで。グレイの意地悪」
「僕にもいつものマリーで居てくれていいよ。ゆくゆくは夫婦になるんだし。どんなマリーでも、僕は受け入れるから」
「……本当に?」
「うん」
だが、彼が見たのはほんの一部だ。ハリボテライドや鳥の餌やりの実態を見てもそう言えるのだろうか。狂ったようにヘッドバンギングをしながら「豚共ォ!」とシャウトしても受け入れてくれる?
……いや、何事にも限度はあるか。いずれバレる事でも逃げられないよう、徐々に、徐々に慣らして行かなければな。
やや変態チックな思考で茹でガエル作戦を考えながら、私は「……ありがとう」と微笑みを返してグレイに抱き着いた。
結局、あれから私の時間稼ぎ案が採用され、我が家では歴史を、そして修道院では記録を精査する事に落ち着いた。祖父と兄達が動いてくれる事になったのだ。
歴史は王城の図書館で詳しい資料を探し、修道院は歴史調査だのなんだの適当な理由を付けて日誌を閲覧させて貰う。その間に父がこの件の出所である私の名前が出ない方法を何とか探すとの事。
きっと、父達に任せておけば心配ないだろう。
グレイをそっと離すと、「ところでさ、蓮の花は何時見に来るの?」と訊かれた。
「グレイの都合は?」
「ええっと、僕の予定は――」
訊き返すと、彼が時間が取れる日時を告げられた。比較的ゆっくり時間が取れそうなのは六日後だそう。それぐらいが良さそうだ。
蓮と言えば、早朝にポンと音を立てて開くと聞く。興味があったものの私は前世では見る機会がついぞ無かった事を思い出す。
「花の蕾ってまだ結構ありそう?」
「うん」
「じゃあ、早朝が良いわ。うんと早起きしてグレイの家に行って、花が開くところを見てみたいの」
「なら、僕も早起きしなきゃ」
こうして、蓮デートが決まった。実に楽しみである。
***
何事も無く、六日後の蓮デートの日がやってきた。
今日ばかりは鳥達に餌はやれないので、使用人に餌やりを頼んでいる。朝早く、暗い内から起き出した私は、蓮の花を連想させるような薄衣の桃色グラデーションを重ねた薄手のドレスで身支度を整える。馬車に乗り込むとルフナー子爵家へと向かった。
早朝だし、身内なので出迎え等も不要ですと言って貰っていたのだが、子爵邸の玄関ではグレイと義母レピーシェが出迎えてくれていた。
「おはようございます。お義母様、お久しぶりでございます。お元気でしたでしょうか」
挨拶に加え、早速わざわざ早朝に出迎えて貰った事とレンコンの件のお礼を述べる。義母レピーシェは挨拶を返し、「マリーちゃんもお元気そうで良かったわ」と微笑んだ。
「まさかあの花の根っこが食べられるなんて。グレイから聞いた時は吃驚したわ」
「今日はその確認も兼ねて参りましたの。でも恐らく私の思う植物で間違いないと思いますわ」
義母は朝食を用意するので、後で一緒にねと言って去って行った。私とグレイは蓮が植えられているエリアへ移動する。
うちに比べたら小ぶりだが、それなりの大きさの池があった。そのほぼ全面に大きな葉っぱが埋め尽くされ、所々桃色の花や蕾が顔を覗かせている。それは正しく――
「蓮だわ、間違いない」
花が散ってしまったのか、まだ青い蓮の実もちらほらとある。蓮の実も食べられるそうなんだけど、私にはそのやり方が分からなかった。
「じゃあ根っこが食べられるんだね」
「ええ、楽しみ。あっ、あの蕾は今にも咲きそうね。花が開く時は音がするらしいの。静かにしてましょう」
唇に人差し指を当ててしーっとやる。静かになったところでじっと耳を澄ませる。
風の音、そしてピィピィと小鳥の鳴き声が聞こえる以外は静かになった。
――と。
かそけき音がして、花が開いた。
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