貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

小人閑居すれども蟄居なれば不善を為すまでもない。

 「まあ!」

 朝食の席で、私は驚いた。
 ルフナー家の面々のカトラリーは全てクァイツだったからである。

 「驚いたかな。あれから必死に練習して使いこなせるようになったのは良いが、今度はこちらの利便性にすっかり慣れてしまってな」

 と義父ブルックが笑う。「ボケ防止にも良さそうだわい」とウインクしてきたのは祖父エディアール。
 私は我に返って全員を見渡すと淑女の礼を取った。

 「大変失礼しました。朝早くからの訪問を許可して頂き、また朝食の御相伴まであずかりまして感謝いたしますわ」

 「他人行儀は要らないわ、マリーちゃん。家族同然ですもの」

 「そうよ。遠慮しないでね」

 祖母パレディーテと義母レピーシェの優しい言葉にお礼を言って席に着くと、私はサリーナからマイ箸を受け取る。
久しぶりのルフナー家では積もる話が沢山あった。

 蓮の花について、早朝を選んだのは開花する瞬間が見られるという事、開花音がしたという話や、根っこであるレンコンが食べられるという話をする。
 義母に「では早速お土産に」と言われたので、花が終わって枯れてしまってから採らせて下さいとお願いしておいた。綺麗に咲いている花を荒らすのは忍びないし、確かレンコンの旬は秋口だった筈だから。
 「そう言えば、私の祖母のラトゥをご存じだったんですね」と祖母パレディーテに話を振ると、「久しぶりに知己に会えて嬉しかったわ」との事。手紙のやりとりも約束したの、と嬉しそうだ。

 「そうじゃ。先日は良い商いをさせて貰ってありがとうのう、マリー」

 少し話が途切れたところで、祖父エディアールが思い出したようににこやかにお礼を述べてきた。

 「そうでしたわ! こちらこそ商会の方をわざわざ呼んで頂いて、良い品をありがとうございました。お蔭様で家族への素敵な贈り物が出来ましたわ。皆、とても喜んでおりましたの」

 私も慌ててぺこりと頭を下げる。グレイに頼んで、皆へのプレゼントを買おうと商人を派遣して貰っていたのである。

 どうせメイソンからのあぶく銭なので、金に糸目を付けず、家族皆にめいめい好きな物を選んで貰ったのだが、弟は見事な造形の木彫りのドラゴン、妹は可愛らしい熊のぬいぐるみのオーダー品。他の家族は上質な筆記用具や扇、装飾品、クラヴァット、帽子といった小物類、小さな文字を読む為のルーペ等を贈る事になった。

 グレイにもどうかと勧めたけど、彼には遠慮されてしまった。まあ自分の商会の商品だしなぁ。

 身内という事で良心的な価格で良い品物を用意してくれていた……らしいというのは街歩きも良くしている我が兄カレルの言。感謝しきりである。

 「ああ、そうだわ、グレイ。実は買い物を済ませてもまだまだそれなりに残っていて。それを投資したいと思っているの」

 何かいい案は無いかしら、と問いかけると、グレイではなく義父ブルックがそれなら、と声を上げた。

 「馬車事業の株式を買っては如何いかがかな」

 そこから辻馬車事業の話題になった。
 株式の売り上げは上々だという義父ブルック。何と、王太子様が株を買って下さったとか。更には既存勢力にも株を売って一枚噛ませて反発を防ぎ、更には余っている御者を回させているそうだ。
 王都の大通りから幹線ルートを定め、徐々に拡大中だそう。話を聞きつけた御者希望者も増えてきており、この分なら王都全体をカバー出来そうなので、今度は王都から近い町や都市に長距離で運行しようと考えているそうだ。

 ほほう、長距離バスか。私も前世、たまの格安旅行や帰省に大いに利用させてもらった。

 「それなら良い考えがありますわ。休憩駅というものを作ってはどうでしょうか」

 休憩駅――とどのつまりはサービスエリアである。

 「人の集中力は二時間が限度だそうですの。それ以上無理をして馬車を走らせていると事故を起こすかも知れません。ですから、二時間程度馬車を走らせる距離で、お手洗い、飲み物や食べ物を買えるような小さな商店、宿泊施設、馬車を停めたり整備したりする場所、馬を休ませる所等を集めた施設を作ると良いと思いますわ」

 その休憩駅サービスエリアで馬を替えたり、馬車の車輪等を整備したり、更には御者を交代制にすれば効率良く運行出来る――そう言うと、義父ブルックは流石は三の姫、とニヒルに笑う。案を採用してくれるそうだ。

 辻馬車の株式は王太子殿下も噛んでいるなら問題無いかも。というか、失敗出来ない事業になったと思うから、万が一の事があっても国庫から金を引き出せる可能性もある。
 残った金の半分で辻馬車の株券を買う事にした。もう半分は別の事業が良い。
 グレイに何かないかと聞くと、まだ株式自体始まったばかりだから、と言われた。それもそうか。

 「というか、キャンディ伯爵家でも事業を興すよね?」

 グレイが言っているのは養蜂事業の事である。株に限らなくてもそれでも良いかも。投資した分の儲けの上がりは小遣いとして貰えるだろうし。

 祖父エディアールに何故残り資金は別の事業にするのかと訊ねられたので、リスク回避の為の分散投資は基本だと伝えれば、その年でしっかりしておるわいと感心された。

 投資の話ついでに、株式の事業者が他にも増えてくると、競争も激化してくる事。そうなれば配当以外の魅力――何らかの株主優待があった方が良いと話す。

 具体的に訊かれたので、例えば辻馬車事業なら期間や距離限定で乗車券を配布するとか、関連商店で株券を提示して買い物をすると割引になるとか色々アイデアがあると話すと、ルフナー家の面々は興味深そうにしていた。

 いつも以上に饒舌じょうぜつに喋ったのは、投資する事になった辻馬車事業の株主優待も出来れば良いな、とのほんの下心である。
 今の私は何不自由の無いお貴族様だけど、それはそれ。これはこれである。
 貰える物は貰っておけ、の魂に刻まれた小市民感覚は未だ健在であった。


***


 蓮デートも無事終わり、数日。

 グレイから辻馬車の株券を買った私は机から引き出したそれを眺めて満足した後、再び大事に自室の机の中に仕舞う。

 私は株券を手に入れてから何度かこれを繰り返していた。サリーナが能面のような顔で見てくるが止められない止まらない。これが私の富を新たに生んでくれると考えるとワクワクする。

 前世でも信楽焼のお狸様に貯め込んだお金を時折出しては数え、時代劇の小悪党の如く金額にほくそ笑みながらあれこれ考えては満足していたものだった。

 そんな思い出に浸りながらそろそろ短パンでも縫おうかと思っていると、「失礼します!」と自室の扉が叩かれる。
 使用人の声がやや緊張を孕んだものである事に、やや表情を険しくしたサリーナ。

 「何事ですか!」

 「も、申し訳ありません、先程、フレール・リプトン伯爵夫人がいらっしゃいまして……マリー様と話をさせろと凄い剣幕なのですが、如何致しましょう!?」

 な、何ですと!?

 扉の向こうから心底困ったような声で聞こえてきた内容に、私は目を見開いた。
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