87 / 758
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
グレイ・ルフナー(44)
僕は商会の方で少々トラブルがあり、それに対処するのに少し時間を取られてしまっていた。それが落ち着いたのは、イエイツ修道士を訪ねてから四、五日程経った頃。やっとキャンディ伯爵家へ訪問出来る。
そう言えば、前のデートの時、マリーは蓮の根っこが食べられると言っていた。輪切りにしてハンコにすると面白いとも。
僕は早速とばかりに母レピーシェの元へ行った。
「……という事があったんだよ。彼女自身が確認にうちに来るだろうけど、僕も興味があるんだ。試しに根っこを輪切りにしてみたいから、少し分けて貰えないかな、お母様」
「まあ、あの根っこが食べられるかも知れないの? 沢山生えているし、そういう事なら構わないわ」
事情を話すと快諾を得たので、僕は庭師を探して根っこを採取させた。それを更に水で泥を落として輪切りにさせる。
断面を見ると、確かに穴が開いている。中央に小さなものが一つ、周囲に大きめなのが円を描くように。ハンコにしたら確かに花のようになるだろう。
それならば、黒インクではなく、色とりどりのものでハンコにする方が見ても楽しめるに違いない。
僕は使用人を呼んで絵の具を用意させた。マリーへの手紙はハンコで紙を飾ってみよう。きっと喜んでくれるに違いない。
そう言えば先日、アールがアナベラ様に向日葵を贈っていた。毎回薔薇を贈るのも何だし、今回は向日葵にしよう。
マリーの蜜色の髪と瞳は、夏の日差しの下ではきっと太陽神の如くきらきらと輝くだろうから。
その様子を想像すると、自然に笑みが零れる。
「何だ、それは。何かの根か。面白いな」
ペタペタと紙にハンコを捺していると、父ブルックがやってきた。
「あの蓮の根っこなんですよ、あなた。マリーちゃんが蓮の根っこが食べられるし、こうして切ってハンコにすると面白いんですって」
母もペタペタやりながら簡単に説明する。最初、興味津々で僕に付き添い、ハンコを捺すのを興味深げに見ていた。しかし鮮やかな花模様が出来上がっていくにつれ、自分も友人の手紙に欲しいと言い出した。今は一緒にハンコを捺していたのだ。
「おお、そう言えばグレイ。殿下は株式制度や辻馬車運用の発案者が誰か気にされていたぞ。そのような智恵者を是非側近に欲しいと仰せになってな。株式制度についてはお前が携わっていると売り込んでおいた」
もしかするとお呼びがかかるかも知れん、とほくほく顔の父。僕は一瞬思考停止した。
「え……? 発案者って、ちょっと!」
――それって嘘を吐いた事になるよね。しかも、王太子殿下に。
僕の言わんとするところを汲み取った父は心外だとばかりに片眉を上げた。
「嘘は言っておらんぞ、発案者がお前だとは一言も言ってない。『株式制度に携わっている』としか言ってないのだからな。
だが、株式制度にしろ馬車にしろ、広まって行けばいずれ発案者が誰かというのは自然に人々の話題に上るだろう。そうなった時には誰かが三の姫の身代わりになる必要がある。
三の姫が表へ出られない分、未来の夫であるお前が多少は矢面に立つべきではないか?」
言ってる事は分かるけど……なるべく慎重、消極的に徐々にやっていくことを考えてたのに。
「マリーの事は勿論秘密として、僕もあまり目立ちたくないんだけど。言っておくけど、マリーの秘密が漏れたらお父様はサイモン様の恨みを買う事になるんだからね。
それに、本当に殿下の側近として抜擢されたら貴族達からやっかみを受けて商売をしにくくなるんだけど。僕達兄弟の婚約話でさえ色々あったのに……」
僕が苦情を言いながら肩を落とすのとは裏腹に、父ブルックは肩を上げた。
「秘密なのは勿論分かっているとも。だから三の姫の事はおくびにも出して無いぞ。だがお前に限っては構わないだろう。何より未来の王の覚え目出度い事は我が家の発展に繋がるのだから。お前が矢面に立って商売し難いのならば俺や爺様が動けばいい」
「……『目立つ鳥は短命』とか『余計なお喋りは災いを呼ぶ』って言うよね」
「お前は気にし過ぎだ。時として大胆に動かなければ機を失うぞ」
父ブルックは宥めるようにくしゃりと僕の頭を撫でる。
「だと良いんだけど……それでもね、」
僕はマリーの事だけは絶対秘密だと父に念を入れて何度も釘を刺した。
それに、動く機会を誤って、それが命取りになる場合もある――そう言いかけて、僕はあまりの不吉さに口を噤んだ。
言葉が現実になる、という迷信だけど、そういうのは何時だって良い事じゃなくて悪い事の方が多い。
少しでも現実になる可能性を減らしたくて。
***
『向日葵のようなグレイへ
先日は向日葵をありがとう。実は向日葵も好きだから、とっても嬉しかったわ。ロマンチックね。
お部屋の窓辺に飾ると、部屋の雰囲気が一気に華やかになったわ。暑さで倒れそうな時は元気を貰えそうよ。
手紙の色とりどりのハンコも綺麗ね。この形はきっとレンコンで間違いないと思うわ。
ああ、ルフナー子爵家に行くのが今から楽しみ!
夏は本当に大変よね。私もグレイと似たような感じ。朝早く活動して、陽射しの強い昼間は家に引きこもっているわ。
汗をかく度に水浴びをしているの。他は井戸で冷やしたお茶を飲んで涼を取っている位よ。
早く涼しい秋になればいいのに。
ところで、私とお父様に相談したい困った事って?
お父様と相談した日付を幾つか書いておくから、その日なら何時でも大丈夫よ。
夏は汗を沢山かくでしょうから、刺繍ハンカチを数枚贈ります。どんどん使ってね。
いつも貴方を見ているマリーより』
恐る恐る包みを取る。どうも三枚程入っているようだ。
一枚目のハンカチをそっと広げてみると、手を広げた形の黒い糸の刺繍がしてある。その下に、『お前を見ている』と文字が縫い取られてあった。
「……」
もしかして、向日葵に込めたメッセージのお返し……かな? それにしては何か……デザイン的に殺し屋の殺人予告みたいだと思うのは気のせいだろうか。相変わらず彼女は独特の感性だと思う。
続けて二枚目を広げてみる。
「な……なん、だって……!?」
僕は思わず驚愕の声を上げた。
二枚目はこれまで貰ったハンカチとは違って随分まともだったからだ。
そこには黒で飛翔するドラゴンのシルエットが刺繍されている。正直に言えば、貰って嬉しい。凄く格好良かった。マリーもいつもこういうのをくれれば良いのに。
ドラゴンに勇気づけられて広げた三枚目も比較的まともだった。蜜蜂と酒瓶の刺繍に『蜂蜜酒を飲もう』という言葉。
サイモン様からの返事には蜜蜂の人工飼育に成功したと書いてあったので、きっとそれ関連なのだろうけど……彼女はもしかして蜂蜜酒が好きなのだろうか。
僕は暫し悩んで、今度の訪問には蜂蜜酒をお土産に持っていこうと決めた。
そう言えば、前のデートの時、マリーは蓮の根っこが食べられると言っていた。輪切りにしてハンコにすると面白いとも。
僕は早速とばかりに母レピーシェの元へ行った。
「……という事があったんだよ。彼女自身が確認にうちに来るだろうけど、僕も興味があるんだ。試しに根っこを輪切りにしてみたいから、少し分けて貰えないかな、お母様」
「まあ、あの根っこが食べられるかも知れないの? 沢山生えているし、そういう事なら構わないわ」
事情を話すと快諾を得たので、僕は庭師を探して根っこを採取させた。それを更に水で泥を落として輪切りにさせる。
断面を見ると、確かに穴が開いている。中央に小さなものが一つ、周囲に大きめなのが円を描くように。ハンコにしたら確かに花のようになるだろう。
それならば、黒インクではなく、色とりどりのものでハンコにする方が見ても楽しめるに違いない。
僕は使用人を呼んで絵の具を用意させた。マリーへの手紙はハンコで紙を飾ってみよう。きっと喜んでくれるに違いない。
そう言えば先日、アールがアナベラ様に向日葵を贈っていた。毎回薔薇を贈るのも何だし、今回は向日葵にしよう。
マリーの蜜色の髪と瞳は、夏の日差しの下ではきっと太陽神の如くきらきらと輝くだろうから。
その様子を想像すると、自然に笑みが零れる。
「何だ、それは。何かの根か。面白いな」
ペタペタと紙にハンコを捺していると、父ブルックがやってきた。
「あの蓮の根っこなんですよ、あなた。マリーちゃんが蓮の根っこが食べられるし、こうして切ってハンコにすると面白いんですって」
母もペタペタやりながら簡単に説明する。最初、興味津々で僕に付き添い、ハンコを捺すのを興味深げに見ていた。しかし鮮やかな花模様が出来上がっていくにつれ、自分も友人の手紙に欲しいと言い出した。今は一緒にハンコを捺していたのだ。
「おお、そう言えばグレイ。殿下は株式制度や辻馬車運用の発案者が誰か気にされていたぞ。そのような智恵者を是非側近に欲しいと仰せになってな。株式制度についてはお前が携わっていると売り込んでおいた」
もしかするとお呼びがかかるかも知れん、とほくほく顔の父。僕は一瞬思考停止した。
「え……? 発案者って、ちょっと!」
――それって嘘を吐いた事になるよね。しかも、王太子殿下に。
僕の言わんとするところを汲み取った父は心外だとばかりに片眉を上げた。
「嘘は言っておらんぞ、発案者がお前だとは一言も言ってない。『株式制度に携わっている』としか言ってないのだからな。
だが、株式制度にしろ馬車にしろ、広まって行けばいずれ発案者が誰かというのは自然に人々の話題に上るだろう。そうなった時には誰かが三の姫の身代わりになる必要がある。
三の姫が表へ出られない分、未来の夫であるお前が多少は矢面に立つべきではないか?」
言ってる事は分かるけど……なるべく慎重、消極的に徐々にやっていくことを考えてたのに。
「マリーの事は勿論秘密として、僕もあまり目立ちたくないんだけど。言っておくけど、マリーの秘密が漏れたらお父様はサイモン様の恨みを買う事になるんだからね。
それに、本当に殿下の側近として抜擢されたら貴族達からやっかみを受けて商売をしにくくなるんだけど。僕達兄弟の婚約話でさえ色々あったのに……」
僕が苦情を言いながら肩を落とすのとは裏腹に、父ブルックは肩を上げた。
「秘密なのは勿論分かっているとも。だから三の姫の事はおくびにも出して無いぞ。だがお前に限っては構わないだろう。何より未来の王の覚え目出度い事は我が家の発展に繋がるのだから。お前が矢面に立って商売し難いのならば俺や爺様が動けばいい」
「……『目立つ鳥は短命』とか『余計なお喋りは災いを呼ぶ』って言うよね」
「お前は気にし過ぎだ。時として大胆に動かなければ機を失うぞ」
父ブルックは宥めるようにくしゃりと僕の頭を撫でる。
「だと良いんだけど……それでもね、」
僕はマリーの事だけは絶対秘密だと父に念を入れて何度も釘を刺した。
それに、動く機会を誤って、それが命取りになる場合もある――そう言いかけて、僕はあまりの不吉さに口を噤んだ。
言葉が現実になる、という迷信だけど、そういうのは何時だって良い事じゃなくて悪い事の方が多い。
少しでも現実になる可能性を減らしたくて。
***
『向日葵のようなグレイへ
先日は向日葵をありがとう。実は向日葵も好きだから、とっても嬉しかったわ。ロマンチックね。
お部屋の窓辺に飾ると、部屋の雰囲気が一気に華やかになったわ。暑さで倒れそうな時は元気を貰えそうよ。
手紙の色とりどりのハンコも綺麗ね。この形はきっとレンコンで間違いないと思うわ。
ああ、ルフナー子爵家に行くのが今から楽しみ!
夏は本当に大変よね。私もグレイと似たような感じ。朝早く活動して、陽射しの強い昼間は家に引きこもっているわ。
汗をかく度に水浴びをしているの。他は井戸で冷やしたお茶を飲んで涼を取っている位よ。
早く涼しい秋になればいいのに。
ところで、私とお父様に相談したい困った事って?
お父様と相談した日付を幾つか書いておくから、その日なら何時でも大丈夫よ。
夏は汗を沢山かくでしょうから、刺繍ハンカチを数枚贈ります。どんどん使ってね。
いつも貴方を見ているマリーより』
恐る恐る包みを取る。どうも三枚程入っているようだ。
一枚目のハンカチをそっと広げてみると、手を広げた形の黒い糸の刺繍がしてある。その下に、『お前を見ている』と文字が縫い取られてあった。
「……」
もしかして、向日葵に込めたメッセージのお返し……かな? それにしては何か……デザイン的に殺し屋の殺人予告みたいだと思うのは気のせいだろうか。相変わらず彼女は独特の感性だと思う。
続けて二枚目を広げてみる。
「な……なん、だって……!?」
僕は思わず驚愕の声を上げた。
二枚目はこれまで貰ったハンカチとは違って随分まともだったからだ。
そこには黒で飛翔するドラゴンのシルエットが刺繍されている。正直に言えば、貰って嬉しい。凄く格好良かった。マリーもいつもこういうのをくれれば良いのに。
ドラゴンに勇気づけられて広げた三枚目も比較的まともだった。蜜蜂と酒瓶の刺繍に『蜂蜜酒を飲もう』という言葉。
サイモン様からの返事には蜜蜂の人工飼育に成功したと書いてあったので、きっとそれ関連なのだろうけど……彼女はもしかして蜂蜜酒が好きなのだろうか。
僕は暫し悩んで、今度の訪問には蜂蜜酒をお土産に持っていこうと決めた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。