貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

幸せな誕生日。

 そして、やってきました誕生日。

 ルフナー家兄弟以外は特に呼ぶ人もおらず、兄姉達のように夜会開催する訳でも無く、ほぼほぼ家族だけの団欒誕生日である。こちとら寧ろこっちが良い。
 食卓には豪華な料理が並び、それを食べ終えると大きなバースデーケーキが運ばれてくる。ちなみにバースデーケーキという概念をこの家に文化として持ち込んだのは私だ。誕生日の歌と蝋燭を吹き消す習慣も。

 クリーム自体は存在している。自然分離のクリームでは足りない泡立て効率を上げる為に卵白を使うというもの。しかし植物の枝や茎を使ってホイップし、泡を少しずつ掬い取るという、私から見て非常に問題のあるやり方をしていたので、慌てて泡立て器を作らせたものだ。

 金属のピックに立てられた十四本の蝋燭に火が灯される。テーブルの上の燭台の火が消された。

 義兄アールやグレイはきっと初めてだろう。「一体何が起こるの、マリー?」と囁かれる。

 「うふふ、うちの誕生日を祝う習慣なの。ケーキの蝋燭は年齢の数だけ灯すのよ。見てて……」

 サリーナがリュートを手に取って音楽を奏で始める。それに合わせて家族や使用人が歌いだした。


 『あなたの誕生日に幸あらん~♪ あなたの誕生日に幸あらん~♪ 親愛なるマリアージュの誕生日に幸あれ~♪』

 文法が英語と近しいので翻訳も楽だった。
 歌が終わったところで、私は全体見渡してありがとうと言って微笑み、ケーキの蝋燭を吹き消した。皆口々におめでとうと言い、拍手を始める。使用人達が燭台に再び火を灯した。

 ケーキが切り分けられ、めいめいに配られる。紅茶も運ばれてきた。

 「素敵な習慣だね。さっきの歌も初めて聞いたよ」

 「ありがとう。単純で覚えやすいでしょう? 誕生日はいつもこうするの」

 「……サイモン様とか蝋燭は凄い数にならない?」

 「ああ、その場合は十を大きめの蝋燭にするとか、数字を型取った蝋燭を使うとか色々やり方があるのよ」

 「成程……」

 私はケーキを口に入れた。葡萄と桃のコンポートが挟んである。正直クリームは前世程ではないが、薔薇の香りがほんのり付けられていて、これはこれでそこそこいける。

 ケーキを食べ終えると今度はプレゼントである。

 父サイモンからは新聞事業の株式。母ティヴィーナからは秋冬用のドレス。
 姉二人からは「今後、必要があると思って」とヴェールとレースの手袋を貰った。
 しかし同じ理由で兄二人からは……何故か装飾付きのSな意味での女王様っぽい仮面。
 何これ、と訊くと、「仮面舞踏会とかで使う奴だ。顔を隠すのにはうってつけだろう?」との事。
 しかしである。これとお婆様の襟を装着して乗馬鞭でも持った日には、アダルト的な意味で奴隷が量産出来そうな勢いなんだが……まあ女王様のバイトは前世やったことがあるけれども。
 微妙な気持ちになったが、一応私の事を考えてくれたんだろうからと受け取った。
 サリーナからはお手製の下着。実用的である。ちなみに馬の脚共はクジャクの檻を用意してくれているそうだ。流石付き合いの長い分、主人の思考回路を読むのに長けている。明日礼を言わねばな。

 義兄アールからは大粒の真珠のネックレスだった。

 「グレイから聞いたのですが、マリーは海がお好きだそうですね。なので少しでも身近に感じられるものを、と思いまして」

 何でも、温暖な南国の海で採れるものだそうだ。見事なネックレス。これ程のものは相当値も張っただろうな。
真珠は割と使いまわしの出来るアクセサリーなので素直に嬉しい。
 グレイにはお米を頼んでいるので、と思いきや。手に何か布が掛かった大きなものを持っていた。

 「ごめん、やっぱりオコメは間に合わなかったよ。手ぶらで来るのも何だし、これを」

 と言って布を取って渡してくれたのは、大きな鳥籠に入ったオカメインコだった。しかも、異世界だからか桃色である。地球には無かった色だ。
 私は目を輝かせた。オカメインコは前世の子供の頃飼っていた事がある。インコはロックな鳥なので大好きだ。

 「まぁ、可愛い!」

 「マリーは鳥が好きだよね。これは異国の鳥で、人の言葉を覚えるらしいんだ。まだ羽が生えそろったばかりで人に慣れるから、手乗りに出来るよ」

 「えっ、本当!?」

 詳しく訊けば、挿し餌も終わっていて自分で餌を食べられるそう。餌は粟やキビ、燕麦等の穀物をあげるらしい。多分セロリとかも喜ぶだろう。

 「嬉しい……大事にするね、グレイ」

 きゅっと手を握って礼を言うと、彼は少し恥ずかしそうにはにかんだ。


***


 誕生日が終わって。

 私は自室でグレイと二人きりにしてもらった。
 先日あった事を話す。ギャヴィンに出くわした事や第一王子殿下に会った事。
 グレイは少し険しい顔をして黙って聞いていたが、「ウエッジウッド子爵には気を付けた方が良いね」とぽつりと言った。

 「ウエッジウッド子爵? アルバート殿下ではなくて?」

 「うん。実際この家の奥までやってきたのは殿下じゃなくて子爵だよね。実は先日、子爵がソルツァグマ修道院にやってきたと聞いたんだ。その時は殿下の使いで視察に来たついでに恋人の為に季節外れのラベンダーを求めたという事らしいけど。父によれば、子爵に恋人はいない筈なんだよ」

 一瞬背筋に氷が下りて来たような思いがした。
 確かにそれは怪しい。私の身辺が探られているのだろう。

 「なるべく子爵には会わない方が良いよ、マリー」

 「……分かったわ。きっと大丈夫よ、もう会う事はないと思うし」

 「うん」

 話が途切れかけたその時。私はグレイに頼み事があったのだと思い出し、重々しい空気を払拭するようにぱちんと手を叩いた。

 「それよりも! グレイ、金貨十二枚でクジャク何羽買えるの?」

 「えっ……クジャク!?」

 目を丸くするグレイ。私はクジャク行為カウントについて話した。

 「それでね、金貨十二枚になったの!」

 話を聞くにつれ小刻みに震えだし、笑いを堪えていた彼はとうとう大笑いを始めた。

 「ク、クジャク行為……しかも数えるなんて! あは、あははっ、ザイン様もお気の毒に! 分かったよ、そう言う事なら金貨十二枚の予算でクジャクを用意してあげる」

 金貨十二枚ならより珍しい純白のクジャクも買えるそうだ。純白と普通のクジャクを用意してくれるらしい。
 ただ、クジャクは蛇意外にも小鳥を食べる事もある割と凶暴な鳥なので、飼育には気を付けた方が良いと言われた。後で馬の脚共に注意事項を言っておかねばな。
 クジャク、楽しみだ。

 さて。

 「ね、グレイ」

 「何?」

 「歌って欲しいわ。誕生日の歌」

 「えっ、今?」

 「グレイにはまだ歌って貰ってないんだもの。歌は覚えてる?」

 「覚えてるけどさ……恥ずかしいよ」

 困った様子のグレイ。じっと期待するように見つめると、ぼりぼりと後頭部を照れ隠しのように掻いて、小さな声で歌ってくれた。
 幸せな夜は更けていく。来年、この人と夫婦になるんだなぁと私はたどたどしくも優しいその歌声に耳を傾けた。
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