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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
グレイ・ルフナー(50)
あの後、修道院内を案内するとの事で僕達は一度席を辞した。男子禁制の区域との境まで来たところで僕は一度別れる。マリーがべリーチェ修道女に連れられて行ったのを見送ると、僕は修道院長の部屋へ戻った。
「おお、グレイ殿。お戻りになりましたか。という事は聖女様は今修道女の棟ですな」
扉を開けると、そこは混沌としていた。イエイツが物凄い勢いで紙に何やら書き付けており、エヴァン修道士は宙を見つめて呆けている。
これは一体どういう状況なんだろう?
メンデル修道院長はというと、机に向かって手紙らしきものを書いている。修道院長に説明を求める視線を向けると、「先程の奇跡に中てられたのでしょうな」と肩を竦めた。
椅子に掛けるとエヴァン修道士と目が合った。顔が青くなっている。
「これは……認めざるを得ない。自分は先程あの方に何てことを……」
「元々マリーは聖女になりたいと思ってなくて、普通の生活を望んでいた人です。事実目立ちたくないからこそ僕に頼んでいたのだから。優しい女性だから大丈夫だと思いますよ」
「ほ、本当に?」
「ええ。婚約者として彼女の人柄は保証します」
僕はマリーの代わりに取りなした。その位の事で怒るような彼女じゃない。
少しホッとした様子のエヴァン修道士に薬草茶を淹れて貰い、それを口にしながら時間を潰していると、扉がノックされて案内が終わったとのべリーチェ修道女の声がした。
戻って来たマリーの服装に僕は目を瞠る。彼女は何と修道女服を着ていたのだ。
「うふふ、似合うかしら、グレイ。還俗した方のものを頂いたのよ?」
くるりと回って見せるマリー。うん、修道女姿の彼女も罪深いほど可愛いな。うっかり神を恐れぬ冒涜的な想像をしてしまいそうになり、僕は慌てて微笑みを浮かべた。
「マリーは何を着ても良く似合うよ。清楚な感じがして良いね」
「せ……マリー様にはもっと相応しい服装があるのでは……」
「この服の方が目立たずに済みますし、皆様とも早く馴染めそうな気がするんですの」
マリーはそう言っているが、僕は思う。
楚々とした服装だからこそ、マリーの美貌が一層際立って却って目立つのでは、と。
しかし本人が気に入って着ているのだから何も言わないでいよう。
***
一週間程が過ぎ。
その間、マリーの祖父母が領地に帰られたと祖母パレディーテ伝てに聞いた他は特に何事も無く。僕の生活は忙しくも充実していた。
どうしても無理な時は兄君達を頼るが、マリーを修道院まで送り迎えする日々。彼女が修道院で学んでいる間、僕は修道院の一室を借りて机仕事をしたり、馬車を走らせて外仕事をしたりしている。
馬車事業は多少の小さな問題はあるものの、概ね順調で、王都民にも好意的に受け入れられている。僕も一度試しに乗ってみたけれど、なかなか便利だった。
停留所に待つ人も多く、便を増やす必要があるだろう。勿論株式も売れていて、身分の貴賤を問わず資産家が争うように買い求めている。こちらは大きく広げ過ぎないように調整するのに苦心している。一株当たりの値段が上がっているのだ。
アルバート第一王子殿下の評判も上がっている。父によれば、先日は殿下にお褒めの言葉を頂いたとの事。
他は、拳銃の開発に進展があった。最初は実験で暴発を繰り返していたそうだが、それも少なくなっているとの事。ただ、弾丸の形状の所為か、思ったより威力が低いのでそこを工夫している段階だそう。だけど、実用化まではそう遠くないだろうと思う。
例のメイソンは、すっかり自堕落な生活をしているようだ。アールによれば、奴が娼館に入り浸っている事にフレールが気付いて今は喧嘩が絶えず、それでますます状況に拍車をかけている様子。
先だってはキャンディ伯爵家にまた乗り込んだと聞いたし、突拍子も無い行動をするフレールこそ注視していた方が良いのかも知れない。
***
今日は書類仕事だ。
一段落片付いたところで、借りている一室の扉が叩かれる。
修道士見習いの少年が現れ、修道院長がお茶は如何との事。
そう言えば、夏至祭のラベンダーリースは良く売れていた。秋から冬にかけては畑は養生させなきゃいけない。来年を見込んでは畑の拡充を考えている。ついでにその話もするとしよう。
「おお、グレイ殿」
「お茶にお誘い下さり、ありがとうございます」
僕は修道院長室に行って挨拶をすると、勧められた席に座った。見習いの少年がお茶を注いでくれる。
「そう言えば、夏至祭ではリースが大変喜ばれたとか」
「ええ、今年は良く売れましたぞ。かの小説の効果は素晴らしいですな!」
院長は小説の事も知っているようだ。かなり流行っているから当たり前か。マリーが書いた物だという事は伏せて置こう。
「つい昨日も、さる貴族の方が使いで来られた際、ついでにラベンダーの花束を求められましてな。恋人に贈るのだと。生花が手に入りにくいので巷でも値が上がっておるようで」
「まだ売れているんですね」
だったら来年もちょっとは期待出来そうかな。ただ、流行は水物だから少しだけ。
僕は畑の拡充の相談を持ち掛けた。院長は「少しだけなら何とか人手をやりくりしてみましょう」と言う。秋冬にラベンダーを休ませている間は、修道院の収入源は献金や各種儀式の謝礼以外では薬作りや果樹の実りがメインになるので、そっちも疎かに出来ないのだ。僕はあまり無理しない範囲でお願いしますと頭を下げた。
「おお、グレイ殿。お戻りになりましたか。という事は聖女様は今修道女の棟ですな」
扉を開けると、そこは混沌としていた。イエイツが物凄い勢いで紙に何やら書き付けており、エヴァン修道士は宙を見つめて呆けている。
これは一体どういう状況なんだろう?
メンデル修道院長はというと、机に向かって手紙らしきものを書いている。修道院長に説明を求める視線を向けると、「先程の奇跡に中てられたのでしょうな」と肩を竦めた。
椅子に掛けるとエヴァン修道士と目が合った。顔が青くなっている。
「これは……認めざるを得ない。自分は先程あの方に何てことを……」
「元々マリーは聖女になりたいと思ってなくて、普通の生活を望んでいた人です。事実目立ちたくないからこそ僕に頼んでいたのだから。優しい女性だから大丈夫だと思いますよ」
「ほ、本当に?」
「ええ。婚約者として彼女の人柄は保証します」
僕はマリーの代わりに取りなした。その位の事で怒るような彼女じゃない。
少しホッとした様子のエヴァン修道士に薬草茶を淹れて貰い、それを口にしながら時間を潰していると、扉がノックされて案内が終わったとのべリーチェ修道女の声がした。
戻って来たマリーの服装に僕は目を瞠る。彼女は何と修道女服を着ていたのだ。
「うふふ、似合うかしら、グレイ。還俗した方のものを頂いたのよ?」
くるりと回って見せるマリー。うん、修道女姿の彼女も罪深いほど可愛いな。うっかり神を恐れぬ冒涜的な想像をしてしまいそうになり、僕は慌てて微笑みを浮かべた。
「マリーは何を着ても良く似合うよ。清楚な感じがして良いね」
「せ……マリー様にはもっと相応しい服装があるのでは……」
「この服の方が目立たずに済みますし、皆様とも早く馴染めそうな気がするんですの」
マリーはそう言っているが、僕は思う。
楚々とした服装だからこそ、マリーの美貌が一層際立って却って目立つのでは、と。
しかし本人が気に入って着ているのだから何も言わないでいよう。
***
一週間程が過ぎ。
その間、マリーの祖父母が領地に帰られたと祖母パレディーテ伝てに聞いた他は特に何事も無く。僕の生活は忙しくも充実していた。
どうしても無理な時は兄君達を頼るが、マリーを修道院まで送り迎えする日々。彼女が修道院で学んでいる間、僕は修道院の一室を借りて机仕事をしたり、馬車を走らせて外仕事をしたりしている。
馬車事業は多少の小さな問題はあるものの、概ね順調で、王都民にも好意的に受け入れられている。僕も一度試しに乗ってみたけれど、なかなか便利だった。
停留所に待つ人も多く、便を増やす必要があるだろう。勿論株式も売れていて、身分の貴賤を問わず資産家が争うように買い求めている。こちらは大きく広げ過ぎないように調整するのに苦心している。一株当たりの値段が上がっているのだ。
アルバート第一王子殿下の評判も上がっている。父によれば、先日は殿下にお褒めの言葉を頂いたとの事。
他は、拳銃の開発に進展があった。最初は実験で暴発を繰り返していたそうだが、それも少なくなっているとの事。ただ、弾丸の形状の所為か、思ったより威力が低いのでそこを工夫している段階だそう。だけど、実用化まではそう遠くないだろうと思う。
例のメイソンは、すっかり自堕落な生活をしているようだ。アールによれば、奴が娼館に入り浸っている事にフレールが気付いて今は喧嘩が絶えず、それでますます状況に拍車をかけている様子。
先だってはキャンディ伯爵家にまた乗り込んだと聞いたし、突拍子も無い行動をするフレールこそ注視していた方が良いのかも知れない。
***
今日は書類仕事だ。
一段落片付いたところで、借りている一室の扉が叩かれる。
修道士見習いの少年が現れ、修道院長がお茶は如何との事。
そう言えば、夏至祭のラベンダーリースは良く売れていた。秋から冬にかけては畑は養生させなきゃいけない。来年を見込んでは畑の拡充を考えている。ついでにその話もするとしよう。
「おお、グレイ殿」
「お茶にお誘い下さり、ありがとうございます」
僕は修道院長室に行って挨拶をすると、勧められた席に座った。見習いの少年がお茶を注いでくれる。
「そう言えば、夏至祭ではリースが大変喜ばれたとか」
「ええ、今年は良く売れましたぞ。かの小説の効果は素晴らしいですな!」
院長は小説の事も知っているようだ。かなり流行っているから当たり前か。マリーが書いた物だという事は伏せて置こう。
「つい昨日も、さる貴族の方が使いで来られた際、ついでにラベンダーの花束を求められましてな。恋人に贈るのだと。生花が手に入りにくいので巷でも値が上がっておるようで」
「まだ売れているんですね」
だったら来年もちょっとは期待出来そうかな。ただ、流行は水物だから少しだけ。
僕は畑の拡充の相談を持ち掛けた。院長は「少しだけなら何とか人手をやりくりしてみましょう」と言う。秋冬にラベンダーを休ませている間は、修道院の収入源は献金や各種儀式の謝礼以外では薬作りや果樹の実りがメインになるので、そっちも疎かに出来ないのだ。僕はあまり無理しない範囲でお願いしますと頭を下げた。
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