貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

「やられたらやり返す、百倍返しだ!」

  「マリー、アルバート殿下からのお返事を受け取ったのだけれど……少し相談に乗って欲しくて。殿下は今お仕事でお忙しいみたいだから頼れないみたいなの。私はどうしたら良いかしら? やはり貴女の言う通り、ザイン様を呼び出して直接問い詰めるしか……」

 昼食が終わり、部屋でゆっくりくつろいでいるとアン姉がやってきてそうのたまった。
 返事、思ったより早く来たなというのが私の感想である。手紙を書いて送ったのが昨日、異例の速度と言っても良い。
 恐らくアン姉の手紙を改めた後、すぐに返事を書いたに違いない。アン姉の事をそれだけ殿下が重んじているという事だろうか、それとも。

 「というか、手紙には何が書いてあったの?」

 訊けば、アン姉は腰巻ポケットから手紙を取り出して渡して来たので目を通す。
 追伸まで読み終わると、思わず眉間に皺が寄った。

 内容を要約すると、殿下は力になりたいのは山々だが、今はザイン個人の事よりも教育制度の事で頭を悩ませているので難しいかも、という事だった。ザインの事については出来る限りのことをするが、期待はしないで欲しいと。追伸にはマリアージュ姫はお元気ですか、手紙の返事は何時でも構わないと伝えて置いて欲しいという内容。

 私はピンと来た。

 つまりこれは……アン姉宛に見せかけた私宛の手紙かも知れない。取引しろということだろうな。私が教育制度について助言をすればアン姉を助けてやると。

 恐らくはあのギャヴィンの入れ知恵だろう。奴のニヤニヤ顔が思い浮かび、そうきたかと思う。随分手の込んだ事をしやがる。
 無視してダディサイモンに頼るか? いや、相手はウィッタード公爵家――公爵と言えば準王家でもある。伯爵に過ぎないダディが口を挟めばややこしい事になるかも知れないし、大した事が出来ないかも。やはりクジャク野郎の上司である殿下からの方が身分的に波風は立ち難いだろう。
 となればやはり助言をしないわけにはいかなくなった。正直相手の策に嵌まるようで非常に面白くないが、アン姉の為ならば仕方がない。

 「アン姉、気を落とさないで。私が何とかしてみる」

 「何とかって……貴女何をするつもりなの?」

 「何って……私が殿下から受け取った手紙へのお返事を書くだけよ? それで殿下が悩まれている教育制度について少しでも助けになるような事と、アン姉に対する助力を改めて頼むつもり」

 勿論それだけじゃないがな。何か一言言ってやらないと気が済まない。

 「でも、マリー。それは……」

 アン姉が渋る。心配そうな顔だ。言いたい事は分かる。

 「私の心配をしてくれているのならきっと大丈夫よ、私が殿下と会うのは一度きりってアン姉が約束してくれたんでしょ?」

 そう受け合うと、じゃあまた後でとアン姉を見送る。そして私は殿下への返信をしたためた。ありったけの考えを書き連ねて行く。

 子供を労働力と見込む民からの不満を給食で解決する案。最初は半日からとか徐々に導入して行ったり、農繁期には休暇制度を設ける事や、そうでない時期に集中して学ばせる事等やりようがある。
 また、学校を建設する際や給食制度で地元に生まれる仕事。地方の経済活性化にも貢献する事だろう。また、庶民を教えるのに適した教師はやはり庶民である事から、教科書作りや教員雇用には職人や商人等の家の長男以外を活用する案。また道徳教育について教会に協力を仰ぐ案――。
 最初は読み書きそろばんが最低限だろうが、未来予想図としてそれを発展した形である現代日本的小中学校におけるカリキュラムの数々についても触れておいた。

 つらつらと書き連ねて便箋十枚は軽く超えたと思う。求められた分だけの回答であれもあったこれもあったとのらくら引き延ばされてはかなわない。全力で百倍返しだ! 教育制度についてここまで書いてやればアホでも何とかなるだろう。
 勿論文末にはアン姉に何卒ご助力下さいと書き添える事も忘れない。未来のトラス王国を統べる王になられるアルバート第一王子殿下の側近でもあるザイン様が婚前に不品行による醜聞に塗れることは我が家としても望ましくありませんともチクリとギャヴィン宛の嫌味を書いておく。この手紙はきっと奴も読むだろうしな。
 殿下を動かすには、上司である殿下に部下ザインへの管理監督責任があるという事を突くのが一番だ。ザインへの評価は殿下への評価にも繋がるのだから。

 ……ふむ、こんな感じで良いか。

 私は手紙(というか半分進言書)を読み直し、紙で包んで封蝋をすると王宮に届けるように使用人にことづけた。
 動いてくれるように願っているが、そうでなかったら最終手段のザイン吊るし上げしかなくなってしまう。そうならない事を祈る。

 さて、どうなる事やら。



***



 「どうなるもこうなるも、そこまで書かれたら流石に殿下は動かざるを得なくなると思うわ」

 というのは、私の手紙の内容を聞いたアナベラ姉の意見。

 「言われてみれば確かにマリーの言う通りだもの。王となるべく奮闘していらっしゃる中、側近が不祥事を起こせば痛いでしょうね。叱るか切り捨てるかのどちらかでしょうけれど、ザイン様の場合は何と言っても公爵家のお家柄。身分的には恐らく前者でしょうね。それにまだ醜聞にまでは至っていないんですもの」

 そう言ってアナベラ姉は紅茶を啜る。だよね。
 殿下への返事を書いた数日後。私は姉二人と共に喫茶室でお茶会という名のプチ家族会議をしていた。勿論話題はザインについてである。

 「だといいのだけれど……」

 アン姉はまだ心配顔だ。
 「きっと大丈夫よ」と励ましながら、アン姉が好きそうな話をしたりお菓子を摘まんだりしていると、コンコンと扉がノックされる。
 アナベラ姉の侍女が開けに行くと。

 「ご歓談中のところ、申し訳ありません。あの……リプトン伯爵夫人がいらっしゃってアナベラ様と話をさせろと仰っておりますが」

 如何致いかがいたしましょう、追い返しますか――そう困惑した表情で歯切れ悪くお伺いを立てる使用人。
 思わぬ来訪者に、私達は顔を見合わせた。
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