貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

聖女誕生。

 聖女認定の儀式当日――。

 家族や事情を知る姻戚となったルフナー家兄弟の列席の下、儀式は密やかに、そして厳かに執り行われた。何故か馬の脚共もしれっと騎士っぽい格好で列席しているのがやや気になるが。きっと父に無理を言ったのだろう。
 勿論表向きはアン姉やアナベラ姉、そして私の結婚式に関する最終確認と打ち合わせとして集まった事になっている。何か訊かれる事があっても自然な理由であり、疑われる事はまず無いだろう。

 あれからサングマ教皇に改めて『来たるべき災厄』について説明した。勿論日本で得た知識であるという事と、高確率でやってくるであろうということも。
 教皇はトラス王に面会し、私の名を出さずに話をしてくれる事を約束してくれた。聖地に帰る途中に寄る国々にもそのようにしてくれるそうだ。本当に頼もしくありがたい限りである。
 話のついでにいろは歌の意味についても教えてあげると、サングマ教皇は「それを知る事の出来た教皇は恐らく私が初めてでございましょうね。恐らく初代聖女様の深い御心の内でもあったのでしょう」と大層喜んでメモを取っていた。後代に残していくらしい。

 儀式もいよいよ大詰め。太陽を背に天馬に乗った聖女やその周りを飛び交う数多の鳥達が描かれた大きなタペストリーが掲げられている上段に立つと、サングマ教皇が『聖女への寿ぎ』を朗々と諳んじた。それが終わると私はシャラリと涼やかな音を立てて錫杖を掲げる。

 「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、天空に輝ける太陽神ソルヘリオス」

 太陽神の御名を唱える。「この世の遍く人々へ光明の幸いあれ!」
 錫杖を信徒席の方へ向けて満遍なくシャラシャラと鳴らしながら遍く人々への祝福を述べた。列席者は全員頭を垂れて祝福を受け取っている。神道の厄払いの儀式を思い出すのはきっと気のせい。

 「今ここに、新たな聖女が認められた」

 サングマ教皇が厳かに宣言をし、列席者は皆寿ことほぎを述べる。ここで儀式は終わり、私は本当に聖女となったのである。


***


 「――と言ってもやる事は今までと大して変わらないんだけれどね」

 儀式の日から数日後。ルフナー子爵家の馬車の中、私はグレイと向き合っていた。
 災厄への対策はサングマ教皇や国にお任せだし、聖女としての勉強を続けるぐらい。他は聖女が必要な儀式を頼まれるぐらいだけど、それも滅多に無いし。

 儀式の後はちょっと大変だった。着替えて面会した家族やグレイ達が若干丁寧、というかよそよそしくなった感じがしたのだ。そのぎこちなさに耐えきれず理由を突っ込んで訊けば、「マリーが何だか遠くに感じて……」とグレイが代表して言う。あー、あの聖女の衣装なぁ。儀式という舞台装置も相俟ってそんな風に思われたのだろう。

 「私は私よ、遠くに行った覚えなんてないけれど。それにグレイ、貴方は商人でもあるのでしょう? 箱が豪華ってだけで惑わされちゃ駄目じゃない!」

 腰に手を当ててグレイの鼻先に指を突きつけて頬を膨らませると、「そうだった、いつものマリーだね」と苦笑する。カレル兄が「こんな威厳の無さでお前に聖女様が本当に務まるのか?」と茶々を入れ、父達が全くだと同意する。母や姉達がクスクスと笑い出し、皆の雰囲気も和らいでいつもの調子に戻った。

 ……絶対に隠密ステルス状態を保って聖女引退まで乗り切ろう。

 そんな事を思い出しながら改めて決意していると、グレイが「聖女が存在しているって事そのものが教会にとっては大切なのかもね」と相槌を打つ。

 「僕としてはそっちの方が嬉しいよ。こうしてマリーが傍に居てくれて、デートにも一緒に出かけられるから」

 「ま、まぁ、グレイったら」

 グレイが嬉しい事を言ってくれ、頬が熱くなってテンションも上がる。そう、今日は待ちに待った感謝祭の日。お忍びデートなのである!

 今の私の服装は商家のお嬢さんをコンセプトにした軽装のロングワンピース。グレイもそれに合わせたものだ。
 収穫の感謝を捧げる秋のお祭りなので、ワンピースは秋色を基調とし、胸元には秋薔薇のコサージュを飾る。頭には日差しがまだそれなりに強いのとお忍びであることからつばの広いレースを使ったサンボンネット。それを三つ編みしたお下げの上に被っていた。ちなみにボンネットには秋薔薇に林檎や葡萄のモチーフが愛らしく素敵に飾られている。私的にはドレスよりもこっちの方が好きかも。

 「若旦那、これ以上は進めませんよ」

 「分かった、ではここで降りよう。手筈通りにね」

 「はい、ごゆっくり」

 グレイのエスコートで馬車を降りる。使用人の馬車からもサリーナやグレイの手配した護衛の方々が降りた。めいめい着飾った人々が浮き足立って行き交う賑やかな通りを見渡すと、私は思わず歓声を上げた。

 「わぁ……あれがバザールなの?」

 「そうだよ、マリー。ほんの入り口だけどね」

 人々の大部分は同じ方向に向かって歩いていた。そちらを向くと少し離れたところにバザールと思われる露天が軒を連ねているのが見える。露天同士の間には色とりどりの三角旗が渡され、入り口付近では道化の格好をした人達がお手玉や玉乗りなどを披露していた。

 「さぁ、行こう! 迷子にならないように、僕の手を離さないでね」

 「ええ!」

 グレイの手に引っ張られ、祭りの雰囲気に誘われるように私は心躍らせながら歩き出した。
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