貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

グレイ・ルフナー(57)

 僕はキャンディ伯爵家にやってきていた。今日は跡取りのトーマス様の婚約者、未来のキャンディ伯爵夫人であるキャロライン様が昼のパーティーを開催されている。
 何でも、花嫁修業の一環としてのパーティーを主催する、というものだそうだ。未来の伯爵夫人ともなれば、今後そうした事は増えていくのだろうから。

 アールはアナベラ様をエスコートする為に最初から出席している。先日、マリーに会った時――彼女が出席しないと言うので僕はエスコートする必要が無い。なので、仕事を終えてから向かい、途中参加で少し顔を出すだけにしようと決めていた。
 パーティーの途中で会場入りをした僕は、トーマス様を探した。きっとそこに主催者であるキャロライン様もいらっしゃるに違いない。

 トーマス様を見付けて近づく。トーマス様もこちらに気付いたようで、僕の姿を認めると、隣の女性を突いた。振り返ったその人は、豪奢な金の巻き毛、赤いドレスの勝気そうな女性で、立ち姿が美しい。
 国防を司るフォション辺境伯家の長女である彼女自身、武器を取って戦う女軍人だと聞き及んでいるのでそのせいなのだろう。

 「キャロライン、こちらはマリーの婚約者、グレイ殿だ。さっき会った、アナベラの婚約者の弟だよ」

 「まあ、貴方がマリアージュの! 初めまして、キャロライン・フォションですわ。お噂はかねがね。これから付き合いも増えるでしょうし、今後ともよしなに」

 淑女の礼を取ったキャロライン様はきりりとした笑顔を浮かべた。僕も紳士の礼を取って微笑む。

 「初めまして。グレイ・ルフナーと申します。お会いできて光栄です。こちらこそよろしくお願いします、キャロライン様」

 「ご兄弟ね、よく似ていらっしゃるわ。今度お会いする時は是非ともマリアージュをエスコートして引っ張って来て下さいな。他人がどうしても苦手だってかわされてしまいましたから。
 幾ら人見知りでも貴方のような心安い方が傍にいてくれれば、きっとあの子も大丈夫だと思いますわ」

 「今月は感謝祭の準備で多忙にて、今日は私も途中からの参加となってしまってエスコートできなかったというのもあります、その御無礼をお詫び致します。今後、機会があれば是非」

 僕はさりげなくフォローを入れた。マリーはああいう子だから悪気は無いんだろうけど、今後同じような誘いがあった場合、一度は出席しておいた方がいいと思う。

 「マリーは部屋にいるが、グレイはこれからどうするんだ?」

 「ええ、少しご挨拶をして――マリーに会ってから帰ろうと思います」

 トーマス様達の所を辞した僕は、サイモン様ご夫妻を探した。他のご家族にも簡単にご挨拶を済ませてから会場を後にする。
 勝手知ったるキャンディ伯爵家。マリーの部屋へと歩いていると、「待ってください!」と誰かの声が追いかけてきた。
 振り向くと、そこにはギャヴィン・ウエッジウッドの姿。彼は慌てたようにこちらに駆けて来ていた。少々着衣が乱れているのが気になる……まさか女性を昼間から個室に引っ張り込んでいたりとかはしてないよね?
 僕は作り笑いを浮かべた。

 「これはギャヴィン殿。お久しぶりです。僕に何か?」

 ギャヴィンは走って来たのか少し息を乱している。僕に追い付いてホッとしたのか、にこりと笑った。

 「ああ、良かった、追い付きました。あの、アルバート殿下の付き添いで私もパーティーに居たのですよ。貴方をお見かけしたので急いで追って来たのです」

 「そうですか。ところでお召し物は大丈夫ですか? 失礼ですが、まだ日は高いというのにまるで夜の嵐にでも遭われたように見えますよ

 笑顔は崩さないまま、独特の言い回しでちくりと嫌味を言うと、ギャヴィンは今気づいたとでもいうようにああ! と声を上げた。

 「誤解です、これはそんな艶めいたものではなく! 粗忽にもワインで汚してしまいましてね、替えの服に着替えようとしていたのです。グレイ殿をお見かけして引っ掛けたまま慌てて追って来たので、大変な失礼を」

 ギャヴィンは慌てて衣服を整えた。確かに近くで白粉の匂いがする訳でもないので、きっと本当の事なのだろう。

 「そうまでして慌てて追って来られるなんて、余程の用事なのですか?」

 「用事そのものは大したものではないのですが、殿下の御命令なのです。マリアージュ姫のご機嫌伺いをして来いとの仰せで。姫との約束で、殿下が訪ねる事は叶いませんから。
 ただ、私一人がお訪ねするのもと思っていたところ、グレイ殿がパーティーに来られると聞きまして。お待ちしていたんです、御一緒して頂けませんか?」

 僕は聞き捨てならなかった。何故第一王子ともあろうお方が一令嬢を気にするのか。

 「ご機嫌伺い? 殿下がマリーに興味をお持ちなのですか?」

 「いえ、実は先日、この国の教育制度についてマリアージュ様に知恵をお貸し頂きまして。殿下はその事にいたく感心されていらっしゃったのですよ。マリアージュ様の知恵と才に興味をお持ちなのです」

 首を振って否定したギャヴィン。少しほっとするも、どこか釈然としないものが残る。

 「……それなら良いのですが」

 そういう事なら、と僕はしぶしぶギャヴィンの同行を許可した。僕がいない所でマリーを訪ねられても嫌だし。


***


 マリーの部屋の扉をノックすると、侍女が出た。いつものサリーナではない。

 「これはグレイ様。今、マリー様はお庭に出られている筈です。お戻りになるまで別室でお待ちになりますか?」

 「いえ、お気遣いなく。庭に向かってみます」

 「かしこまりました」

 マリーがいつも庭に降りる時はいつもの屋根付きの渡り廊下の途中にある階段からだ。そちらへ向かう途中、僕の耳が異変を拾った。

 「嫌、誰か助けて! グレイー!!」

 空耳じゃない。確かに彼女の悲鳴が聞こえた。しかも僕の名を呼んで、助けを求めている!?

 「マリー!」

 僕は仰天し、慌てて駆け出した。
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