貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
144 / 758
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

男は黙って大盛で。

 ふわわん、とカレーの香ばしい匂いがそこら中に漂い、皆期待に満ちた表情で大鍋を見詰めている。私達は庭にある一番大きな東屋に準備されていた席に座った。

 やがて皿が運ばれてきて、使用人が給仕を始めた。ご飯を盛ってカレーを入れ、端っこにキンピラを添えていく。
 一番に運ばれた祖父エディアールと義父ブルックがしげしげと見つめ、香りを嗅いでいた。

 「ほほう、同じような料理を異国人が食べておるのを見たことがある。じゃが、あれよりもどろりとしておるのう」

 「これはシチューと同じく小麦粉とバターを使っておりますの。お祖父様がご覧になったのは恐らく小麦粉とバターの代わりに野菜を磨り潰した物を使って作られたものかと思いますわ」

 「ふむ、見た目は少しアレだが、何とも良い香りだ。これは何という料理かな、三の姫」

 「『カレーライス』というのですわ、お義父様。匙で掬って食べますのよ」

 「まあ、それなら子供でも気軽に食べられそうねぇ」

 「肉と野菜を煮込んでマリーちゃんの持ってきた『ルー』というものを溶かすだけ。簡単に異国の料理が味わえるなんて。味次第では良い商売にもなりそうだわ」

 「ええ、お義母様、お祖母様。ルー自体を作るのは難しくありませんわ、ただ香辛料の配合比率が肝心なのです。今日作ったものは基本的なもので、蜂蜜を加えて辛さを抑え、食べやすくしていますの。お口に合えばよいのですが……」

 「私も家で試作品を何度か頂きました。確かに辛い料理ですが、ただ辛いだけではなく複雑で深みのある味わいで美味でしたわ。もし、辛いと思われれば、お好みで蜂蜜をお使い頂ければと存じます。
 また、こちらの飲み物は妹によればヨーグルトとミルク、蜂蜜を混ぜた『ラッシー』という飲み物だそうで、『カレーライス』に合うとか」

 そんな会話をしながらカレーがその場にいる全員――給仕する使用人は交代制なので除くが――に行き渡ると、食前の祈りが行われ、和やかな会食が始まった。

 「! ――これは何と美味い」

 「二の姫の言う通り何とも複雑に絡み合った味だ。それでいて程良い辛さで口当たりも悪くない」

 「辛いというから少し身構えていたけれど、私でも食べられるわね」

 「美味しいわ、とっても!」

 カレーライスを一口食べた祖父母と義父母の反応は非常に好評だった。義兄アールとグレイは匙が止まらないとばかりに無言で食べている。
 東屋の外では給仕役以外の使用人が敷物を引いて座って食前の祈りをしていた。それが終わるとルフナー家の執事が彼らの前に立ち、声を張り上げる。

 「使用人である私共までこのような貴重な異国料理の御相伴に預かる事は滅多に無い事です。皆、心して食すように! アナベラ様、マリアージュ様――使用人一同を代表してお礼を申し上げます」

 続いて使用人達がありがとうございます、と口々に感謝の言葉を述べた。アナベラ姉は「遠慮せず、どうぞ召し上がって下さいね」と微笑み、私は「良かったら後で忌憚無く味の感想を聞かせて欲しいわ」と声を掛けておく。
 ネックは値段だけど、その問題さえクリア出来れば手軽に作れるカレーはフランチャイズにうってつけ。良い商売になると思ったからだ。

 前世でもカレーライスは嫌いな人が居るのかと言うぐらいのメジャー料理である。有名カレーチェーン店も人気だったからなぁ。

 「お代わり!」

 「僕も!」

 一早く食べ終え、まだ足りないとばかりにフードファイターの如く空の皿を使用人に差し出したのはルフナー家兄弟二人。そういえばうちの男兄弟達も二人のような勢いこそはないものの全員お代わりをしていたなと思い出す。
 アナベラ姉は目を丸くし、義母レピーシェはあらあらまあまあと呆れたように声を上げた。私、まだ半分も食べてないのに。感想を聞くまでもない、思ったよりも気に入ってくれたようである。

 ……給仕してくれてる使用人が不安そうな目をしてる。彼らの分もちゃんと残してあげてね、二人共。



***



 「うぅ、食べ過ぎた……お腹が」

 お腹をさすりさすり歩くグレイ。食事が終わった後、私とグレイは食後の運動として庭を散歩していた。アナベラ姉と義兄アールも同じような状況だろう。

 「凄い勢いで食べてたわよね、グレイも、アールお義兄様も。給仕の人が自分の分は残るのかってハラハラしていたわよ」

 からかい交じりに言うと、彼自身自覚していたのか苦笑いを浮かべる。

 「仕方ないよ、何杯でもいけそうな程美味し過ぎるんだもの。あの『カレーライス』って悪魔のような料理だね」

 何とか彼らの分も確保出来て本当に良かった。給仕役の人達とお代わり組は今頃カレーライスに舌鼓を打っている頃だろう。あれだけ大鍋に大量に作ったのにほぼ完売御礼、カレーライスのインパクトはそれほど凄かったようである。

 問題さえクリア出来ればフランチャイズに出来そうだと言えば、グレイは大貴族の領都など高級店としてなら出来るかもと言う。やっぱりそうか。料理店の場合、地産地消でこの国で採れるもので作る料理の方が良いのかもしれない。
 庶民を相手に薄利多売で商売するには大量生産は必須。安い労働力の確保と技術を囲い込んで投資する必要がある。それにはまだ時間が必要。そこはおいおい考えていくとして。

 やはり気になるのは王子達の権力争いについてだ。あの日、グレイは株式等の報告もあるからという事で執務室に残り、ダディサイモンと何やら話していたようだけど……。

 はぁ、と小さく溜息を吐いた。安心のニート生活を目指して頑張っていたのに何でこんな厄介な事になっているんだろう。
 正直に言えばどちらにも関わりたくない。中立派であるダディも同感だろう。権力争いは勝手にやってて欲しい。
 でも、現ルフナー子爵家当主である義父ブルックはどう考えているんだろう? グレイは保留していたけど……義父は馬車事業の事で第一王子派みたいな感じになってるんだし。

 「ねぇ、グレイ……」

 私は思い切ってグレイに切り出した。
感想 1,014

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」