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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
男は黙って大盛で。
ふわわん、とカレーの香ばしい匂いがそこら中に漂い、皆期待に満ちた表情で大鍋を見詰めている。私達は庭にある一番大きな東屋に準備されていた席に座った。
やがて皿が運ばれてきて、使用人が給仕を始めた。ご飯を盛ってカレーを入れ、端っこにキンピラを添えていく。
一番に運ばれた祖父エディアールと義父ブルックがしげしげと見つめ、香りを嗅いでいた。
「ほほう、同じような料理を異国人が食べておるのを見たことがある。じゃが、あれよりもどろりとしておるのう」
「これはシチューと同じく小麦粉とバターを使っておりますの。お祖父様がご覧になったのは恐らく小麦粉とバターの代わりに野菜を磨り潰した物を使って作られたものかと思いますわ」
「ふむ、見た目は少しアレだが、何とも良い香りだ。これは何という料理かな、三の姫」
「『カレーライス』というのですわ、お義父様。匙で掬って食べますのよ」
「まあ、それなら子供でも気軽に食べられそうねぇ」
「肉と野菜を煮込んでマリーちゃんの持ってきた『ルー』というものを溶かすだけ。簡単に異国の料理が味わえるなんて。味次第では良い商売にもなりそうだわ」
「ええ、お義母様、お祖母様。ルー自体を作るのは難しくありませんわ、ただ香辛料の配合比率が肝心なのです。今日作ったものは基本的なもので、蜂蜜を加えて辛さを抑え、食べやすくしていますの。お口に合えばよいのですが……」
「私も家で試作品を何度か頂きました。確かに辛い料理ですが、ただ辛いだけではなく複雑で深みのある味わいで美味でしたわ。もし、辛いと思われれば、お好みで蜂蜜をお使い頂ければと存じます。
また、こちらの飲み物は妹によればヨーグルトとミルク、蜂蜜を混ぜた『ラッシー』という飲み物だそうで、『カレーライス』に合うとか」
そんな会話をしながらカレーがその場にいる全員――給仕する使用人は交代制なので除くが――に行き渡ると、食前の祈りが行われ、和やかな会食が始まった。
「! ――これは何と美味い」
「二の姫の言う通り何とも複雑に絡み合った味だ。それでいて程良い辛さで口当たりも悪くない」
「辛いというから少し身構えていたけれど、私でも食べられるわね」
「美味しいわ、とっても!」
カレーライスを一口食べた祖父母と義父母の反応は非常に好評だった。義兄アールとグレイは匙が止まらないとばかりに無言で食べている。
東屋の外では給仕役以外の使用人が敷物を引いて座って食前の祈りをしていた。それが終わるとルフナー家の執事が彼らの前に立ち、声を張り上げる。
「使用人である私共までこのような貴重な異国料理の御相伴に預かる事は滅多に無い事です。皆、心して食すように! アナベラ様、マリアージュ様――使用人一同を代表してお礼を申し上げます」
続いて使用人達がありがとうございます、と口々に感謝の言葉を述べた。アナベラ姉は「遠慮せず、どうぞ召し上がって下さいね」と微笑み、私は「良かったら後で忌憚無く味の感想を聞かせて欲しいわ」と声を掛けておく。
ネックは値段だけど、その問題さえクリア出来れば手軽に作れるカレーはフランチャイズにうってつけ。良い商売になると思ったからだ。
前世でもカレーライスは嫌いな人が居るのかと言うぐらいのメジャー料理である。有名カレーチェーン店も人気だったからなぁ。
「お代わり!」
「僕も!」
一早く食べ終え、まだ足りないとばかりにフードファイターの如く空の皿を使用人に差し出したのはルフナー家兄弟二人。そういえばうちの男兄弟達も二人のような勢いこそはないものの全員お代わりをしていたなと思い出す。
アナベラ姉は目を丸くし、義母レピーシェはあらあらまあまあと呆れたように声を上げた。私、まだ半分も食べてないのに。感想を聞くまでもない、思ったよりも気に入ってくれたようである。
……給仕してくれてる使用人が不安そうな目をしてる。彼らの分もちゃんと残してあげてね、二人共。
***
「うぅ、食べ過ぎた……お腹が」
お腹をさすりさすり歩くグレイ。食事が終わった後、私とグレイは食後の運動として庭を散歩していた。アナベラ姉と義兄アールも同じような状況だろう。
「凄い勢いで食べてたわよね、グレイも、アールお義兄様も。給仕の人が自分の分は残るのかってハラハラしていたわよ」
からかい交じりに言うと、彼自身自覚していたのか苦笑いを浮かべる。
「仕方ないよ、何杯でもいけそうな程美味し過ぎるんだもの。あの『カレーライス』って悪魔のような料理だね」
何とか彼らの分も確保出来て本当に良かった。給仕役の人達とお代わり組は今頃カレーライスに舌鼓を打っている頃だろう。あれだけ大鍋に大量に作ったのにほぼ完売御礼、カレーライスのインパクトはそれほど凄かったようである。
問題さえクリア出来ればフランチャイズに出来そうだと言えば、グレイは大貴族の領都など高級店としてなら出来るかもと言う。やっぱりそうか。料理店の場合、地産地消でこの国で採れるもので作る料理の方が良いのかもしれない。
庶民を相手に薄利多売で商売するには大量生産は必須。安い労働力の確保と技術を囲い込んで投資する必要がある。それにはまだ時間が必要。そこはおいおい考えていくとして。
やはり気になるのは王子達の権力争いについてだ。あの日、グレイは株式等の報告もあるからという事で執務室に残り、父サイモンと何やら話していたようだけど……。
はぁ、と小さく溜息を吐いた。安心のニート生活を目指して頑張っていたのに何でこんな厄介な事になっているんだろう。
正直に言えばどちらにも関わりたくない。中立派である父も同感だろう。権力争いは勝手にやってて欲しい。
でも、現ルフナー子爵家当主である義父ブルックはどう考えているんだろう? グレイは保留していたけど……義父は馬車事業の事で第一王子派みたいな感じになってるんだし。
「ねぇ、グレイ……」
私は思い切ってグレイに切り出した。
やがて皿が運ばれてきて、使用人が給仕を始めた。ご飯を盛ってカレーを入れ、端っこにキンピラを添えていく。
一番に運ばれた祖父エディアールと義父ブルックがしげしげと見つめ、香りを嗅いでいた。
「ほほう、同じような料理を異国人が食べておるのを見たことがある。じゃが、あれよりもどろりとしておるのう」
「これはシチューと同じく小麦粉とバターを使っておりますの。お祖父様がご覧になったのは恐らく小麦粉とバターの代わりに野菜を磨り潰した物を使って作られたものかと思いますわ」
「ふむ、見た目は少しアレだが、何とも良い香りだ。これは何という料理かな、三の姫」
「『カレーライス』というのですわ、お義父様。匙で掬って食べますのよ」
「まあ、それなら子供でも気軽に食べられそうねぇ」
「肉と野菜を煮込んでマリーちゃんの持ってきた『ルー』というものを溶かすだけ。簡単に異国の料理が味わえるなんて。味次第では良い商売にもなりそうだわ」
「ええ、お義母様、お祖母様。ルー自体を作るのは難しくありませんわ、ただ香辛料の配合比率が肝心なのです。今日作ったものは基本的なもので、蜂蜜を加えて辛さを抑え、食べやすくしていますの。お口に合えばよいのですが……」
「私も家で試作品を何度か頂きました。確かに辛い料理ですが、ただ辛いだけではなく複雑で深みのある味わいで美味でしたわ。もし、辛いと思われれば、お好みで蜂蜜をお使い頂ければと存じます。
また、こちらの飲み物は妹によればヨーグルトとミルク、蜂蜜を混ぜた『ラッシー』という飲み物だそうで、『カレーライス』に合うとか」
そんな会話をしながらカレーがその場にいる全員――給仕する使用人は交代制なので除くが――に行き渡ると、食前の祈りが行われ、和やかな会食が始まった。
「! ――これは何と美味い」
「二の姫の言う通り何とも複雑に絡み合った味だ。それでいて程良い辛さで口当たりも悪くない」
「辛いというから少し身構えていたけれど、私でも食べられるわね」
「美味しいわ、とっても!」
カレーライスを一口食べた祖父母と義父母の反応は非常に好評だった。義兄アールとグレイは匙が止まらないとばかりに無言で食べている。
東屋の外では給仕役以外の使用人が敷物を引いて座って食前の祈りをしていた。それが終わるとルフナー家の執事が彼らの前に立ち、声を張り上げる。
「使用人である私共までこのような貴重な異国料理の御相伴に預かる事は滅多に無い事です。皆、心して食すように! アナベラ様、マリアージュ様――使用人一同を代表してお礼を申し上げます」
続いて使用人達がありがとうございます、と口々に感謝の言葉を述べた。アナベラ姉は「遠慮せず、どうぞ召し上がって下さいね」と微笑み、私は「良かったら後で忌憚無く味の感想を聞かせて欲しいわ」と声を掛けておく。
ネックは値段だけど、その問題さえクリア出来れば手軽に作れるカレーはフランチャイズにうってつけ。良い商売になると思ったからだ。
前世でもカレーライスは嫌いな人が居るのかと言うぐらいのメジャー料理である。有名カレーチェーン店も人気だったからなぁ。
「お代わり!」
「僕も!」
一早く食べ終え、まだ足りないとばかりにフードファイターの如く空の皿を使用人に差し出したのはルフナー家兄弟二人。そういえばうちの男兄弟達も二人のような勢いこそはないものの全員お代わりをしていたなと思い出す。
アナベラ姉は目を丸くし、義母レピーシェはあらあらまあまあと呆れたように声を上げた。私、まだ半分も食べてないのに。感想を聞くまでもない、思ったよりも気に入ってくれたようである。
……給仕してくれてる使用人が不安そうな目をしてる。彼らの分もちゃんと残してあげてね、二人共。
***
「うぅ、食べ過ぎた……お腹が」
お腹をさすりさすり歩くグレイ。食事が終わった後、私とグレイは食後の運動として庭を散歩していた。アナベラ姉と義兄アールも同じような状況だろう。
「凄い勢いで食べてたわよね、グレイも、アールお義兄様も。給仕の人が自分の分は残るのかってハラハラしていたわよ」
からかい交じりに言うと、彼自身自覚していたのか苦笑いを浮かべる。
「仕方ないよ、何杯でもいけそうな程美味し過ぎるんだもの。あの『カレーライス』って悪魔のような料理だね」
何とか彼らの分も確保出来て本当に良かった。給仕役の人達とお代わり組は今頃カレーライスに舌鼓を打っている頃だろう。あれだけ大鍋に大量に作ったのにほぼ完売御礼、カレーライスのインパクトはそれほど凄かったようである。
問題さえクリア出来ればフランチャイズに出来そうだと言えば、グレイは大貴族の領都など高級店としてなら出来るかもと言う。やっぱりそうか。料理店の場合、地産地消でこの国で採れるもので作る料理の方が良いのかもしれない。
庶民を相手に薄利多売で商売するには大量生産は必須。安い労働力の確保と技術を囲い込んで投資する必要がある。それにはまだ時間が必要。そこはおいおい考えていくとして。
やはり気になるのは王子達の権力争いについてだ。あの日、グレイは株式等の報告もあるからという事で執務室に残り、父サイモンと何やら話していたようだけど……。
はぁ、と小さく溜息を吐いた。安心のニート生活を目指して頑張っていたのに何でこんな厄介な事になっているんだろう。
正直に言えばどちらにも関わりたくない。中立派である父も同感だろう。権力争いは勝手にやってて欲しい。
でも、現ルフナー子爵家当主である義父ブルックはどう考えているんだろう? グレイは保留していたけど……義父は馬車事業の事で第一王子派みたいな感じになってるんだし。
「ねぇ、グレイ……」
私は思い切ってグレイに切り出した。
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