貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

秋の園遊会。

 「今度の宮中の秋の園遊会だが――マリーも是非出席して欲しいとの王妃殿下の御言葉で、陛下もお前と一度会ってみたいと仰せになった。なのでそのつもりでいるように」

 朝食の席で父が溜息交じりに切り出した。アルバート第一王子殿下の予想が当たりそうである。ちなみにメリーへの縁談は無かった模様。
 せめてジェレミー第二王子にお見舞いを行かせたいという申し出も断っている上、トラス王の言葉が追い打ちとなって私は無理やり社交界に引きずり出されるようだ。

 秋の園遊会は主に美しく色付いた紅葉を楽しむ催しだそうで、王都近郊にいる貴族は軒並み招待されている大がかりなものだとか。昼過ぎから夕方にかけて行われるらしい。夕方からは半分舞踏会に移行するとか。トラス王ですら動かすようになったとは私も大層な人物になったものである。

 ちなみにアルバート第一王子殿下が正体を偽って会いに来ていたりした事やウィッタード家でのやりとりは、父の許可が出たので家族にも洗いざらい全部暴露してあった。
 ママンティヴィーナは「困ったものだわ、陛下に似てらっしゃるのね」と困り顔になり、アナベラ姉は「お姉様も迂闊だったわね。まさかアルバート殿下がそんな事を仰るなんて」と渋面に。
 トーマス兄とカレル兄は私が我が家を権力闘争に巻き込むダシにされている事を心配し、イサークとメルローズは嘘は良くないと可愛らしい頬を膨らませて怒ってくれていたのだ。

 カレル兄がベーコンを咀嚼し、飲み込んだ。

 「この分じゃ、ジェレミー第二王子殿下と顔合わせ、という流れだろうな。モテモテだな、マリー」

 「ちっとも嬉しくないんだけど」

 目玉焼きを切り分けながら憮然として答える。アナベラ姉が口を開いた。

 「当日はなるべく家族の誰かがマリーの傍にいた方が良いわね。子爵子息一人じゃちょっと厳しいわ」

 「そうするしかないだろうな」

 トーマス兄も頷く。私はふとある事を思い付いて、父サイモンの方を見た。

 「ねぇダディ、ちょっと恥を掻くけど二度と社交界に出る必要が無くなりそうな方法があるんだけど、良い?」

 「嫌な予感がするが……聞こうか。何だ?」

 不審の表情で眉間に皺を寄せる父。しかしこれは良い考えだと思うんだ。



***



 あっと言う間に園遊会当日となった。

 私達家族は何台かの馬車に分けて乗り、王都の門を潜った。街中の大通りを突っ切り、王宮――トラントゥール宮殿へと向かう。
 王都は感謝祭以来。人が密集して暮らす以上は不可避だが、やはりというか肥えの香りがする。下水道はあるのだろうが、機能しているのか。真夏はあんまり足を踏み入れたくない。

 しかしこれでも大分改善した方らしい。昔は中世パリのように窓から投げ捨てていたらしいからな。

 「あら、お父様の進言でちゃんと処理されるようになったのよ?」

 アナベラ姉曰く、ダディサイモンが生ゴミや糞尿の処理について進言したらしい。小や水分は下水道に流し、大や固形は回収させ、郊外に作った処理場に運ばせて肥料にするべきだと。父も余程臭気に参っていたみたいだな。

 しかし王や他の貴族は汚物の事には関わりたがらなかったので父に丸投げたそうだ。記憶を辿ってみれば昔、おがくずバイオトイレ作った時に調子に乗って江戸時代のシステムを語って見せた気もする。
 王都の人達から処理費用を徴収し、運んだ処理場である森で肥料に変える。その肥料を農家に売る――糞尿処理事業はキャンディ伯爵家の独占状態らしい。スラムの人達の仕事にもなったそうである。
 まあそれでもまだ一定数は昔のやり方に慣れた不心得者が居たりして100%そのやり方が普及している訳では無いようだが。

 「そのお話はよく存じています。そのお蔭で王都は大分住みやすくなったと評判になっていましたから」

 そう語るのは同乗している義兄アール。グレイも頷いている。
 知らぬ間にダディが環境改善に大活躍していた。これに関しては感謝せねばなるまい。
 それにしても、この状況は利用出来るな。王都近郊の農家を押さえれば、王都の食料を押さえたも同じなのだから。

 帰ったら早速進言しようと私はほくそ笑んだ。

 それから程なくして。

 私達はトラントゥール宮殿に到着した。それぞれの婚約者のエスコートで地面に降り立つ。

 「入場したら使用人達とは一旦別れるわ。と言っても彼らは会場の一角に控える事になるから、用があればそちらへ向かう事」

 社交界初心者の私にアナベラ姉がレクチャーしてくれる。
 了解。トイレとかしたくなったら使用人控えへ行けという事か。
 他の家族と合流する。王宮の従僕に案内された先で招待状を渡し、私達全員会場である秋の庭園へと足を踏み入れた。サリーナが別れ際に預けていた物を渡してくれる。

 「もし粗相が御座いましたらお呼び下さいませ」

 「分かったわ、ありがとう」

 使用人待機所を教えて貰って確認した後、私はグレイと腕を組んで気合を入れた。

 「キャンディ伯爵、そのご家族様。並びにフォション辺境伯家御令嬢キャロライン様、ルフナー子爵家御子息様方ご到着!」

 先触れの声と同時に、父と母がゆったりと歩き出す。私達もそれに続いた。
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