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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
笑ってはいけない。
「まぁ……」
「いつ見ても麗しい御一家ですわね」
ほう、と誰かが溜息を吐いて囁く声。
しかし彼らはやはりというか、『麗しい御一家』に入り込んだ異物――見慣れぬ私に注目する。
社交界で持て囃されている家族への称賛に交じって、聞こえて来たのは。
「何、あれ」
「あの方が噂に聞いていたキャンディ伯爵家の幻の姫かしら?」
「確かに姉君達にも引けを取らない程美しい御令嬢だけれど、何なんだ、あの格好……」
ひそひそ、くすくす。そんな声が聞こえてくる。
しかし私はわざとこの格好で来たので何を言われても別に屁でもない。
私から予め言い含められていても少し心配になったのか、グレイが大丈夫? と囁いてくる。それに微笑み返して頷きながら、一行の殿を進んだ。
皆、ポーカーフェイスを保っているが、弟妹達とカレル兄だけはニヤニヤしている。
私達家族は主催者にご挨拶をすべく、真っ直ぐにトラス国王陛下と王妃殿下の下へと進んでいった。
到着すると、私達は一斉に礼を取る。後ろからは背の高い父や兄達に阻まれて陛下達の姿は見えない。やがて「面を上げて楽にせよ」とお声がかかった。
「国王陛下、王妃殿下もご機嫌麗しく――本日は天気にも恵まれ、神々もこの園遊会を祝福されているようで御座います。この良き日に家族共々お招きに預かり、このサイモン心より感謝致します」
父サイモンが口上を述べる声。陛下はうむと答える。
「サイモンよ、良くぞ参った。何、秋の園遊会等と大層な事を申しても実際は貴族同士の交流を深める為の気軽な催し、ゆるりと過ごすが良い。ある程度は無礼講が許されておる」
「見ての通り、木々は鮮やかに美しく色付いておりますわ。料理も楽しんで頂けると良いのですが」
サブリナ王妃殿下であろう軽やかな声。「ところで、例のそなたの娘は来ておりますか?」
「はい、御挨拶させましょう。マリアージュ、こちらへ」
お呼びが掛かった。私はグレイに一旦邪魔になるものを預けると、前へしずしずと罷り出る。
トラス国王陛下はアルバート第一王子殿下が年を取ったらこんな風になるんだろうなぁと思う程そっくりだった。
気軽な催しだからなのだろう、金髪を後ろに撫で付け、高位貴族と変わらないような恰好をしていた。それでも悠然とした佇まいは王様なんだなぁと思う。
一方サブリナ王妃殿下は結構若い。こちらも母や姉と大差無いドレスを身に纏っていた。傍には私と同じぐらいの年頃の美しい男の子。顔立ちは陛下と似ているが王妃殿下のそれにも通じるものがある。王妃殿下と同じプラチナブロンドの髪に紫がかった水色の瞳だし、恐らく彼が第二王子殿下だろう。
「国王陛下、王妃殿下。お目通りが叶いまして光栄に存じます。キャンディ伯爵サイモンが三女、マリアージュでございます」
淑女の礼を取って挨拶の向上を述べると、王陛下と王妃殿下がぽかーんとした顔でこちらを見ていた。第二王子殿下も目を丸くしている。
それもその筈。今の私の恰好は他の貴族とは一線を画している。秋色のガウンドレス、紅葉をイメージした装飾品に髪を大人っぽく結い上げている。しかしそれらを凌駕して有り余る程のインパクトがあるアイテム――エリザベス女王襟を装着しているのだから。
我が策成れり――内心、思ったような効果だとにんまりする。
そう。
『笑ってはいけない園遊会』がここに勃発したのである。
「如何なさいました?」
完全に固まっている国王一家。父サイモンが訝し気に問いかけ、はっとしたように再起動する。
「う、うむ……そうだ、そなた!」
陛下は傍にいた侍従に手招きすると何やら耳打ちをした。慌てて走っていく侍従。
それを見送っているとどこからかアルバート殿下、という囁き声が耳に届いた。
「これはこれは、貴女もいらしていたんですね、マリアージュ姫。先日ぶりで……」
しかしやってきたアルバート殿下は私の恰好を見た瞬間、言葉が続かず笑顔のまま固まってしまった。肩が小刻みに震え始めている。
「先日は我が姉の結婚式にご来駕頂きありがとう存じます。アルバート第一王子殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう」
「え、ええ……こちらこそ」
震えながらも何とか返事をするアルバート殿下。
「おお、私とした事が忘れておりました!」
わざとらしい声に振り向くと、王妃殿下が第二王子殿下の背中を押すところだった。
「そなたもマリアージュ姫に挨拶をなさい! 姫はそなたと同じ年頃、きっと仲良くなれるでしょう」
「あっ、えと……お、お初にお目にかかります、マリアージュ姫。ジェレミーと申します」
声が震えているジェレミー殿下。彼の目も私の襟に釘付けだ! 平常心を保つその努力は認める。だが済まない、君に恨みは無いが、更に追い打ちをかけさせてもらう。
私はにっこりと微笑んだ。
「まあ、お初にお目にかかります、ジェレミー殿下。わざわざご挨拶を頂けるなど恐縮でございます。お召し物はお庭に良く映えるお色でいらっしゃるのですね。殿下によくお似合いで素敵ですわ」
その濃い目の紫を基調とした衣装を褒めると、ジェレミー殿下が引き攣った笑顔でぐっ!? と変な音を出した。社交上、褒められれば褒め返さなければならない。さあ、どうする?
その時、侍従が何かを手に戻って来た。それをさっとトラス国王陛下の首に巻く。
あ、あれは――巨大なザビエル襟!!
エリマキトカゲ状態になったトラス王。周辺の貴族達がしん……と静まり返った。
「失礼した、改めて仕切り直そうぞ。キャンディ伯爵家サイモンが三女マリアージュよ、余はトラス国王オディロンである。今日は楽しんで行くが良い」
――やるな、国王陛下。
トラス国王の姿が追い打ちとなったのか、サブリナ王妃殿下もジェレミー殿下も機能不全に陥ったようだった。
私は何食わぬ顔でお礼を述べて下がる。兄や姉達もめいめい挨拶を述べた後、御前を辞して園遊会へと参加する流れになった。
ちなみにアルバート第一王子殿下はいつの間にか消えていた。きっとアウト状態になったのだろう。どこぞで気の済むまで爆笑しているに違いない。行きずりのムエタイ選手に尻を蹴っ飛ばされれば良いのに。
「いつ見ても麗しい御一家ですわね」
ほう、と誰かが溜息を吐いて囁く声。
しかし彼らはやはりというか、『麗しい御一家』に入り込んだ異物――見慣れぬ私に注目する。
社交界で持て囃されている家族への称賛に交じって、聞こえて来たのは。
「何、あれ」
「あの方が噂に聞いていたキャンディ伯爵家の幻の姫かしら?」
「確かに姉君達にも引けを取らない程美しい御令嬢だけれど、何なんだ、あの格好……」
ひそひそ、くすくす。そんな声が聞こえてくる。
しかし私はわざとこの格好で来たので何を言われても別に屁でもない。
私から予め言い含められていても少し心配になったのか、グレイが大丈夫? と囁いてくる。それに微笑み返して頷きながら、一行の殿を進んだ。
皆、ポーカーフェイスを保っているが、弟妹達とカレル兄だけはニヤニヤしている。
私達家族は主催者にご挨拶をすべく、真っ直ぐにトラス国王陛下と王妃殿下の下へと進んでいった。
到着すると、私達は一斉に礼を取る。後ろからは背の高い父や兄達に阻まれて陛下達の姿は見えない。やがて「面を上げて楽にせよ」とお声がかかった。
「国王陛下、王妃殿下もご機嫌麗しく――本日は天気にも恵まれ、神々もこの園遊会を祝福されているようで御座います。この良き日に家族共々お招きに預かり、このサイモン心より感謝致します」
父サイモンが口上を述べる声。陛下はうむと答える。
「サイモンよ、良くぞ参った。何、秋の園遊会等と大層な事を申しても実際は貴族同士の交流を深める為の気軽な催し、ゆるりと過ごすが良い。ある程度は無礼講が許されておる」
「見ての通り、木々は鮮やかに美しく色付いておりますわ。料理も楽しんで頂けると良いのですが」
サブリナ王妃殿下であろう軽やかな声。「ところで、例のそなたの娘は来ておりますか?」
「はい、御挨拶させましょう。マリアージュ、こちらへ」
お呼びが掛かった。私はグレイに一旦邪魔になるものを預けると、前へしずしずと罷り出る。
トラス国王陛下はアルバート第一王子殿下が年を取ったらこんな風になるんだろうなぁと思う程そっくりだった。
気軽な催しだからなのだろう、金髪を後ろに撫で付け、高位貴族と変わらないような恰好をしていた。それでも悠然とした佇まいは王様なんだなぁと思う。
一方サブリナ王妃殿下は結構若い。こちらも母や姉と大差無いドレスを身に纏っていた。傍には私と同じぐらいの年頃の美しい男の子。顔立ちは陛下と似ているが王妃殿下のそれにも通じるものがある。王妃殿下と同じプラチナブロンドの髪に紫がかった水色の瞳だし、恐らく彼が第二王子殿下だろう。
「国王陛下、王妃殿下。お目通りが叶いまして光栄に存じます。キャンディ伯爵サイモンが三女、マリアージュでございます」
淑女の礼を取って挨拶の向上を述べると、王陛下と王妃殿下がぽかーんとした顔でこちらを見ていた。第二王子殿下も目を丸くしている。
それもその筈。今の私の恰好は他の貴族とは一線を画している。秋色のガウンドレス、紅葉をイメージした装飾品に髪を大人っぽく結い上げている。しかしそれらを凌駕して有り余る程のインパクトがあるアイテム――エリザベス女王襟を装着しているのだから。
我が策成れり――内心、思ったような効果だとにんまりする。
そう。
『笑ってはいけない園遊会』がここに勃発したのである。
「如何なさいました?」
完全に固まっている国王一家。父サイモンが訝し気に問いかけ、はっとしたように再起動する。
「う、うむ……そうだ、そなた!」
陛下は傍にいた侍従に手招きすると何やら耳打ちをした。慌てて走っていく侍従。
それを見送っているとどこからかアルバート殿下、という囁き声が耳に届いた。
「これはこれは、貴女もいらしていたんですね、マリアージュ姫。先日ぶりで……」
しかしやってきたアルバート殿下は私の恰好を見た瞬間、言葉が続かず笑顔のまま固まってしまった。肩が小刻みに震え始めている。
「先日は我が姉の結婚式にご来駕頂きありがとう存じます。アルバート第一王子殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう」
「え、ええ……こちらこそ」
震えながらも何とか返事をするアルバート殿下。
「おお、私とした事が忘れておりました!」
わざとらしい声に振り向くと、王妃殿下が第二王子殿下の背中を押すところだった。
「そなたもマリアージュ姫に挨拶をなさい! 姫はそなたと同じ年頃、きっと仲良くなれるでしょう」
「あっ、えと……お、お初にお目にかかります、マリアージュ姫。ジェレミーと申します」
声が震えているジェレミー殿下。彼の目も私の襟に釘付けだ! 平常心を保つその努力は認める。だが済まない、君に恨みは無いが、更に追い打ちをかけさせてもらう。
私はにっこりと微笑んだ。
「まあ、お初にお目にかかります、ジェレミー殿下。わざわざご挨拶を頂けるなど恐縮でございます。お召し物はお庭に良く映えるお色でいらっしゃるのですね。殿下によくお似合いで素敵ですわ」
その濃い目の紫を基調とした衣装を褒めると、ジェレミー殿下が引き攣った笑顔でぐっ!? と変な音を出した。社交上、褒められれば褒め返さなければならない。さあ、どうする?
その時、侍従が何かを手に戻って来た。それをさっとトラス国王陛下の首に巻く。
あ、あれは――巨大なザビエル襟!!
エリマキトカゲ状態になったトラス王。周辺の貴族達がしん……と静まり返った。
「失礼した、改めて仕切り直そうぞ。キャンディ伯爵家サイモンが三女マリアージュよ、余はトラス国王オディロンである。今日は楽しんで行くが良い」
――やるな、国王陛下。
トラス国王の姿が追い打ちとなったのか、サブリナ王妃殿下もジェレミー殿下も機能不全に陥ったようだった。
私は何食わぬ顔でお礼を述べて下がる。兄や姉達もめいめい挨拶を述べた後、御前を辞して園遊会へと参加する流れになった。
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