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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
蛙の面に水。
テーブルに並ぶ、数々の海の幸。焼き魚に炒め物にカルパッチョ、ロブスターに貝類。やっぱり海の魚は良い。私は上機嫌で舌鼓を打っていた。
カレル兄もお気に召したようで「新鮮な海の魚がこんなに美味だとは」と驚いている。
王都では普段干物ぐらいしか手に入らないからなぁ。しかもけしてお安くはない。
この辺りは年中温暖らしく、積雪が無いそうだ。南の海からの鮮魚の輸送は難しい。王都民が海の魚を比較的良い状態で手に入れる方法は、精々が冬場に北の海から早馬か河を遡るぐらいしか無いのである。勿論生では食えないので加熱調理にしか使えない。
そんな事を考えていると、
「マリアージュ様、こちらの料理は如何ですか? 夕方採れたての魚を使っております、とても新鮮で美味しいんですのよ」
ジュデットがやけに圧を感じるニコニコ顔でカルパッチョを勧めて来た。彼女はこれが好きなのだろうか。私は礼を言い、有難くお皿に頂戴する事に。
躊躇いなくカルパッチョを口にした私。野菜と魚、酢と柑橘類系の酸味が程良いハーモニーを生み出している。ぷりぷりとした食感が実に最高だ。刺身としては料亭レベルのものだろう。
「マリー、大丈夫……?」
「王都の方にはこのような魚料理は珍しい事かと存じます。お口に合えば良いのですが……」
グレイと代官のレイモン氏が少し心配そうに声を掛けて来る。
もしかして、魚の生食だからだろうか。
「先程兄も申しました通り、実に口福でございますわ。このお料理も絶品ですわね、旅の疲れも吹き飛びそうですもの」
私がにこりと微笑むと、そこで初めて生魚に不慣れであろう人に勧めた事に気付いたのか、ジュデットが顔を歪ませた。
美味しいお料理を勧めて下さったんですのよね、とさりげなくフォローを入れておく。
「ぐっ……そ、それは宜しかったですわ。ところで、マリアージュ様が食事にお使いになっているその二本の棒は一体何ですの?」
「ああ、これはクァイツという異国の道具なんだ。ナイフとフォークよりも便利だよ。マリーが使い方を知っていて、今やキャンディ伯爵家とルフナー子爵家は普段これを使うようにしてるんだ」
グレイが引き取って答える。
「マリーは美しいだけじゃなく聡明な人で、色んな事を知っているんだ。このクァイツも実は使い道が分からず、不良在庫になりかけていたものだったから随分助かったよ」
「うふふ、お揃いなんですのよ。魚料理には特に重宝しますわ」
「お揃い…」
箸を凝視しながらぽつりと呟くジュデット。もしかして彼女もクァイツが欲しいのだろうか? 興味津々な様子なので私は実演してみせる事にした。
こんな風に、と焼き魚の背骨に沿って箸を動かして骨と身を綺麗に分離していく。綺麗に骨が残った魚を見て、その場に居た人々が驚きの声を上げた。
「おお、これは美しい。ナイフとフォークじゃなかなかこうはいきませんよ」
レイモン氏が感動したように魚の骨を眺めている。ジュデットも余程驚いたのか険しい表情をしていた。
それにしても、私達を気遣ったのか、それとも食べる習慣がないのか。晩餐の食卓には私が食べたいタコやイカ等の軟体系が見当たらない。
実は私は滞在中に何としてでもタコ焼き……型が無いので妥協して、なんちゃってタコ入りお好み焼きを食べたいと思っている。
「ところでマリアージュ様の明日のご予定は?」
「そうですわね……」
レイモン氏の問いに暫し思案する。
明日、教会に顔を出した後にでも市場に顔を出してみるかな。
誰か案内を付けさせましょう、とレイモン氏が言い掛けたところで――。
「それならば、私がご案内致しますわ! 海の幸ももっと美味なものがございますし、珍しい料理を出すお店も沢山存じておりますから!」
食い気味に立候補してくるジュデット。さっきの些細な事なら気にしなくても良いのにと思うが、きっと挽回しようと必死になっているのかも知れない。
頑張り屋さんの良い子である。もし材料が揃うならそのまま厨房を借りてタコ入りお好み焼きパーティーをしようと目論んでいるので、街を熟知した彼女を巻き込むのは好都合かも知れないな。
「そう言う事でしたら、ご厚意に甘えますわ。よろしくお願いしますね」
明日は楽しい一日になりそうだ。
***
「お初にお目に掛かります、私はグラ・ノルベール、このナヴィガポール修道院を任されております司祭にございます。聖女マリアージュ様、尊き御身の御来臨、光栄の至りに存じます!」
「……どうかお顔をお上げ下さいまし、ノルベール司祭様。お忍びの身故、今の私はただの伯爵家の娘。気楽にお話して頂けると嬉しいですわ」
朝、早速修道院を訪問する。
お忍びという事で前以ってエヴァン修道士に頼んで手配しておいたのは間違いではなかった。ナヴィガポール修道院の院長室に通されるなり、床に頭を擦り付けんばかりの仰々しい挨拶から始まったのだから。
ちょっと面倒なやり取りの後、「では、失礼して……」とやっと目の前のソファーに座るノルベール司祭。彼は四十代位の少し頭部が寂しい男性で、ややぽっちゃりしているどこにでも居そうなおじさんだった。
少しお話をすると、言葉の節々から領主館に私が滞在する事をやや不満に思っているのが滲み出ている。気持ちは嬉しいが、しかしここには後日サリューン・フォワ枢機卿という大物が来るので、余計な負担を掛けたくないという事で納得してもらった。
領主館へ戻ると太陽の位置からして凡そ十時頃だろうか。街へ繰り出すには良い時間帯だ。
私とグレイ、カレル兄、エヴァン修道士、サリーナと馬の脚共(中脚含む)。
外のベンチに座って待っていると、ジュデットが何やら誰かと言い争いながら歩いてきた。
「何でリノまでついてくるの? ナヴィガポールは私の庭みたいなものだから一人でも大丈夫なのに!」
「仕方ないだろ、レイモン様からの頼みなんだから。それに、万が一失礼があったらジュデは責任とれるのか?」
うっと黙りこくったジュデット。一緒に来たのは焦げ茶の髪と瞳の男の子だった。年齢は私と同じぐらいだろうか。
顔立ちからして何となくトラス王国人じゃない気がする。
カレル兄もお気に召したようで「新鮮な海の魚がこんなに美味だとは」と驚いている。
王都では普段干物ぐらいしか手に入らないからなぁ。しかもけしてお安くはない。
この辺りは年中温暖らしく、積雪が無いそうだ。南の海からの鮮魚の輸送は難しい。王都民が海の魚を比較的良い状態で手に入れる方法は、精々が冬場に北の海から早馬か河を遡るぐらいしか無いのである。勿論生では食えないので加熱調理にしか使えない。
そんな事を考えていると、
「マリアージュ様、こちらの料理は如何ですか? 夕方採れたての魚を使っております、とても新鮮で美味しいんですのよ」
ジュデットがやけに圧を感じるニコニコ顔でカルパッチョを勧めて来た。彼女はこれが好きなのだろうか。私は礼を言い、有難くお皿に頂戴する事に。
躊躇いなくカルパッチョを口にした私。野菜と魚、酢と柑橘類系の酸味が程良いハーモニーを生み出している。ぷりぷりとした食感が実に最高だ。刺身としては料亭レベルのものだろう。
「マリー、大丈夫……?」
「王都の方にはこのような魚料理は珍しい事かと存じます。お口に合えば良いのですが……」
グレイと代官のレイモン氏が少し心配そうに声を掛けて来る。
もしかして、魚の生食だからだろうか。
「先程兄も申しました通り、実に口福でございますわ。このお料理も絶品ですわね、旅の疲れも吹き飛びそうですもの」
私がにこりと微笑むと、そこで初めて生魚に不慣れであろう人に勧めた事に気付いたのか、ジュデットが顔を歪ませた。
美味しいお料理を勧めて下さったんですのよね、とさりげなくフォローを入れておく。
「ぐっ……そ、それは宜しかったですわ。ところで、マリアージュ様が食事にお使いになっているその二本の棒は一体何ですの?」
「ああ、これはクァイツという異国の道具なんだ。ナイフとフォークよりも便利だよ。マリーが使い方を知っていて、今やキャンディ伯爵家とルフナー子爵家は普段これを使うようにしてるんだ」
グレイが引き取って答える。
「マリーは美しいだけじゃなく聡明な人で、色んな事を知っているんだ。このクァイツも実は使い道が分からず、不良在庫になりかけていたものだったから随分助かったよ」
「うふふ、お揃いなんですのよ。魚料理には特に重宝しますわ」
「お揃い…」
箸を凝視しながらぽつりと呟くジュデット。もしかして彼女もクァイツが欲しいのだろうか? 興味津々な様子なので私は実演してみせる事にした。
こんな風に、と焼き魚の背骨に沿って箸を動かして骨と身を綺麗に分離していく。綺麗に骨が残った魚を見て、その場に居た人々が驚きの声を上げた。
「おお、これは美しい。ナイフとフォークじゃなかなかこうはいきませんよ」
レイモン氏が感動したように魚の骨を眺めている。ジュデットも余程驚いたのか険しい表情をしていた。
それにしても、私達を気遣ったのか、それとも食べる習慣がないのか。晩餐の食卓には私が食べたいタコやイカ等の軟体系が見当たらない。
実は私は滞在中に何としてでもタコ焼き……型が無いので妥協して、なんちゃってタコ入りお好み焼きを食べたいと思っている。
「ところでマリアージュ様の明日のご予定は?」
「そうですわね……」
レイモン氏の問いに暫し思案する。
明日、教会に顔を出した後にでも市場に顔を出してみるかな。
誰か案内を付けさせましょう、とレイモン氏が言い掛けたところで――。
「それならば、私がご案内致しますわ! 海の幸ももっと美味なものがございますし、珍しい料理を出すお店も沢山存じておりますから!」
食い気味に立候補してくるジュデット。さっきの些細な事なら気にしなくても良いのにと思うが、きっと挽回しようと必死になっているのかも知れない。
頑張り屋さんの良い子である。もし材料が揃うならそのまま厨房を借りてタコ入りお好み焼きパーティーをしようと目論んでいるので、街を熟知した彼女を巻き込むのは好都合かも知れないな。
「そう言う事でしたら、ご厚意に甘えますわ。よろしくお願いしますね」
明日は楽しい一日になりそうだ。
***
「お初にお目に掛かります、私はグラ・ノルベール、このナヴィガポール修道院を任されております司祭にございます。聖女マリアージュ様、尊き御身の御来臨、光栄の至りに存じます!」
「……どうかお顔をお上げ下さいまし、ノルベール司祭様。お忍びの身故、今の私はただの伯爵家の娘。気楽にお話して頂けると嬉しいですわ」
朝、早速修道院を訪問する。
お忍びという事で前以ってエヴァン修道士に頼んで手配しておいたのは間違いではなかった。ナヴィガポール修道院の院長室に通されるなり、床に頭を擦り付けんばかりの仰々しい挨拶から始まったのだから。
ちょっと面倒なやり取りの後、「では、失礼して……」とやっと目の前のソファーに座るノルベール司祭。彼は四十代位の少し頭部が寂しい男性で、ややぽっちゃりしているどこにでも居そうなおじさんだった。
少しお話をすると、言葉の節々から領主館に私が滞在する事をやや不満に思っているのが滲み出ている。気持ちは嬉しいが、しかしここには後日サリューン・フォワ枢機卿という大物が来るので、余計な負担を掛けたくないという事で納得してもらった。
領主館へ戻ると太陽の位置からして凡そ十時頃だろうか。街へ繰り出すには良い時間帯だ。
私とグレイ、カレル兄、エヴァン修道士、サリーナと馬の脚共(中脚含む)。
外のベンチに座って待っていると、ジュデットが何やら誰かと言い争いながら歩いてきた。
「何でリノまでついてくるの? ナヴィガポールは私の庭みたいなものだから一人でも大丈夫なのに!」
「仕方ないだろ、レイモン様からの頼みなんだから。それに、万が一失礼があったらジュデは責任とれるのか?」
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