貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

星明りのお好み焼き。

 「んー、これこれ。おいひぃ~!」

 領主館の外。私ははふはふしながら熱々に焼かれたお好み焼きに舌鼓を打っていた。
 大ぶりのエビやタコの切り身が入っていて、何と贅沢な事か。


***


 ジュデットが倒れた後。夕食の事もあるので、買い物を済ませて早々に領主館に引き返す事となった。ファリエロのご厚意で、イカもお土産に頂いてしまう。折角なので、船長もお好み焼きパーティーに誘った。武勇伝も聞き損ねていたし。

 そう言えば、昆布も市場では見かけなかった。ファリエロと髭親父に海草を食べないのかと訊けば、そういう習慣は無いらしい。前世でも海草を食べるのは日本他、限られた国と地域だったなぁと思い出す。昆布らしき海草そのものは生えているそうで、わざわざ海に入って採って来てもらった――マルコに。

 マルコがずぶ濡れになるという尊い犠牲を払って昆布を無事ゲットし店を後にした私は、市場でいりこっぽい乾燥小魚と乾燥牡蠣、キャベツに豚肉を調達。他の材料は出かける前に確認したので領主館にある筈だ。

 建物が見えて来る所まで戻って来た時、人影がこちらに近寄って来るのが見える。
 近付くと、レイモン氏とリノだった。

 「グレイ様、マリアージュ様。話はリノから聞きました。孫がご迷惑をお掛けしてしまったようで、申し訳ありません」

 そう言って恐縮したように頭を下げて来る。私は慌てて首を振った。

 「いえっ、私の所為なんです。こちらこそ申し訳ありませんでした。ジュデット様、大丈夫ですか?」

 「はい、ぐっすり眠っておりますので問題はございません」

 「そうなんですか……本当はジュデット様も一緒に夕食を、と思っていたのですが」

 寝ているのなら仕方が無い。起きたらお詫びしよう。

 「その内目を覚ますでしょうからお気遣い無く。ところで八本足を料理して召し上がろうとなさっているとか」

 「はい、実は――」

 私はお好み焼きについてレイモン氏に説明をした。

 「宜しければレイモン様もご一緒に如何ですか? 後、料理用の鉄板があればお借りしたいのですが……」

 駄目ならフライパンである。レイモン氏が厨房に確認を取った結果、シーフードを焼く為の鉄板があったので借りる事が出来た。外に運んでセッティングして貰う。ちなみに火力は炭火頼り。

 私が作り方の指示を出す形でお好み焼き作りが始まった。

 興味津々といった様子の領主館の料理人さんに粉末状に擂った小魚と小麦粉、昆布の煮汁に卵を使ってお好み焼きのタネを作って貰う。
 馬の脚共及び中脚にはキャベツや豚肉を切り刻み、タコをぶつ切りにする任務を命じた。タコが駄目な人用に、ボイルして皮を剥いたエビも用意する。

 問題はお好みソース。前世の有名お好みソースにはデーツが使われていたっけ。グレイにその特徴を伝え、知っているか訊くとルフナー子爵家では普通に食べているそうで。領主館にもあったので非常にラッキーだった。

 サリーナに指示して、持ってきた醤油ソヤとケチャップ、デーツ、干し牡蠣、塩コショウ・生姜・クローブ・クミンといった香辛料、タマネギのすりおろし等を配合して味見と調整をしながら煮込ませる。味見は私担当、お好みソースに近いものが出来た。
 そしてマヨネーズも作らせる。そのままはダメだけど、香り付けとして焼いてしまえば問題ないだろうから。

 お好みのタネと野菜、好きな具を混ぜて鉄板で焼いてもらう。両面を焼いたら、卵を割って黄身を潰し、その上に乗せて更に焼く。欲しい人は卵の上にマヨネーズやチーズを入れて焼き込んでも可。

 ちなみに私はタコ、エビ、マヨ、チーズ全部入れ。スペシャル焼きを作って貰った。
 卵面を上にしてお好み焼きソースを垂らすと、鉄板に落ちた部分がジュウジュウと音を立て、香ばしい匂いを辺り一面に漂わせる。

 誰かの喉がごくりと鳴った。

 皆、めいめいが好きな具をチョイスして焼き、行き渡ったところで「いただきます」。

 味も好評なようで、美味しいと感動の声が次々に上がる。皆、お好み焼きを気に入ってくれたようだった。タコ入りでも平気な様子。ただグレイだけはタコ無し希望との事。昼間の度胸試しが相当堪えたらしい。代わりにエビを入れてあげよう。

 と、そうだ。

 「レイモン様。ジュデット様はエビ食べられますか?」

 起きたらさぞかしお腹空いている事だろう。昼間もあんまり食べてなかったみたいだし。彼女の分を焼いて持って行ってあげたら。
 そう思って訊けば、孫はエビ大好きだとレイモン氏。アレルギーも無さそうなら良いか。

 「じゃあ、サリーナ。ジュデット様の分をエビ入りでお願い」

 「ああ、すみませんマリー様。俺が持っていきましょう」

 ジュデットの分のお好み焼きを持っていくリノ。これで良し、と。


***


 皆で美味しい物を食べながらわいわいするのは良いものだ。無事に聞かせて貰えたファリエロの武勇伝も面白かった。海賊の捕虜になったり、激戦の果てに船が大破して漂流したり。無人島でサバイバルした事もあったらしい。ワイルドだぜぇ。
 お好み焼きの材料が売り切れになり出したところで、イカの串焼きを作って貰った。鉄板で焼きながら醤油ソヤをじゅわりと垂らすだけのシンプルなもの。その時にはもう暗くなっていたので篝火かがりびが焚かれており、ちょっとお祭り気分である。

 「はい、グレイの分。今日はお疲れ様。豚肉に塩コショウを振ったものにしておいたわよ」

 「ありがとう、助かるよ」

 何となく皆から少し離れた所に二人、並んで座る。

 「グレイ。私ね、ナヴィガポールに来て良かったわ。町の散策は楽しかった。人は陽気で親切だし、食べ物も美味しいし」

 そう言って、イカ焼きにかぶり付く。醤油の香りとイカの弾力が堪らない。ナヴィガポール万歳。グレイが呆れたように、「それ、子クラーケンだよね。大きくなって船を沈めるって言われてる奴。マリーは本当、度胸試しに使われるようなうねうねした生き物が好きなんだね」と溜息を吐いた。

 「でも、気に入ってくれたのなら良かった。僕もこの街が好きだから」

 「うふふ、じゃあ老後は二人で此処に暮らす?」

 「マリーが望むならそれも良いけどさ、僕はもう八本足やうねうねは勘弁だよ」

 「ぶふっ!?」

 グレイの言い草に思わず噴き出した。顔を見合わせ、やがてクスクスと笑い合う。
 穏やかな夜の海風が心地良い。上には満天の星空がどこまでも広がっていた。
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