貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

要は経験値の問題。

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 作業も終わりに近付き、ピラフが運ばれてきたので皆で夕食を採る。他の女性達と同じように地べたや段差に座って、だ。「聖女様はテーブルへ…」と懇願するように言われたが断固として首を横に振った。それは妊婦や老人子供優先なのだから。美味しい物を食べてお腹が満たされるとホッとするのか、食事が進むにつれて雰囲気が和らいで行った。

 と。

 「……ご一緒しても?」

 ジュデットがやって来た。笑顔でどうぞと言うと、おずおずと私の隣に座って来た。
 しばしピラフを食べていると、じーっと見つめられている。何か? と首を傾げて微笑むと、ジュデットは意を決したように口を開いた。

 「あの、マリアージュ様。今日は本当にありがとうございました」

 「どういたしまして、お力になれたのなら良かったわ」

 ふっと微笑むと、黙って俯くジュデット。どうしたのかと訊くと、ぽつりと零した。

 「……私、代官の孫娘なのに結局何も出来なかったのですわ。マリアージュ様が羨ましい。勇気があって船乗り達にも認められて……今日の地揺れでも動じずに、素早い冷静な判断と指示で人々の命をお救いになった聖女様だから」

 「……」

 うーむ。

 地震は兎も角、うっかり魔女扱いされかけた聖女がそんなに良いものだろうか。ジュデットも現場を見ていた筈なのに。それに、軟体系魚介類食って船乗り達に認められたというのは何かズレているような。
 そんな表情をする程羨ましかったとは……その為に倒れる程無理して意地を張ってナマコ食べようとしたのかこの子は。

 色々脳内でツッコミんでいると、メリーの顔が浮かんだ。確かに「メリーにだって出来るもん!」と意地張ってた時期があったな、と思い出す。

 「そうね……誰しもすぐに何でも出来る訳じゃないわ。学んで、失敗して、経験して。それでやっと出来てくるようになるの。私だって何度失敗を経験した事か。大体貴女はまだ私の妹と同じ年頃なのだし、これからよ。そうだわ、私も貴女の事をもう一人の妹だと思っても良いかしら? ジュデと呼んでも?」

 「……私なんかで良ければ」

 「うふふ、ありがとう。じゃあ私の事もマリーと。妹と同じようにマリーお姉ちゃまと呼んでくれても構わないわ」

 「それは……マリーお姉様、で」

 お姉ちゃまは駄目らしい。彼女は一人っ子で両親はキーマン商会のガリア支部を任されて居るそうだ。トラス王国語がしっかりするまでは、と祖父に預けられていると聞いた。
 そんな彼女の境遇を思いやりながらジュデットの頭を撫でると、拗ねたような、恥ずかしそうな表情で少し頬を膨らませている。意地っ張りな様子が実に愛らしかった。

 「宜しくね、ジュデ。それで、さっきの話だけど。今出来なくともこの先出来るようになれば良いの。それに、皆も協力してくれる。
 だからどっしり構えて居ればいいの。一人で気負う必要は無いわ。それさえ分かっていれば、何が起こっても必ず乗り越えていけるから」

 「たとえ、もし二度目があったとしてもね」と囁くように告げる。ジュデット――ジュデの目が驚愕と恐怖に見開いた。

 「……二度目?」

 「たとえ話よ。今日来たんだもの。明日来るかも知れないし、一か月後来るかも知れないし、何十年後に来るかも知れない。だけど、平和な時にしっかり対策さえしっかりしてさえいれば助かる命は増える」

 そう言った時、「――聖女様、復興本部にお越し願います」と誰かが呼びに来た。マリー様、とサリーナも声を掛けて来る。

 「あら、行かなきゃ。そうそう、私、対策方法をある程度知ってるから安心してね、ジュデ。聖地へ向かう前にちゃんと残して行くわ」

 真剣な表情をしたジュデの頭をポンポンとして微笑み、立ち上がる。

 「あっ……待って下さい、二度目っ!?」

 その口を指先で押し止め、シーっと唇に指を当てる。

 「だから、たとえ話よ。良いわね」

 こくこくと頷くジュデ。「良い子ね」と頭をもう一撫でして、私はその場を後にした。



 ジュデにはああ言ったが、恐らくかなりの確率で二度目……というか本震が来るに違いないと私は睨んでいる。王都でも新聞で南方の海沿いでの町で小規模の地震があったという記事を読んでいた。
 裁縫がてら女性達から話を聞くと、ここ数か月で小規模の地震が頻発していたらしい。今日の地震は特に大きかったと怖がっていたので、恐らくこれまでは震度一、二程度のものが起こっていたのだろう。

 となると、やはりナヴィガポール修道院でも記録探しをせねばなるまい。ノルベール司祭に頼まなければ。

 それに、トラス王国には無いが、ガリア王国には火山や温泉があると聞く。火山活動についての情報は確認しなければ分からないが、活性化していた場合はいよいよ信憑性が増す事になる。

 そんな事を考えながら領主館の廊下を進んだ。開けたアーチから彼方に広がる海を睨み付ける。どこかの海底にはきっと、プレートの境目があるに違いない。



***



 『復興本部』と王国語で書かれた板切れが扉の横に立て掛けられた部屋に入り、グレイを始め他の皆ともお互いをねぎらい合う。それが済むと、確認の取れた被害状況について教えて貰った。

 浸水で被害を受けたのは四十戸強ぐらいだったらしい。交易所やその倉庫も運良く船を送り出した直後だったので、そこまでの打撃では無かったそうだ。

 手袋やマスク、包帯は間に合うと報告すると、掃除道具や猫車もほぼほぼ出来上がっていると聞かされたので一安心。馬の脚共も中脚も頑張ってくれたみたいだ。

 既に人をやって丘の中腹から上の層の家々を回らせ、住民の無事や揺れによる被害状況の確認と――手すきの男手の手伝いの要請を済ませてあるとの事で。
 明朝から船乗り達や浸水被害に遭った家の住人達と共に掃除や瓦礫等の片づけに入る予定だそうだ。段取りはばっちりである。

 「――今のところこんな感じで明日を待つばかりなんだ。それで、マリーには何か気付いた事があれば意見が欲しいと思って」

 「ええ、今のところはそれで良いと思うわ。ただ、食料物資の調達に関わる道が損壊して無いかの確認や、近隣の港町の被害状況の把握、被害状況がまとまったら王都への報告もしておいた方が良いわね。ここだけとは思えないもの」

 インフラは大事である。また、他の港の被害状況次第では震源域がある程度絞れるかも知れない。

 「分かった。明日人をやって街道を見て来させよう」

 グレイが頷くと、カレル兄が手を上げた。

 「報告には鳩を持って来てある。明朝飛ばすつもりだ。陛下には父様が報告してくれる事だろう」

 「私も飛ばします。万が一がありますからね」

 サリューン枢機卿も続ける。であれば、不達のリスクは半減される事だろう。それなら、と安心していると、それまで黙っていたファリエロが姫様、と声を掛けて来た。

 「この町は当然としても――近隣の港町の被害状況を把握するのは何か理由が? ナヴィガポールには他の町を支援する余裕は無いと思うのですが」

 言われてみれば、とリノが呟く。レイモン氏やノルベール司祭も訝し気にこちらを見ていた。
 私は皆を見渡して頷く。

 「勿論理由はありますよ。ですがその前に。地揺れが何故起こるのか、という事からお話ししましょう――」
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