貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

思わぬ再会。

 「すっかり綺麗になったわね」

 あの日から凡そ一週間。ナヴィガポールの住人総出で作業人員を組織し、交代しながら復旧に当たった結果――住宅も港設備も使える程までになった。
 今後はぼちぼち、地震での建物倒壊を防ぐ為の補強工事が建築家の指導の下進められていくとの事。石やレンガ造りの家々だけれど、費用を考えると全て建て直す訳にもいかない。なので、内部を縁取るように角材で枠を作って筋交いを入れて補強するそうだ。
 地震があった時の対策をまとめたものはレイモン氏に渡してある。もう少ししたら避難訓練も始まる事だろう。標高の低い場所に住む避難弱者は船へと誘導する事になっている。

 近隣の港町の被害は、やはりガリア王国側がより酷い事が分かった。

 ナヴィガポールに戻って来た交易船に乗っていたリノの兄イルディオ曰く、ガリア中部の港町コスタポリは半分以上波に呑まれて壊滅状態だったそうだ。そこへ停泊していたルフナー商会の数隻の中型帆船も軒並みやられてしまっていたという。

 ナヴィガポールの国境を隔てた隣にある、山肌に沿ったガリア北部西岸の港町ロケッタジャーラは被害軽微であったものの、船がほとんど駄目になったらしい。
 そこから少し行った南岸に、陸地で囲まれた内海にある湾岸都市ゴルフォベッロがある。そこは建物の倒壊も比較的少なく津波被害も無かったので当面の補給はゴルフォベッロを利用する方が良いだろうという話だった。
 ナヴィガポールから西方隣、トラス王国の港町ジュリヴァは少し揺れた程度で波も大丈夫だったらしい。

 という事は、震源域はナヴィガポールから南、コスタポリの西方沖だという事になる。コスタポリから更に先にある港町の被害状況がもし軽微であったならば、まず間違いないだろう。

 物資の不足もファリエロがジュリヴァから運んできてくれて解決。平穏に戻ったナヴィガポールを私達は今日出航するのだ。

 コリピサへはファリエロの船で行く。リノはお留守番、またイルディオはナヴィガポールで他の兄弟達と交代するまで休暇を取るそうだ。

 お世話になったレイモン氏、ジュデ、リノ、イルディオ、交易所のランベール・ジレスさん、グラ・ノルベール司祭、ガリア食堂の髭親父や町の人々が総出で見送りに来てくれていた。

 別れを告げ、タラップを登って船に乗り込むと、口々に「聖女様、ありがとうございました!」「またナヴィガポールへ来て下さいね!」等と言いながら手を振っている。

 柄にもなく胸がいっぱいになる。涙ぐみながらそれに振り返していると、ふと私を魔女呼ばわりしたピエールの姿。
 私と目が合うと、帽子を脱いで深々と一礼をし、ハンカチを振った。彼が避難訓練の責任者に抜擢されていた事を思い出し、口元が緩む。想像力はあるようだから、最悪の事態を想定して行動するのに適任だと思う。

 グラ・ノルベール司祭は津波騒動の事を『ナヴィガポールの奇跡』として話に纏めていた。
 町の人には一応緘口令を敷いてある。また、聖女という言葉や名前は絶対に伏せておくようにと言ったので、肝心な所は『ある一人の旅の女性が』等とぼやっとした感じに変えられている。
 けれど、それでも話が広まれば観光客や巡礼の旅人がナヴィガポールにやってきて、一定の経済効果が期待出来るかも知れない。

 それを見越して、ガリア食堂の髭親父にはピラフとお好み焼きのレシピをあげて、投資をした。お店が無くなったのに炊き出しを頑張って貰ったお礼でもある。津波被害にあった人達を優先的に雇ってくれるそうだ。

 帆船は風を受けてどんどん沖へ出る。小さくなっていく港町に、私は「またね」と別れを告げた。



***


 ガリア王国の湾岸都市ゴルフォベッロに到着したのはナヴィガポールを出てから三日後の事だった。実際に見たゴルフォベッロはかなり大きな街で、二つの半島によって外海から半分隔離されている。内海は穏やかで、津波の被害をそこまで受けなかったというのも頷けた。

 「今日はこの町で休みましょう」

 ファリエロ曰く、この街で私達は入国審査を行うそうだ。ファリエロ達のような船乗りならば補給の為の寄港はよくある事なので、ゴルフォベッロから出さえしなければ問題はない。
 また、他国の貴族である私達は身元を保証する出国証明書を提示するだけで良い。もし、ここからガリア内陸へ旅をするならば通行許可証……というか、査証がいるそうだけれど。
 船を検分している役人に証明書を見せると、上役を呼んでこられ、トラス王国語で丁寧に応対された。もし陸路をお使いになる場合は領主館へお越し下さい、だそうだ。

 港近くの高級宿に向かい、宿泊する。翌日、散歩に外へ出ると異変が起こっていた。

 「な、何……凄い数の帆船」

 私達が到着した時には中型船が数隻しか無かったのに、ガリア王国旗を掲げた十数隻の大型帆船が港に停泊していた。大砲が幾つも見えたので軍艦かも知れない。並びきれなかったのであろう何隻かは離れた湾内に碇を下ろして停泊している。そこから手漕ぎボートでこちらへ向かう船乗りらしき人々も見える。
 港には船乗りや軍人らしき人々でごった返していた。物々しい雰囲気である。私達の乗って来た船の所へ行くと、ファリエロが軍人(仮)と何事かを話しているのが見えた。

 「ガリア王国の軍人、しかも正規軍が何故……」

 グレイの呟きにやはりそうかと思う。
 その人が離れてから近寄ると、私達に気付いたファリエロが手を上げて会釈した。

 「グレイ坊、姫様にカレル様達も。おはようございます」

 「ファリエロ、さっきのは」

 「ああ、何時出航するのかと訊かれましてね。この街をコスタポリを救援する為の拠点に使うそうで」

 それでガリア王国の正規軍が王都ティタルミノーザから派遣されて来たのだそうだ。
 話している間に、軍人達に召集がかかったようで、一際立派な船の前に整列している。その前に設えられた壇の上には立派な軍服を着たお偉いさんらしき人。
 ガリア王国語で何か演説した人が脇に下がると、軍人達が一斉に片膝をついた。壇上に上がって来た、立派な純白のマントをしたその人を見て、私は思わずあっと声を上げた。
 軍人達の視線が一斉に突き刺さる。その人もこちらに気付いたのか、私と視線が合った瞬間驚きの表情を浮かべた。

 「シル……」

 そう、その立派なマントの御仁は、つい一月程前――メテオーラ嬢と共に家に来て、一緒にお茶して遊び倒した彼女の従兄弟、シルヴィオ・プリモその人だったのである。
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