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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
グレイ・ルフナー(82)
八本足の肉片はほとんど噛まずに丸呑みして、完食した瞬間力尽きて机に突っ伏してしまう。
僅差でリノには負けたけど、何とか面子を保った僕。
少し離れたテーブルではマリーが美味しそうに口をもぐもぐとさせていて、それにつられたのか、カレル様やエヴァン修道士、サリーナ、隠密騎士三人が少しずつ貰って味見していた。
負けず嫌いのジュデットも八本足を口にして――多分噛まずに吞み込んだんだろうけど――八本足も食べれば大したことは無いと虚勢を張っている。
そこへ、一人の船乗りの男が近づき、八本足以上にグロテスクな海鼠を、しかも生の料理で差し出した。ファリエロが男の名を諫めるように呼んだ。海鼠を見たジュデットは悲鳴を上げ、前脚ヨハンと後ろ脚シュテファンが無礼なと声を上げる。
逆恨み? と疑問に思っていると、どうもあのマルコと言う男はマリーに賭けていたらしく。それが台無しになったから海鼠で逆恨み、という事かと合点した。
しかしやはりマリーは流石と言うか。平気な顔で海鼠料理を口にして、あまつさえ白ワインが飲みたいとさえ言ってのけた。今度は海鼠の肉片を差し出し、反撃に出たマリー。
マルコはそれを口に入れる度胸は無かったようで、とうとう土下座してしまう。ファリエロは呵々大笑するとマリーを認め、船乗り達もそれに倣って敬礼をする。
止めておけばいいのに、負けず嫌いの心を奮い立たせたのか。ジュデットは「私だって!」と声を上げてしまった。すると当然、親切なマリーは「食べてみます?」と海鼠をジュデットの顔の前にぶら下げて、あーんとやる。
憐れ、ジュデットは今更やっぱり要らないとも言えず、また口に入れる事も出来ず、とうとう気絶してしまった。
慌ててジュデットを抱き留めるカレル様。リノが「やれやれ」と溜息を吐いて立ち上がった。
「自分で仕掛けておいて、昔から墓穴を掘る所あるよなあいつ。グレイ坊ちゃん、悪いけど俺、抜けるわ。後の案内は親父に任せるから」
「あ、ああ。うん分かった」
ジュデットはリノに背負われて、領主館へ戻って行ったものの。
結局、僕達もあれから買い物を済ませて直ぐに領主館へ戻った。マリーが夕食に作ったのは、『オコノミ』という野菜や豚肉、海産物等を小麦粉と魚粉と水を混ぜて作った生地に入れ、焼くという料理。
ソースにデーツを使うのは意外で、色々な材料を混ぜ込んでいたから味が心配だったけれど、出来上がってみると絶品だった。
材料を考えてみれば何とも贅を尽くした料理だ。きっとマリーは海でこれが食べたかったんだろうな、と納得する。
「グレイ様、この『オコノミ』はマリアージュ様がお考えになったものなのでしょうか。海の物、山の物――色々な材料が贅沢に入っていて、これ一つで完結されている。しかも非常に美味で驚いております」
レイモンが感心したように言い、僕は「そうだよ」と頷いた。
「マリーは色んな事を知っているんだ。キャンディ伯爵家の料理は美食揃いだと社交界の評判になっている位で」
八本足入り、流石に僕は遠慮したけれど、度胸試しに参加していない面々はすっかり気に入った様子で食べていた。
この『オコノミ』はもしかするとこの町の名物になるかも知れない、そう言うと、レイモンも頷く。
「元々この町にはそう言った名物等はありませんでしたから。これならば貴人に出してもおかしくないかと。レシピをお教え頂く訳にはいかないのでしょうか」
「ああ、訊いてみるよ」
彼女は快く教えてくれるだろう。材料にかなり輸入食材を使っていて、海から採れる物も必要――正にこのナヴィガポールにうってつけの料理だ。
『オコノミ』を食べた後、マリーと二人並んで串焼きを食べる。マリーのは子クラーケンのだったけれど。度胸試しの魚もマリーにかかればただの美味しい物、なんだろうなぁ。
マリーはこの町に来て良かったと言ってくれた。僕もナヴィガポールは好きだから嬉しい気持ちになる。
老後はこの町で暮らそうか、なんて遥か未来の事を話す。ああでも、その時は度胸試しの魚は遠慮したいな。
そう言うと、笑い出すマリー。
――未来、か。
満天の星空を仰ぎ見る。僕達の子供が大人になる頃にはきっと、ナヴィガポール名物『オコノミ』が有名になっているかも知れない。そんな事を考え、僕はクスリと笑った。
***
やってきた商船から荷下ろしされた品物は検分を経て倉庫へ運ばれ、交易所で書類が作られる。倉庫で検査と仕分けを経た後、品物は荷馬車に積み込まれ、王国各地の商会へと運ばれて行く。
今日はマリーは海岸で貝殻拾い。僕は別行動だ。交易所の二階にある執務室でお茶の仕入れ値についてランベールと話した後、リノとジュデットが訪ねて来ていた。話がある、というので屋上のテーブルを借りる。
「どうしたの、ジュデット。話って?」
促すと、下を向いて気まずそうにしているジュデット。リノが口を開いた。
「訊きたい事があるんだとさ」
「……あの、グレイ兄様は幸せ?」
「えっ? どういう意味?」
「私……グレイ兄様の婚約者が伯爵家のご令嬢だって聞いて、きっと問題ある人を無理やり押し付けられたんだって思ってたの」
ぽつぽつと話すジュデット。「それで……」
ああ、何となく分かった。ジュデットはそれで悪戯をしていたんだな。
「でも、実際見たマリーは違った」
そう言うと、こくりと頷く。ジュデットが海鼠に気絶した時の事を思い出して、悪い事をしたな、と思う。
僕はマリーとの馴れ初めを差し支えない範囲で二人に語った。
「……という事なんだ。性格的に問題がある訳じゃない。僕はキャンディ伯爵サイモン様に見込まれて婚約をしたんだ。マリーは社交界が嫌いで、ひっそりと穏やかに暮らしたいという人だよ。たとえ王子殿下に求婚されても彼女は断るだろうね」
実際断ったけど、という言葉は飲み込んでおく。
「僕はマリーが好きなんだ。彼女も僕を好きでいてくれる。だから今、とても幸せだよ」
「……そうなの。それなら、良かった」
ジュデットは少し寂しそうな微笑みを浮かべる。その表情になぜかドキリとした。
もしかして……
「だけどよ、ただの貴族令嬢じゃないよな、あの人」
リノの言葉に思考を中断される。
海鼠すら喜んで食べてたし、と続ける。ジュデットが思い出したのか顔色を変えて口元に手をやった。
「まるで、最初から食べられるって知ってたみたいだ」
「……あながち間違いじゃないかもね」
「ふうん? まだ秘密があるって事か」
鋭利な刃物ののような好奇心に満ちた眼差しを向けられる。その問いに、僕は沈黙の微笑みで返した。
僅差でリノには負けたけど、何とか面子を保った僕。
少し離れたテーブルではマリーが美味しそうに口をもぐもぐとさせていて、それにつられたのか、カレル様やエヴァン修道士、サリーナ、隠密騎士三人が少しずつ貰って味見していた。
負けず嫌いのジュデットも八本足を口にして――多分噛まずに吞み込んだんだろうけど――八本足も食べれば大したことは無いと虚勢を張っている。
そこへ、一人の船乗りの男が近づき、八本足以上にグロテスクな海鼠を、しかも生の料理で差し出した。ファリエロが男の名を諫めるように呼んだ。海鼠を見たジュデットは悲鳴を上げ、前脚ヨハンと後ろ脚シュテファンが無礼なと声を上げる。
逆恨み? と疑問に思っていると、どうもあのマルコと言う男はマリーに賭けていたらしく。それが台無しになったから海鼠で逆恨み、という事かと合点した。
しかしやはりマリーは流石と言うか。平気な顔で海鼠料理を口にして、あまつさえ白ワインが飲みたいとさえ言ってのけた。今度は海鼠の肉片を差し出し、反撃に出たマリー。
マルコはそれを口に入れる度胸は無かったようで、とうとう土下座してしまう。ファリエロは呵々大笑するとマリーを認め、船乗り達もそれに倣って敬礼をする。
止めておけばいいのに、負けず嫌いの心を奮い立たせたのか。ジュデットは「私だって!」と声を上げてしまった。すると当然、親切なマリーは「食べてみます?」と海鼠をジュデットの顔の前にぶら下げて、あーんとやる。
憐れ、ジュデットは今更やっぱり要らないとも言えず、また口に入れる事も出来ず、とうとう気絶してしまった。
慌ててジュデットを抱き留めるカレル様。リノが「やれやれ」と溜息を吐いて立ち上がった。
「自分で仕掛けておいて、昔から墓穴を掘る所あるよなあいつ。グレイ坊ちゃん、悪いけど俺、抜けるわ。後の案内は親父に任せるから」
「あ、ああ。うん分かった」
ジュデットはリノに背負われて、領主館へ戻って行ったものの。
結局、僕達もあれから買い物を済ませて直ぐに領主館へ戻った。マリーが夕食に作ったのは、『オコノミ』という野菜や豚肉、海産物等を小麦粉と魚粉と水を混ぜて作った生地に入れ、焼くという料理。
ソースにデーツを使うのは意外で、色々な材料を混ぜ込んでいたから味が心配だったけれど、出来上がってみると絶品だった。
材料を考えてみれば何とも贅を尽くした料理だ。きっとマリーは海でこれが食べたかったんだろうな、と納得する。
「グレイ様、この『オコノミ』はマリアージュ様がお考えになったものなのでしょうか。海の物、山の物――色々な材料が贅沢に入っていて、これ一つで完結されている。しかも非常に美味で驚いております」
レイモンが感心したように言い、僕は「そうだよ」と頷いた。
「マリーは色んな事を知っているんだ。キャンディ伯爵家の料理は美食揃いだと社交界の評判になっている位で」
八本足入り、流石に僕は遠慮したけれど、度胸試しに参加していない面々はすっかり気に入った様子で食べていた。
この『オコノミ』はもしかするとこの町の名物になるかも知れない、そう言うと、レイモンも頷く。
「元々この町にはそう言った名物等はありませんでしたから。これならば貴人に出してもおかしくないかと。レシピをお教え頂く訳にはいかないのでしょうか」
「ああ、訊いてみるよ」
彼女は快く教えてくれるだろう。材料にかなり輸入食材を使っていて、海から採れる物も必要――正にこのナヴィガポールにうってつけの料理だ。
『オコノミ』を食べた後、マリーと二人並んで串焼きを食べる。マリーのは子クラーケンのだったけれど。度胸試しの魚もマリーにかかればただの美味しい物、なんだろうなぁ。
マリーはこの町に来て良かったと言ってくれた。僕もナヴィガポールは好きだから嬉しい気持ちになる。
老後はこの町で暮らそうか、なんて遥か未来の事を話す。ああでも、その時は度胸試しの魚は遠慮したいな。
そう言うと、笑い出すマリー。
――未来、か。
満天の星空を仰ぎ見る。僕達の子供が大人になる頃にはきっと、ナヴィガポール名物『オコノミ』が有名になっているかも知れない。そんな事を考え、僕はクスリと笑った。
***
やってきた商船から荷下ろしされた品物は検分を経て倉庫へ運ばれ、交易所で書類が作られる。倉庫で検査と仕分けを経た後、品物は荷馬車に積み込まれ、王国各地の商会へと運ばれて行く。
今日はマリーは海岸で貝殻拾い。僕は別行動だ。交易所の二階にある執務室でお茶の仕入れ値についてランベールと話した後、リノとジュデットが訪ねて来ていた。話がある、というので屋上のテーブルを借りる。
「どうしたの、ジュデット。話って?」
促すと、下を向いて気まずそうにしているジュデット。リノが口を開いた。
「訊きたい事があるんだとさ」
「……あの、グレイ兄様は幸せ?」
「えっ? どういう意味?」
「私……グレイ兄様の婚約者が伯爵家のご令嬢だって聞いて、きっと問題ある人を無理やり押し付けられたんだって思ってたの」
ぽつぽつと話すジュデット。「それで……」
ああ、何となく分かった。ジュデットはそれで悪戯をしていたんだな。
「でも、実際見たマリーは違った」
そう言うと、こくりと頷く。ジュデットが海鼠に気絶した時の事を思い出して、悪い事をしたな、と思う。
僕はマリーとの馴れ初めを差し支えない範囲で二人に語った。
「……という事なんだ。性格的に問題がある訳じゃない。僕はキャンディ伯爵サイモン様に見込まれて婚約をしたんだ。マリーは社交界が嫌いで、ひっそりと穏やかに暮らしたいという人だよ。たとえ王子殿下に求婚されても彼女は断るだろうね」
実際断ったけど、という言葉は飲み込んでおく。
「僕はマリーが好きなんだ。彼女も僕を好きでいてくれる。だから今、とても幸せだよ」
「……そうなの。それなら、良かった」
ジュデットは少し寂しそうな微笑みを浮かべる。その表情になぜかドキリとした。
もしかして……
「だけどよ、ただの貴族令嬢じゃないよな、あの人」
リノの言葉に思考を中断される。
海鼠すら喜んで食べてたし、と続ける。ジュデットが思い出したのか顔色を変えて口元に手をやった。
「まるで、最初から食べられるって知ってたみたいだ」
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