貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

グレイ・ルフナー(83)

※鳩に対する差別的な表現があります、ご注意ください。
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 ルフナー子爵家からの鳩が届く。
 手紙には現在の王都の様子が記されていた。

 アルバート殿下の提案された登用制度の見直しに関して、保守的な貴族は反対を表明し、議論が紛糾。しかし下位貴族や王都の民衆の間に反対する貴族は実力も無いのに既得権益を貪っている、けしからんという世論が高まっている模様。

 「文句を言うなら実力を示せ、無能は要らぬ。カラスの如く賢くは無く、鷹の如く獲物も狩れない鳩を不相応な地位につけるのは国を亡ぼす元だ。鳩ならば鳩らしく修道院で祈るのが相応しい」と言い放ったそうで。

 要は「実力を示せない無能共は修道院にでも放り込んでおけ」という乱暴な意見に、教会側が信仰はそのようなものではないと反発を見せる。
 しかし間の悪い事にサリューン枢機卿はこちらへ向かう旅路にあって、第一王子殿下を直接諫められる人物は王都には居なかった。
 ただ流石に第一王子派の貴族達からも性急すぎるとの意見が。逆に一部の第二王子派から賛成意見が出たりして、会議は踊る。かなり白熱しているらしい。

 また、商工業の保護に関して。何か生産に役立つ技術を開発すればそれを国が買い取る政策を提案したようだ。買い取られた技術は登録され、その使用料を払う事で誰でも自由に使えるようにするらしい。

 市場活性化の為に王領における市場税や通行税、間接税を撤廃する代わりにギルドを解体して王国所属の機関として管理する事等も。
 失われた税をどこから補填すればという意見には、無駄な予算を削り、それで足りなければ軍を強化して国外から富をかき集めるといいと。

 これには商工業各ギルドも寝耳に水だったようで、国家不介入の嘆願書を出したそうだが、アルバート殿下がギルドの人員はそのまま国が手厚く雇用すると譲歩案を出したのでどう転ぶか分からないらしい。

 商工業ギルドは元々はかなり政治的な力があったけど、キーマン商会うちのような大陸を跨ぐ交易商人が台頭してきてからはその力はかなり弱まっていた。この政策で既得権益を保ったまま、発言力を盛り返す事を期待しているのかも知れない。

 このように、民衆や低位貴族からの人気が増える一方、アルバート殿下に対する高位貴族からの反発は日に日に大きくなっている。
 貴族達の支持は第二王子殿下に傾きかけているそうだ。

 「王都からか?」

 僕が手紙を読んでいると、カレル様が興味を示す。特に隠す内容でも無いので、「どうぞ」と差し出した。

 「良いのか?」

 「ええ、構いません」

 手紙を読んだカレル様は渋面になり、手紙を返す。腕組をしてこちらを見た。

 「混乱しているな……グレイはどう思う? 特にこの商工業の保護に関しては」

 「保護を謳いながらギルドを取り込み、商人や職人達に国家の首輪を付けようとしていますよね。また、この政策が通れば少なくとも王領での商業は活性化する事でしょう――ただし、王領に隣接した領地の商人や住人を吸い上げる形で。
 市場税が無くなっても、儲けそのものに対する課税免除はされていませんので、王領だけが肥え太り、周囲の領地はやせ細っていくかと。
 力を削がれた領主に抗う術はなく、王領と同じ条件にするしかない。ゆくゆくは王国全土がこのようになるのではと推測します」

 ――反乱でも起きない限りは。

 そう言うと、カレル様は「だよなぁ」と溜息を吐いた。「殿下は貴族達に喧嘩を売っている」

 「問題は、貴族達が喧嘩を売られていると理解してそうした狙いを読んでいるかどうかですが。王領の商工業者はアルバート殿下を後押しするでしょう。また、軍部も」

 恐らくだけれど、ギルドを国の機関として設け直すのと同時に、トラス王国全土の商工業者はなべてそこへ登録する事、と法を整備するに違いないと思う。そうなれば他の貴族からの商工業者への介入が難しくなる。
 そして、国外から富を集めるという事は外国との戦争も起こりうるという事。邪魔な勢力を戦場に送り込む事も考えているかも知れない。

 サリューン枢機卿猊下がいらっしゃったら、アルバート殿下の発言について報告しておかなければ。



***



 枢機卿猊下がナヴィガポールに到着されたその日。

 僕達はあのガリア食堂に来ていた。交易所のランベール・ジレスがマリーがオコメが好きだという事で、たまたま安く手に入ったというものを届けてくれたのだ。
 以前僕が彼女に贈ったものとは違い、細長いそれ。マリー曰く、これはこれで向いている料理があるとの事。

 それでマリーが皆を誘ってやってきたのがここだ。ガリア食堂は今や、すっかりマリーのお気に入りの店になっている。今度は子クラーケンとエビとオコメで料理を作って貰うらしい。

 出来上がった料理は、アヤスラニ帝国のものに似ているそうだ。きっとこの細長いオコメも帝国で作られているのだろう。ピラフという名前だそうだけど、一気に大量に作れるみたいだから大衆受けしそうだ。
 材料の一部の悪魔的なものに目をつぶりさえすれば、やはりマリーが作らせた料理は美味しかった。

 皆が食べ終わるか食べ終わらないか位のその瞬間――天変地異は突如訪れた。

 ぐらぐらと揺れる大地、悲鳴を上げる人々。

 僕は咄嗟にマリーを庇った。しかし彼女は泰然と座ったまま。異変が収まると、最後のピラフを口にしていた。カレル様が何故平気なのかと指をさす。
 ここに居る皆、揺れる大地にこの世の終わりが来たかのような気持ちになった事だろう。僕も同じような気持ちだ。

 マリーは僕の腕を軽く叩いて礼を言うと、周囲を見渡して無事かと訊ねた。そして怪我人が居ないと見て取ると、ファリエロに顔を向ける。そして大波が来るかも知れない、と落ち着いた様子で指示を出し始めた。
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