貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

『常世の長鳴鳥』の止まり木らしい。

 鳥居のような、じゃなくて本当に鳥居?

 門を潜りながらしげしげと観察する。近付いてみれば、どう見ても鳥居としか思えなかった。西洋風の大聖堂に鳥居……そう言えば前世でも日仏の観光友好でモンサンミッシェルに鳥居が出現したそうだが、正にその状態で、私にとってこの光景は現実を超越した現実シュールレアリズムそのものである。
 しげしげと見つめる私に教皇が説明してくれた。

 「ああ、この門は俗世と聖域を隔てるものでございます。『トゥリー』と呼ばれているもので、神の御使いである翼あるものが羽を休める止まり木とでも申しましょうか。左側を歩くのが作法となっております」

 まんまやんけ。

 間違いない、鳥居だ。これをこの世界にもたらしたのは初代聖女に違いない。きっと彼女は宗教を神道のような形にしたかったんだろうが、後世に中途半端に残った感が否めない。

 「存じております。名前を知って更に驚きました、あちらの世界のものなので。鳥が居る場所と書いて、『トリイ』と読むのです」

 「何と、ではこれは初代の聖女様が?」

 「ええ、恐らくは。中央を通るのが禁忌なのは神の通り道故――違いますか?」

 「その通りです。そうでございましたか、これが……」

 サングマ教皇は感慨深げに鳥居を見上げた。成る程、作法は形として残っていたが、謂れ等は失伝してしまっていたのだろう。
 門の向こうは中央大聖堂の入り口へ向かう大きな階段。ここで合流する予定らしい。私達が先に来たのは、あちらは回り道になるそうで。

 ――暇だ。鳥居の上に石ぶん投げちゃダメだろうか。

 石を投げて鳥居の上に上手く乗れば願いが叶うという、俗信のアレである。
 観察するだに鳥居の石投げはされてない様子なのでこちらの世界の人は知らないのだろう。敬虔な者が聞けば目を剝きそうな事を考えながら待つ事暫く。そろそろ暇潰しに石を投げても良いかと訊こうとしたところで、やっとグレイ達がやってきたので合流。そのまま階段を上り、真っ直ぐに中央大聖堂へと入った。

 歴史を感じさせる、重厚なパルテノン神殿を思わせる白い柱が立ち並ぶ。遥かに高い天井には神々が描かれ、採光窓からの光に照らされて荘厳な印象を与えている。
 二階の回廊と思われる場所にある窓にはガラスが張られ、聖堂の奥には、祭壇があり、その向こうには宗教画を模したステンドグラス。中央には大きな鏡がはめ込まれている。
 祭壇の上にも採光窓があり、そこから降り注ぐ光が丁度スポットライトのように下に落ちるようになっていた。『太陽神の加護を得ている』という演出だろう。
 ……祭壇の上に鏡が載せられていないのは、眩しかったからに違いない。

 大聖堂の中には、聖地巡礼で来たと思われる信徒達が結構居り、教皇が入って来たという事で騒めいていた。
 先回りしていた修道騎士達が押し止めてくれているが、教皇にエスコートされている私にお前は何者だ的な視線がグサグサと容赦無く突き刺さる。公開処刑状態である。こんな事なら仮面を被ってくれば良かったと思うが後の祭り。

 中央に敷かれた赤い絨毯の上を真っ直ぐ進み行く。祭壇の横の壁を見ると扉があり、そこへと案内された。警備に当たっていた修道騎士が恭しく礼をして扉を開けてくれる。
 廊下に出て、二階へと続く階段を上った先にある立派な一室へと導かれる。その内装の豪華さから、きっと各国の貴人や要人をもてなす為の部屋なのだろう。

 ソファーに座ると修道士がお茶を運んできてくれて人心地ついた。お疲れ様でございました、とサングマ教皇が労ってくれた。

 「聖女様におかれましては、後程お泊りになるお部屋へご案内致します。暫しの間、ゆっくりとお寛ぎ下さい」

 「ありがとうございます」

 案内役であったエトムント枢機卿がそう言って一礼し、部屋を出て行く。修道騎士達も「では我々はこのまま扉の外で控えております」と恭しく騎士の礼を取ってそれに続いて。私はサングマ教皇に改めて向き直った。



***



 「で、では。その方はアヤスラニ帝国の皇子だと……?」

 「そのようです。十三番目の皇子と仰っていました」

 私は本人の許可を取り、改めてイドゥリースの事情と彼を保護する理由を教皇に説明。サングマ教皇は唖然としてイドゥリースを見詰める。

 「彼は星読みで、『来るべき災厄』の事を予言なさったそうですわ。誰にも信じて貰えず、不吉な予言をした事で国を追われたのだと」

 「成る程、それで聖女様はその星読みの力を見込まれて亡命に協力なさったと」

 異教徒だし、教会に保護を求めるのには不都合な事があるのだろうという事も含めて話すと、教皇は確かにと頷いた。

 「それに、祖国に帰る余地を残して差し上げたいという気持ちもありますから」

 改宗してしまえば、それも難しくなるだろう。流石にそれは可哀そうである。

 「分かりました。そう言う事でしたら聖女様の御心のままに。しかし、アヤスラニ帝国と言えば、皇太子が皇帝になりその跡継ぎの皇子も生まれれば、皇帝の兄弟達は皆殺しだと聞いております。それを考えれば戻らぬ方が幸せなのかも知れません」

 「えっ!?」

 仰天し、慌ててスレイマンに確認すると、暗い表情で頷かれた。マジか。

 カレル兄が「酷いな。殺されるぐらいならうちで働けばいい」と彼らに声を掛けている。他の面々も同情的な眼差しを向けた。

 「聖女様のお話では彼は命を狙われていたそうですが、この聖地に居る限りは身の安全を保証しましょう」

 サングマ教皇が微笑んで請け負うと、スレイマンが礼を言い、イドゥリースも拙いトラス王国語でそれに倣った。

 「ありがとうございます。ところで、サングマ教皇猊下にもう一つお願いがあるのですが」

 彼らの事が片付いたところで私は例の事について切り出す事にした。

 「何でございましょう?」

 「滞在中、教皇猊下の祝福を頂きたいのですわ。私とグレイの婚姻を秘密裏に結んで――事実上婚姻しているという既成事実を作ってしまいたいのです」

 「はい?」

 思っても居なかった事だったのか、サングマ教皇の目が点になった。
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