201 / 758
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
『常世の長鳴鳥』の止まり木らしい。
鳥居のような、じゃなくて本当に鳥居?
門を潜りながらしげしげと観察する。近付いてみれば、どう見ても鳥居としか思えなかった。西洋風の大聖堂に鳥居……そう言えば前世でも日仏の観光友好でモンサンミッシェルに鳥居が出現したそうだが、正にその状態で、私にとってこの光景は現実を超越した現実そのものである。
しげしげと見つめる私に教皇が説明してくれた。
「ああ、この門は俗世と聖域を隔てるものでございます。『トゥリー』と呼ばれているもので、神の御使いである翼あるものが羽を休める止まり木とでも申しましょうか。左側を歩くのが作法となっております」
まんまやんけ。
間違いない、鳥居だ。これをこの世界にもたらしたのは初代聖女に違いない。きっと彼女は宗教を神道のような形にしたかったんだろうが、後世に中途半端に残った感が否めない。
「存じております。名前を知って更に驚きました、あちらの世界のものなので。鳥が居る場所と書いて、『トリイ』と読むのです」
「何と、ではこれは初代の聖女様が?」
「ええ、恐らくは。中央を通るのが禁忌なのは神の通り道故――違いますか?」
「その通りです。そうでございましたか、これが……」
サングマ教皇は感慨深げに鳥居を見上げた。成る程、作法は形として残っていたが、謂れ等は失伝してしまっていたのだろう。
門の向こうは中央大聖堂の入り口へ向かう大きな階段。ここで合流する予定らしい。私達が先に来たのは、あちらは回り道になるそうで。
――暇だ。鳥居の上に石ぶん投げちゃダメだろうか。
石を投げて鳥居の上に上手く乗れば願いが叶うという、俗信のアレである。
観察するだに鳥居の石投げはされてない様子なのでこちらの世界の人は知らないのだろう。敬虔な者が聞けば目を剝きそうな事を考えながら待つ事暫く。そろそろ暇潰しに石を投げても良いかと訊こうとしたところで、やっとグレイ達がやってきたので合流。そのまま階段を上り、真っ直ぐに中央大聖堂へと入った。
歴史を感じさせる、重厚なパルテノン神殿を思わせる白い柱が立ち並ぶ。遥かに高い天井には神々が描かれ、採光窓からの光に照らされて荘厳な印象を与えている。
二階の回廊と思われる場所にある窓にはガラスが張られ、聖堂の奥には、祭壇があり、その向こうには宗教画を模したステンドグラス。中央には大きな鏡がはめ込まれている。
祭壇の上にも採光窓があり、そこから降り注ぐ光が丁度スポットライトのように下に落ちるようになっていた。『太陽神の加護を得ている』という演出だろう。
……祭壇の上に鏡が載せられていないのは、眩しかったからに違いない。
大聖堂の中には、聖地巡礼で来たと思われる信徒達が結構居り、教皇が入って来たという事で騒めいていた。
先回りしていた修道騎士達が押し止めてくれているが、教皇にエスコートされている私にお前は何者だ的な視線がグサグサと容赦無く突き刺さる。公開処刑状態である。こんな事なら仮面を被ってくれば良かったと思うが後の祭り。
中央に敷かれた赤い絨毯の上を真っ直ぐ進み行く。祭壇の横の壁を見ると扉があり、そこへと案内された。警備に当たっていた修道騎士が恭しく礼をして扉を開けてくれる。
廊下に出て、二階へと続く階段を上った先にある立派な一室へと導かれる。その内装の豪華さから、きっと各国の貴人や要人をもてなす為の部屋なのだろう。
ソファーに座ると修道士がお茶を運んできてくれて人心地ついた。お疲れ様でございました、とサングマ教皇が労ってくれた。
「聖女様におかれましては、後程お泊りになるお部屋へご案内致します。暫しの間、ゆっくりとお寛ぎ下さい」
「ありがとうございます」
案内役であったエトムント枢機卿がそう言って一礼し、部屋を出て行く。修道騎士達も「では我々はこのまま扉の外で控えております」と恭しく騎士の礼を取ってそれに続いて。私はサングマ教皇に改めて向き直った。
***
「で、では。その方はアヤスラニ帝国の皇子だと……?」
「そのようです。十三番目の皇子と仰っていました」
私は本人の許可を取り、改めてイドゥリースの事情と彼を保護する理由を教皇に説明。サングマ教皇は唖然としてイドゥリースを見詰める。
「彼は星読みで、『来るべき災厄』の事を予言なさったそうですわ。誰にも信じて貰えず、不吉な予言をした事で国を追われたのだと」
「成る程、それで聖女様はその星読みの力を見込まれて亡命に協力なさったと」
異教徒だし、教会に保護を求めるのには不都合な事があるのだろうという事も含めて話すと、教皇は確かにと頷いた。
「それに、祖国に帰る余地を残して差し上げたいという気持ちもありますから」
改宗してしまえば、それも難しくなるだろう。流石にそれは可哀そうである。
「分かりました。そう言う事でしたら聖女様の御心のままに。しかし、アヤスラニ帝国と言えば、皇太子が皇帝になりその跡継ぎの皇子も生まれれば、皇帝の兄弟達は皆殺しだと聞いております。それを考えれば戻らぬ方が幸せなのかも知れません」
「えっ!?」
仰天し、慌ててスレイマンに確認すると、暗い表情で頷かれた。マジか。
カレル兄が「酷いな。殺されるぐらいならうちで働けばいい」と彼らに声を掛けている。他の面々も同情的な眼差しを向けた。
「聖女様のお話では彼は命を狙われていたそうですが、この聖地に居る限りは身の安全を保証しましょう」
サングマ教皇が微笑んで請け負うと、スレイマンが礼を言い、イドゥリースも拙いトラス王国語でそれに倣った。
「ありがとうございます。ところで、サングマ教皇猊下にもう一つお願いがあるのですが」
彼らの事が片付いたところで私は例の事について切り出す事にした。
「何でございましょう?」
「滞在中、教皇猊下の祝福を頂きたいのですわ。私とグレイの婚姻を秘密裏に結んで――事実上婚姻しているという既成事実を作ってしまいたいのです」
「はい?」
思っても居なかった事だったのか、サングマ教皇の目が点になった。
門を潜りながらしげしげと観察する。近付いてみれば、どう見ても鳥居としか思えなかった。西洋風の大聖堂に鳥居……そう言えば前世でも日仏の観光友好でモンサンミッシェルに鳥居が出現したそうだが、正にその状態で、私にとってこの光景は現実を超越した現実そのものである。
しげしげと見つめる私に教皇が説明してくれた。
「ああ、この門は俗世と聖域を隔てるものでございます。『トゥリー』と呼ばれているもので、神の御使いである翼あるものが羽を休める止まり木とでも申しましょうか。左側を歩くのが作法となっております」
まんまやんけ。
間違いない、鳥居だ。これをこの世界にもたらしたのは初代聖女に違いない。きっと彼女は宗教を神道のような形にしたかったんだろうが、後世に中途半端に残った感が否めない。
「存じております。名前を知って更に驚きました、あちらの世界のものなので。鳥が居る場所と書いて、『トリイ』と読むのです」
「何と、ではこれは初代の聖女様が?」
「ええ、恐らくは。中央を通るのが禁忌なのは神の通り道故――違いますか?」
「その通りです。そうでございましたか、これが……」
サングマ教皇は感慨深げに鳥居を見上げた。成る程、作法は形として残っていたが、謂れ等は失伝してしまっていたのだろう。
門の向こうは中央大聖堂の入り口へ向かう大きな階段。ここで合流する予定らしい。私達が先に来たのは、あちらは回り道になるそうで。
――暇だ。鳥居の上に石ぶん投げちゃダメだろうか。
石を投げて鳥居の上に上手く乗れば願いが叶うという、俗信のアレである。
観察するだに鳥居の石投げはされてない様子なのでこちらの世界の人は知らないのだろう。敬虔な者が聞けば目を剝きそうな事を考えながら待つ事暫く。そろそろ暇潰しに石を投げても良いかと訊こうとしたところで、やっとグレイ達がやってきたので合流。そのまま階段を上り、真っ直ぐに中央大聖堂へと入った。
歴史を感じさせる、重厚なパルテノン神殿を思わせる白い柱が立ち並ぶ。遥かに高い天井には神々が描かれ、採光窓からの光に照らされて荘厳な印象を与えている。
二階の回廊と思われる場所にある窓にはガラスが張られ、聖堂の奥には、祭壇があり、その向こうには宗教画を模したステンドグラス。中央には大きな鏡がはめ込まれている。
祭壇の上にも採光窓があり、そこから降り注ぐ光が丁度スポットライトのように下に落ちるようになっていた。『太陽神の加護を得ている』という演出だろう。
……祭壇の上に鏡が載せられていないのは、眩しかったからに違いない。
大聖堂の中には、聖地巡礼で来たと思われる信徒達が結構居り、教皇が入って来たという事で騒めいていた。
先回りしていた修道騎士達が押し止めてくれているが、教皇にエスコートされている私にお前は何者だ的な視線がグサグサと容赦無く突き刺さる。公開処刑状態である。こんな事なら仮面を被ってくれば良かったと思うが後の祭り。
中央に敷かれた赤い絨毯の上を真っ直ぐ進み行く。祭壇の横の壁を見ると扉があり、そこへと案内された。警備に当たっていた修道騎士が恭しく礼をして扉を開けてくれる。
廊下に出て、二階へと続く階段を上った先にある立派な一室へと導かれる。その内装の豪華さから、きっと各国の貴人や要人をもてなす為の部屋なのだろう。
ソファーに座ると修道士がお茶を運んできてくれて人心地ついた。お疲れ様でございました、とサングマ教皇が労ってくれた。
「聖女様におかれましては、後程お泊りになるお部屋へご案内致します。暫しの間、ゆっくりとお寛ぎ下さい」
「ありがとうございます」
案内役であったエトムント枢機卿がそう言って一礼し、部屋を出て行く。修道騎士達も「では我々はこのまま扉の外で控えております」と恭しく騎士の礼を取ってそれに続いて。私はサングマ教皇に改めて向き直った。
***
「で、では。その方はアヤスラニ帝国の皇子だと……?」
「そのようです。十三番目の皇子と仰っていました」
私は本人の許可を取り、改めてイドゥリースの事情と彼を保護する理由を教皇に説明。サングマ教皇は唖然としてイドゥリースを見詰める。
「彼は星読みで、『来るべき災厄』の事を予言なさったそうですわ。誰にも信じて貰えず、不吉な予言をした事で国を追われたのだと」
「成る程、それで聖女様はその星読みの力を見込まれて亡命に協力なさったと」
異教徒だし、教会に保護を求めるのには不都合な事があるのだろうという事も含めて話すと、教皇は確かにと頷いた。
「それに、祖国に帰る余地を残して差し上げたいという気持ちもありますから」
改宗してしまえば、それも難しくなるだろう。流石にそれは可哀そうである。
「分かりました。そう言う事でしたら聖女様の御心のままに。しかし、アヤスラニ帝国と言えば、皇太子が皇帝になりその跡継ぎの皇子も生まれれば、皇帝の兄弟達は皆殺しだと聞いております。それを考えれば戻らぬ方が幸せなのかも知れません」
「えっ!?」
仰天し、慌ててスレイマンに確認すると、暗い表情で頷かれた。マジか。
カレル兄が「酷いな。殺されるぐらいならうちで働けばいい」と彼らに声を掛けている。他の面々も同情的な眼差しを向けた。
「聖女様のお話では彼は命を狙われていたそうですが、この聖地に居る限りは身の安全を保証しましょう」
サングマ教皇が微笑んで請け負うと、スレイマンが礼を言い、イドゥリースも拙いトラス王国語でそれに倣った。
「ありがとうございます。ところで、サングマ教皇猊下にもう一つお願いがあるのですが」
彼らの事が片付いたところで私は例の事について切り出す事にした。
「何でございましょう?」
「滞在中、教皇猊下の祝福を頂きたいのですわ。私とグレイの婚姻を秘密裏に結んで――事実上婚姻しているという既成事実を作ってしまいたいのです」
「はい?」
思っても居なかった事だったのか、サングマ教皇の目が点になった。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。