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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
グレイ・ルフナー(90)
それから、海賊に出くわす事も無く僕達はコリピサに到着した。少々肩透かしを受けたような感じだけれど、何事も無かったので良かったと思う。
マリーが無事に着いて良かったと溜息を吐いた。海賊船はもうこりごりだとも。
そこへマルコが酒場での噂話を口にした。ガリア王国が地揺れと大波で打撃を受けた情報を知っていたのか、はたまた偶然か。
僕はファリエロと同意見、偶然だと思っている。
しかし、ファリエロの言う通り、コリピサの町中にアヤスラニ帝国人と思われる人間が散見されるのが気になった。
この町は巡礼者が多く、異教徒には排他的な町でもある。つい先日も、ガリアの商船をアヤスラニ帝国のものと思われる海賊が襲ったと聞いている。それなのに帝国人が居るなんて……。
ファリエロが、帝国人達は何かを探しているようだ、と言う。言われて見て見ると確かに視線を忙しなく動かしているようだった。
恰好だけは旅人や商人のようだけれど、恐らくそうでは無いだろう。堅気の人間とは思えない。
その佇まいがどちらかと言えば軍人に近いように思える。『一般人を装った軍人』。
そう思った時、サリーナが聖女であるマリーを狙っているのではと口にし、前脚と後ろ脚達も警戒を露わにしたけれど、ファリエロがそれを否定する。
確かに帝国人達は僕達の方を見ても何の反応も示さなかった。
そうこうする内、聖地からの迎えであるエトムント・サラトガル枢機卿が現れ、僕達はコリピサの修道院へと向かう事になった。
***
修道院で一連の挨拶や聖地訪問の段取りなどを打ち合わせをする。
聖地へ向かうのは明日だそうで、今日は僕達はコリピサで一泊だ。聖地が手配してくれたのは、コリピサでも一番の高級宿だった。
打ち合わせの後は宿へ向かう事になる。僕は空いた時間を利用して、キーマン商会のコリピサ支部を訪ねる事にした。
マリー達には先に宿へ行ってて構わないと言ったのだけれど、支部長がジュデットの両親だと知ると、ついて来たいという。
そこで、皆で連れだって行く事になった。
「まああ、大きな建物ね!」
マリーが目をキラキラとさせながら支部の建物を眺めている。カレル様やサリューン枢機卿猊下も「凄いな」「これは大したものですね」等と感嘆の声を漏らしていた。エヴァン修道士はぽかんと口を開けて上を見上げている。
「ここはアヤスラニ帝国を始め、東側の国々との貿易を繋ぐ貿易拠点なんだ。だからうちは特にこの支部に力を入れているんだよ」
ここは商会でも自慢の支部だ。僕は少し誇らしげに説明をする。
このコリピサ支部はガリアでもかなり大規模なもので、貿易の要となる場所と言っても過言ではない。信頼のおけるトリスタンとイズー夫婦に任せているのもその為だ。
幸い彼らは支部に居た。突然にもかかわらず、僕達の訪問は非常に歓迎された。
旧交を温めつつマリー達を紹介する。お茶の席でやはり話題に上るのは地揺れと大波の事。
僕はナヴィガポールでの出来事を話した。復旧も瞬く間に進み、大丈夫であることも。
トリスタンとイズーは、マリーが聖女である事に驚き、また彼女の活躍でナヴィガポールや娘のジュデットが無事であった事に涙ぐんでいた。あの町は彼らの故郷でもあるし、相当心配だったのだろうと思う。
お礼を言う二人に、マリーはにこやかにジュデットが彼女なりに悩みながらも人々の為に頑張っていた事、裁縫を手伝ってくれていた事等を話している。二人も嬉しそうに耳を傾けていた、その時。
部屋の扉がノックされ、ヒラール商会のスレイマンが訪ねて来たとの声。
「スレイマン? 彼が此処に来ているのか!?」
僕は驚きに思わず立ち上がりかけた。スレイマンはヒラール商会の跡取り息子で、アヤスラニ帝国の人間だ。僕とは親友だけれども、彼自身がこの町に来ることは今まで一度も無かったのに。
トリスタンはマリー達に視線を走らせ、お通ししても? と許可を求めた。マリーは枢機卿猊下とカレル様を見た後、「勿論ですわ」と頷く。
果たして、通されて来たのは懐かしきアヤスラニ帝国人の親友スレイマンだった。
しかも、彼だけじゃなく連れも居た。二人共アヤスラニ帝国の服装ではなく、何故かガリアのそれを着ている。頭にはフードを被っており、直感的に何か嫌な予感がした。
フードを下ろしつつ、室内の顔ぶれに多少面食らった様子の彼は、僕に目を留めるや否や、驚きと喜びの色を顔に浮かべて「グレイ!」と叫んだ。
僕も込み上げて来るものがあり、思わず立ち上がった。
僕達の間には、国も文化も超えた友情がある。
何年か前、アヤスラニ帝国の彼の家で一時期お世話になった事があり、その時お互い言葉を教え合ったり、一緒に遊んだりもした。
「『その見事な赤毛だけは見間違える筈もない! 久しぶりだな、グレイ。まさかここで君に会えるなんて、運命的なものを感じるよ! 少し会わない内に随分と背が伸びたじゃないか!』」
「『僕も驚いたよ、スレイマン。ああ、手紙こそはやりとりしてたけど、随分と会ってなかったよね』」
目頭が熱い。スレイマンの目も涙ぐんでいる。アヤスラニ帝国式に則って、お互い抱き合い、頬をすり合わせて口づけを落とす挨拶を交わした。
……まさかこの挨拶がマリーに誤解を招いて絶叫されるなんて、この瞬間には思ってもみなかったけれど。
マリーが無事に着いて良かったと溜息を吐いた。海賊船はもうこりごりだとも。
そこへマルコが酒場での噂話を口にした。ガリア王国が地揺れと大波で打撃を受けた情報を知っていたのか、はたまた偶然か。
僕はファリエロと同意見、偶然だと思っている。
しかし、ファリエロの言う通り、コリピサの町中にアヤスラニ帝国人と思われる人間が散見されるのが気になった。
この町は巡礼者が多く、異教徒には排他的な町でもある。つい先日も、ガリアの商船をアヤスラニ帝国のものと思われる海賊が襲ったと聞いている。それなのに帝国人が居るなんて……。
ファリエロが、帝国人達は何かを探しているようだ、と言う。言われて見て見ると確かに視線を忙しなく動かしているようだった。
恰好だけは旅人や商人のようだけれど、恐らくそうでは無いだろう。堅気の人間とは思えない。
その佇まいがどちらかと言えば軍人に近いように思える。『一般人を装った軍人』。
そう思った時、サリーナが聖女であるマリーを狙っているのではと口にし、前脚と後ろ脚達も警戒を露わにしたけれど、ファリエロがそれを否定する。
確かに帝国人達は僕達の方を見ても何の反応も示さなかった。
そうこうする内、聖地からの迎えであるエトムント・サラトガル枢機卿が現れ、僕達はコリピサの修道院へと向かう事になった。
***
修道院で一連の挨拶や聖地訪問の段取りなどを打ち合わせをする。
聖地へ向かうのは明日だそうで、今日は僕達はコリピサで一泊だ。聖地が手配してくれたのは、コリピサでも一番の高級宿だった。
打ち合わせの後は宿へ向かう事になる。僕は空いた時間を利用して、キーマン商会のコリピサ支部を訪ねる事にした。
マリー達には先に宿へ行ってて構わないと言ったのだけれど、支部長がジュデットの両親だと知ると、ついて来たいという。
そこで、皆で連れだって行く事になった。
「まああ、大きな建物ね!」
マリーが目をキラキラとさせながら支部の建物を眺めている。カレル様やサリューン枢機卿猊下も「凄いな」「これは大したものですね」等と感嘆の声を漏らしていた。エヴァン修道士はぽかんと口を開けて上を見上げている。
「ここはアヤスラニ帝国を始め、東側の国々との貿易を繋ぐ貿易拠点なんだ。だからうちは特にこの支部に力を入れているんだよ」
ここは商会でも自慢の支部だ。僕は少し誇らしげに説明をする。
このコリピサ支部はガリアでもかなり大規模なもので、貿易の要となる場所と言っても過言ではない。信頼のおけるトリスタンとイズー夫婦に任せているのもその為だ。
幸い彼らは支部に居た。突然にもかかわらず、僕達の訪問は非常に歓迎された。
旧交を温めつつマリー達を紹介する。お茶の席でやはり話題に上るのは地揺れと大波の事。
僕はナヴィガポールでの出来事を話した。復旧も瞬く間に進み、大丈夫であることも。
トリスタンとイズーは、マリーが聖女である事に驚き、また彼女の活躍でナヴィガポールや娘のジュデットが無事であった事に涙ぐんでいた。あの町は彼らの故郷でもあるし、相当心配だったのだろうと思う。
お礼を言う二人に、マリーはにこやかにジュデットが彼女なりに悩みながらも人々の為に頑張っていた事、裁縫を手伝ってくれていた事等を話している。二人も嬉しそうに耳を傾けていた、その時。
部屋の扉がノックされ、ヒラール商会のスレイマンが訪ねて来たとの声。
「スレイマン? 彼が此処に来ているのか!?」
僕は驚きに思わず立ち上がりかけた。スレイマンはヒラール商会の跡取り息子で、アヤスラニ帝国の人間だ。僕とは親友だけれども、彼自身がこの町に来ることは今まで一度も無かったのに。
トリスタンはマリー達に視線を走らせ、お通ししても? と許可を求めた。マリーは枢機卿猊下とカレル様を見た後、「勿論ですわ」と頷く。
果たして、通されて来たのは懐かしきアヤスラニ帝国人の親友スレイマンだった。
しかも、彼だけじゃなく連れも居た。二人共アヤスラニ帝国の服装ではなく、何故かガリアのそれを着ている。頭にはフードを被っており、直感的に何か嫌な予感がした。
フードを下ろしつつ、室内の顔ぶれに多少面食らった様子の彼は、僕に目を留めるや否や、驚きと喜びの色を顔に浮かべて「グレイ!」と叫んだ。
僕も込み上げて来るものがあり、思わず立ち上がった。
僕達の間には、国も文化も超えた友情がある。
何年か前、アヤスラニ帝国の彼の家で一時期お世話になった事があり、その時お互い言葉を教え合ったり、一緒に遊んだりもした。
「『その見事な赤毛だけは見間違える筈もない! 久しぶりだな、グレイ。まさかここで君に会えるなんて、運命的なものを感じるよ! 少し会わない内に随分と背が伸びたじゃないか!』」
「『僕も驚いたよ、スレイマン。ああ、手紙こそはやりとりしてたけど、随分と会ってなかったよね』」
目頭が熱い。スレイマンの目も涙ぐんでいる。アヤスラニ帝国式に則って、お互い抱き合い、頬をすり合わせて口づけを落とす挨拶を交わした。
……まさかこの挨拶がマリーに誤解を招いて絶叫されるなんて、この瞬間には思ってもみなかったけれど。
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