貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

ショートコント『透視能力』。

 私の精神は不思議と冴え渡っていた。

 人の脳が普段使われているのはその一割に過ぎないという神話は覆されているが、未知の領域が無い訳ではない。
 これは前世の記憶や超常的な知覚を司る領域の神経細胞が励起された状態なのだろうか。

 折角なので、どうせならと。外で待っている面々とサングマ教皇と一緒に入って貰おうと思う。

 それをサリーナに告げると、その場に居る面々は一斉に息を呑んだ。

 「確かに扉の外にはサリューン枢機卿猊下とエヴァン修道士、カールがいるけど……」

 「な、何で分かったんだ?」

 グレイとカレル兄が動揺しながら問いただしてくる。その事なんだけどね、と私は口を開いた。

 「夢で神様に会ったわ。そして、聖女としての力が覚醒したの。私が聖女になる事、そしてこの聖地に来て、初代聖女の手記を読む事は最初から決まっていたのよ。そう、私が生まれる前から」

 「聖女としての、力……?」

 呆然としたように、鸚鵡返しに呟くカレル兄に私は頷いた。目覚めて自覚した限りでは、予知能力と透視能力はある事になる。

 ふと、魔が差した私はグレイの身体をじっと見た。勿論裸を透視出来るかどうかを試す為である。

 「マリー……どうかしたの?」

 「いいえ、何も」

 ちっ、流石はグレイ。勘が鋭い男よ。
 ポーカーフェイスを保ちながら私は首を振って必死に誤魔化した。
 しかし頬が少し熱くなってしまったのは仕方が無い。

 ……ばっちり見れてしまった。

 聖女どころか性女し放題である。男にとっては夢のような能力だろう。
 余談だが、ある超能力の実験では性的エロ対象だとそうでない場合に比べて成績が良かったらしい。

 ひっひっふー。

 オーケー、婚約者だしもう結婚するしセーフセーフ! 問題ない。

 そう自分に言い訳していると、やがて扉の外が騒がしくなる。
 サリーナが応対に出ると、果たしてサングマ教皇が来てくれたとの事だった。


***



 「猊下、昨日は大変ご心配をお掛け致しましたわ」

 サングマ教皇達を部屋に迎え入れた後、私は迷惑を掛けた事を詫びた。教皇は安堵した様子で首を横に振る。

 「いいえ、それよりも無事にお目覚めになって本当に宜しゅうございました」

 どうやら二度と起きないのでは、と思われていたらしい。今となっては覚醒の為の必然だったとはいえ、皆に申し訳なかったと思う。

 「ところで、あの時お倒れになったのは何か理由がおありなのでしょうか。『聖女の手記』に何かとてつもない恐ろしい事が記されていたのではと危惧しております」

 遠慮がちに切り出したサングマ教皇。彼らからしてみれば、ファティマ第三の予言的なものかと思ったのだろう。私はいいえと首を横に振る。

 「手記には、あちらでの出来事が記されておりました。私にとっては恐ろしく、とてつもない事でしたわ。それで、衝撃の余り倒れてしまって――欠けていた記憶を思い出したのです。
 その後、私をこの世に連れて来た神にお会いしました。あの手記はきっかけだったのですわ。私が聖女としての力に目覚める為の」

 「神にお会いされたのですか!? 聖女としての力?」

 教皇は瞠目し、身を少し乗り出すようにした。

 「ええ。予知能力と透視能力がある事は起きてからすぐ分かりました。壁の向こうにサリューン枢機卿達の姿がはっきりと見えましたし」

 「なんと……!」

 「神は仰せられました。あの手記は聖女として私を覚醒させる為の鍵だったのだと。手にしたこの力は『来るべき災厄』の為に賜ったのだと思っております。
 恐らく、初代聖女の方もこうした能力をお持ちだった筈です」

 私は嘘ではない事を示す為に部屋の外から、テストをして貰う事にした。やり方としては、壁一枚隔てた状態で壁の向こうで起こっている事を言い当てる。
 扉を半開きにした状態でカレル兄がそこに待機し、質問をする。私がそれに答えるのである。

 「今何が起こってる?」

 「グレイが右手で指三本作ってるわ」

 「――正解。ではこれは?」

 「前脚が後ろ脚を肩車しているわね」

 「当たり。次」

 ……

 次々に正確に当てて行く私。

 しかし何だろう、テストが進むにつれてだんだんコントのような様相を呈してきているのは気のせいだろうか。
 正解した後、皆でひそひそ何やら話しているのが見えるし。

 「教皇猊下が両手を上に上げているわね。スレイマンとイドゥリース様が上着を交換していて、グレイは股の間からこちらを逆さに見ているわ」

 「……本当に見えているのか」

 これには壁の向こうからも驚きの声が上がった。流石にこれを正解するとは思わなかったのだろう。
 グレイがこっそり足音を忍ばせて彼らを連れて来たのが見えていないと正解出来ない筈の事である。

 「…………では、これが最後だ」

 見えてしまった衝撃の光景に私は噴き出しそうになってしまう。

 「ふぐっ……前脚と後ろ脚が組んだ腕の上に教皇猊下が跨って笑いを堪えながら指二本立てていらっしゃるわね。
 グレイとスレイマン、イドゥリース殿下はグレイを真ん中に手を繋いで扇のように広がっている。
 中脚が逆立ちをしていて、エヴァン修道士が変顔、サリューン枢機卿が真面目腐った顔で鼻に指を突っ込んでいるわ」

 「凄まじいな。完全に言い当ててる」

 やがて部屋に戻って来た皆の顔には驚愕と畏怖が宿っていた。

 「本物……なのですね?」
 「そうでなければ説明が付きません、猊下」

 サングマ教皇が少し声を震わせて確認するようにこちらを見、サリューン枢機卿がそれを肯定していた。

 「マリー様、おめでとうございます!」
 「聖女としてお目覚めになられた事、寿ぎを申し上げます!」

 馬の脚共が感極まったようにベッドサイドで片膝をついたのを皮切りに、サングマ教皇猊下達がバラバラとそれに続いていく。
 それを慌てて止めさせた後、私はさっきから気になっていた事を訊いてみる事にした。

 「先程の事なんだけど。後になるにつれて、何でだんだん恰好がおかしなことになっていったのかしら?」

 皆が顔を見合わせる。ああそれはですね、とサリューン枢機卿が代表して口を開いた。

 「『この人はこんな事をしない』という先入観から憶測で物を言ってないという事を証明する為と、マリー様の意表を突く為ですよ」

 勿論私自身子供心に戻って楽しみもしましたけれど、とクスクスと笑う。お前の発案か、と少し面白くない。

 「もう! サリューン枢機卿に憧れているご婦人が見たら卒倒しますわよ、鼻に指を突っ込むなんて!」

 頬を膨らませて言うと、皆にも笑いが広がって行った。



***



 数日後、中央大聖堂。

 その日、私は聖女としてお披露目を行い、グレイは『名誉枢機卿』としての地位を授けられる事となった。

 ただでさえ聖女降誕節という事で人々が聖地に集まる時期、地震があったという背景から信徒や巡礼者の数はかなりの数に上っていると聞いていたが、ここまでとは。

 大聖堂が埋まる程の人だかりを前に、私は聖女としての衣装を身に纏い、サングマ教皇のエスコートを受けて登壇する。枢機卿の法衣に身を包んだグレイもそれに続いた。

 そして、教皇が私の事を紹介する口上を述べ始めたその時――

 「『お待ちください、教皇猊下!』」

 何者かの鋭い声が教皇の言葉を遮るように響き渡る。

 シン……と大聖堂が静まり返った。
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