貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

今孔明とは私のことよ。

 私はこれまでの事をざっと話す。今帰路の途中でゴルフォベッロに近い場所にいるんだけど、ナヴィガポールで王子殿下二人が待ち受けているらしいという事を伝えた。

 『で、何とかならないかなってダディに連絡したという事なんだけど……』

 そう伝えると、ダディは椅子に座り直して、顎に手をやって思案し始める。

 ふむ……そう言う事ならば私が迎えに行ってやろうか? ジュリヴァ経由だとどうしても遠くなるだろう。

 ダディサイモン曰く。ナヴィガポールに聖女が現れたというのは王都でも噂になったらしい。しかしそれが誰かまでは特定されていない状態との事。

 王都でも王子二人がなかなか帰って来ない事が貴族達の間で問題になっているらしい。

 前提として、王子二人は地震の視察と人心の慰撫という理由でナヴィガポールに滞在している。肉親である父が娘である私を迎えに来れば、王子二人は手出し出来ないだろうという事だった。

 ――だから安心してナヴィガポールに帰って来るが良い。船から降りたらその足で直ぐに連れ帰ってやる。荷物は後でも構わぬだろう。それから帰港する一刻程前には連絡を入れるように。待ち合わせで一番良いのは早朝あたりか――調整出来そうか?

 『出来ると思うわ。一旦ゴルフォベッロに寄るし』

 分かった。では私は今から出かける支度をするとしよう。それから――結婚おめでとう、マリー。式の準備を急がせねばな。

 『ありがとう、ダディ! じゃあまた!』

 精神感応テレパシーを切ると、私はふう…と息を吐いた。透視と併用したので結構疲れが来る。

 「サイモン様は、何て?」

 「迎えに来てくれるそうよ。早朝にナヴィガポールに帰港すれば、その足ですぐに連れ帰ってくれるんですって!」

 「おお、それが良いな。早朝だと王子二人もぐっすりだろう」

 ファリエロに時間調整は可能かと訊くと、「お任せあれ」と請け負ってくれた。

 これで安心だと思った矢先――。

 「失礼ですが、トラス王国キーマン商会の船とお見受けします。トラス王国のキャンディ伯爵家、マリアージュ様はいらっしゃいますでしょうか? 主がお会いしたいと申しております!」

 ゴルフォベッロに着くなり、ガリア王国の軍人らしき人にやって来られたのである。


***


 「到着早々……いきなり呼び立ててしまって済まないね、マリー。自分で行くと言ったのだが、周りが聞かないものだから」

 半強制的に連れて行かれた先には、案の定シルが居た。前見た時と比べ、明らかにやつれてしまっているのが分かる。

 「少し吃驚したけれど……シル貴方大丈夫なの? 今にも倒れそうになってしまっているから怒るに怒れないじゃない」

 冗談めかして言うと、シルははは……と乾いた笑いを浮かべた。

 「正直な所、倒れてしまいたいよ。だけどそうも言ってられなくてね」

 溜息を吐く。周りの軍人も疲れを隠し切れない様子だ。

 「そんなに忙しいのにわざわざ私を呼んだのは何故なの?」

 「うん、ああ、そうだね。ええと、何から話そうか――そうそう、コリピサで君が出した手紙、受け取ったよ。監査官を派遣しておいた」

 「良かったわ、無事に届いて。ありがとう、シル」

 お礼を言うと、どういたしましてと頷く。

 「マリー達が聖地へ行ってしまった後……私達はコスタポリ救出作戦に取り掛かったんだけれど。
 ある時、ゴルフォベッロに来た船乗りが言っていたんだ。『ナヴィガポールに聖女様が現れ奇跡を起こした』、だからナヴィガポールの被害は軽微だったのだと。
 その船乗りに色々訊いたんだ。その聖女様が何をしたのかを。それから聖地からも聖女様が現れたと情報が入ってね。
 単刀直入に言うけど――その聖女様って、マリーの事で間違いないかな?」

 「――だとしたら、どうされる?」

 殺気めいた空気を纏ったカレル兄が静かに問いかけた。ガリアの軍人達は警戒を強め、腰の剣に手を伸ばす。

 「待って、カレル兄」

 私は慌てて制止する。「シルは私をどうこうするつもりじゃないわ」

 「マリーの兄君か。驚かせてしまったのなら申し訳なかった」

 シルはカレル兄に謝ると、改めて私に向き直って胸に手を当て、片足で跪いて礼を取った。
 シルの側近達が主の行動に狼狽している。それを軽く叱りつけると彼は続けた。

 「マリー、もしマリーが聖女様であるのなら。友達の誼でコスタポリの復興に知恵を貸して欲しい。何卒、この通りだ」

 深々と頭を下げられ、私は慌てた。

 「分かった、分かったから!」

 何とかしてシルに頭を上げて貰った後。私は取り敢えず詳しく話を聞かせて貰う事にした。


***


 「最初はナヴィガポールの真似事もして、ある程度上手く行ったんだけど――現状瓦礫の片付けがやっと終わったぐらいしか進んでいない。
 大工が不足していて、死者の弔いもあって手一杯なんだ。家を無くした人々に炊き出しなどをしているけれど、病気になる者も現れてね」

 ガリアの北部はそれなりに寒いんだ、とシルは目を瞑る。

 「近隣の諸侯からは大工を都合して貰えなかったのかしら?」

 と訊けば、「現状、都合してくれたのは都合できる精一杯の人数だと言うんだ。民の生活もあるから大工全員を根こそぎ連れて来させる訳にも行かないのだとね。それに政治的関係とやらが色々と……」という。

 私を迎えに来た軍人さん(アッキーノというらしい)が、「都合して貰えない事情があるとだけお考え下さい。我々の事情というやつです」と目を伏せた。

 少し読み取らせて貰う。ほほう、成る程。

 「もしかして――コスタポリの復興以上に領主をシルが押し付けられたとか?」

 シルや軍人達が驚いて私を見た。アッキーノも目を瞠った後、「ご明察です……」と苦々しく頷く。

 ふむ……成る程。

 放蕩王子であるシルにコスタポリの事を押し付ける。ある程度片付けさせた――つまり一番大変な仕事が終わったところでシルに失敗させて泥を塗り、王太子にその尻拭いをさせる形で復興の手柄を奪う。
 そうなればコスタポリの民はシルを頼りなく思い、王太子に忠誠を誓うだろう。であれば、コスタポリの領主業も難しくなるに違いない。シルの力を削いで王位から遠ざける狙いだと思われる。

 あくまでもアッキーノや取り巻き軍人達の主観だけれど、概ね合ってるだろう。
 権力争いで災害救助中の人間に嫌がらせとは、これはこれは。

 「分かったわ、シル。マリアージュここにあり。微力ながらコスタポリの復興に力添えするわ」

 前世の記憶と聖女の力を持つ今、気分は諸葛孔明である。
 どこまで力になれるかは分からないけれど、私はシルに知恵を貸す事にした。
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