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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
復興は、墨俣式で。
「建物を立て直すのに運んで来ているのは材木かしら? 丸太? それは事情とやらで止められていないの?」
訊くと、アッキーノが答えた。
「丸太ですね。流石にそれは伝手が色々あるので大丈夫です」
オーケー、了解。食料は、と訊くとそれも飢えない程度に供給出来ているらしい。
じゃあお次は――
「地図を見せて貰っても良いかしら?」
シルの部下達にはかなり渋られたけれど、コスタポリだけので良いから、と言うと、「既に半分以上消えた町だから構わないだろう」とシルが許可を出してくれた。
思えばあの地震から一ヵ月と少し経ったぐらいか。私は地図を前にコスタポリを透視していく。
ああ、確かに瓦礫は片付いているけれど、復興は遅遅として進んでいない様子だな。
瓦礫で焚火をして暖を取ったり、亡骸を土葬していたり。大部分の人々は瓦礫を寄せ集めて作った破屋で身を寄せ合い、ホームレス同然で生きている。
建物はご丁寧に一軒一軒一から建てていた。これでは確かにスピードは遅いだろう。
他、津波がどこまでやって来たのかも透視した。傍にあった目印用の駒を手に取ると、そのラインに沿って等間隔に並べて行く。
「――それは?」
「大波がここまで来たっていう印よ。そうね、ここからどうするか――」
私なら、先ず。
「今、野晒しになっている亡骸は全部火葬が鉄則ね。急いだ方が良いわ。直ぐに埋める事が出来ていない以上、このままでは病気が蔓延しやすくなってしまうから。
それから、問題の建物なのだけれど。基本、素人でも出来るような組み立て方式でやるわね。
具体的には、木材を丸太そのまま持ってくるのではなくて、予め加工したものを持って来るようにするのよ。
そうすれば、各地の大工に仕事を分散させる事が出来るから大工不足も解消、こちらは組み立てるだけで家が出来る」
つまりは墨俣式でスピード勝負である。シルが思わずといった態で身を乗り出した。
「そ、その手があったか!」
「ただ、組み立てる部品の規格寸法はきっちり守らせないといけないわ。ああ、それから今ある丸太はそのまま利用して丸太小屋にしてしまいましょう。それなら大工じゃなくても建てられるでしょうから」
尚、くれぐれも作業する面子にはマスクと手袋手洗い必須、衛生に気を付ける事、復興作業には被災者も巻き込んで賃金を支払う事等を念押しする。職と収入さえあれば人は未来を見始めるものだ。
「シルが領主として心配している今後の産業の事だけれど……私だったらこのラインの内側を畑にして、海水が沁み込んだ土地でも作れる物を作るわね。
つまり、塩に耐性のある作物を。一つは綿花――後、塩菜に血呪の果実あたりかしら」
「血呪の果実!?」
シルがぎょっとしたように目を剥いた。周囲の軍人達もざわついている。
「ええ、私はトマトって呼んでいるけれど美味しいのよ。色々と使えるし。シルもうちで食べてると思うけど。ほら、あのうちで食べたハンバーガーの赤いソース、覚えてるかしら?」
「あ、あれが……! 確かに美味しかったけれど」
思い出したのかシルは驚きつつもこくこくと頷く。私はトマトの使い道について熱弁した。
「大体赤いだけで呪いとか言うならイチゴやリンゴもそうよ、バカバカしい。トマトは塩気のある土地で育てると美味しさが増すの」
綿花は日本でも津波でやられた土地で栽培されて来たものだと聞く。塩菜はこちらでも普通に存在して食卓にも上がっていた。
トマトは――前世でも塩トマトとかあったしな。土をブレンドして塩分濃度調整はしないといけないかも知れないが。
私の説明に、シルは顎に手をやって思案しているようだった。
「成る程……だけどそれらをするには」
――金が足りない。
シルは内心財政難で悩んでいる事が伝わって来た。復興、更に半ば博打のように新たに産業を、という所に二の足を踏んでいるらしい。
私は思案し、一歩踏み込む。
「そうね……もし、シルがコスタポリの相応の土地を担保にしてくれるのなら、幾らか事業に投資しても構わないわ。勿論多少は口出しさせて貰うけれど」
「……今は何もない場所なのに?」
「ええ」
というか、何も無くなったからこそである。津波という災害があった以上、コスタポリの地価は大暴落している事だろう。
地理的には海の交通の要所には違いないので、再び発展する見込みは大いにある。
それに――地図上で目敏く見てしまったのだ。ここから少し行ったところに温泉があるのを。
投資するなら今をおいて他には無い。
「もし今のシルの手元に現金が無いのなら、領主権限でコスタポリ限定で通用する商品券を発行すると良いわ。その商品券を一定期間の後にシルの所へ持っていけばお金に引き換えて貰える仕組みにすれば、商人はそれを価値あるものと認めて商売をする。シルも後払いでも何とかなるでしょう?
後、シルは金集めの為にガリア王都で商人に呼びかけるべきね。
コスタポリの為に商売をして寄付して欲しい、と。具体的にはまず、シルが寄付金管理の組織を作るの。
そして商人達に、商品を売った利益の幾分かをコスタポリ復興の為に寄付するように言い、その金はその組織で管理される。
それで貢献度に応じて、コスタポリでの商売における優遇措置を与えるようにするの。良い土地を店舗用地として与えたり、関税を減免したり。
ああ、聖女の名の下に教会から功徳を積んだ商人として名誉を与えるのも良いわね。石碑に名を刻んだりとか。やる商人は増えるんじゃないかしら」
ガリア王やその周辺は当てに出来ないだろう。となれば、頼るは民間や教会しかない。『聖女様がシルヴィオ王子に授けた知恵』という事であれば、ガリアの王太子達もおいそれと邪魔したり異を唱える事は出来なくなるだろう。
どうかしらグレイ、と意見を求めると、彼も良い案だねと頷いた。
「もし優遇措置を頂けるのならば、キーマン商会は真っ先に一枚噛ませて頂きます。
宜しければその商品券、うちが発行しましょうか。復興任務の最中、更に煩雑な手続きに追われればその分心労も増えましょう。
私の兄がトラス王国でそのような商売もしておりまして、価値の担保においては商人達の間で認められているという実績もあります。
シルヴィオ殿下が発行金額分の担保さえして下さるのなら幾らでも用立てますよ」
「っ、それはありがたい! 何だか希望が見えて来た!」
グレイの申し出にシルは破願した。他の面々も明るい安堵の表情を見せている。
ほほう、やるなグレイ。
これを取っ掛かりにすればガリア王国に銀行進出の流れが出来る。ゆくゆくはコスタポリも第二のナヴィガポールになるだろう。
それから。
私はサングマ教皇に連絡を取ったり、色々な細かな事をメモに書き出したりしていた。
復興の他、漁が出来る者には漁をさせ、マグロやサバ等の脂ののった魚を確保する事は大事である。魚の他、チーズやバターなどの乳製品をなるべく積極的に被災者達に食べさせるようにする事も。
ビタミンDは免疫強化に不可欠。太陽の弱まる冬場は特に重要なのである。
一方、グレイは商品券の事について事細かに打ち合わせ。その結果、最初シルが裏書をしたものを発行し、途中で銀行にバトンタッチする形で決まったのである。
復興が上手く行くように祈りつつ。
かくして私達は笑顔のシル達に見送られ、ゴルフォベッロを後にしたのであった。
訊くと、アッキーノが答えた。
「丸太ですね。流石にそれは伝手が色々あるので大丈夫です」
オーケー、了解。食料は、と訊くとそれも飢えない程度に供給出来ているらしい。
じゃあお次は――
「地図を見せて貰っても良いかしら?」
シルの部下達にはかなり渋られたけれど、コスタポリだけので良いから、と言うと、「既に半分以上消えた町だから構わないだろう」とシルが許可を出してくれた。
思えばあの地震から一ヵ月と少し経ったぐらいか。私は地図を前にコスタポリを透視していく。
ああ、確かに瓦礫は片付いているけれど、復興は遅遅として進んでいない様子だな。
瓦礫で焚火をして暖を取ったり、亡骸を土葬していたり。大部分の人々は瓦礫を寄せ集めて作った破屋で身を寄せ合い、ホームレス同然で生きている。
建物はご丁寧に一軒一軒一から建てていた。これでは確かにスピードは遅いだろう。
他、津波がどこまでやって来たのかも透視した。傍にあった目印用の駒を手に取ると、そのラインに沿って等間隔に並べて行く。
「――それは?」
「大波がここまで来たっていう印よ。そうね、ここからどうするか――」
私なら、先ず。
「今、野晒しになっている亡骸は全部火葬が鉄則ね。急いだ方が良いわ。直ぐに埋める事が出来ていない以上、このままでは病気が蔓延しやすくなってしまうから。
それから、問題の建物なのだけれど。基本、素人でも出来るような組み立て方式でやるわね。
具体的には、木材を丸太そのまま持ってくるのではなくて、予め加工したものを持って来るようにするのよ。
そうすれば、各地の大工に仕事を分散させる事が出来るから大工不足も解消、こちらは組み立てるだけで家が出来る」
つまりは墨俣式でスピード勝負である。シルが思わずといった態で身を乗り出した。
「そ、その手があったか!」
「ただ、組み立てる部品の規格寸法はきっちり守らせないといけないわ。ああ、それから今ある丸太はそのまま利用して丸太小屋にしてしまいましょう。それなら大工じゃなくても建てられるでしょうから」
尚、くれぐれも作業する面子にはマスクと手袋手洗い必須、衛生に気を付ける事、復興作業には被災者も巻き込んで賃金を支払う事等を念押しする。職と収入さえあれば人は未来を見始めるものだ。
「シルが領主として心配している今後の産業の事だけれど……私だったらこのラインの内側を畑にして、海水が沁み込んだ土地でも作れる物を作るわね。
つまり、塩に耐性のある作物を。一つは綿花――後、塩菜に血呪の果実あたりかしら」
「血呪の果実!?」
シルがぎょっとしたように目を剥いた。周囲の軍人達もざわついている。
「ええ、私はトマトって呼んでいるけれど美味しいのよ。色々と使えるし。シルもうちで食べてると思うけど。ほら、あのうちで食べたハンバーガーの赤いソース、覚えてるかしら?」
「あ、あれが……! 確かに美味しかったけれど」
思い出したのかシルは驚きつつもこくこくと頷く。私はトマトの使い道について熱弁した。
「大体赤いだけで呪いとか言うならイチゴやリンゴもそうよ、バカバカしい。トマトは塩気のある土地で育てると美味しさが増すの」
綿花は日本でも津波でやられた土地で栽培されて来たものだと聞く。塩菜はこちらでも普通に存在して食卓にも上がっていた。
トマトは――前世でも塩トマトとかあったしな。土をブレンドして塩分濃度調整はしないといけないかも知れないが。
私の説明に、シルは顎に手をやって思案しているようだった。
「成る程……だけどそれらをするには」
――金が足りない。
シルは内心財政難で悩んでいる事が伝わって来た。復興、更に半ば博打のように新たに産業を、という所に二の足を踏んでいるらしい。
私は思案し、一歩踏み込む。
「そうね……もし、シルがコスタポリの相応の土地を担保にしてくれるのなら、幾らか事業に投資しても構わないわ。勿論多少は口出しさせて貰うけれど」
「……今は何もない場所なのに?」
「ええ」
というか、何も無くなったからこそである。津波という災害があった以上、コスタポリの地価は大暴落している事だろう。
地理的には海の交通の要所には違いないので、再び発展する見込みは大いにある。
それに――地図上で目敏く見てしまったのだ。ここから少し行ったところに温泉があるのを。
投資するなら今をおいて他には無い。
「もし今のシルの手元に現金が無いのなら、領主権限でコスタポリ限定で通用する商品券を発行すると良いわ。その商品券を一定期間の後にシルの所へ持っていけばお金に引き換えて貰える仕組みにすれば、商人はそれを価値あるものと認めて商売をする。シルも後払いでも何とかなるでしょう?
後、シルは金集めの為にガリア王都で商人に呼びかけるべきね。
コスタポリの為に商売をして寄付して欲しい、と。具体的にはまず、シルが寄付金管理の組織を作るの。
そして商人達に、商品を売った利益の幾分かをコスタポリ復興の為に寄付するように言い、その金はその組織で管理される。
それで貢献度に応じて、コスタポリでの商売における優遇措置を与えるようにするの。良い土地を店舗用地として与えたり、関税を減免したり。
ああ、聖女の名の下に教会から功徳を積んだ商人として名誉を与えるのも良いわね。石碑に名を刻んだりとか。やる商人は増えるんじゃないかしら」
ガリア王やその周辺は当てに出来ないだろう。となれば、頼るは民間や教会しかない。『聖女様がシルヴィオ王子に授けた知恵』という事であれば、ガリアの王太子達もおいそれと邪魔したり異を唱える事は出来なくなるだろう。
どうかしらグレイ、と意見を求めると、彼も良い案だねと頷いた。
「もし優遇措置を頂けるのならば、キーマン商会は真っ先に一枚噛ませて頂きます。
宜しければその商品券、うちが発行しましょうか。復興任務の最中、更に煩雑な手続きに追われればその分心労も増えましょう。
私の兄がトラス王国でそのような商売もしておりまして、価値の担保においては商人達の間で認められているという実績もあります。
シルヴィオ殿下が発行金額分の担保さえして下さるのなら幾らでも用立てますよ」
「っ、それはありがたい! 何だか希望が見えて来た!」
グレイの申し出にシルは破願した。他の面々も明るい安堵の表情を見せている。
ほほう、やるなグレイ。
これを取っ掛かりにすればガリア王国に銀行進出の流れが出来る。ゆくゆくはコスタポリも第二のナヴィガポールになるだろう。
それから。
私はサングマ教皇に連絡を取ったり、色々な細かな事をメモに書き出したりしていた。
復興の他、漁が出来る者には漁をさせ、マグロやサバ等の脂ののった魚を確保する事は大事である。魚の他、チーズやバターなどの乳製品をなるべく積極的に被災者達に食べさせるようにする事も。
ビタミンDは免疫強化に不可欠。太陽の弱まる冬場は特に重要なのである。
一方、グレイは商品券の事について事細かに打ち合わせ。その結果、最初シルが裏書をしたものを発行し、途中で銀行にバトンタッチする形で決まったのである。
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