貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

グレイ・ルフナー(95)

 マリーは夢で神様に会ったそうだ。それで聖女としての力が覚醒したのだと。
 彼女が聖女になる事、聖地に来て聖女の手記を読む事は生まれる前から決まっていたと言う。

 妹であるマリーが突拍子もない事を言いだした、とでも思ったのだろう。カレル様は半ば放心している。

 ふと、マリーが僕の方に顔を向けた。じーっと見られている。その視線に何だか、体中を撫でられるような、ざわざわしたものを感じて、僕は居心地の悪さに身じろぎをした。
 それを誤魔化すようにどうかしたの、と訊いたけど、彼女は「いいえ、何も」と首を横に振って視線を逸らす。

 もしかして、『聖女の力』とか何か関係あるんじゃ……。

 そう思った時、外が騒がしくなる。サリーナが扉を開けると、その先には――マリーが先程言った通り、サングマ教皇猊下がいらっしゃったのだった。


***


 教皇猊下は、聖女の手記に何か恐ろしい事が書かれてあったのではとマリーに尋ねる。しかし彼女はそれを否定、『あちらでの出来事』が記されていたのだと言った。

 ――『あちら』?

 どういう事だろうか。少なくとも初代聖女様とマリーの間に共通している出来事なのには違いない。サングマ教皇猊下はご存じのようだけど……。

 疑問は解消されないまま、マリーを見詰める。彼女はあの手記は聖女としての力に目覚める為のきっかけだったのだと続けた。予知能力と透視能力があるらしい。

 予知能力と透視能力……って、透視能力!?

 ――まさか、さっきのは。

 先程の感覚を思い出す。
 もしかして、マリーは僕の身体を透視したとか? 裸を見られた!?

 そう言えば心なしかあの時の彼女の顔は赤くなってたような……。

 その考えに至った瞬間、僕は羞恥に顔を熱くした。

 どうしよう、教皇猊下とマリーの会話が頭に入って来ないんだけど!

 「……とは口で言っても、皆様にはきっと信じられない事でしょう。ですので、私の能力が本物かどうか、検証して頂きたいのです」

 僕が頭がいっぱいになっている間に、何時の間にかマリーの能力を確かめる事が決まっていた。

 そうだ、まだそれが本物かどうか決まった訳じゃない。

 気を取り直した僕は、皆と一緒に廊下へと出た。
 しかし現実は厳しいもので。

 ――どうしよう、マリーの能力、本物なんだけど。

 マリーは僕の願いに反して、次々と壁の向こうで起こっている事を正確に言い当てて行く。ちなみに判定役はカレル様。

 これは裸を見られたのも確定だろう。まあ、婚約者だし……これが僕以外の男相手だったらそれこそ問題だったけど、はぁ……。

 僕はそう自分に言い聞かせ、無理やり納得させた。

 ――でも、いずれこの仕返しはきっちりさせてもらうよ、マリー。

 決意に拳を握りしめていると、

 「皆さん、ちょっと……」

 サリューン枢機卿猊下が声を潜めて手招きをしてきた。誘われるままに皆で頭を寄せ合うようにすると、「先入観で偶然当てた可能性を無くすために、ここは常識ではありえない光景を作ってみましょう」という提案。

 「じゃあ僕が先に。スレイマン達をこっそり呼んできます」

 しかし、足音を極力立てないようにして連れてきた筈なのに、マリーは見事に当てて見せた。枢機卿猊下は楽しさと悔しさがぜになったような表情になる。

 「……流石は聖女様、やりますね。こうなったら」

 最後に皆で思い切りおかしな光景を作ろうという話になった。
 これを当てられたらもう僕達は完敗だ。

 でもまさか、サリューン枢機卿猊下が鼻に指を突っ込むなんて思ってもみなかったけれど。なかなかに遊び心を持ったお茶目な方だったらしい。

 僕も笑いを堪えるのに大変だった。



***



 「『言葉の意味が脳裏に直接伝わって来るなんて。凄い、本当に聖女様なのですね! 神話や伝説の存在とばかり思っていたのに……』」

 翌日。

 マリーは聖女の能力の検証を重ねて把握する事に努めていた。勿論僕達も協力を惜しまない。その結果、心で相手に話しかける事が出来る、精神感応テレパシーという力がある事が分かった。

 マリーからの精神感応テレパシーを受けたイドゥリースは感動したように目を輝かせている。

 僕もさっき受けたけど、直接声が脳裏に響いて来るというか、意味が分かるというか。とにかく不思議な感じだった。神の啓示があるとしたら、ああいう感じなのかも、と錯覚する程には。

 言葉が違ったらどうなるのか、という事を試してみる為に彼らを訪ねて協力をお願いしたのだけれど、イドゥリースの様子から、問題なく伝わるようだ。

 「初代聖女は各国の王と会話出来ていたみたいだし、きっとこの能力があったと思うわ」

 とマリー。言われてみれば確かに、と納得する。

 「『少なくともマリー様と話す時は言葉の心配をしなくて済むという事ですね』」

 「『イドゥリース、かと言ってグレイやマリー様に甘えてばかりではいけない。ちゃんとトラス語を習得しないと』」

 「『分かっているよ、スレイマン。ただ、自由に話せる人が増えて嬉しかっただけだ。異国の地で、意思疎通が思うようにいかないのは思ったよりも苦痛で。これが続くと思うと……』」

 「『イドゥリース、言葉は慣れだよ、慣れ。苦しいのは最初の内だけさ』」

 「うふふ。嬉しいわ、グレイ達の会話が分かるなんて。でも、イドゥリース様の気持ちも少し理解出来るわね。だってコリピサでグレイがアヤスラニ語で二人と話していた時、私何となく寂しかったもの」

 「マリー……」

 それは僕にも覚えがある。アヤスラニ帝国で過ごした最初の頃、言葉が全然理解出来なくて、寂しくてもどかしい思いをした事もあった。仕方が無いとは言え、ちょっと申し訳無かったかな。

 精神感応テレパシーが込められたマリーの言葉に、スレイマンとイドゥリースが顔を見合わせる。

 「良かったら、マリー様もアヤスラニ語、勉強しマスか?」

 「『ええと……』、私、話す、協力するマス!」

 二人の申し出に、マリーは一瞬きょとんとした後、クスクスと笑ってありがとうと微笑んだ。
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