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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
グレイ・ルフナー(100)
目を開けると、黄金の輝きが目に飛び込んで来た。朝日を受けて照らし出される白い肌。マリーの整った寝顔を見詰め、ああ本当に夫婦になったんだな、と思う。
陶器のような滑らかでシミ一つ無い頬に指を滑らせると、ぴくりと動いた。
「ん……」
瞼が持ち上げられ、蜜色の瞳が露わになる。
「おはよう、マリー」
言って、口付けを落とす。彼女の彷徨っていた焦点がはっきりしてきた。
「グ、グレイ……おはよう」
少し赤らんだ頬で、寝具を被って恥じらうマリー。昨夜は仕返しの分も含めて彼女に熱をぶつけ、また僕のものだという印を付けた。
素敵だったよ、と言うと、「やりすぎよ、馬鹿」と小さく愛らしい罵倒を受ける。どうやら僕の意趣返しは成功したようだ。
「ごめんごめん、マリーがあまりに可愛くて」
「……もう!」
「先に着替えてサリーナを呼んで来るよ」
名残惜しいけど、いつまでもベッドに居る訳にはいかない。僕は手早く着替えると、そっと部屋を出た。
「カレル様」
サリーナを呼びに行く途中、カレル様に出くわした。
廊下の窓際に佇んで、じっと外を見詰めている。僕の声にカレル様はこちらを向いた。
「……グレイ、マリーをくれぐれも頼む。聖女になって不思議な力を持ったとしても、中身は変わっていない。あいつは案外脆い所があるから」
「勿論です。僕の命に懸けても」
そう約束しながら、僕はカレル様やサイモン様は、マリーが別世界の別人の記憶を持っていたとしても、あっさり受け入れるのではないかと思っていた。
「カレル様は、マリーが聖女の力を持ったことに対して恐ろしいと思われないのですか?」
「グレイはそう思っているのか?」
「いえ、ただマリーにそう訊かれました」
「恐れるかよ、中身はあのマリーだぞ」
「ですよね」
この分なら、前世の記憶がある事を伝えても大丈夫なんじゃないかな。
何より家族なんだし。
マリーが着替えた後。
朝食に迎えに来た僕は、先程カレル様の言ったことを話して身内だけでも前世の事について話してはどうかと勧めてみた。
「寧ろ、身内だからこそいざという時の事も考えて話しておく方が良いと僕は思うよ。
それに、聖女の力を持ったってマリーはマリーだってカレル様も言ってたし、力が記憶になったところで同じようなものだと思う。
それよりも後でその事を知らされて、身内なのに信じて貰えてなかった、話して貰えなかったって思われる方が変なわだかまりが出来て、お互い辛いと思うんだ」
「……そう、ね」
確かに、と頷くマリー。覚悟が出来たら話してみるわ、と気弱に微笑んだ。
朝食を採った後――僕達はカレル様と合流し、婚姻のお礼を言いにサングマ教皇猊下にお会いした。
そこで雑談交じりに昨日の事や聖職者の性問題等についてマリーが色々と考えを述べている時、エヴァン修道士がやって来る。コリピサ支部からイドゥリースの私物が届けられたらしい。
早速イドゥリースの出した予測について、マリーが聖女の力を使う事になった。
マリー以外の人にも分かるように、イドゥリースの言葉を僕が通訳していくんだけれど――専門用語が多くて大変だった。精神感応の力でマリーが助けてくれなかったら訳の分からない事になっていただろうと思う。
マリーが予知能力を使った結果、イドゥリースの占星術はかなりの精度で的中するようだった。地揺れと大波はガリアとアヤスラニ帝国の間で起こるそうで、規模はナヴィガポールの時よりも遥かに大きなものらしい。
僕の背丈の十倍もの大波――そんなものが来たら、沿岸部の都市は軒並み壊滅になるだろう。
スレイマンやイドゥリースは特にアヤスラニ帝国の被害が甚大だと聞いて絶望の表情を浮かべている。教皇猊下達も同様に顔色を悪くしていた。
それだけではなく更に火山噴火もあり、その影響で来年は凶作になるという。
もし、前もって分かっていなければ。
下手をしたらガリア王国やアヤスラニ帝国はその事で国が傾いてしまうだろう。だけど、その事が来る事が事前に分かっていればまだ希望はある。
話が纏まって直ぐ、聖地から各国、各地域の教会へ知らせが飛んだ。具体的な日時、場所、対策もそれぞれ詳しく記してある。
後はその土地を治める者の仕事――祈るしかない。
***
「良かったね、マリー」
僕の言葉にマリーは泣きはらした目で恥ずかしそうに頷いた。
あれから。
マリーは勇気を振り絞って身内に前世の記憶の事を明かした。
僕の予想通り、マリーを大事に思う皆は肩透かしのようにあっさりとその事を受け入れている。
それよりも、鶏蛇竜のカールの言うように、マリーが色々と狙われやすくなる事が気になっているようだった。
それは僕も同じ意見。帰りはくれぐれも気を付けなければ。
「グレイ様。名誉枢機卿になられた事、そして婚姻なされた事、おめでとうございます」
「トリスタン、わざわざありがとう」
聖女が現れ、予言がなされた事が各国に広がり過ぎる前に帰国してしまおうという事になった。マリーの身の安全と警備上の問題を考えたら、早ければ早い程良い。
わざわざトリスタンに来て貰ったのは、僕達がコリピサで滞在する事無く直ぐに船を乗り換えて出発するからだ。
帰る日時に合わせて出港準備をしてくれるよう、ファリエロへ連絡。
鈴付きの魔法鏡の小物入れ受注や名誉枢機卿となった僕と聖地との連絡の窓口としての引継ぎ。
予言の内容とガリア東岸・アヤスラニ西岸にある商会支部や関連組織への通達。
細々と伝え、通達の手紙の束を託す。僕にはちょっと出す時間は無さそうだから。
最後に教皇猊下にお目通りし、僕への連絡等があればこのトリスタンか聖地へ常駐させる商会の者へお願いしますとお伝えしておいた。
トリスタンの緊張ぶりに、これから苦労をかける事になると申し訳なく思う。トラス王国へ帰ったら、褒美か何かを考えよう。何が良いだろうか。
「でしたら精の付くものや胃薬をお願いします。暫く忙しくなって緊張を強いられそうですから」
……ごめん。経費で落としてくれても良いからね。
陶器のような滑らかでシミ一つ無い頬に指を滑らせると、ぴくりと動いた。
「ん……」
瞼が持ち上げられ、蜜色の瞳が露わになる。
「おはよう、マリー」
言って、口付けを落とす。彼女の彷徨っていた焦点がはっきりしてきた。
「グ、グレイ……おはよう」
少し赤らんだ頬で、寝具を被って恥じらうマリー。昨夜は仕返しの分も含めて彼女に熱をぶつけ、また僕のものだという印を付けた。
素敵だったよ、と言うと、「やりすぎよ、馬鹿」と小さく愛らしい罵倒を受ける。どうやら僕の意趣返しは成功したようだ。
「ごめんごめん、マリーがあまりに可愛くて」
「……もう!」
「先に着替えてサリーナを呼んで来るよ」
名残惜しいけど、いつまでもベッドに居る訳にはいかない。僕は手早く着替えると、そっと部屋を出た。
「カレル様」
サリーナを呼びに行く途中、カレル様に出くわした。
廊下の窓際に佇んで、じっと外を見詰めている。僕の声にカレル様はこちらを向いた。
「……グレイ、マリーをくれぐれも頼む。聖女になって不思議な力を持ったとしても、中身は変わっていない。あいつは案外脆い所があるから」
「勿論です。僕の命に懸けても」
そう約束しながら、僕はカレル様やサイモン様は、マリーが別世界の別人の記憶を持っていたとしても、あっさり受け入れるのではないかと思っていた。
「カレル様は、マリーが聖女の力を持ったことに対して恐ろしいと思われないのですか?」
「グレイはそう思っているのか?」
「いえ、ただマリーにそう訊かれました」
「恐れるかよ、中身はあのマリーだぞ」
「ですよね」
この分なら、前世の記憶がある事を伝えても大丈夫なんじゃないかな。
何より家族なんだし。
マリーが着替えた後。
朝食に迎えに来た僕は、先程カレル様の言ったことを話して身内だけでも前世の事について話してはどうかと勧めてみた。
「寧ろ、身内だからこそいざという時の事も考えて話しておく方が良いと僕は思うよ。
それに、聖女の力を持ったってマリーはマリーだってカレル様も言ってたし、力が記憶になったところで同じようなものだと思う。
それよりも後でその事を知らされて、身内なのに信じて貰えてなかった、話して貰えなかったって思われる方が変なわだかまりが出来て、お互い辛いと思うんだ」
「……そう、ね」
確かに、と頷くマリー。覚悟が出来たら話してみるわ、と気弱に微笑んだ。
朝食を採った後――僕達はカレル様と合流し、婚姻のお礼を言いにサングマ教皇猊下にお会いした。
そこで雑談交じりに昨日の事や聖職者の性問題等についてマリーが色々と考えを述べている時、エヴァン修道士がやって来る。コリピサ支部からイドゥリースの私物が届けられたらしい。
早速イドゥリースの出した予測について、マリーが聖女の力を使う事になった。
マリー以外の人にも分かるように、イドゥリースの言葉を僕が通訳していくんだけれど――専門用語が多くて大変だった。精神感応の力でマリーが助けてくれなかったら訳の分からない事になっていただろうと思う。
マリーが予知能力を使った結果、イドゥリースの占星術はかなりの精度で的中するようだった。地揺れと大波はガリアとアヤスラニ帝国の間で起こるそうで、規模はナヴィガポールの時よりも遥かに大きなものらしい。
僕の背丈の十倍もの大波――そんなものが来たら、沿岸部の都市は軒並み壊滅になるだろう。
スレイマンやイドゥリースは特にアヤスラニ帝国の被害が甚大だと聞いて絶望の表情を浮かべている。教皇猊下達も同様に顔色を悪くしていた。
それだけではなく更に火山噴火もあり、その影響で来年は凶作になるという。
もし、前もって分かっていなければ。
下手をしたらガリア王国やアヤスラニ帝国はその事で国が傾いてしまうだろう。だけど、その事が来る事が事前に分かっていればまだ希望はある。
話が纏まって直ぐ、聖地から各国、各地域の教会へ知らせが飛んだ。具体的な日時、場所、対策もそれぞれ詳しく記してある。
後はその土地を治める者の仕事――祈るしかない。
***
「良かったね、マリー」
僕の言葉にマリーは泣きはらした目で恥ずかしそうに頷いた。
あれから。
マリーは勇気を振り絞って身内に前世の記憶の事を明かした。
僕の予想通り、マリーを大事に思う皆は肩透かしのようにあっさりとその事を受け入れている。
それよりも、鶏蛇竜のカールの言うように、マリーが色々と狙われやすくなる事が気になっているようだった。
それは僕も同じ意見。帰りはくれぐれも気を付けなければ。
「グレイ様。名誉枢機卿になられた事、そして婚姻なされた事、おめでとうございます」
「トリスタン、わざわざありがとう」
聖女が現れ、予言がなされた事が各国に広がり過ぎる前に帰国してしまおうという事になった。マリーの身の安全と警備上の問題を考えたら、早ければ早い程良い。
わざわざトリスタンに来て貰ったのは、僕達がコリピサで滞在する事無く直ぐに船を乗り換えて出発するからだ。
帰る日時に合わせて出港準備をしてくれるよう、ファリエロへ連絡。
鈴付きの魔法鏡の小物入れ受注や名誉枢機卿となった僕と聖地との連絡の窓口としての引継ぎ。
予言の内容とガリア東岸・アヤスラニ西岸にある商会支部や関連組織への通達。
細々と伝え、通達の手紙の束を託す。僕にはちょっと出す時間は無さそうだから。
最後に教皇猊下にお目通りし、僕への連絡等があればこのトリスタンか聖地へ常駐させる商会の者へお願いしますとお伝えしておいた。
トリスタンの緊張ぶりに、これから苦労をかける事になると申し訳なく思う。トラス王国へ帰ったら、褒美か何かを考えよう。何が良いだろうか。
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……ごめん。経費で落としてくれても良いからね。
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