貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
240 / 747
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

\(^o^)/

しおりを挟む
 「それは何よりだ」

 父サイモンが、満足そうにカーフィをちらりと見下ろした。

 「さて、カーフィ。お前を信頼して、早速やって貰いたい事があるのだが」

 「な、何で御座いましょう……」

 ややビクつきながらも訊き返すカーフィ。父は「何、そう難しい事ではない」とうっすら笑みを浮かべる。

 「恐らく、今日明日中にも王子殿下二人がナヴィガポールより王都に帰還されるだろう。
 それに加え、聖女帰還の祝宴が今日を含めて6日後に決まった。そこで、だ。
 質は問わん。王都の劇団を急ぎ出来るだけ数多く買収し、ある恋愛劇を王都で一斉に民衆に見せるよう今日中に取り掛かれ。上演は今日より五日後までで構わん。
 出来るだけ物語を多くの衆目に晒す事が目的であり、台本はこれだ。簡単な筋書きなので、そう時間はかからんだろう」

 台本を受け取ったカーフィは、パラパラとそれを捲って目を通した。ややあって、顔を上げる。

 「……初代聖女様の物語ですな。神に祝福され夫婦となった小国の王と愛を貫こうとするも、他国の王の横槍が入る筋書きですか、これは……」

 「最後は思い上がった王達に神罰が下され、めでたしめでたし、幸福な結末となっている。
 お前もかつてメイソンの事で使った手だ。噂を流している馬鹿共に対する意趣返しよ」

 ああ、いっそ直接兵でも送って来るなら遠慮なく戦で叩きのめしてやるものを、虻の如くブンブンチクチクと忌々しいと吐き捨てる父。
 カーフィから台本を受け取って見ていたグレイが恐る恐る切り出した。

 「しかし、サイモン様……これでは徒に敵を増やす事になるのでは……」

 「さっ、左様でございますとも!」

 カーフィもこくこくと怯えたように頷いている。

 「……私も見ても良いかしら?」

 やや不安を覚えた私は、グレイから台本を受け取って読んでみた。話としては絵本程の長さだったので難なく概要を掴む。

 うーん、これは。

 物語はありきたりだけれど、登場人物の髪や瞳の色が……。

 聖女は私、小国の王がグレイ、ちょっかいを掛けて来る王二人が王子達……実在の人物に似せてある辺りかなり露骨である。

 「何、最初にこちらを敵に回してきたのは向こうだ。それに、馬鹿共は気付いていないだろうが、このサイモン一人を敵に回す訳では無いぞ。
 マリーが聖女となっても所詮は伯爵令嬢に過ぎぬと侮り、政争の具にせんと権力をかさに圧力を掛けて来ている――カーフィよ、これがどういう事か分かるか? 聖女とは教会の事実上の頂点にある者。奴らは教会勢力全てを敵に回そうとしているのだ」

 「あ……」

 カーフィは呆然として口を開き、こちらを恐る恐る見上げて来る。私はにっこりと微笑み返した。

 いや、教会では一番偉いのかも知れないけど、どっちかというとイメージキャラクター的な感じだと思う。

 それにしても。売られた喧嘩を高く買うつもりだな、これは……父、噂流した奴らに対してかなりキレてるわ。

 「数日間の勝負、一番稼ぎの良かった劇団には聖女帰還の祝宴に招いて演じて貰う事になる。何、トラス王陛下の許可は頂いているので安心するが良い」

 ふむ、面白そうだ。

 「そう言う事なら、私は聖女として劇を歓迎致しますわ。教皇猊下にご連絡する際、このような劇をして頂くのだともお話しておきましょう」

 「ああ、楽しみにしているが良い。という訳だ、頼んだぞ」

 「は、ははっ……!」

 無茶なクライアントに急ぎの案件を押し付けられたサラリーマンの如く、憐れカーフィは台本を握りしめてよろよろと執務室を出て行く。
 何かあってもうちや教会が後ろ盾になるから存分にやって大丈夫だから、と労わっておいた。大変だろうが頑張って欲しい。


 しかし、そんな矢先に事件は起こる。



***



 次の日、私はいつものように朝早くグレードアップした愛馬ハリボテに跨った。
 寒さがかなり厳しい時期、朝はとりわけ寒さが身に染みる。特注で作らせたダウンジャケットは欠かせない。
 しかし反面冬の乗馬は特に身が引き締まる思いだ。馬の脚共ヨハンとシュテファンも体を温める為に頑張って走るのである。

 「今日は椿園を回って行く――寒い中だが花が満開であろう! ハイヨー!」

 「「ぶひひひーん!」」

 先日、相変わらずその棒読みは何とかならんのか、と言ったつもりが、何時の間にかユニゾンになっていた。聖女の馬仕様らしい。

 諦めににた気持ちで愛馬を走らせつつ、眩しい朝日の光を浴びる。僅かながら温もりを感じる。派手な馬体も照り返しで眩く輝いていた。

 椿の赤い花々が凛として咲く中を走り、いつもの池までやって来る、と……。


 「……マリー?」


 いつも待っているサリーナの横には――あろうことか、グレイがポカンと口を丸く開け、こちらを見詰めて立っていたのだった。
しおりを挟む
感想 996

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。